08b 風変わりな植物
 
〈スペインゴケと着生ラン〉
 最もうまく生活している着生植物の一つにスペインゴケがあります。これは全く誤っ
た呼び名で,スペイン産でもなければ,コケでもありません。実はアナナス科の植物で,
サルオガセモドキと言い,アメリカの熱帯と亜熱帯に,花の綱を飾ったような形で木に
着生しています。スペインゴケはこれまで述べたようなうまい生活構造を持った植物と
は,また違った適応能力を持っています。スペインゴケには貯水組織もないし,腐植土
を集める篭もありません。また,どんな種類の根も持っていません。この別名ティラン
ドシア・ウスネオイデスと呼ばれる着生植物は,宿主の木の枝に腐って残った灰色の絨
毯のほつれのように見えます。そして,スペインゴケは他の着生植物より,遥かに沢山
の木に付着しています。
 この植物は雨から水分を採っており,茎や葉はぎっしり圧縮した楯状の毛で被われて
います。そして,毛細管現象によって植物体の下の水分を取り込みます。植物は毛で保
護された細胞を通して水を吸収します。このように,スペインゴケは完全な弁の仕組み
を採り入れています。つまり,液体の水は取り入れられるが,それが水蒸気となって体
内から失われることは殆どありません。
 スペインゴケの機構には,その上もっと有利な点があります。雨が降るとき,上の枝
から洗い落とされてくる最初の水には,宿主の木の死んだ細胞に含まれていた無機物が
混ざっており,養分を濃縮した形で豊富に採ることもできるのです。しかも雨水が無機
物を洗い去って水ばかりになって落下するときには,スペインゴケそのものは飽和状態
になっていて,余分な水分を吸収しないで済みます。以上の説明から,何故スペインゴ
ケが死んだ枝や死にかかった枝,又は死んだ細胞が殆どを占めている古木に,より多く
付着するかが分かります。スペインゴケは,人々が考えているように生育している枝を
枯らすようなことはしません。宿主の木に既に多くの死んだ細胞があるときだけに増殖
するのです。
 次に,着生ランは,その多くは独特の根を持っています。外側の細胞は空っぽで,空
気で満たされています。その根は太く,乾燥しているときは灰白色で,雨水を吸取紙の
ように敏速に,しかも徹底的に吸収します。面白いことに,水を吸収した根は忽ち緑色
に変わります。この風変わりな色の変化は,雨水が根の細胞の外層の空気と入れ替わる
ためです。根の細胞の外層に雨水が入ると,根は半透明になり,葉緑素に満たされた下
層の細胞が見えるようになります。着生ランもまたスペインゴケのように,養分の供給
を木の上の枝から滴る無機物を含んだ雨水から得ています。
 
〈寄生植物の生活〉
 熱帯性ツタ類や着生植物は,ただ太陽光を求めるだけです。ところが,寄生植物は他
の寄主となる植物を枯死させてしまいます。それは顕微鏡的なマラリアの寄生虫とかサ
ナダムシのような多くの寄生虫に似ています。一口に寄生植物と言っても,その寄生関
係には様々な段階と型があります。つつましやかな感じのコゴメグサやカステラソウか
ら,完全に寄主に依存している巨大なラフレシアや寄主を殺すネナシカズラまでありま
す。
 半寄生の幾つかの植物は全く寄生関係を想像させません。彼等の略奪は全て地下で密
かに行われます。詳しくは分かっていませんが,それらの植物は近くの植物の根に連結
するために根を出し,少量の養分をこっそり横取りします。カステラソウはこうして,
その近くの植物を犠牲にします。カステラソウは見たところ緑の葉と根を持っているの
で,十分自分自身を養うことができそうであるが,その実ジツはとんだ喰わせ物なので
す。
 一方ヤドリギは見かけは着生植物のようであるが,れっきとした寄生植物です。数種
のヤドリギは,温帯と熱帯地方に生え,木や低木の上で発育し,其処で全生涯を終わり
ます。ヤドリギには全然根がありません。従って,根のような突起を寄主の導管の中に
侵入させ,水分を盗み取っています。温帯性のヤドリギは寄主を傷付けることは殆どあ
りません。しかし,熱帯産のヤドリギは水分をすっかり飲み干すため,寄主植物を屡々
枯死させます。
 ところが,熱帯樹のあるものは,そうしたヤドリギの略奪から身を守る珍しい防衛手
段を執っています。そのよい例はカポックノキと棘の多い変種です。熱帯樹は樹皮が滑
らかだとヤドリギの酷い寄生に曝されます。勿論カポックノキの棘はヤドリギそのもの
の寄生は妨げないが,ヤドリギの種子の運び手である鳥を悩ませます。鳥達はヤドリギ
の漿果が大好物で,その種子は鳥の消化管をそのまま通過して木の上に排泄されて付着
します。ヤドリギは大抵その漿果の中に1個の種子を持ち,それは粘り強い膠ニカワのよう
な物質で包まれているのでどんな枝にでも密着し,鳥の羽毛にも粘着します。鳥はそれ
を取り除こうと木に種子を擦り付けるが,棘のあるカポックノキは鳥は厭がるので,結
局ヤドリギの寄生を免れるのです。
 葉緑素も根も持たず,完全に寄生生活をする幾つかの顕花植物があります。ネナシカ
ズラや"悪魔の縫った糸"と呼ばれる植物がそれで,細長い絡み合った茎を持ち,寄主を
取り巻いて茎の軸を侵入させます。茎は取り付いた植物の周りに厚い"もつれ"を作り,
その植物を干し上げてしまうことがよくあります。ネナシカズラとは対照的なハマウツ
ボの一種はクローバーやウマゴヤシ,その他の栽培植物に寄生します。この植物の小さ
な種子が寄主植物の根近くに落ちると,発芽して寄主の根に付着し,寄主が骨を折って
集めた食物や養分や水を勝手に横取りします。若いハマウツボは急速に太い茎に生長し,
地上8〜20pの高さにずんぐりした花芽を現します。ハマウツボは自由に養分が得られ
るのでどんどん繁茂するが,寄主のクローバーは飢饉に陥ります。クローバーやハマウ
ツボやウマゴヤシの畑がハマウツボに酷く侵されると,酷い減収をもたらすので,農民
にとっては深刻な問題となります。
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