02 植物生理学1〈植物生理学とは〉
 
          植物生理学1〈植物生理学とは〉
 
                    本稿は培風館発行の「植物生理学(増田芳
                   雄氏著)」を参考(抜粋)にさせていただき
                   ました。奥深い分野ですので,内容を逐一理
                   解する時間と労力(能力?)を持ち合わせて
                   いませんので,一部をカットして収録しまし
                   たのでご了承下さい。             SYSOP
 
 〈植物生理学とは〉
 植物生理学が動物生理学,あるいは細胞生理学と異なる理由は,植物に特有の性質と
機能があることによっています。これらの性質と機能は,植物を他の生物と根本的に区
別するものです。すなわち,植物は移動し得ないので,その生活は「環境に極めて強く
依存」しています。また,植物は動物と異なり,発達した軸性をもち,部分的に生長し,
老化し,あるいは死にます。すなわち,植物は環境に適応して一個体内でその生活環を
繰り返し完成するわけです。
 このように,高等植物は特有の性質と機能をもちますが,それは遺伝的なデザインに
基づき,各種の単純な素材とエネルギーを用い,環境に適応しながら構造を完成し,エ
ネルギーを用いて機能します。また,その構造と機能は連続して素材とエネルギーによ
って維持され,それによって植物の生活環が保たれます。この間,植物の生活環は常に
「遺伝情報と環境の相互作用」によってコントロールされています。植物生理学とは,
先に述べましたように,植物の機能及び生長分化を扱う学問分野です。植物の機能は主
として栄養と代謝において発揮され,生長分化とは詳しくは種子形成,発芽,栄養生長,
分化,成熟,生殖,老化,死の過程をいいます。
 植物生理学はその研究水準からみて二つに分けることができます。すなわち一つは細
胞水準の研究であって,ここでは植物は動物など他の生物と原則的に区別されません。
細胞水準における生理学,すなわち膜の透過性,原形質の特性,生体高分子の合成,エ
ネルギー代謝などの基本原理は,他の生物とあまり変わりません。もう一つは,植物個
体の水準における研究は植物生理学に特有のものです。すなわち,栄養,特に光合成,
水やミネラルの吸収や移動,同化産物の配流や貯蔵,窒素,炭水化物,多糖類などの代
謝,及び発芽にはじまる生長,分化は個体全体としての植物に特有の機能と生理現象で
す。
 
 〈植物の生活環〉
 配偶子(精核と卵)の受粉によって胚が形成され,その後種子の完成,休眠,発芽,
栄養生長,やがて栄養生長の停止と生殖生長の開始,すなわち花芽形成,果実の形成に
進み,そして死によって植物1個体の生活環は完了します。
 以下,種子の形成にはじまる被子植物の生活環について述べます。
 
 △種子の形成
 新しい倍数世代のはじまりである胚の形成は,精核と卵の融合によって起こります。
受精後,胚は急速に生長し,茎や幼根などの幼器官や胚乳が分化し,胚珠から種子が形
成されます。双子葉植物には種子が成熟したとき,胚乳をもつものと,胚乳をもたぬも
のがあります。前者を胚乳種子,後者を無胚乳種子と呼び,マメ科,ウリ科,キク科な
どの植物種子はこれに入ります。やがてこれらの生長は一時的に停止し,種子は休眠に
入ります。種子形成の過程については解剖学的な研究はかなり古くからあるものの,そ
の詳細は生理学についてはほとんど知られていません。植物の胚珠は形が小さく,培養
しにくいので植物の初期発生の研究が極めて困難なためです。受精した胚珠のうち,胚
嚢からは胚と胚乳(又は子嚢)が形成され,珠皮と珠心からは種皮が形成されます。種
子の生長は一般に次の三つの段階に分けられます。すなわち,@胚の生長,A胚乳や子
嚢の生長,B果実の生長です。
 オオムギなどの種類では,受粉後約3週間で種子形成が起こります。まず7〜8日で
胚が生長して幼芽と幼根が完成し,この間に胚嚢が発達して胚乳を形成します。また,
胚乳の周辺部の細胞が分化して糊粉層が形成されます。やがて胚乳が乾燥し,最外層で
ある種皮の細胞では葉緑素が分解して色が黄色に変わり,硬くなります。こうして種子
が完成すると休眠状態に入ります。
 
 △休眠
 @種子
 休眠は植物の環境に対する適応の結果です。休眠のため,種子や芽は不適な環境で発
芽した幼植物を死にいたらしめることがなく,生長に適した環境においてのみ発芽し,
生育することができます。
 種子の休眠中,呼吸などの生理的活性はほとんど完全に停止します。休眠中の種子の
発芽能力は数週間で失われるものもあれば,古代ハスのように2千年から数千年後に発
芽した例もあります。一般に生育中の組織の含水量80〜90%に対して,種子はわずか10
〜20%で,この水のほとんどはタンパク質など生体高分子の結合水と考えられます。
 休眠の原因としては,胚の未熟,胚の代謝機能の阻害など胚の活性の低下,及び種皮
の水に対する透過性の消失,種皮の酸素・二酸化炭素に対する不透過性など胚以外の構
造変化が考えられています。
 A塊茎芽
 ジャガイモやキクイモの塊茎は,ユリなどの球茎,シダなどの根茎と同じく地下茎の
一種で,植物の一種の貯蔵器官及び栄養生殖器官として形成されたのち,休眠に入って
越冬し,翌年発芽します。
 B芽
 休眠は,環境変化に対応するための植物の発生経過の一つでもあります。北半球温帯
に生育しているリンゴやトチノキなどの落葉樹の休眠中の小枝は,生長点である頂芽や
側芽が綿毛の詰まった苞ホウによって保護されています。すなわち,芽の休眠はこのよう
に機械的に保護されているだけでなく,寒さに対する防護反応の結果でもあります。芽
の休眠は葉の活性が低下してからはじまりますが,落葉そのものは一種の日長反応で,
短日になると起こります。もし,このような落葉樹を低温に置いても,長日条件ですと
落葉は起こりませんし,芽は休眠状態に入りません。しかし,一旦落葉し,芽が休眠状
態に入りますと,高温に戻しても,あるいは長日条件にしてやっても,芽の休眠は破れ
ません。
 休眠中の芽が活動を開始するためには一定期間(数日から数ケ月),低温(0〜10℃
)に晒さなければなりません。
 種子,塊茎芽や樹木の芽の休眠は,アブシジン酸によって引き起こされます。落葉樹
では,季節が秋に近づきますと,葉や導管内の樹液中にアブシジン酸が蓄積することが
知られています。
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