50b 米国の国有林野におけるレクリエーションの現況
 
 国立公園の基本政策が「自然環境保全の中でのレクリエーション利用」であるのに対
し,国有林は「森林資源の賢明な多目的利用」をその政策としていることが大きな違い
です。
 筆者の印象としては,特に国有林の多い西部地区では,アメリカ人が国立公園を訪ね
るのは一生に何回かという大旅行であり,国有林は毎週末,気軽に訪れるところという
感があります。国有林は身近なレクリエーションの場といえるようです。
 
〈レクリエーション・マネージメントの特色〉
 筆者がオレゴン州においてレクリエーション・マネージメントを勉強していた際に,
経験した国有林でのレクリエーション・マネージメントのいくつかの特色を紹介しまし
ょう。
 △多目的利用の強調
 基本政策として,レクリエーションは多目的のなかの一つであることを折りに触れ強
調しています。利用者向けのパンフレットには必ずといっていいほど基本政策について
理解を求めており,この点は国立公園とは基本的に異なります。
 △環境許容量の設定
 持続的利用を行うために環境許容量を設定し,過剰な使用を制限しています。例えば
キャンプ場ではテントサイト数が決められていて,それ以上のテントは張れないように
なっています。原生自然地域では,許可証が必要なところもあります。
 △ボランティアの活用
 夏場の忙しい時期を中心に積極的にボランティアの力を活用しています。ボランティ
アの活動範囲は広くビジターセンターでの情報提供,インタープリテーション,キャン
プ場整備,トレールの整備などがあります。ボランティアは学生が多いですが,停年後
の高齢者の参加も目立ちます。
 △インタープリテーションの充実
 解説板の設置,口頭での解説などのインタープリテーションに力を入れています。国
立公園のそれに比べ歴史は浅いものの,マスコットのスモーキーベアー(山火事防止の
マスコット)やウッジー・オウル(ごみ捨て防止のマスコット)を使ってのユニークな
インタープリテーションを展開しています。
 △民間との協力
 国有林でのスキー場開発やホテルの運営には,コンセッションといわれる特別許可権
を与えられた民間企業が当たっています。これは,民間企業の効率性とノウハウを取り
入れる目的のほか,地元の経済発展にも寄与しています。開発に当たっては,森林局と
民間が協力して行い,環境アセスメント法の下に環境に配慮して行われています。
 △弱者・少数者への配慮
 米国政府の差別禁止政策がレクリエーションにも現れています。身体障害者用のノン
バリアー施設,英語を日常語としない人や,外国人のためのパンフレットなどのほか,
少数派レクリエーション(ロッククライミング,乗馬等)についても配慮したレクリエ
ーション計画をしています。
 △警察権の行使
 国立公園同様,レクリエーション施設での利用客のトラブルや施設への破壊行為,ま
た不法な野生動植物の採取など警察権の必要な場合,森林局のレインジャーに警察権行
使の権利が与えられています。
 なお,こうした特色の幾つかは,他の公共レクリエーション施設でもみられます。
 
〈おわりに〉
 国有林が,レクリエーション資源として1910年頃より認識されていたにも拘らず,そ
れが政策として取り入れられたのは1960年代になってからです。一方,国立公園は1872
年に世界初のイエローストーン公園が誕生したとき,既にレクリエーションの要素が含
まれていたことを思えば,ことレクリエーションに関しては国有林は後発です。また,
多目的の中でのレクリエーション需要にどう対応していくか,といった問題を常に抱え
ていることもレクリエーションの供給を難しくしています。しかし,利用者数が示すよ
うに国有林のレクリエーション資源としての価値は,今後ともますます大きくなるでし
ょう。こうした状況は,システムが違うとはいえ日本の国有林にも通じるところがあり
ます。
 米国森林局では無秩序なレクリエーション開発をせずに,国民の需要に応えるべく種
々の研究やプログラムが行われています。こうした研究は,日本でも参考にすべき点が
多いと思われます。最後に筆者が米国で強く印象に残ったことは,国立公園にせよ国有
林にせよ,レクリエーションの担い手(レインジャー)が若者の間で人気があり,また
これを育てる教育機関(大学と大学院)や公的研究機関(研修センター,リサーチセン
ター)が充実していることです。即ち明日のレクリエーション資源をマネージメントす
る人的資源の育成がしっかり行われており,この点も学ぶことのできものでしょう。

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