21 アニマル・トラッキング入門〈動物の足跡〉
 
        アニマル・トラッキング入門〈動物の足跡〉
                                        
                    雪の上の足跡が野生動物の行動を記録して
                   いることのついて,欧米では「雪は魂の記録
                   された本である」といわれています。これは,
                   soul(魂)と,sole(足の裏)の発音が同じ
                   ことに由来するものです。足跡の形や付き方
                   を調べてその動物の種類や行動を推測するこ
                   とを「アニマル・トラッキング」と呼びます
                   (以下略)。
                    本稿は日経サイエンス社発行のフィールド
                   ガイド「足跡図鑑」を参考にさせていただき
                   ました。                       SYSOP
                                                                              
〈はじめに〉
 足跡や糞といった痕跡を注意深く調べることによって,動物の姿を直接観察するのと
は異なったやり方で,彼らの生活の一端を知ることができます。この間接的な動物観察
の方法はアニマル・トラッキングと呼ばれています。
 アニマル・トラッキングは,動物が野外に残したフィールドサインを発見し,そのサ
インを残した動物の種類を判定することから始まります。以下についていくつかの主要
なサインとその「読み方」の基本を述べておきましょう。各種の動物が残すフィールド
サインについては,本書(足跡図鑑)の「足跡データ」で解説していますので参照して
下さい。
                                                                              
〈足跡の見つけ方〉
 野生哺乳類の足跡を見つける最も簡単な方法は,雪の上の足跡を探すことです。雪の
上の足跡を正確に「読む」ためには,よい状態の足跡を探さねばなりません。本書に示
した足跡の多くは,最もよい状態で残された各動物の足跡です。
 雪の上の足跡は時間とともに崩れていきますので,新雪の降り積もった翌朝は足跡を
見るのに最も適しています。雪の降り止んだ日の早朝には,前夜に動物たちが巣から出
て狩りをした様子や,休息の場所,糞の排泄場所,寝ぐらへ帰る様子などが雪の上に鮮
やかに残っているのが見られるのです。
 雪の上の足跡を見始めますと,足跡を追いかけているのはトラッカー(アニマル・ト
ラッキングをする人)だけではないことに気付きます。キツネの足跡がノウサギの足跡
を追いかけている場合もありますし,ノウサギが追っ手の目をくらませるために「止め
足」を使っているのが見つかるかもしれません。雪の上にはこうした動物たちの行動の
記録が書き込まれています。
 雪の降らない季節や雪の降らない地方でも,泥の上や砂の上に残された動物の足跡を
見つけることができます。橋の下の湿った土や川原の砂,川や沼のほとりの泥,雨上が
りの登山道にできた水たまりの泥などは,足跡が比較的残りやすい場所です。谷間や草
原を流れる小川の岸に沿って歩きますと,動物が水を飲みにやってくる場所や小川を渡
る場所で足跡の見つかることも多いです。
 タヌキ・キツネ・テンなとが通ることが分かっている場所があれば,そこに「足跡ト
ラップ」をつくるのもよい方法です。このトラップが通常のワナと異なっているのは,
捕らえる対象が動物そのものではなくて,その足跡だという点です。
 足跡トラップを設置するには,最初に,動物の通りそうな平坦な場所を選び,1m四
方を軽く整地してからふるいにかけた砂で砂場をつくります。この砂場の中央に焼いた
鶏頭などの餌を埋めておきますと,通りがかりの動物が餌を捕る際に砂の上に足跡が残
るという仕組みになっています。
 砂の代わりに泥で足跡の残る場所をつくることもできますが,動物の種類や場所によ
っては,細かい点で工夫する必要があるでしょう。
 雪の上や泥の上,あるいは足跡トラップに動物の足跡が残っているのを見つけたとき
は,その足跡から得られる最大限の情報(足跡の大きさ・歩幅・行跡幅など)を記録し
ておきましょう。足跡の絵を描いたり写真を撮っておきますと,後で記録を読み返す際
に役立つことも多いです。
 普段からイヌやネコや家畜の足跡に親しんでおきますと,野外で足跡から動物の種類
を決定する際の誤りを減らすことができます。確実に判定のできる足跡が1種類でも殖
えますと,候補となる動物の種類が,消去法によってその分だけ狭くなるからです。
                                                                              
〈糞フン〉
 食べ物の種類によっては多少の変化はあるものの,野生哺乳類の糞の色や大きさや形
はある一定の特徴をもっていることが多いです。そのため,糞からその動物の種類を特
定できる場合があります。足跡だけでは動物の種類を決められなくても,足跡の付近に
糞が残っていますと,その動物の名前を知ることができます。
                                                                              
                日本産の代表的な哺乳類の糞
                                                                              
 糞の大きさ           糞の形状                       動物の種類
                                                                              
 大型(直径3p以上) 牛糞状(べた糞)*       イノシシ
                                                                              
  〃         まとまってある(形はさまざま) ヒグマ・ツキノワグマ
                                                                              
 中型(直径2〜3p) 丸く長い            ニホンザル
                                                                              
 小型    丸い   銃弾状でまとまってある(ため  ニホンジカ・カモシカ
 (直径2p以下)   糞)
                                                                              
  〃         つぶれた球形          ノウサギ
                                                                              
  〃         まとまってある(ため糞)    タヌキ・アナグマ
                                                                              
  〃(直径1p以上) まとまっていない        キツネ
                                                                              
  〃    細長い                  イタチ科テンなど
   (直径1p以下)
                                                                              
     参考*印:冬季にはニホンザルの糞に似た繊維の詰まった糞をする。
十和田湖のノウサギ 十和田湖のノウサギ H17.11.23 初冬の十和田湖 十和田湖 H17.11.23 [地図上の位置→]
「早春の三ノ岳」中腹(秋田県鹿角市)」
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