27 緑化と微生物〈連作障害〉
 
             緑化と微生物〈連作障害〉
 
                 参考「GREEN AGE(比嘉琉球大農学部教授)」94.6
 
〈樹木の寿命と連作障害〉
 筆者は1970年以来,園芸作物の連作障害や品質向上に対する微生物の応用についての
研究をしていますが,こらの微生物は,光合成細菌,グラム陽性の放線菌,乳酸菌,酵
母,カビなど,人畜にも有用である微生物の複合体です。それら複合体は有用微生物(
Effective Microorganisms)の頭文字をとってEMと呼称される微生物群です。
 自然条件下においては,それらの微生物は各々の好適条件が異なるため共存する例は
極めて少なく,完全な人為的な複合体です。そのため,反自然的という的外れの批判も
なきにしもあらずですが,連作障害が人為的なものである以上,微生物の応用も人為的
な意図でもって対応する必要があります。
 樹木は同一場所において生育し続けるため,考え方によっては常に連作の状態にあり
ます。したがって,見方を変えますと特例を除けば,樹木の寿命はすべて連作障害の結
果といえるものです。
 吉野山のサクラを例にとりますと,老齢木が枯死した跡にいくら土壌改良を施しても,
従来の手法で健全なサクラを育てるのは極めて困難です。
 連作障害の原因は多種多様ですので,樹木の場合は主として,枯死した根の分解がス
ムーズに行われないことが大きな原因となっています。バラ科の樹木では,枯死した根
に腐敗菌が増殖し,アブシジン酸(ABA)アミグダリンなどの発根阻害物質を生成し
ます。それらの物質が根の活性を低下させるため,地上部の拡大と地下部の活性のバラ
ンスが崩れ始めた時点で生長は止まり,その度合が高まれば寿命ということになります。
 
〈松くい虫の被害も一種の連作障害である〉
 松くい虫の被害の直接的な犯人はマツノザイセンチュウであり,そのマツノザイセン
チュウを媒介するマツクイムシ(カミキノムシ)によって,その被害は膨大な地域に広
がっています。その被害のすさまじさにマツ絶滅の可能性ありとの悲観論も続出しまし
たが,よくよく観察すれば,弱ったマツに被害が集中し,健全なマツはその影響を全く
受けないという事実です。
 マツは環境圧の厳しい海岸の砂地や土砂崩れや切り取り面など,他の樹木では生育が
不可能なところでもよく育つ性質があります。その機作は,すでに明らかなように菌根
菌との共生という,微生物との相互関係の上に成り立っています。
 菌根菌の役割については多数の報告がありますが,マツに限らず菌根菌の活性の低下
にしたがって,病害虫が多発するようになります。そのため菌根菌の接種等が試みられ
ていますが,土壌の有機物が増大し,腐敗性の微生物の密度が高まりますと,逆相関的
に菌根菌の活性は低下する性質があります。
 火山の噴火地帯や,表土がはぎ取られ開墾地に最初に生えてくる植物は決まっていま
す。ススキやイタドリに始まり,マツやハンノキの仲間です。いずれも菌根菌や窒素固
定微生物と共生関係の強い植物です。
 それらの程度は同じ科に属する樹木でも微妙に異なっています。例えばトドマツとエ
ゾマツとでは,菌根菌と共生関係の強いトドマツは火山灰の積もった荒地や,開墾地に
おいては優先種としての性質を持っています。そのトドマツを腐植の多い林地に植林し
ても,大半のものがフザリウム(腐敗菌)による立枯れ病で全滅する場合も少なくあり
ません。
 材質のよいトドマツの造林は肥沃な表土を剥すか,火入れをしてフザリウム菌の密度
を下げることが基本的条件となります。それに対してエゾマツは比較的肥沃な土壌を好
み,フザリウムに対する耐性も強いため,土壌の有機物含量の増大に伴って,林相はト
ドマツからエゾマツへと変遷します。
 突き詰めて考えますと松くい虫の被害を受けるマツ林も,アラカシのタンソ病もサク
ラの連作障害や各種の老齢木の問題も,長期連作による微生物相の悪化という点につい
ては,その「根」は同じものです。
 
〈微生物相の悪化の原因〉
 自然林のように多種多様な植物が混交している場合は,土壌の微生物相も安定的な変
遷を繰り返すため,ほぼ自己完結型なものとなっています。要は単相林や公園,街路樹
など,微生物相の変遷が一方交通で,腐敗菌(フザリウム等)の集積という悪化の傾向
をたどる場合です。
 このような傾向は土壌の物理性の悪化と栄養的な要素とも連動しますが,排気ガスや
酸性雨,道路等に発生するアルカリ水なども無視できない要因です。
 このようなことから,樹勢の回復に対する有機質の施用は再認識されるようになって
きましたが,コストの問題と同時に堆肥の質が問われています。
 現在,街路樹に使用されている有機肥料の筆頭は汚泥から作られたものです。汚泥に
は多様な酸化物が含まれ,重金属のイオン化レベルが高いという欠点があります。その
ため農業用としては敬遠され,食料生産とは関係のない緑化用有機肥料として大量に使
われるようになっています。
 よくいえばコストの低減,悪くいえば汚泥の捨て場です。酸性雨や汚泥は激しい酸化
還元反応を繰り返し,生理的には多量の活性酸素を誘発する性質があります。強い太陽
光の下で生育する植物は,体内の活性酸素を消去する多様な抗酸化物質を生成する力が
あります。その力が特に優れている植物は,汚泥の山の上でも旺盛な生育を示し,各種
の汚泥のひどい状況下でも正常に育つ力がありますが,いずれも草本又は草本的性質を
持つ樹木です。
 土壌の酸化還元が強く,活性酸素の誘発条件が高くなりますと,土壌中の有機物は早
急に消耗し,土壌の物理性が劣悪化すると同時に化学性も急激に悪化します。そのため
土壌の微生物相はさらに貧しく,有用な合成系の微生物や発酵菌グループは減少し,耐
酸化力の強い有害微生物が優勢となります。つまり菌根菌や窒素固定菌は急激に減少す
ることになります。
 一般に肥沃度と肥料汚染とは混同されやすいですが,腐植の含量が高い腐葉土は,肥
沃度が高いにもかかわらず汚染が少ないため,菌根菌の活動や窒素固定菌の能力が倍加
する性質を有しています。
 それに対し化学肥料や農薬の多用,未分解の腐敗性の有機物を連用した土壌は,肥料
成分的に又は物理的に肥沃な状態であっても,菌根菌はもとより,有用菌の密度が低下
し,病害虫が多発するようになります。このような土壌はイオン化のレベルが高く,強
い汚染状態にあり,すべてが生育や環境にマイナス的存在となっています。
[次へ進んで下さい]