17 植物の見方1
 
               植物の見方1
 
                  参考:世界文化社発行「世界文化生物大図鑑」
 
〈植物とは何か〉
 植物といいますと,一般に緑を連想し,それは同義語と受け止めている人も多いでし
ょう。
 緑ということは多くの場合,クロロフィルを持っているということです。クロロフィ
ルは特殊な例外を除きますと,植物が持っている物質で,光合成を司る必須の物質です。
自然界における緑 − 植物は,空中の炭酸ガスを固定して,炭水化物を作り出すという,
植物にしかできない機能を持っています。従って,直接間接を問わず人間を含めた動物
は,植物に依存し,従属して生きています。植物,動物を含む自然界の中では植物は生
産者としての位置づけがされます。動物は消費者としての意味があります。更に分解者
或いは還元者としての動物,植物のグループがあり,これらの巧みな組合せで自然のサ
イクルは多過ぎもせず,少な過ぎもしないといったバランスのとれた状態で円滑に物質
が循環しています。
 緑 = 植物ではないと述べましてのは,この自然界の分解者,還元者の中で幾つかの
植物がそれに当たるからです。それは多くが菌類で,クロロフィルを欠き,キノコなど
の大型の菌類から小型の菌類までを含み,これらは従来下等植物と呼ばれるグループに
含まれていました。しかし,植物,動物に対して菌類という一つの大きなグループとし
て分ける見方もあり,その考えは植物界,菌界,動物界の三つの界に分けられるという
もので,この方が実際的に無理の無い分け方であると思って支持する人も多いです。更
に,植物体の作りを体制の違いから7段階に分けることもできます。従来植物界に含め
られていたものを細分し,菌界,地表界植物などに分離する説です。本稿はこの類縁関
係を示すことにします。
 例外的に従属栄養を営む植物に腐生植物や寄生植物があります。ラン科,ハマウツボ
科,ヒルガオ科のネナシカズラ属などのその例がみられます。
 また,緑ではない植物として一部の藻類が挙げられます。褐藻類はクロロフィルのほ
かにフコキサンチンなどのキサントフィルを持っています。紅藻類ではクロロフィルや
キサントフィルのほかにフィコエリスリンやフィコシアニンなどのフィコビリンを含ん
で,それぞれ褐色,紅色などの色を呈しています。
●植物と動物の違い
 植物と動物の違いは何処にあるのでしょうか。原始的な生物の場合にはその境界が不
明確となってきますが,基本的にはその体制の複雑さが植物と動物で異なっています。
 動物としては単純で原始的と考えられます扁形ヘンケイ動物でも神経系がみられ,高等動
物になるに従って複雑になっていきます。また動物には消化器系,循環器系などの器官
が系統的に配列されていることもあります。これらの複雑な体制は植物にはみられませ
ん。
●植物の器官
 高等な植物では根,茎,葉,花という器官が明確にあります。これらは何れも植物の
生活に重要な働きをしています。
 △根:根の働きは大別して二つあります。一つは水分及び養分(無機塩類)を土中か
ら吸収する働きです。この働きの活発な個所を根毛といい,根の先端部からやや元の方
に付き,土との接触面積を増加させる働きがあります。中には,葉で作られた養分を貯
蔵する働きがあり,肥大して著しい働きをするものは貯蔵根と呼ばれます。サツマイモ
がその良い例です。もう一つの働きは植物体を支える働きです。最も高い樹木はオース
トラリアのユーカリや北アメリカのセコイア,ギガントセコイアなどですが,これらは
およそ100mにもなりますので,何千年も其処で生き長らえることができるため,茎 − 
幹を直立させ風などに因って倒されない強固な根の働きがあるからといえます。
 △茎:茎は根から吸収された水や無機塩類を葉に移動させ,また葉でできた同化物を
各部分に送る働きをしています。
 茎には直立茎と呼ばれる茎が直立して伸びるもの(ヨモギ),平伏茎ヘイフクケイと呼ばれ
る地表を這うもの(コミカンソウ),他物に巻き付くもの(アサガオ)などの種類があ
ります。また木本植物では形成層の内側に二次木部と呼ばれる部分ができ,これは材と
呼ばれ,極めて長期間に亘って植物体(樹木)を補強する働きを持っています。これを
人間が木材として様々に利用しています。
 茎の変化したものは多いです。ジャガイモは茎の変化したもので,塊茎カイケイと呼ばれ
ています。また,ユリの球根は鱗茎リンケイと呼ばれています。ブドウなどの巻きひげも茎
の変化したものです。
 △葉:葉は植物にとって最も重要な器官といえます。光合成作用を行い,水と日光と
炭酸ガスから炭水化物を作ります。葉の構造は,表面にクチクラ層という保護面があり
ます。次いで表皮細胞があります。更に光合成を行う柵状サクジョウ組織と海綿状組織があ
ります。これらに水などを送る組織として葉脈ヨウミャクがあります。また葉の裏面のところ
どころには気孔があり,ガス交流を行っています。
 △花:花は植物の繁殖にとって重要な器官です。花の基本的な構造は外側に萼ガクがあ
り,花の各部分の蕾ツボミのときに保護を行っています。花冠カカンは花弁全体を指します。
様々な色や形をしており,受粉に対して昆虫の来訪を促す働き(虫媒花)があります。
風媒花フウバイカの場合には地味な花冠となり,場合によっては無いときもあります。萼と
花弁が区別できない場合は花被カヒと呼んでいます。花冠の内側には雄ずいがあります。
これは花糸カシと葯ヤクとの二つの部分に分かれています。葯の中には花粉が詰まっていま
す。中心部には雌ずいがあります。雌ずいの先端は柱頭チュウトウといい,受粉の際の受け入
れ口となります。下部には子房シボウがあり,この中に胚珠ハイシュがあります。胚珠は受粉
して後に種子となります。
 △種子:通常の植物は種子で繁殖します。また生態学的にはその植物の生活史上最も
生育に適さない時期を種子という小型で然も環境の変化に耐える形で過ごすという考え
方もできます。種子の中には胚乳ハイニュウがあり,幼植物の栄養分となります。通常でんぷ
んや油脂が蓄えられており,人間はこれらを利用しています。無胚乳種子は子葉に栄養
を蓄えるもので,マメ科,ブナ科,クルミ科などにその例があります。
 
〈植物の分類と系統〉
 植物の基本単位を種species或いは自然種,生物種といい,形態的,生理的にある一定
の変異内で纏められる群を示します。種の認識は古くギリシャ時代に遡ることができま
すが,実際には更に古く古代人も種の纏まりを認識していたと考えられます。それらは
学問的な見地からではなく,実用上から「共通の形態を持つ纏まりのある集団」として
認識していました。わが国の例では山で生活する炭焼きが,彼らの生活上,炭に使える
木とそうでない木を,彼ら独特の名称(植物方言)で区別し,更に形態の違いで何十も
の名称を付けています。興味深いのはその大きさが,我々が認識している生物種の大き
さと殆どの場合一致していることです。彼らは山で生まれて生物に対する学問的基礎は
浅い訳ですが,生活上必要があればきちんと種のレベルで区別できます。これはとりも
なおさず種の持つ「まとまり」 − カテゴリー − が明確であることを示しているので
す。
 このように植物を区別する必要性は,薬用植物にとって最も重要でした。ギリシャの
ディオスコリデスの著した"Materia Medica"は薬用植物の本であり,植物分類学の最初
の本としても知られています。
 薬用植物学はわが国では本草学ホンソウガクと呼ばれ,中国からのいわゆる漢方薬に用いら
れる原植物の同定,類似植物の国内での探索から発達したもので,歴史的には新しいも
のです。
 分類学が学問として確立しますのは,18世紀,スウェーデンのリンネ(1707〜78)に
より一応の体系化が行われました。リンネの最大の功績は1753年に出した「植物の種」
の中で二名法を行ったことでしょう。これは一つの種を表すのに二つのラテン名,属名
と種小名で表示するものです。それ以前は一つの種を表すのに様々な形態の説明を長々
とラテン語で表していましたが,これに因って似た仲間のグルーピングができるように
なりました。このことは,それ以後の分類学(動物も含む)に大きな寄与となりました。
 19世紀にダーウィンの「種の起源」が発表されることによって生物の種は固定したも
のではなく,長い時間と環境に因って変化するものであるとの認識がなされ,生物学の
みならず多くの学問に影響を与えることとなりました。
 このような事実を背景に自然の系統に沿うような分類体系表が多くの学者によって発
表され,アイヒラーの分類系,エングラーの体系,ベンサム・フッカーの体系などが知
られています。
 最近の系統分類学はこれまでのような外部形態だけの比較ではなく,種生物学的な研
究手法,染色体を中心とした細胞分類学,代謝産物や化学的物質によって系統関係を知
る化学分類学,各形態の差異を数量的に取扱い,種間の関係を論ずる数量分類学などの
手法で,華々しい成果が現れています。

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