17b 海外の大規模木造事例(欧州)
 
〈欧州の大規模木造事例(そのV 平成5年11月)〉
 
○所在地:フランス パリ
 施設名:アレッティの木造集合住宅
 ソ連カラマツを用いたツー・バイ・フォー(断面40×72o)システムによる公共の集合
住宅で,1戸平均65立米のユニットが70戸建てられいる。
 
○所在地:フィンランド ヘルシンキ
 施設名:建材店の店舗
 市の外れに1991年に建てられたDIYの建材店の店舗兼倉庫で,平屋建てである。こ
の市から約40q離れたロヘヤにkerto(ケルトォ)の商標で欧州や北米などで有名なL
VL(単板積層材)を年間約5万立米生産しているフィンフォレスト社があり,その製
品を用いて小屋ばり(上下にフランジあり)とし,約20mの柱間に架け渡されている。
なお,LVLのはりのほか,集成材のはりも使われている。わが国ではLVLによる大
規模な木造はまだほとんど建てられていない現状である。
 
○所在地:ノルウェー ハーマル
 施設名:ハーマルのバイキング・シップ・スポーツ・ホール
 1994年の冬季オリンピック施設のなかでは最大で,大きなスケート場と客席(13,000
人)を覆った巨大で優美な屋根が,バイキング船を伏せたような形をしている。ホール
の面積は26,000uで,最大の長さ250m,最大の幅110m,最高の高さ35mである。視界を
遮る柱はなく,部分によって長さが変化するアーチ型の木造トラス19本(せい4.2m)を
12m間隔に配列しており,下弦材の断面は85p角である。使用された集成材(スプルー
ス)の総量は2,000立米で,耐火性能は1時間として設計されている。
 
○所在地:ノルウェー ハーマル
 施設名:ハーマルのオーロラ・ホール
 1994年の冬季オリンピックのフィギュアスケート場で,建物の平面が楕円形(長いと
ころで95m)をしており,延べ面積6,500u(収容人員6,500人),最高の高さが25mであ
る。13.5m間隔に配置されたRC造の柱の上に,上弦材が曲がり,下弦材が通直の集成
材(幅20pの集成材を3材合わせ,総幅60p)で構成されたトラスを架けており,集成
材の総使用量は750立米である。外部は耐火と保存のため水溶性の薬剤で処理されてい
る。
 
○所在地:イタリア セスト・サン・ジョパンニ
 施設名:セスト・サン・ジョパンニの体育館
 この建物の面積は3,800uで,屋根構面が2方向にカーブしている。一つは屋根面が
桁行方向(約75m)に沿って凹形を示し(端部の最高高さが17.4m),他の一つは長さ約
50mのはりが約1mの矢高を持っているので,はり間周囲に緩い凸形を示している。はり
の断面は集成材の4部材(幅17.5p,せい178pの両側材と,それに挟まれ幅22.0pの
上,下材)を凸形に組み合わせ,内部を中空にしたものである。はりのみかけのせいは
328p,幅は57pで,約7.4m間隔に配置された柱頭にローラ支持されている。
 
○所在地:フランス ランジス
 施設名:ランジス中央卸売市場の魚市場
 この市場は全体の面積が220haで,世界最大といわれている。この魚市場の施設は196
3年に建てられ,面積が17,280u(72×240m),高さが10〜12mである。建物のはり間方
向の幅は72mで,中央にRC造の柱が配置され,その上に集成材のはりが架けられてい
る。30年も前に建てられた建物にしては規模も大きく,採光も比較的良好である。
 
○所在地:フランス サン・デュ
 施設名:ナンシー大学付属短期大学(IUT)の校舎
 調査時は躯体工事を終え,内装工事をしていた。面積は約6,500uで,学生の収容数
は600人を予定している。設計コンペによるもので,校舎は集成材による3階建ての軸
組構法を採用し,教室はスパンが6m,階高が3mであるが,床は遮音のためデッキプレ
ートに現場打コンクリートである。壁は木造で,必要に応じて移動できるように工夫さ
れている。
 
○所在地:フランス オベルネ
 施設名:クローネンブール・ビール工場の倉庫
 この会社はフランス最大の食料品店BSNグループに属し,RC造の柱に集成材のは
りを架けた倉庫が3棟ある。倉庫は幅が42m,高さが6.5mである。集成ばりはせいが1.8
〜2.2m,スパンが20mである。集成材を用いた建物建物を選んだ理由は,耐火性能が良
好なこと,経済性が優れていること(スパンが25〜30m以上になると鉄骨造より安価と
なる),外観が美しいことなどである。
 
○所在地:フランス ミュールズ
 施設名:ミュールズ運動公園の屋内スケート場
 このスケート場は市の所有で,運営を協会に委託している。その面積は約3,000u(
45×65m),高さは13.2mで,観覧席は常時900人分であるが,椅子を入れると1500人分
まで増加できる。小屋ばりは集成材で,そのせいが2.75m,スパンが45mである。数本の
はりの表面の塗装がまだらに退色しているが,その原因が氷からのアンモニヤガスかど
うかを調査中とのことであるが,とにかく換気を十分行っているとのことである。
 
○所在地:フランス ミュールズ
 施設名:ミュールズの鉄道博物館
 この博物館は1976年と1984年の2期に分けて建設され,建物の延べ面積は14,000u,
高さは11mである。冬でも暖房はしないが,通気が良いためか,この木造には結露がみ
られない。約22m間隔に配置されたRC造の柱に,せいが約1.2mの集成ばりが変化に富
んだ曲線状に架けられ,造形的に美しい空間を構成している。屋根の天井面にはパーテ
ィクルボードが張られている。なお,集成ばりが長いため,天候の変化で長手方向にも
伸び・縮みが生ずるので,継手部分ににげがとられている。
 
○所在地:フランス グリニー
 施設名:グリニーのコカコーラ製造工場
 工場の敷地は5ha,建物は3棟でその面積は24,000uである。工場は短辺が約40mの
やや方形で,その中央付近に設けられたS造の柱から,せいが1.8mの集成材が方杖のよ
うに斜めに架けられ,小屋ばりとともに明かりとりのある屋根構面を構成している。ま
た,屋外に露出しているはりはCCA処理をし,金属のキャップをかけたり,水が一カ
所に溜まらないよう配慮されている。
 
○所在地:フランス ミュールズ
 施設名:ミュールズ運動公園屋外競技場の観覧席
 フットボール場を挟んで2基の観覧席が設けられ,1基は全部集成材で建てられ,他
方は上屋のみ集成材である。前者の観覧席は,上屋の集成ばりの全長が20.5m,持ち出
し部が16mである。そのはりは組立てばりで,幅13.5pの両側の集成材の間に幅16pの
ブロックをはさみ,みかけの幅を43p,先端のせいを50pとしている。防腐剤を加圧注
入したラミナを工場で集成接着し,塗料を下塗りした上,現場で完成時に2回塗りして
いる。なお,積雪荷重は85s/uである。
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