06a 植物香気成分(フィトンチッド)と森林
4 精油採取法
植物香気成分,すなわち精油の採取法の主なものを示す。
(1)水蒸気蒸留法
植物原料に水蒸気をあて,水蒸気とともに出てくる気体状の揮発性物質を冷却し
て精油を得る方法。天然香料の採取。ハッカ。針葉油など。
(2)熱水蒸留法
植物原料を熱水で煮沸し,出てくる水蒸気と揮発性物質を冷却して精油を得る方
法。天然香料の採取。
(3)有機溶媒抽出法
植物原料を有機溶媒中に浸し,加熱還流する方法と,室温に一定時間放置して抽
出する方法の2通りがある。溶媒の種類によって抽出されるものが異なってくる。
揮発性物質とともに不揮発性物質も得られる。
(4)圧搾法
果皮を圧搾して精油を得る方法。柑橘類などからの精油採取に用いられる。
(5)不揮発性溶剤抽出法
一定の厚さに塗った脂肪の上に花などを敷きつめ,一定時間放置後,脂肪に吸収
された精油を取出す方法。
(6)超臨界流体抽出法
超臨界状態の流体が多くの物質に対して優れた溶解能力を持っていることを利用
した抽出法。流体としては炭酸ガス,アンモニアなどが使われる。
5 精油の生物活性
精油は抗菌作用,植物生長制御作用,殺虫作用,精神安定作用など多様な生物活性を
持っている。以下に,特に人間の健康に関わるものについて記す。
(1)抗菌作用
精油の抗菌性は病原菌を短時間で殺す抗生物質のようには強くないが,反面,穏
やかに作用するので副作用が少ない。防カビ防菌作用のある樹種には,トウヒ,ア
オトウヒ,ハイマツ,ローソンヒノキ,スギ,ウラジロモミ,ヒノキアスナロ,ハ
イバャクシン,シキミ,ヒノキ,モミ,ツガ,サワラなどがある。ヒノキ土埋木や
ホウノキのように虫歯菌Streptococcus mutansの生育を抑える成分を含んでいるも
のもある。
(2)衛生害虫の行動制御作用
植物精油にはゴキブリの忌避作用を持つリモネン,メントン,プレゴンなどのテ
リペン,脳炎の媒介蚊の産卵を誘引するフェノール類など衛生害虫の行動を制御す
る物質が含まれている。また,ヒノキ,ヒバ,ユーカリ葉油には,ぜん息の原因と
なる家ダニを殺す作用がある。
(3)人間のからだに対する作用
精油は皮膚や粘膜に触れると刺激を与えるので貼りぐすり,カゼぐすり,胃腸薬
などに利用され,また,脳を刺激し興奮や鎮静作用を持ち,血圧降下作用などがあ
るので,昔から薬に混ぜられ使用されてきたものもある。最近では精油の気体状態
での作用が調べられ,森林浴効果が解明されつつある。樹木の香りの雰囲気の中で
睡眠をとると疲労の回復が早いことや,森林大気中と同じ濃度のヒノキ,トドマツ
葉油の匂いの中ではマウスの運動量が増大するなどの実証がされている。このよう
なテルペン類の生理作用を利用し,芳香性生薬などに含まれる精油を,心身症など
の病気の治療に利用するアロマテラピー(芳香療法)も行われている。
アロマテラピー(芳香療法)に使用される植物香気成分
機能別 芳香療法剤の例
覚醒(睡気さまし)用 精油(ハッカ,ユーカリ,レモン,シトロネラ,カヤプテ,サ
香料 ルビア,タイム,クローブ,ローズマリー,ベージル等)
催眠用香料 精油(ジャスミン,カモミル,ネロリ等),ノニルアルコール,
デシルアルコール,フェニルエチルアルコール
食欲抑制用香料 よもぎ油,ローズマリー油,ユーカリ油,ミル油,フェニル酢
酸エステル,グアヤコール,インドール
食欲促進用香料 精油(ベージル,ペリラ,マジョラム,タイム,ローレル,ジ
ュニパーベリー,レモン,ナッツメグ,ジンジャー,オニオン,
ガーリック等),カルボン,エストラゴール,エレモール
抗偏頭痛用香料 精油(オレンジ,レモン,ベルガモット,ラベンダー,ローズ
マリー,ベージル,ペパーミント,樟脳,ユーカリ等),メン
トール,シネオール
嫌煙用香料 精油(オレンジ,レモン,ベルガモット,クローブ,シンナモ
ン,ナッツメグ,メース,ジンジャー等),オイゲノール,シ
トラール,ヒドロキシシトロネラール
制吐,抗失神用香料 ペパーミント油,アプシンス油,ユーカリ油,ローズマリー油,
メントール,シネオール,シトラール,カンファー酢酸
不安解消,抗うつ用 精油(ラベンダー,ベルガモット,レモン,マジョラム,ロー
香料 ズマリー,クラリーセージ,ペパーミント,ベージル,ローズ,
ジャスミン,プチグレン,ナッツメグ,シナモン,クローブ,
メース,ジンジャー等),シトラール,シトロネラール,ボル
ネオール,リナロール,ゲラニオール,ネロール
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