20 森林よ永遠に〈森林を守る〉
 
            森林よ永遠に〈森林を守る〉
                                        
森林よ永遠に〈人間生活に寄与する森林〉
                                        
〈大気浄化の機能〉
 △炭酸ガス除去と酸素供給
 常緑樹は年間を通じて光合成をしているで,他の植物よりも,また農作物よりも酸素
供給(炭酸ガス除去)能力があります。
 群落段階では,上層の葉から下層の葉に至るまで,有効に光合成をしています。
 △炭酸ガスと酸素の収支
 光合成においては,264gの炭酸ガスと108gの水,677.2カロリーの太陽エネルギーを
用いて,180gのグルコースを生産し,このとき192gの酸素を放出します。さらに180gの
グルコースから,植物質の平均的な組成といわれるデンプン,セルロース162gを生じま
す。これを整理しますと,1sの植物質生産のためには,1.6sの炭酸ガスを吸収して,
1.2sの酸素を放出することになります。
 このことから,
  年間ha当たり総生産量30t,呼吸量20t,その差10tの森林を想定しますと,
  総生産量に対し,炭酸ガスを48t吸収して,酸素を36t放出,
  呼吸量に対して,炭酸ガスを32t放出して,酸素を24t吸収,
という計算が成立し,純生産量に対しては,炭酸ガスを16t吸収して,酸素を12t放出し
ていることになります。
 一方,人間1人の呼吸による1日の酸素必要量は薬0.75s,放出炭酸ガス量は約1s
といわれていますから,この森林の例では,人間44人分の呼吸をまかなう勘定になりま
す。
 これでは,落葉樹林ではha当たり40人分,常緑広葉樹林ではhaにつき80人分の呼吸し
かまかなえないことになりますが,大気は開放的であり絶えず混ぜ合わされていますの
で,酸素不足ということにはなりません。
 △樹木の汚染物吸着
 都会地の大気には,亜硫酸ガスなどの汚染物質が複雑に混合しています。汚染物質は,
樹木の葉から吸収され,また葉の表面に付着しますが,その吸着の量は樹種によって異
なります。
 また樹木が集団になりますと,その集団(森林)がしゃへい物となって,汚染空気の
拡大を阻止する効果も考えられます。
 東京23区を例にとってミクロ的に試算しますと,亜硫酸ガスの浄化には,都民1人当
たり30u以上の森林が必要なことになります。
                                        
〈気象緩和の機能〉
 △森林の気象条件緩和
 森林においては,葉層によって太陽の入射光が遮られて,気温の上昇を抑制していま
す。また,葉層では蒸散作用によって盛んに水蒸気を大気中に放出しますが,この作用
によって多量のエネルギーが消費されています。このため,樹葉は冷却され,葉面の温
度及び葉をとりまく空間の気温は低下するのです。森林内での最低温度は葉層の内部に
みられます。このため,森林内で気温が冷却されますと,下降気流が起こり,低温空気
は地表近くで林外へ流出します。一方,都会での人間活動による高温な汚染大気は上昇
気流となって拡散されますので,森林の清浄化された空気と入れ替わるという,都合の
よい循環系統を生ずるのです。
 △森林内外の地温
 林内の地温(地表下30p)は,林外に比べますと6,7月で5℃,年間でも4℃ほど
低いです。林内の地温は,暖かい季節は前述のように低温で,寒い季節には夜間の地面
の放熱冷却作用が樹木の葉層によって防止されて凍結も浅く,凍害も林外より受けにく
いです。
 △森林内外の湿度
 林内の湿度は林外より4〜13%高いとの調査例があります。
 樹木の葉層が濃霧の霧滴を捉えて樹雨を発生させたり,風が弱く,日射量が少ないこ
とによる低温が相対的に湿度を高くしています。
 なお,森林への水の供給源である降雨は,@葉層の隙間を通って地面に落下する。A
一時葉層に付着して,のち「しずく」となって地面に落下するもの。B一時葉に付着し,
のち幹を伝わって地面に落下するもの。C葉層に付着して蒸発するもののようになりま
す。
 △森林内の日射
 森林への日射は大部分が葉層部で吸収され,よく茂った葉層を通過して,林内の地表
近くまで達する光の量は,はじめの日射量に比べて,数%です。また,葉層部で光合成
される日射量はごく僅かで,大部分は蒸散作用,あるいは植物体中の水分その他の物質
の移動などのエネルギー源として使用されます。
                                        
〈騒音防止の機能〉
 森林というもののイメージの一つに,静けさというものがあります。森林の静けさは,
全く無音の世界という静けさではなくて,心理的にうるおいを与える静けさであり,そ
の中では鳥の唄う声や,木々の梢をわたる風の音も静けさを感じさせる因子です。
 △物理的な防音効果
 森林の葉層の中では,葉や枝が障害物となって音のエネルギーは明らかに失われます
が,音の周波数,植物の種類,音源の高さなどによって音の減衰度が異なります。一般
に葉が大きいほど効果が大きく,葉の鋸歯(葉の周辺のギザギザ)も効果があり,葉が
音源に対して直角に面しているほど,葉の密度が大きいほど効果的であるという報告も
あります。
 △心理的な防音効果
 工場の境界とか,自動車道の境界とかの樹林帯は,音の障害物としての効果と同等の,
緑のもつ安心感が心理的に働いています。つまり緑のカーテンは,騒音発生源を覆い隠
して,音源を目にふれさせないという効果なのです。
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