19b 森林よ永遠に〈森林生態の意義〉
 
〈森林の遷移と極相〉
 △移り変わる植物群落
 鹿児島湾の桜島の溶岩流の上は,20年ぐらい経過しますとコケ類や地衣が生育しはじ
め,その後150〜200年の間に,50年ごとにタマシダ・イタドリ・ススキなどの草類,ヤ
シャブシ・ノリウツギ・クロマツなどの低木類,アラカシ・ネズミモチ・ナワシログミ
・ヒサカキなどを主体とかるアラカシ林へと代わります。噴火後500〜700年経過します
と,タブ・アラカシ・コガクウツギ・テイカズラなどの組成をもつタブ林に代わってい
きます。
 このようにあるところに生育している植物群落の種類組成が,時間の経過とともに交
代していくことを遷移あるいは植生連続(サクセッション)と呼んでいます。
 桜島のタブ林のように,上層の木が倒れてもその隙間を同じ樹種が埋めて,いつまで
も種類が同じに続いていき,最終的に安定した植物群落が成立した森林を極相(極盛相,
クライマックス)と呼んでいます。
 わが国のような湿潤な気候をもつところでは,一般的には,裸地 → (地衣・コケ類
)→ 一年生草の草原 → 多年生草の草原 → 陽性の樹種(カラマツ・カンバ類・マツ
類・ヤナギ類・ナラ類など)の低木林 → 陽性の樹種(前同)の高木林 → 陰性の樹種
(カシ類・シイ類・ブナ・モミ類・ツガ類・トウヒ類など)の高木林(極相) の順に
遷移します。
 △極相の考え方
 遷移にもいろいろなタイプがあります。溶岩地,山崩れ跡,洪水による砂礫埋没地な
ど植物群落の全く無かったところから始まる遷移,森林の伐採跡地,山火事跡など既に
植物が存在していたところから起こる遷移,砂地や岩石地など乾いた環境から徐々に湿
性化へ進む遷移,池や湖水が水性植物の遺体や有機物の堆積によってだんだん浅く,狭
くなり,乾性化し陸化していく過程での遷移などがあります。
 こうした遷移が最終的に到達する植生が極相です。極相の姿は,そのところの気候条
件によってほぼ決まっています。例えば,わが国の西南部では,どのような土地から遷
移が出発しても,だいたいタブ・カシ・シイ類の優占する照葉樹林の極相に達します。
冷温帯ではブナを中心とする落葉広葉樹林となります。また亜寒帯では,本州でアオモ
リトドマツ(オオシラビソ)・シラベが,北海道でエゾマツ・トドマツが優占する森林
となります。
 しかし尾根筋や風衝地,放牧地など,土地的条件,地形的条件,生物的条件などによ
って,できあがる極相には多くの種類があることになります。
                                                                              
〈日本の森林帯〉
 △温度と森林帯
 日本列島は南北にわたって湿潤気候帯に入っていますので,森林帯は温度の差によっ
て異なって生じます。次の吉良博士の区分がもっとも妥当性があります。
                                                                              
  気候帯     暖かさの指数  森林帯
                                                                              
  亜熱帯     180〜240    亜熱帯降雨林  トカラ列島以南
  暖温帯(暖帯)   85〜180    照葉樹林    関東以南
   〃            〃      暖帯落葉樹林  (それ以外の地域)
  冷温帯(温帯)  (45―55)〜85 落葉広葉樹林  北海道西南部〜中部地方高地
  亜寒帯           15〜(45―55) 常緑針葉樹林  北海道中部以北
                                                                              
                                                                              
  ※温量指数:氷雪/ツンドラ界                0
        ツンドラ/常緑針葉樹林界        15
        常緑針葉樹林/落葉広葉樹林界    55
        落葉広葉樹林界/照葉樹林界      85
        照葉樹林/亜熱帯降雨林界       180
        亜熱帯降雨林界/熱帯降雨林界   240
                                                                              
  ※温量指数とは,12ケ月の各月平均気温から,植物の成長にとって必要な最低気温
   (5℃)を控除し,それを合計したもので,プラスの月の合計を暖かさの指数,
   マイナスの月の合計を寒さの指数といいます。
                                                                              
 △水平分布と垂直分布
 水平分布の森林帯の変化は前述のとおりですが,一方,高い山へ登っていきますと,
ブナやカエデの林を通り,シラベやアオモリトドマツなどの針葉樹林に変わり,ダケカ
ンバやミヤマハンノキなどの低木の高山性の広葉樹林を経て,ハイマツの茂みを跨ぎ,
岩礫に中にオンタデが点在し,やがて岩石のみの地帯へと推移します。
 こうした植物景観の変化は,南北の水平的な変化と同様に,温度低下に基づいていま
す。気温低下の割合(気温の減率)は,わが国では,100m高度が上がるごとに 0.6℃ぐ
らい低下します。これを水平方向に換算しますと,北へ向かって100qと計算されます。
 垂直分布帯の呼び方は,水平分布に対応して次のとおりです。
                                                                              
  亜山地帯・・・・照葉樹林帯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・暖温帯に対応
  山地帯・・・・・・夏緑樹林帯・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・冷温帯に対応
  亜高山帯・・・・常緑針葉樹林帯・・・・・・・・・・・・・・・・亜寒帯に対応
  高山帯・・・・・・ハイマツ帯(森林限界以上)・・・・寒帯に対応
                                                                              
 △照葉樹林帯
 わが国の亜熱帯林は沖縄,西南諸島,小笠原などで,アコウなどが優占します。亜熱
帯林は九州に入ると照葉樹林になります。照葉樹林は,海洋的環境に成立するタブが優
占するタブ型森林,日当たりの良い乾燥する立地に成立するシイ類が優占するシイ型森
林,内陸の山地の湿潤な環境に成立するカシ類が優占するカシ型森林の三つのタイプに
分けられます。
 △暖帯落葉樹林帯
 寒さの指数マイナス10以下,暖かさの指数85以上という中間帯で,代表的樹種はシデ
類・イヌブナ・クリ,モミなどです。わが国では京都周辺,信州地方,北関東,東北南
部の内陸地などです。
 △落葉広葉樹林帯
 温帯の気候的極相としてブナ林が分布します。
 日本のブナ林の特徴は地表にササが生えているので,ブナ-ササ型森林と呼んでいま
す。ウラジロモミ,ツガ,スギ,ミズナラなどが混成します。
 △常緑針葉樹林帯
 北海道東部ではトドマツ,エゾマツ,日本海側や東北の亜高山帯にはアオモリトドマ
ツ,太平洋側の亜高山帯にはシラベやコメツガが優占します。なお,日本海側の多雪地
帯では針葉樹を欠きます。
[次へ進んで下さい]