06 森林機能保全:渓間工事
 
       森林機能保全:渓間工事(抜粋)   資料:林業技術ハンドブック
                        (森林総合研究所 岩元 賢氏)
                                       
T 治山ダム
                                       
 治山ダムは,渓床の安定及び山脚を固定し,山腹工事の基礎工,あるいは崩壊地の自
然復旧を促進し,渓床の縦横侵食による荒廃の危険性のある山脚及び渓床を固定して,
山腹崩壊の防止と不安定土砂の移動防止,あるいは土石流による渓床,渓岸の荒廃を防
止して,下流への流出土砂を抑止することを目的として計画されるものである。
                                       
1 治山ダムの種類
                                       
 治山ダムは,その目的,機能によって,えん堤,谷止,床固の三つに大別される。ま
たさらに,ダムの形式により,重力ダム,アーチダム,三次元ダム,バットレスダム,
くし形ダム等に区分される。
(1)えん堤の機能としては次の4作用がある。
 @渓床勾配を緩和して安定勾配に導き,縦侵食及び横侵食を防止する作用
 A山脚を固定して,崩壊の発生を防止する作用
 B渓床に堆積する不安定土砂の移動を防止する作用
 C土石流による渓床,渓岸の荒廃を防止して,下流への土砂流出を防止する作用
(2)谷止は,上記@,A,Cの機能を主とするもの
(3)床固は,上記A,B,Cの機能を主とするもの
                                       
2 ダムの位置
                                       
 ダムの位置は,ダム築設の目的並びに地形,地質の状況に応じて最も効率的かつ経済
的となるような個所を選ぶ必要がある。地形的には一般に上流部の広がった渓流幅の狭
い個所が良いとされ,さらに地質等からは,地耐力の不足によるダムの沈下,越流水に
よる下流のり先の洗掘,及び両岸浸食によるダムの破壊防止のため,渓床及び両岸に堅
固な地盤のあるところが望ましい。
 合流地点の治山ダムの位置は,主渓及び支渓の両渓床の安定が図られるように合流点
下流部とし,両渓の集水面積,渓床勾配,流量及び不安定土砂の状況,主渓に注ぐ支渓
の状況等を考慮して,合流点に著しく近くないところがよい。
 崩壊地又は崩壊のおそれのある個所並びに土石流の堆積個所に治山ダムを計画する場
合には,階段状に治山ダムを計画する。
                                       
3 治山ダムの方向
                                       
 治山ダムの方向は,治山ダムの目的である侵食を防止し山脚の固定を図るため,ダム
築設後,上流山脚が侵食されないように直線流路にあっては放水路中心において,洪水
時の流線に直角に設定した線をダムの方向とする。ダムの位置は,曲流部を極力避ける
べきであるが,やむを得ず曲流部にダムを築設する場合は,放水路の中心点において洪
水時の流心線の切線に直角な方向とし,下流部の渓岸を侵食するおそれのある場合は下
流部に直角とする。また,ダム築設の流線が蛇行しているような場合は,ダム築設後の
新渓床による流心線を予想して方向を決めることが必要である。
                                       
4 治山ダムの計画勾配
                                       
 治山ダムの計画勾配は,渓床を構成する砂礫の形状,粒径及び流量等を考慮し,現渓
床勾配の1/2〜2/3程度を標準とする。また,軽しょうな砂礫で構成されている渓流の計
画勾配は,原則として水平又は水平に近い勾配に決定する必要がある。
                                       
5 治山ダムの高さ
                                       
 治山ダムの高さは,ダム築設の目的,計画的勾配及び施行個所の状況等に応じて決定
する。
 崩壊地の山脚,又は崩壊のおそれのある斜面の山腹の侵食防止を目的とする治山ダム
は,堆砂後の勾配と山腹斜面の自然勾配を考慮して高さを決定する。この区間延長が長
い場合には,低いダムを階段状に設ける。
                                       
6 治山ダムの放水路断面
                                       
 治山ダムの放水路断面は,流下する砂礫,流木,土石流等を考慮して,計画最大高水
流量で算出された流積に,余裕を見込んで決定しなければならない。計画最大高水流量
の算出は,集水面積が比較的小さく,貯留現象を考慮する必要のない場合は,原則とし
て合理式法により,貯留現象を考慮する必要がある場合は,単位図法,貯留関数等によ
る。
                                       
7 放水路の位置
                                       
 治山ダムの放水路の位置は,ダム完成後の洗掘・上下流渓岸の侵食等に影響を及ぼさ
ないように,上下流の地形・地質・渓岸の状態,流水方向を決定するが,原則としてそ
の中心が現渓床の中央に位置するように定める。
                                       
8 放水路断面の設計
                                       
 治山ダムの放水路断面の設計は,原則として縮流ぜきとして設計する。ただし,ダム
完成後の渓流の状況によっては,開水路として設計することができる。これは,ダム上
流側の堆砂が遅く,ダム完成後相当期間湛水していることが予想される場合は,縮流ぜ
きとして設計し,床固等の場合のように,完成後比較的早く満砂することが予想される
場合は,開水路として設計する。
                                       
9 治山ダムの袖
                                       
 治山ダムの袖は,非越流を原則とするため,計画高水位以上の高さとするが,洪水時
における越流を考慮して,地山に充分取り付けて構造的にも強固なものにする必要があ
る。
 また,土石流が発生するおそれがある場合には,必要に応じて保護工を計画する。
                                       
10 治山ダムの下流のり
                                       
 重力式治山ダムの下流のりは,堤高6.0m以上は2分,堤高6.0m未満は3分を標準とす
る。
[次へ進んで下さい]