23a 不老長樹マニュアル〈小枝・大枝の異常〉
 
〈大枝の異常診断と治療法〉
 △大枝枯れ現象の原因
 がんしゅ性の病害,又はカミキリのような穿孔性の害虫によって損傷した部分から木
材腐朽菌が侵入する場合や,何かの原因で折れた枝が未処理のまま残っていて,死に枝
となり,これに腐朽菌が取り付き,大枝の心材にまで侵入したようなときに大枝枯れが
できることになります。
 このような枝はできるだけ速やかに切除し,しかるべき処置をしなければなりません。
 △病害に起因する大枝枯れ
 ごく初期の原因としては,小枝枯れと同様ですが,がんしゅ性の病原菌が小枝に侵入
し,次第に小枝の基部に病原菌が入り込み,枝の生長と共に周りの樹皮下の形成層を侵
して拡大し,その中央部が陥没して変形し,この部分から風などで折れたり,木部が露
出したりしてそこから木材腐朽菌が侵入して急速に枯れが進行することとなります。樹
皮の陥没部をルーペなどで見ますと小さな点状の粒が多く観察され,その中に大量の胞
子が詰まっており,ときには紐状に塊まって噴き出していることがあります(前述)。
この菌が単一で大きな枝を枯らすことは希ですが,その病患部が切損したり腐朽菌が侵
入することが多きな原因となります。
 マツ類やスギ,サクラ,フジなどでは,がんしゅ性病原菌が侵入しますと,患部が凹
まないで,こぶ状に肥大します。
 マツのこぶ病はさび病の一種で,ナラ類,カシ類の葉に寄生していたさび病菌の胞子
(小生子)が,4月頃マツに飛来して枝幹に侵入します。
 △大枝枯れ病害の防除法
 がんしゅ病のほとんどは樹勢のよいときには発病しにくく,樹全体の勢いが衰えてき
ますと発病することが多いです。がんしゅやこぶ病の枝,また死枝はこまめに切除して
下さい。
 予防としては,土壌の改善や潅水などに注意し,土壌を踏み付けないようにして下さ
い。またマツのこぶ病では,中間寄生主としてのナラ・カシ類を近くに植えないように
して下さい。
 △虫害に起因する大枝枯れ
 穿孔性の害虫で大枝を食害するものとしては,樹皮下に穿孔し形成層付近を食害する
か,さらに深い材部に侵入するものとがあります。また小枝を犯す害虫で挙げました種
類の中にも大枝を食害するものが多いです。
 ・鞘翅目(キクイムシ科,ゾウムシ科,カミキリムシ科)
 広葉樹を加害するカミキリムシ,ゾウムシのうちシロスジカミキリ,ゴマダラカミキ
リ,クスアナアキゾウムシ,ミヤマカミキリ,ハンノキカミキリ,ヤナギシリジロゾウ
ムシなどは健全な樹木にも積極的に加害します。成虫の後食でも被害を受けますが,多
くの場合は幼虫が樹皮下の形成層,辺材部を食害して,それから上の枝を枯らしてしま
うことがあります。また鱗翅目のコスカシバなどはサクラやモモに加害してヤニを出さ
せ,その部分が腐朽菌の侵入門戸となって被害を出すことがあります。
 被害樹種:アカマツ,クロマツ,スギ,サワラ,ヒノキ,ヤナギ類,ブナ,ツブラジ
      イ,クリ,ウバメガシ,アラカシ,カシワ,アカガシ,クヌギ,ケヤキ,
      クワ,ナシ,モモ,カイドウ,キリなど
 害虫に食害されますと,その周辺の組織が破壊されたり,それ以上の枝が枯れたりし,
二次害虫の侵入を誘い,また胴枯れ性の病害を誘発し,折れやすくなって,結局は腐朽
菌の侵入門戸を与えることになります。
 △大枝枯れ虫害の防除法
 害虫の侵入前の防除について述べてみます。
 ・カミキリムシ類は体が大きく色もはっきりしており,またシロスジカミキリなどは
健全木に侵入加害する習性がありますので,成虫発生期に樹幹部や新梢部を注意して観
察し,産卵のために飛来する成虫を捕殺します。
 ・カミキリ類は産卵痕が比較的はっきりしていますので,成虫発生期に注意して産卵
痕を探し,内部の卵やふ化直後の成虫を取り出すか,押しつぶします。
 ・ゾウムシ類やキクイムシは体が小さく色も目だたないので,ふ化直後の幼虫は樹皮
下の浅い部分を食害しているものと,産卵忌避を兼ねてスミパイン乳剤80〜120倍液,
トラサイド乳剤,サツチュウコートS乳剤を樹幹部や大枝分岐部に散布します。
 ・樹皮上に盛り上がっている虫糞や木屑を見つけ,これを取り去って,孔の中にスミ
チオン乳剤,エルサン乳剤,パプチオン乳剤,DDVP乳剤,オルトラン水和剤などの
500〜1000倍液を注射器や油差しなどで流し込みます。その後は粘土などで孔を塞いで
おきますと効果があります。
 一般に穿孔性の甲虫類の大部分は樹勢が弱ったときに二次的に加害,産卵しますので,
なぜ樹勢が弱ったかの第一次原因を追求して下さい。
 △枝の除去方法とその後の処置
 ・切断の位置
 枝枯れに気が付いたときは殆どの場合,腐朽菌が侵入していますので,枯れた部分は
残さないように切ります。また幹から分岐した枝の付け根をきるときは,幹に沿って,
できれば幹に食い込む程度に切断します。
 切断面をカンナなどで滑らかにしたり,雨水が溜まらないようにしておきますと,形
成層の再生が盛んになり,カルスの形成を早くして傷口の治癒を速やかに完成させます。
 ・薬剤の塗布
 形成層を含む切断面外縁部に良質のシェラックを塗ってから,コールタールを塗りま
す。またチオファネートメチル(商品名 トップジンM)は殺菌力があり,組織の分裂
を促進する作用があります。
 クレオソートやタールは樹木の細胞をも殺したり,ブリキ板の帽子は治癒組織が再生
されないなどの欠点があります。
 ・その後の処置
 切断面はなるべく乾燥させるようにしますが,あまり乾燥が強いときはシェラック,
ワニスや接蝋などを塗っておきましょう。  
              参考 「樹木医ハンドブック」安盛博著(株)牧野出版

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