特に何かが起こるわけでもない平穏な日々。終点はまだまだ遠いものの、今は今なりに安定した毎日ってところでしょうか。後半の5日間は少々疲れ気味でした。(2000年10月22日記)
10月1日(日) 「癒し」の時代の終焉。
[日記]金メダルを獲った高橋尚子選手が晴れやかな笑顔で放った「すごく楽しい42キロでした」という発言を、96年のアトランタ・オリンピックの女子マラソン銅メダリストである有森裕子選手の「自分を褒めてやりたい」という発言と比べながら、そしてまた、高橋選手(と小出義雄監督)があちこちのテレビ局の番組にゲスト出演している姿を眺めながら、銀河は、「癒し」の時代がどうやら終焉を迎えようとしているんだなという確信を強く抱き始めた。
バブルの80年代の後を受けた90年代は、「癒し」の時代だったと言ってもよいだろう。「癒し」系なるレッテルが貼られた音楽が大流行したりもした。そう、80年代の狂乱に疲れ果てた人びとは「癒し」によって自己を肯定する術(すべ)を手に入れていたように見受けられるし、銀河自身も確かにそういう時代の気分の中に浸っていたのだ。
96年の「自分を褒めてやりたい」は、間違いなくあの時代にフィットしていた。「癒し」の時代を象徴する言葉であったのみならず、「癒し」を求める多くの人たちを「それでいいんだよ」と慰撫してくれる、それ自体が「癒し」の効能を持った究極の名言と言ってよかった(だからこそ、流行語にもなった)。ところが、高橋選手の口からレース後に「すごく楽しい42キロでした」という一言が発せられた瞬間、少なくとも銀河の中では、ほんの昨日までは名言であったはずの「自分を褒めてやりたい」がひどく時代遅れのように色あせてしまった(同じような感想を抱いた人も、決して少数ではないはずだ)。
21世紀を目前にした今、「癒し」の時代は終焉を迎えつつあるのではないか。では、その次にやって来るのは何か。高橋選手(と小出監督)が(例えば同じくらいドラマ性のあるはずの田村亮子選手あたりと比べて)あれだけのスポットライトを浴びせられるのを見ていると、どうやらキーワードは「自助」(self-help)だという気がするのだが、さて、どうだろう。
シドニー・オリンピックは今日が閉会式。一部で話題になったドラァグ・クイーンのショー(?)、元ネタになった『プリシラ』っていう映画を知らないせいもあって、銀河には閉会式のどの場面がそうだったのか、さっぱりわかりませんでした。10月2日(月) 国勢調査とプライバシー保護。
[日記]5年に1度の国勢調査。銀河の家にもオリンピックで女子マラソンがおこなわれた日(9月24日)に、調査員が調査票を置いていった。どう考えても必要とは思えない質問項目が並んでいるので(学歴とか訊いてどうするんだ)、書きたくない項目は空欄にし、ガムテープで厳重に封印した上で、取りに来たらすぐに渡せるように玄関の戸棚に保管しておく。ただし、積極的に協力する気にはなれない。
5年前の国勢調査のときのことだ。調査票に「封をして調査員に渡すと、調査員が開封することはなく、直接、市区町村に届けられる」という趣旨のことが書いてあったので、セロテープで封をして、取りにやってきた調査員に手渡した。ところが、翌日、帰宅すると、部屋のドアの郵便受けに昨日提出したばかりの調査票が封を開けた状態で突っ込んであった。一緒に添えられていたメモには、いくつか空欄や矛盾する記載があるので、鉛筆で印をつけた項目を書き直してほしいと書いてある。調査員が開封し、チェックしていたのだ。腹が立って、今度、調査員が来たら厳重に抗議しようと思って待ちかまえていたのだが、こちらの帰宅がいつも遅いこともあって、結局それっきり(こちらから抗議に出向くほどのエネルギーはなかった)。調査票は提出しないままになった。
そんなこともあったものだから、国勢調査のプライバシー保護なんてまったく信用していない。だれに見られてもいいように、テキトーなことを書いておくだけだ。10月3日(火) おいおい「日本一」じゃなくって「世界一」だよ。
[日記]オリンピックの日本選手団が帰国。テレビのニュースをぼんやりと眺めていたら、高橋尚子選手に向かって「日本一っ!」の声がかかる。おいおい、「日本一」じゃなくって「世界一」だよって、思わずテレビに向かって突っ込みを入れてしまった(笑)。でも、よく考えてみたら、この国では「日本一」が最高の褒め言葉なんだよね、たぶん。日本という名の村落共同体では、価値観を同じくする人びとの中でいちばんだと評価されることが何よりも名誉となるのだから。10月4日(水) Setting Sunっていうスクリーン・セーバー。
[日記]9月29日発売の『Mac People』(株式会社アスキー)のPower Mac G4 Cube使用体験記事で紹介されていたSetting Sun(Purple Shark Software)というスクリーン・セーバーをダウンロードして使ってみた。G4のCPUパワーをフルに体感できるソフトだというだけあって(なんでもG3ではまともに動かないモジュールもあるらしい)、30種類以上の精巧で流麗なアニメーションが楽しめる(小1時間ほどうっとりと眺めてしまった)。30日間は無料で体験できるのだが、気に入ったので料金を払い込むことにした。
[読書記録]E・アニー・プルー『アコーディオンの罪』(集英社)。音楽好きには堪えられない小説。イタリア出身のアコーディオン職人が精魂込めて作った究極のアコーディオンが、アメリカ各地を転々とする。次々と所有者を変えていくアコーディオンとそれを巡る人びとの喜怒哀楽の物語。ケイジャン(フランス系の音楽)、テックスメックス(メキシコ系音楽)、ポルカ(東ヨーロッパ系音楽)をはじめ、アコーディオンが奏でる音楽が、移民たちの人生を彩る。万人にお勧めするという種類の小説ではないが、音楽好きな方、アメリカ史に関心がある方にとっては、細部のちょっとした描写までじんわりと楽しめる一冊だろう。著者は93年の長編小説『港湾ニュース』で全米図書賞とピュリッツアー賞をダブル受賞した現代アメリカを代表する作家。10月5日(木) 病欠した講師の代講に入る。
[日記]埼玉県の某校舎で90分授業を3コマ。本来ならば今日の仕事はそれで終わりになるのだが、昼休みに教務担当の本部から代講依頼の電話がかかってくる。とある講師(銀河とはほとんど面識がない)が急病で出講できなくなったので、夜7時20分から千葉県の某校舎の高校3年生のクラスに代講に入ってほしいというのだ。1日に4コマも授業するのは体力的にかなりキツイが、いつもこちらのムリもきいてもらっているので、OKの返事をする。3時過ぎに校舎を出ていったん自宅に戻り、簡単に授業準備をしてから、千葉県の某校舎へ。ふだん教えていない生徒たちが相手なので、やりにくい面もあるが、ある意味ではチャンスとも言える(冬期講習/直前講習へ向けてちょうどよい宣伝になる)。なんだか、いつも担当しているクラス以上に気合いが入ってしまった。授業を終えて自宅に戻ると11時近く。さすがに疲れ果てて、そのままリビングのカーペットの上で眠り込んでしまった。10月6日(金) 熱が出てしまった。
[日記]昨日の疲れが残っているせいか、早朝から発熱。体がだるい。よっぽど休もうかとも思ったが、他人のクラスに代講に入ったせいで本来の自分のクラスを休むのもしゃくなので、体を引きずるようにして出講。金曜日の出講校舎は自宅から至近距離だし、午前中に90分を2コマ担当すれば終わり。ちょっと助かった。授業終了後は速攻で帰宅。そのまま寝込む。10月7日(土) 自宅でぼんやりとテレビを眺める。
[日記]今日から連休。疲れがたまっているので、自宅で静養。テレビの番組表(我が家で買っているのは角川書店の『月刊ザテレビジョン』だ)を眺めていると、どの局も番組改編期の特番がずらり。SMAPの中居くんが司会をするフジテレビの特番にも心惹かれるものがあったが、TBSの「オールスター大感謝祭」っていうのを見ることにする。島田伸助と一緒にこの番組の司会進行役を担当している島崎和歌子さんの大ファンだからだ(休刊になってしまったけど、「とれたて和歌子」っていうメルマガを購読していたこともあった)。中居くんならしょっちゅう見ることができるけれど、島崎和歌子さんが出ている番組なんてそんなにないからね。でも、番組自体はあまりおもしろくなくて、見ている途中で眠ってしまった。10月8日(日) りのと焼き肉を食べた。
[日記]家で寝てばかりいたので、気分転換に午後から長*さん(銀河のパートナー/同居人)の事務所へ。書類整理のお手伝いをする。午後5時ごろ、秋葉原でのお買い物が予定より早く終わった緑川りのちゃんがやって来る(お母さん用のパソコンを自作するために、部品を買いに行ったのそうだ)。お腹が減っている様子なので、3人で新宿駅近くの行きつけの焼き肉屋さんへ。ここは安いわりにはおいしくて、コスト・パフォーマンスのよいお店なのだ。たらふく食べたのに、3人合わせて4000円。なんだか、りのと会ったときはたいてい焼き肉を食べに行っている気がする(気のせいかな?)。10月9日(月) 浦沢直樹の『20世紀少年』。
[日記]今日(10月9日)はジョン・レノンの誕生日(生きていれば60歳だ)。さいたま新都心にはジョン・レノン・ミュージアムってのもできたそうで、オノ・ヨーコさんを招いてオープニング・セレモニー。本屋にはジョン・レノン関連の新刊書もたくさん並んでいる。
で、今日の日記のテーマは、ジョン・レノンとは直接の関係はない。20年前、ジョンが殺された直後に出版されたミュージック・マガジンの増刊『ジョン・レノンを抱きしめて』が、新規原稿を加えて復刻再刊された。新規原稿のうち、特に目を引いたのが浦沢直樹というマンガ家へのインタビュー。この人については、田村亮子選手のニックネームのもとになった『YAWARA』の作者ということ以外には、ほとんどなにも知らなかったのだが、インタビューの端々から筋金入りのロック・ファン(つまり、ひねくれ者ってことなんだけど)だということが読みとれる。現在『ビッグコミックスピリッツ』で連載中の『20世紀少年』という作品は、ご本人の言葉を借りれば「ディラン風(かぜ)に吹かれた」自分のロック観を「ボディー・ブローのように徐々に徐々に出して」いるのだそうだ。1960年生まれの浦沢さんは、銀河とほぼ同じ世代。『20世紀少年』というタイトル自体、T Rexの"20th Century Boy"から取ったことは明白だ。これは一度読んでみなければと思った。
早速、近くのコンビニで『ビッグコミックスピリッツ』を立ち読みしてみるが、連載マンガを1回分だけ流し読みしても、なんのことだかさっぱりわからない。そこで、『20世紀少年』の単行本(現在のところ第3巻まで出ている)を買ってきて読んでみる。壮大なSFエンターテインメントといった趣で、ストレートにロックをテーマにしているわけではないが、世界征服をたくらむカルト教団(?)に立ち向かう主人公がバンド少年くずれっていう設定。ロックな生き方をしようとするのだが、なかなかロックになりきれずにバタバタするところが、実にロック的だし(このニュアンス、わかってもらえるだろうか)、そこかしこにロック心をくすぐる仕掛けがたっぷり。それを抜きにしても、絵は上手だし、構成も巧み。これまでまったくノーマークだったマンガ家だけに、思わぬ拾いもので得をした気分。『ビックコミックスピリッツ』、久々に毎週買うことになるんだろうな。10月10日(火) 銀河は今日まで4連休。
[日記]銀河は今年度、火曜と土日が休みなので、連休は今日まで。体を休めながら、キューバ音楽をBGMに、掃除や洗濯で一日をつぶす(自宅から一歩も外に出なかった)。
[読書記録]松岡正剛『知の編集術』(講談社新書)。松岡正剛の著作のなかでは、読みやすい部類だろう。衒学的な文章を書く人という印象が強かったが、本書に限っていえば、意外に実用的な「発想術」の本。『遊』なんていう雑誌に熱中していた若かりし頃が妙に懐かしい。銀河の事情(日記と更新情報)に戻る トップページへ