ニホンタンポポと帰化タンポポの遺伝的関係

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Last update: 2002/12/31

このページの内容は、文末の資料をもとに私がまとめたお勉強メモです。オリジナルの情報は含まれていません(すみません)。

また、誤りなど問題ありましたら、佐々木玄祐までご連絡いただくとありがたいです。


2002/12/27 追記: 新聞記事にもなってました。

雑種タンポポ 人、物が移動し種も汚染 (朝日新聞東京本社発行 5月9日付夕刊)

ニホンタンポポ

最近では、在来の平地性二倍体種(カンサイ、カントウ、シナノ、トウカイ、セイタカなど)はすべて1種類にまとめ、「ニホンタンポポ: Taraxacum platycarpum Dahlst.」とすることが多い。

他の在来タンポポ

帰化種のタンポポ

日本では、セイヨウタンポポTaraxacum officinale WEBER と、アカミタンポポ T. laevigatum DC.の2種とすることが多い。しかし、共に基本的に三倍体でクローンを作って殖えるので、それぞれのクローンを無融合種(agamospecies)として認め、似た者を集めて節(section)とすることがヨーロッパでは多い。

この場合、セイヨウタンポポがsection Ruderalia、アカミタンポポがsection erythrosperma となる。含まれる agamospecies の数はそれぞれ1000、500にのぼる。

それぞれの殖えかた

二倍体(2n=2x=16)であるニホンタンポポは有性生殖を行う。また、自家不和合性があり、基本的に遺伝的に多様な集団がなければ繁殖できない。

これに対して、三倍体 (2n=3x=24)の帰化種は、普通に減数分裂せず、染色体数が体細胞と変わらない(非減数の)2n=3x の卵をつくり、花粉なしに子供ができる(無融合生殖: apomixis または 無融合種子形成: agamospermy)。このため、帰化種は単独で繁殖可能であり、ニホンタンポポなどとの関係は一見ありえないように思える。


帰化種の花粉

三倍体の帰化種には全く花粉ができないものもあるが、異常な減数分裂によって、大小さまざまな花粉をつくる場合が多い。このうちに受精能力のある花粉ができる場合があり、これが在来種の雌しべにつくと雑種が形成される。

アイソザイムマーカと染色体の検査によると、こうした花粉の染色体数は 2x または 3x であり、 x ではないことが判っている。

盗賊種: compilospecies

つまり、三倍体の帰化種は、基本的に単独で無融合生殖によって繁殖するだけでなく、二倍体の種に自分の遺伝子をもった三倍体(または四倍体)の子供を作らせている。これは見方をかえると、「他の種の遺伝子を奪っている」ことになる。こうした種を「盗賊種: compilospecies」という(Harlan & De Wet 1963)。

帰化種のセイヨウタンポポはこうした盗賊種の一例である。

条件的無融合生殖者: facultative apomict

なお、三倍体の帰化種のなかには、 染色体数が x の卵と 3x の卵の両方を作り、自分のクローンだけでなく、二倍体の種の花粉(x)を受け入れて二倍体の雑種をつくるものもあるらしい。これを「条件的無融合生殖者: facultative apomict」とよぶ。


タンポポの雑種

上に述べたような、二倍体のニホンタンポポに帰化種の花粉がかかって出来たと思われる雑種(形態的にはほぼ外来種)が、これまでに各地で検出されている。検出の方法はアイソザイムマーカによるものである。


情報源


2002/03/31 追記

1. 倍数性の表記方法を改訂

2. その後の情報(芝池博幸・森田竜義 2002. 拡がる雑種タンポポ. 遺伝 56(2): 16-18. より)


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