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 私の友人にジョヴァンニ・カリェリというまゆつばなアメリカ人がいる。この男「驚異を狩る男」だの「史上最後にして最大の冒険家」だのと自称している妙なやつで、アフリカだのインドだの南米だので経験したと称する、どうにもまゆつばな秘境冒険譚をいやがる私にむりやり語ってきかせる。以前、そのうちのひとつを小説に仕立てたことがあったのだが、その話をついうっかりこの男にもらしてしまったために今回もぜひこの話を小説化しろといってきかないので、仕方がないから小説にすることにする。



 舞台はイギリス。というと、冒険家がなぜイギリスなどに用があるのかとおっしゃるかたがいらっしゃるかもしれない。この話をジョヴァンニから最初にされたときは私もそう思った。だがジョヴァンニは自分はひろい意味での冒険家であり未知のものにはどんなことであろうと興味があるのだと強弁して私を煙にまき、容赦なく話をさきに進めたので、私もそれにならって話をさきに進めよう。
 ごぞんじのかたもおられるだろうが、イギリスという国には幽霊屋敷というのがあちこちに点在しているらしい。夏目漱石が「英国の歴史を煎じつめたもの」と評するロンドン塔の「ブラディー・タワー」や、ヨーク・ミンスターの近隣に位置する「イギリス最大の幽霊屋敷」トレジャラーズ・ハウス、三十種類以上にものぼる亡霊が幾度となくあらわれる、あらゆる心霊現象の巣窟であるエセックス州のボーリィ牧師館など、世界的にその名を知られた由緒正しいホーンテッド・ハウスもたくさんあるのだそうだ。
 ジョヴァンニはそんな幽霊屋敷のなぞにつかれて、古色蒼然としたイギリスの古城や人のたえて住まない館などをめぐりまわったのだそうである。
 が、どんなに有名な場所をめぐっても、なんとなく不気味で背筋のぞっとするような感覚がある、という以外にこれといった手ごたえが得られない。やはり幽霊などというものはこの世に存在しないものなのだろうかと失望のうちにイギリスを去ることになりそうな気配だったのだが、行程の最後に少々奇妙な経験をしたというのである。べつにとりたててどうということもない、いってみれば気のまよいの一言でかたづけられるようなできごとなのだが、ジョヴァンニはそれこそ自分の前に開陳された超常現象の一端なのではないかと確信している。
 ジョヴァンニの古城めぐりには終始、ひとりの同行者がいた。名をジョセフ・モーガンといい、イギリスの古い家系の出の二十四、五の若者だった。英国の古い建築に造詣が深く、案内がてらジョヴァンニの幽霊屋敷めぐりに同行を名乗り出たのだという。といっても、ジョセフは霊的なものの存在にはロマンティシズムは感じていても否定的な意見のもち主で、ジョヴァンニの探索行も徒労におわるだろうとことあるごとに口にしていた。
 その言葉どおりめぼしい場所はすべてさしたる収穫もないまままわりおえてしまい、ジョヴァンニはやや落胆のていで最後の予定を消化するため、曾祖父の代からうけついだという高価な金時計をしきりに自慢するジョセフとともにクレモント州のサイラス邸へと車を走らせた。この邸宅はべつに超常現象が見られるというたぐいの場所ではなく、ただ建築学上見るべき点が多々あるということでジョセフの興味をひいたため、行程に入れられたというしろもので、ジョヴァンニは単に同行したまでのことだった。
 邸宅には現在もサイラス家の子孫であるという品のいい老夫婦が在住しており、幽霊などの出てきそうな気配などみじんもない明るい田園のただなかに燦然とたたずんでいた。
 老夫婦の歓待をうけて二人はその晩、サイラス邸に宿をとることとなり、クレモント州の伝統的な家庭料理に舌づつみをうった後、二階の客用の寝室へと案内された。
 ところがその途上、不可思議な絵画に遭遇したのである。
 サイラス家の祖先で、若くして病にその一生をおえたというその肖像画に描かれた、中世風の衣裳を着こんだ青年の顔は、なんと同行のジョセフ・モーガンと鏡に映したように瓜二つだったというのである。
 氷のように冴えたプラチナブロンドの髪といい、貴族的な高貴さをたたえた青の瞳といい、まるで双子のように絵のなかの人物とジョセフとは、どこからどこまでそっくりで、実際髪型や服装をとりかえれば見分けはつかないのではないかと思えたほどであったのだそうだ。
 館の老夫婦もしきりと不思議がり、もしかすると遠い祖先の代で血のつながりがあったのかもしれないと奇妙な一致をよろこんでいた。
 そして翌日、あたたかい朝食をふるまわれたあと、サイラス夫妻とジョヴァンニたちとはかたく握手をかわしてわかれた。以上でこの話はおわりである。
 が、二、三補足しておくことにしよう。
 気のせいにちがいないのはやまやまだが、と注釈をつけた上でジョヴァンニは、どうもジョセフの人柄がかわったような気がしたというのだ。
 どこがどうというわけでもないのだが、ふとしたしぐさや言葉のはしばしが、サイラス邸をおとずれる前のジョセフと微妙にちがっているように思えてならなかったのだ。
 そしてもうひとつ。しきりにジョヴァンニに時間をたずねるジョセフに、自慢の金時計はどうしたのだときくと、どうやらどこかにおとしてきたらしいというのである。高価な時計なのに残念だったなとなぐさめると、なにそれほどのこともないさとジョセフはうすく笑ったらしい。
 以後、ジョセフとは二度と出会うこともなく今日に至っている。人なつこいジョヴァンニにはめずらしいことなのだが、彼にはできればもう二度と会いたくはないのだそうだ。
 ただし、たしかめてみたいことがひとつ。サイラス邸の肖像画の青年が、腕に金時計をはめてはいないか、ということを。
(了)

			

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