青木無常 official website 小説・CG・漫画・動画 他 青木無常のフィクション集成

ガジェット ボックス GADGET BOX

ガジェット ボックス GADGET BOX 砂漠の悪魔

砂漠の悪魔


 焔々と照りつける灼熱の太陽。砂、砂、砂、砂、砂、砂、砂…砂……砂……。
 男の頭の中には、もう水のことさえ浮かんではいない。死人が歩いているのと同じだった。
 オアシスもない。サボテンさえ見当らない。ただただ、永遠にもつづく砂の起伏のみ。
 だが、奇跡が男を待っていた。
 突然、なにかにぶつかったのだ。それは、人だった。
 そう、たしかに人だ。男は、砂漠で放浪した人間が人に出会ったとき、十中十口にする言葉を口にした。
「……み……みず……」
 男は手を差し出し、相手の身体にもたれかかった。黒い衣服を全身にまとい、ターバンのあいだからぎらぎらと光る目だけを出した人物は、水筒を懐から取り出し、男の口にあてがった。
 男は貪るように水を飲みはじめた。ところが、黒ターバンをつけた人物は、男が三回喉を鳴らさないうちに、水筒を取り上げ、ふところに戻した。
「もっと……もっと水……」
 男は、黒ターバンにしがみついてそう言ったが、黒ターバンはフンと鼻を鳴らして男を突き飛ばした。男は砂の上に倒れ伏した。鈍い目をあげて、ターバンに言う。
「人でなし……」
「そのとおりじゃ」黒ターバンが答えた。「わしはたしかに人間ではない。なにせ、いじわるな悪魔じゃからのう」
 ホッホッホッと悪魔は笑った。
「水……水をくれ……」
「そうよのう」黒ターバンは、ニヤニヤと目で笑う。「わしがいま、なにを考えているか当てたら、思う存分水を飲ませてやってもよいぞ」
 男は、鈍くなった頭で必死に考えた。こんな話を前に聞いたことがある。砂漠で水が切れて、意地悪な悪魔に出会う。悪魔がいま考えていることを言いあてたら、水を飲ませてくれるという。そこで『あなたは私に水をくれるつもりはないんでしょう』と答えた。当たっていれば約束どおり水を飲める。はずれていれば、悪魔は水をくれるつもりだったことになり、やはり水を飲むことができる。かくして水を得て、九死に一生を獲得するのである。
 男は一所懸命その話の結末を思い出すと、思い切ってそのセリフを言ってみることにした。
「あ……あなたは私に水をくれるつもりはないんでしょう」
 すると悪魔はフンと鼻を鳴らした。
「ハズレ! まったくくだらん答えじゃ!」
「水をください……」
「ハズレだと言っておろうが! バカめが! 水などやるか」
「でも……ハズレならあなたは、私に水をくれるつもりなんでしょう……」
「なんで! バカめが! わしは、わしの考えていることを当てろと言ったんじゃぞ! わしはおまえに水をやろうともやるまいとも考えてなかったわい。したがっておまえの答えはハズレ! 水をやろうとも考えてなかったから、もちろんやらん! よっておまえ渇き死に!」
「ひどい……」
「うるさい! ひどいから悪魔なんじゃ! まったく! もう少し気のきいた答えをしたら水をやろうと思ってたのに! バカが! 盗作! つかいふるし! 非個性的! おまえなんぞしらんわ! さっさとくたばってしまうがよい! ではさらばじゃ。このつぎは地獄で会おうぞ」
 捨て台詞を吐いて、悪魔はボン、と消えた。
 でも、砂漠は消えない。消えるとしたら、男が渇き死にした時だ。そう。その後はもう砂漠などどこにもあるまい。地獄には、たしか餓えと渇きにさいなまれるような砂漠はなかったはずだ。男は安心して力つきた。
 男は知らなかったらしい。砂漠の地獄は、何者かに追われながら暗黒の焦熱砂漠を永遠にさまよう場所だということを。

砂漠の悪魔 ― 了

			

「その他・ノンジャンル」に戻る

このサイトはスポンサーリンクからの広告収入にて運営されています。

スポンサーリンク

物語

漫画・動画

プロファイル

その他の青木無常のサイト

ブログ

レビューサイト

CROCK WORKS シリーズ

ページのトップへ戻る