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   F氏のニコニコ仏訪問記
          金賀 一郎


                               
F氏はご機嫌である。
この正月休みの一週間、フランスのポアティエ市(TGVで約1.5時間、パリから名古屋くらい)を訪問し、かの地のエスペランティスト達と交流できたからである。
 フランスに行くと決めたのが、昨年の10月。
さっそく、インターネットを使ってパリのあるエスペランティストに、地元のエスペラント会の紹介依頼を出した。

数日後に、エスペラント会の連絡先が判明、さっそくEメールで、例会があるなら是非訪問したいので、例会の日時を連絡してほしいと依頼。
2ヶ月も先の事,まして正月早々で例会なんてあるわけ無いだろなと思いながらも。
案の定、まだまだ先のこと、決まり次第連絡するからしばらく待ってくれと、いささか困惑気味のEメールの回答。

気の短い単純なF氏は、Eメールの返事が来ただけで、もう招待されるものと勝手に思い込み、さて何をやったらよいものやら準備を始める始末。
約4年前、外国のエスペラント会を初めて訪問。ドキドキ訪問記のベトナムホーチミン。あの時の二番煎じでも、今回は相手がヨーロッパだから問題ないと、昔の資料を引っ張り出した。
あの時は、簡単な手品でも大いに喜ばれた。
あれから4年、その間に合宿や忘年会などで、相手の都合も気にせずに、下手な手品を披露しつづけ、ずうずうしさだけは人一倍身につけた。
やはり、エスペランティスト手品師F氏は、今回も手品がメインの出し物だ。
でも相手は、おそらく偶に訪問する日本人がなにを喋るのか、当然期待はあるにきまっている。前回同様、政治経済人生思想平和など込み入った話は避けて、身近な話題ばかりを集め始めた。
日本のサラリーマンの住宅事情、日本の弓道そして狩猟など個人的趣味、我が町の龍神雨乞い祭り、カップラーメンやカラオケは日本の誇るべき大発明(堀 泰雄氏の「Raportoj el Japanio」から盗用スイマセン)だとか、日本の食べ物などたわいない話題を10以上も集めて、それぞれに分かりやすい写真を準備。
また、新聞に折りこまれてくる宣伝チラシも、結構いい資料。
イトーヨーカ堂の新年チラシなどは我が町の大俯瞰写真で絶好の資料。

そうこうしているうちに、ポアティエからEメールが届く、金曜日に集まるから出席するように。
ほっとするF氏。
でも、追っかけてまたEメール。
こんどは翌日土曜日にポアティエの町から10Km離れたノエル村で、「日本と日本人に会う会」をやりたいので、準備してくれ。
そして、お前は英語かフランス語が出来るのか、エスペラントの通訳が必要なのかとの問い合わせ。
エスペラントを適当に考えているF氏はいささかあせる。
Eメールをくれたフィリップ氏は、真面目なエスペランティスト、この機会に村人達にエスペラントを広めたいと考えている。

本格的な企画に、F氏はまた考えた。
ポアティエ大学でフランス語の勉強を始めたF氏の娘、彼女に日本の茶道の紹介をしてほしいとメールで依頼。
茶道の紹介と出席者全員に抹茶を楽しんでもらおうと、抹茶、茶筅、茶碗に、菓子「二人静」を準備。折り紙もとても喜ばれるということで、折り紙教本で泥縄練習。話題準備のエスペラント原稿が8枚、手品も時間を見つけては練習。

 さてポアティエの金曜日、例会は青年文化会館の一室、12人が椅子に座って待ち構えていた。
まず持参の世界地図を見せてアジアと日本の説明から始めたが、世界の中心が日本になっている世界地図が珍しがられる。
スタートから盛り上がり、あとは楽々調子づく。
日本のお祭りなど、持参した写真で興味が膨らみ時間が足りなくなるほど順調、日本語の漢字表意文字の説明になると、さらに興味津々で質問がたくさん。
フランスには立派な城がたくさんあるが、日本にだって立派な城があるぞ、熊本城、姫路城等数枚の絵葉書を見せて自慢、単純なF氏愛国者に変身。みんなニコニコいい雰囲気で、手品に移る。
手品も楽しい雰囲気で、今回は失敗なしで喝采を浴びた(とF氏は思っている)。

 翌日は、娘を同伴しノエル村を訪問、村の公民館には18名の人達が集まってきた。
自己紹介のあと、フィリップさんが意図しているエスペラントの普及について、ひとこと言わなきゃと思い、エスペラントのお陰で見ず知らずの皆さんに会うことが出来ました。
エスペラントは素晴らしい言葉です。
世界の各地で大会が開かれ、楽しい経験が出来ますなんて、思いつくまま利点を紹介。
例の世界地図から、日本がアジアの何処に位置しているかなど、説明を始めた。
祭りや、我が町の説明に、皆一生懸命聞いてくれる、いい雰囲気だ。
宅配寿司のチラシを見せながら、刺身など日本の食習慣を説明、また時には馬の肉を食べる場合もあるとの説明に皆は驚くが、パリの市場でかわいいウサギが丸裸で売られているのをF氏は思い出す。
日本のF氏の家30坪たらずの小さい家を写真で紹介、不動産のチラシを見せ如何に住宅が高いか説明を加える。

フィリップさんが、実に上手に通訳してくれる。
もしかすると自分のエスペラントって結構いけるぞなんて、単純に思い込むF氏、おそらくフランス語で余分に説明を付け加えているに違いないのに。
娘の出番、茶道の説明から、実際にお茶を立てる作法を皆の前で実演。
珍しい、そしてほろ苦いお茶、甘い菓子で座がにぎわう。
同時に折り紙も披露、最後に手品で締める。
本場のフランスパンから、突然赤い布が出現する手品で最高に盛り上がる。
盛況で幕となったが、大人気のF氏の娘、そしてお茶や折り紙に興味が残り、しばらく交歓が続く。

さて、今回もエスペラントの良さをしみじみ感じたF氏であった。
もし、エスペラントを知らなければ、見ず知らずの日本人なんて招待もしてくれないだろう。
でも、でも世界中の人々がエスペラントを話すようになれば、やはり見ず知らずの日本人なんて招待してくれないだろうと思うと、複雑な思いにふけるF氏である。
しかし、英語の有効性を日頃主張しているF氏の家族は、はじめてエスペラントの限定された!?有効性(特異性?)を目の当たりにし、いささかの感慨を持ったに違いない。    (おわり)

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