映画が終わった。 「どの辺が『保護者の助言・指導が必要』だったの?」 「……分かんない」 主人公の衣装が思っていたよりもエッチで、スカートが何度もめくれてたような気が するけど、そんな事は言えない。 「まあいいか。とにかく私が保護者だから、『保護者の助言・指導』をしないとね」 え?理沙は何をするつもりなんだろう? 「この映画、面白かった?」 「う、うん」 「どういうところが?」 「えっと、漫画では読んだことがあるけど、アニメで歌って踊っているところを見て、 えっと、その、なんていうか、思ったよりも、いろっぽ……いやあの、い、いきいき していて、楽しかった。うん」 変な事を言いそうになった。 「なるほど。それでコウタは、ああいうお姉さんが好きなの?」 ああいうお姉さん?大人っぽい女子高生が、街を歩いていたら大学生と間違われて スカウトされて、大胆な衣装を着てタバスコのキャンペーンガールとして変な仕事を やらされるという主人公の……あ、そんな映画を、大人っぽい小学生の理沙に、 高校の制服を着てもらって映画館まで同伴してもらって、一緒に観たんだ。 ああいうお姉さんが好きとか言ったら、理沙に高校生になってもらった上に、さらに 大人っぽいキャンペーンガールになって欲しいと僕が考えてる、みたいに思われそう。 でも、わざわざ映画を観に来ておいて、嫌いと答えるのも変だし。それに、大人っぽい 理沙が高校の制服を着て一緒に来てくれたのは、嬉しいし。 「う、うん。好き、かな」 「そうか。うん。じゃあ帰ろうか」 映画館を出て、駅の切符売り場まで来たところで、理沙はその奥にある本屋さんの方に 目を向けた。 「本を買いたいんだけど、寄り道していい?」 「う、うん」 僕のために映画館まで一緒に来てくれたんだから、そのくらいはいいかな。高校の制服 を着た理沙と一緒に並んで小学生と思われるのは恥ずかしいけど、知ってる人に 見られるのでなければ、そのくらいは我慢できるし。本当は理沙に高校の制服を着て 同伴してもらう必要はなかったようだけど、高校生のお姉さんとデートした気分に なれて、ちょっと嬉しかったし。もう同伴してもらう必要もないんだから、高校の制服 を着た理沙を見るなんて、3年半以上はないんだし。そう思うとちょっと惜しい気が してきた。 理沙は本屋さんに入って、ファッション雑誌が並んでいる棚を眺めた。飯原高校の生徒 が2人いて、もっと大人の人が1人いて、その中に理沙が入り、一冊手に取った。 高校生のお姉さんの下校の様子を見れたみたいで、なんだか嬉しい。その後、編み物の 本が並んでいるところで立ち読みを始めた。理沙の隣に立っているのは、大人という よりもお母さんくらいの歳の人で、そんな人と並んで理沙が編み物の本を見ている なんて、すごくお姉さんで、僕がますます子供のように思えてしまう。 後ろを振り返ると、廊下の向こう側の壁が鏡になっていて、僕と理沙が写っている。 こうして並んでいると、理沙が高校の制服を着ているからすごく大人に見えて、 その分だけ僕の方がずっと子供に、小学生に見える。今日は何も考えないで、 いつも着ている服を着てきたけど、制服姿の理沙と並んでいる姿を見ると、僕も制服の 方が良かったかな、という気がしてきた。でも中学校の制服を着ても、やっぱり小学生 に見えるだろうな。理沙が言う通り、小学校の制服を着ればよかったのかな。いまさら 小学校の制服なんて恥ずかしいけど、でもそっちの方が、高校の制服を着た理沙と並ぶ とちょうど良く見えるんだろうし、それで理沙も喜んでくれるのなら。 「これ買ってくるから、ちょっと待っててね」 理沙はレジの方に行き、ファッション誌と編み物の本を買った。 その後、また子供料金の切符を握りしめて電車に乗る。今度は高校生がほとんど いなかった。小さな子からおじいちゃんまで、いろんな人が乗っていた。 小さな子もおじいちゃんも、理沙が高校生で、僕が小学生に見えるんだろうな。 鏡で実際に見た後は、それも当然な気がする。それに、こんな大人で美人なお姉さんと デートしているのをみんなに見られるのが、ちょっと嬉しい気持ちにもなる。 無駄に恥ずかしい思いをして理沙にお願いをして、無駄にドキドキしながら映画館まで 一緒に来てもらって。でも、理沙にお願いをしなければ、友達のお姉さんに『一人でも いい』と教えてもらえなかったわけで、『一人では観られない』と思って映画館に 来なかったはずで、映画も見られなかったはずで。それに今日は、高校生のお姉さんに なった理沙を見られたんだから、それでよかったのかもしれない。そんな気もしてきた。 家に帰り着いた。理沙と僕はとりあえず居間に座った。もう理沙のお姉さんな姿は 見られないのかな。それもちょっと寂しい。 「コウタ、今日は楽しかった?」 「うん、とっても楽しかった」 「そうか。またお姉ちゃんに同伴してもらいたかったら、いつでも言ってね」 理沙はお姉ちゃん。家の外ではなく、家の中でその言葉を聞いて、胸がキュンとした。 理沙は近所の高校生のお姉さんじゃなくて、一緒に住んでいる僕のお姉ちゃんなんだ。 僕のお姉ちゃんになってくれたんだ。いつでも僕のお姉ちゃんなんだ。そう思ったら ドキドキしてきた。恥ずかしいのか嬉しいのか分からない。 「で、でも、PG12は一人で観に行けるんだし…」 「それはそうだけど、一人ではちょっと行きづらいな、心細いな、そういうので同伴 してもらいたかったら、いつでも言ってね。制服はもらってきたんだから、いつでも 大丈夫だよ」 「うん」 理沙も楽しそうだったし、高校の制服をまた着たいのかな?それなら… 「じゃあ、今度は僕も制服を、小学校の制服を着て、お姉ちゃんと一緒に出かけたい」 「うん、分かった」