とうとう土曜日になった。映画を観るのは楽しみだけど、映画館に行くまでが問題だ。 理沙が中学の制服を着て、僕よりも上級生になって、僕を連れて行ってくれる事に なっている。当日になってみるとやっぱり恥ずかしい。連れて行ってくれるのは もちろん嬉しいんだけど。理沙がお姉さんになるだなんて。 そろそろ出かける時間だ。理沙はもう着替え終わったんだろうか。僕はお財布を持って 出かけるだけだから何もする事がない。何もしないで居間にいると、なんだかそわそわ してくる。 「お兄ちゃん、もう出かける準備は出来てる?そっちにいる?」 制服に着替えた理沙が居間に来た……あれ?僕が通う中学校の女子の制服じゃない。 でも見覚えがある制服だ。いや、割と見かける制服だ。 「その制服って…」 「これ?飯原高校の制服だよ」 飯原高校は、うちからは3番目に近い高校で、近所にも飯原高校に通う人が結構いる。 登下校の時に時々見かける高校の制服を、理沙が着ているだなんて。一体どうなって いるんだ? 「高校の制服?中学の制服を借りてきたんじゃ…」 「うん。吉森さんのお姉さんが中学3年生で、そのお姉さんの制服を借りるつもり だったんだけど、大学生のお姉さんが去年まで着ていた制服があるっていうから、 それを着てみて、そっちの方がサイズがぴったりだったから、もらってきちゃった」 「もらってきた?」 「もう卒業して着ないからあげるって。中学3年生のお姉さんも他の高校に行く つもりだって言ってたし」 確かにサイズがぴったりのようで、いつも見ている理沙とは違って見える。 理沙ってこんなに胸が大きかったかな?もっと太っていると思ってたのに、意外と 痩せてて、でも胸が大きくて。顔は理沙の顔なんだけど、全体としてみると、 僕の同級生よりも大人っぽく見える。制服自体も中学校のよりもどことなく立派に 見えるから、本当の高校生のように見える。理沙が1年早く中学生になる程度の事だと 思っていたのに、いきなり高校生のお姉さんになっちゃうなんて。そんなこと考えて なかったから、動揺してしまう。 「いつでもお兄ちゃんに保護者同伴してあげられるよ。しかも高校生の同伴だよ。 よかったね」 「う、うん…」 そんな事を言われても、喜んでいいのか悪いのかよく分からない。 「それで、お兄ちゃんはその服で行くの?」 「う、うん」 「お兄ちゃんは制服を着ないんだ」 「だ、だって」 僕が制服を着たら、理沙と同級生みたいに思えて、同級生の理沙とデートするみたい で恥ずかしい、とさっきまでは考えていたけど、高校の制服なら全然話が違う。 どうしたらいいか分からない。 「僕が制服を着ても中学生に見えないから、着ても意味ないかなって」 理沙に言われた事をそのまま言ったけど、理沙が高校生なら、僕が中学の制服を着ても 弟にしか見えないだろうし、どっちでもいい気もする。 「そうじゃなくて。お兄ちゃんは小学校の制服を着るのかなって思ったの」 理沙がそんな事を言うので驚いた。 「え?僕が、小学校の制服?なんで?」 「ほら、姉と弟でそろって制服で並んで歩くと、結構いいと思わない?」 「そ、そうかな?」 普通ならそういうのもいいかもしれないけど…… 「お兄ちゃんに中学校の制服は似合わないけど、小学校の制服なら似合いそうだから、 それで一緒に歩けたらいいんじゃないかって思ったんだけど」 高校の制服を着た理沙と、小学校の制服を着た僕が一緒に映画館に行く。それじゃ 『小学生に思われる』じゃなくて、本当に僕が『小学生になる』みたいで、小学校 からやり直りさせられるようで、かなりミジメだ。 「それに、電車とか映画とか、小学生料金で入るつもりなんでしょ?私が高校生料金 になるんだから、お兄ちゃんは確実に小学生と思ってもらわないと」 それは確かにそうだけど。でもやっぱりそれも恥ずかしい。 「お兄ちゃんが小学生だった時のはさすがにもう入らないだろうから、私の同級生の 男子から借りてきてあげようと思ってるんだけど」 「そこまでしなくていい。も、もう時間ないし」 「そうか。じゃあ、もう出かけようか」 「うん」 理沙が部屋から出ようとして、足を止めた。 「あ、その前に。これから帰ってくるまで、私が姉で、お兄ちゃんが弟。そうだよね」 それを言われてドキっとした。それが今日一番恥ずかしい事だった。しかも理沙は 高校生のお姉さんだ。僕は小学生の弟だ。本当は恥ずかしくて嫌なんだけど、 映画を観に行くために、僕が理沙にそうしてってお願いしたんだから、いまさら文句 を言えない。 「う、うん。分かってる」 「お兄ちゃんは私をお姉ちゃんって呼んでね」 「うん」 「私はお兄ちゃんを……、コウタって呼んでもらいたい?コウちゃんがいい?」 「えと、どっちでもいい」 というか、どっちも恥ずかしい。妹に呼び捨てにされるのも、ちゃん付けされるのも。 「親戚ならちゃん付け、くん付けもいいだろうけど、弟はやっぱり呼び捨てだよね。 うん。コウタ。それじゃコウタ、出かけるよ」 妹に呼び捨てにされて悲しい気持ちになりながら、玄関に向かった。 理沙は靴も高校生のをはくようだ。カバンも持っている。 「カバンまで持ってくんだ」 「手ぶらだと変かな、と思って。でも、ほとんど何も入ってないから、お兄ちゃん ……コウタも何か入れていいよ」 「持ってるものって財布くらいしか」 「あ、財布はお姉ちゃんに預けなさい」 そんな事まで姉ぶるのか。 「そんな。持ってるのはこれだけだし…入場券とか僕が買うし…」 「小学生なんだから、大金を持って外を歩いちゃいけません」 高校生みたいな妹に『小学生なんだから』と言われたら、僕は本当に小学生になった ような気がしてくる。仕方なく財布を理沙に渡す。手にもポケットにも何も持ってない というのは、確かに楽ではあるけど、子ども扱いされてるって気持ちにもなる。 玄関から出て、駅までの道を理沙と並んで歩く。毎日登下校で歩く道を、ドキドキ しながら歩く。知っている人と会わないかと不安になる。僕自身はいつもと同じ服装 だから、見られても恥ずかしい事なんて何もないはずなのに。いや、理沙が高校の 制服を着ているのは僕がお願いをしたからで、高校の制服を着た理沙と比べて僕が さらに小学生っぽく見えるのも、僕のせい。その姿を知ってる人に見られるのは、 やっぱり恥ずかしい。 ふと前を見ると、理沙と同じ制服を着た女子が駅の方から歩いてくる。本物の飯原高校 の生徒だ。同じ制服の生徒が逆向きに歩いているのを見て、変に思うかもしれない。 ドキドキしながらすれ違う。僕たちの方を見て歩いている。やっぱり変に思われて いるんだろうな。何も言われなかったけど。知らない人から見たら、理沙はちゃんと 高校生に見えてるんだろうか。そして僕は小学生の弟に見えるんだろうか。小学生に 見えるのは恥ずかしいけど、小学生に見えないと困る。 駅に着くと、改札から飯原高校の生徒が3人続けて出てきた。券売機では切符を 買っている人がたくさんいる。人が多くて、駅に近づくのも恥ずかしい。でも財布は 理沙が持っているから、一緒に行かないと切符を買えない。 「映画館って沼内だよね?」 「うん…」 「じゃあ切符を買ってくるね」 理沙が買ってくるのか。それならいいけど。僕は駅から微妙に離れた所に立ち、 理沙が切符を買っている様子を眺める。離れた所から見ると、理沙が普通の高校生に 見える。やっぱり制服がぴったりだからだろうか。いつもは小学校の制服や小学生も 着ているような服を着ているから、大人っぽいとは思っても一応小学生と分かるけど、 今は高校生にしか見えなくて、ちょっと不安になる。 あれってもしかしたら理沙じゃなくて、本物の飯原高校の生徒じゃないのか。 僕を置いて飯原高校にでも行っちゃうんじゃないか、財布は理沙が持ったまま、 僕一人だけ残されるんじゃないか。そんな事を考えていたら、理沙が戻ってきた。 ちょっとほっとする。 「はい、おに…コウタは子供料金の切符」 子供料金の切符を渡されて少しみじめな気分になるけど、でも理沙が戻ってきた ので少し安心した。 駅の改札を通って、人の少ないホームで数分待つと、次の電車がやってきた。 降りる人はいなかったけど、電車の中には飯原高校の生徒がたくさんいた。 電車はたまにしか乗らないからよく知らないけれど、土曜日にこんなにも高校生が 乗っているものなんだろうか?それとも今日は特別なんだろうか?本当は小学生の 理沙が飯原高校の制服を着ていて何か言われないだろうかと、ちょっと不安になって、 電車に乗るのを一瞬ためらう。でも理沙がさっさと電車に乗り込むので、僕もあわてて 電車に乗った。乗った瞬間、周りの高校生がこちらを向いたのでドキっとしたけど、 ドアの近くにいた人が少し奥に動いて、そしてドアが閉まって電車が走り始めると、 みんな視線を元に戻して、おしゃべりや読書を始めた。理沙の事を気にしている人は いないようで、少し安心した。 電車の中をよく見ると、高校生ばかりの電車の中、中学生というか小学生みたいな 僕の方が目立っているかも。今度はそっちで恥ずかしくなってきた。本物の飯原高校 の生徒がたくさんいる中で、同じ制服を着ている理沙は全然違和感がなくて、本当に 高校生になってしまったような気持ちになる。この電車の中で僕だけが子供のようで、 ちょっと居心地が悪い。 次の駅に近づき、電車が速度を落とし始めた時、理沙が窓の外に目を向けた。すぐ隣に 立っている本物の飯原高校の生徒も窓の外を見ていて、なんだか二人が示し合わせた ように同じ風景を見ているように見えた。なんだか二人が同級生のように見えた。 会話も何もしてないのに、並んで立っているだけで、一緒に帰る同じ高校の友達の ように見えた。理沙が本当に高校生のお姉さんになったみたいで、僕よりも先に 大人になったみたいで、僕の知らない高校生の友達がたくさんいるような気がして。 その近くに立っている僕は、周りの人達にきっと小学生に見えるんだろうな、 そう思うと、恥ずかしいというか、悔しいというか、寂しいっていうか。 ……僕の妹の理沙が高校生になっちゃったと思うから、恥ずかしかったり悔しかったり 寂しかったりするんだ。理沙と思わず、近所の高校生のお姉さんだと思えばいいんだ。 近所に住んでる高校生のお姉さんに映画に連れて行ってもらっているんだと思えば、 そんな事を感じないで済むかも。うん。そう思って理沙の方を見ると。 その時ちょうど電車が止まって、ドアが開いた。外を見ていた理沙が僕の方を向いて。 「次の駅だよね?」 顔はやっぱり理沙なんだけど、高校生のお姉さんから話しかけられたような気がして、 ドキっとした。 「う、うん」 高校生になった理沙が僕なんかに話しかけて、周りにいる高校生は変に思わなかった だろうか。ちょっと心配になる。でも高校生のお姉さんに話しかけてもらったような 気持ちになって、ちょっと嬉しいかも。たくさんいる高校生の中に、一人だけだけど 親しいお姉さんがいて、その美人な高校生のお姉さんに連れられて、高校生ばかりの 電車に乗って、映画を観に行く。大人なお姉さんとのデートみたいで、それもちょっと 恥ずかしいけど、嬉しいかも。 そんな事を考えていたら、沼内駅に着いた。 映画館は駅から歩いてすぐ。同じ電車から降りた本物の飯原高校の生徒も何人か映画館 に来た。制服のまま映画館に来る高校生がいるっていう事は、理沙が制服を着ていても 別に違和感がないっていう事ではあるけど、それでもちょっとドキドキする。周りは 高校生ばかり、僕だけ子供というのがやっぱり居心地悪いし、お姉さんに連れてきて もらった僕の姿を高校生に見られるのは、嬉しいけど、ちょっと子供っぽくてやっぱり 恥ずかしいかも。小学生だと思われるんだから、子供っぽいのは当たり前だけど、 小学生と思われるのがやっぱり恥ずかしい。理沙は高校生のお姉さんなのに。 「入場券は、あそこかな。えーと。あ、高校生も中学生も小学生も同じなんだ」 理沙はそう言って入場券窓口に向かう。 「高校生1枚と、小学生1枚」 窓口の人がちらっと僕の方を見た。料金は同じなんだし、本当は僕が中学生だからって 別に問題はないはずなんだけど。でもPG12というのもあるから、何か言われないか とドキドキする。 結局、窓口の人は何も言わずに入場券を理沙に渡した。よかった。 「はい、これがコウタの分ね」 理沙から『小中学生』と書かれた入場券をもらう。同じ料金だからどっちでもいい ような気がしたけど、高校の制服を着ている理沙が『高校生』と書かれた方を持つのが 当たり前か。でもちょっと悲しい。 入場口の手前、飲み物やポップコーンを売っている売店の前まで来たけど、前の映画が 終わるまで入れない。思ったよりも早く映画館に着いたから、入場できるまで、まだ 時間がある。 「まだ時間があるね。何か飲み物を買ってこようか?コウタは何がいい?」 「えっと、コーラがいい」 「じゃあ買ってくるね」 理沙は売店の方へ行った。僕は近くのテーブルのそばでぼんやりと周りを見回す。 遠くから見ると、やっぱり理沙は高校生にしか見えない。周りは高校生以上の大人 ばかりで、理沙が戻ってくるまでちょっと寂しい。でも映画が始まれば楽しいんだし、 あとちょっとの辛抱。今日は小さな子がいないから割と静かで、少し離れた所にいる 飯原高校の生徒の話し声が聞こえてくる。 「ねえねえ、加奈って弟いるでしょ?」 「うん」 「弟を連れて一緒に映画を観に来た事ってある?」 「えー、そんなのないよ。小学生の低学年の頃は両親と4人で見に来た事があるけど、 中学生になってからは、ないない」 「今、中学生だっけ?」 「中2」 「そうかー。でもあのくらいの子だったら?」 「うーん、6歳くらい離れてるのかな?そのくらいなら可愛いかも」 もしかして、僕を見て言ってるんだろうか。 「いいよねー。あのくらいの弟。連れて出るために一旦家に帰るにしても、制服を 着替える暇を惜しんで、即座に連れ回したいよね」 「いやいや、制服のままでお姉さんぶるのがいいのよ。小学生相手なら」 やっぱり僕は小学生だって思われてるんだ。分かっていたけど、やっぱりショック。 でも理沙も、僕の事を『かわいい小学生』と思ってるんだろうか。『連れ回したい』と 思ってるんだろうか。『制服のままでお姉さんぶるのがいい』と思ってるんだろうか。 あ、理沙は小学生だった。でも高校の制服を着ている理沙を見ていると、本物の高校生 と同じ事を思ってるようにも見える。そういえば今朝、僕が小学校の制服を着て一緒に 歩ければいい、みたいな事を言ってたような。やっぱりそう思うのかな。小学生の僕を 連れ回すのが楽しいって思っているのなら、僕は恥ずかしいけど、それで理沙も楽しい のなら、そっちがいいかな。 「はい、コウタ。コーラだったよね」 ぴったりの制服を着た美人なお姉さんになった理沙の顔が、いつの間にか僕の目の前に 戻ってきていた。ドキっとしたけど、でも嬉しい。 コーラを飲みながら周りを見回していたら、売店でパンフレットを売っている事に 気付いた。今まではパンフレットを買おうと思った事はないけど、今日は自分が選んで 観に来た映画だし、いろんな情報が載っているって聞いた事があるし。買おうかな。 でもお財布は理沙が持ってる。理沙にお願いをしないといけないのか。こないだの お願いと比べたらずっと簡単なお願いなんだけど。まずは理沙に声をかける。 理沙……ではダメなのか。『お姉ちゃん』なんだ。 「お、お姉ちゃん」 理沙をお姉ちゃんと呼んだ後、自分でドキっとする。やっぱり恥ずかしい。 「なに?コウタ」 「えっと、あそこにある、パンフレットを買いたいんだけど」 「ああ、なるほど。じゃあ私が買ってくる」 あれ?そんなものまで理沙が買ってくるなんて。いくらなんでも僕はそこまで子供 じゃないよ。 「あ、待って……自分で買いに行くから…」 「そう?んーと、千円?千円ちょうどね」 理沙から千円を受け取る。なんだか理沙にお小遣いをもらったような気分。なぜか ちょっと嬉しい。一人で売店に向かう。ちょっとドキドキする。 「あの、パンフレットをください」 「千円です。はい」 パンフレットを受け取って、理沙のところに戻る。ふう。理沙の近くに戻ってきて、 ちょっと安心。 「『愛とナイフ』『タバスコ娘』、入場いたします。お一人ずつ入場券をお持ちの上で ご入場ください」 入場の時間だ。もしかしたらここで『小学生はダメ』って言われるかもしれないから ちょっと緊張するけど、パンフレットは買えたから、多分大丈夫じゃないかな。 高校生のお姉さんたちに混じって列に並んで、少しずつ進んで、係の人に入場券を 差し出す……何も言われなかった。ちゃんと入れた。よかった。 高校生の人たちは『愛とナイフ』を上映する部屋に入っていった。そりゃそうか。 もしかして、理沙もあっちの方を見たかったりするのかな?理沙は小学生だけど、 高校の制服を着ているから、他の高校生と同じなのかよく分からない。『愛とナイフ』 という題名に興味を持ちそうな気もする。でも今日のところは、僕の保護者として 来てるんだし、もう入場券を買ったんだし、『タバスコ娘』の方を見てもらう しかない。 『タバスコ娘』を上映する部屋に入る。僕たちの他には、大人が三人。意外と人が 少なくて拍子抜けする。エッチな映画じゃないと思うけど、もしエッチな映画だったら 『小学生がこんなのを観に来てるの?』とか言われそうとか心配だったけど、こんなに 人が少ないのなら、映画館の人に言われなかったんだから、もう安心。まだ少し時間が あるから、さっき買ったパンフレットを眺める。ページ数は少ないけど、文字が多い ページもあるから、これは家に帰ってから読まないと。最後のページに大きく描いて ある主人公の絵をしばらく眺める。 「ねえ、コウタ。それ、ちょっと見せて」 「え?うん」 一通り目を通したし、細かい所は家に帰ってから読むつもりだし。理沙にパンフレット を渡した。理沙は何ページか眺めた後。 「ねえねえ、コウタ。これ」 理沙が指さしたところには『PG12』と書いてある。 「うん。それがあるから、り…お姉ちゃんに、一緒に来てもらったんだけど」 「その下」 『小学生の方には、保護者の助言・指導が必要です』と書いてある。 「うん」 「保護者の助言・指導は必要だけど、同伴じゃなくてもいいって、吉森さんのお姉さん が言ってたよ」 「え?」 ということは。 「一人で観に来ても、よかったの?」 「そうらしいよ」 「で、でも、前、『小学生だからダメ』って言われたことが…」 「それは、15歳以上しか見られないって映画があるって。R15だったっけ」 「えっと、じゃあ、この映画は…」 理沙に高校の制服を着てもらって、一緒に来てもらう必要ななかったってことに。 恥ずかしい思いをして理沙にお願いをする必要もなかったってことに。つまり、無駄に 恥ずかしい思いをしちゃったのかも。 「でも一緒に見た方が助言・指導が出来るからいい、よね」 「う、うん…」 場内の照明が暗くなった。もうすぐ映画が始まる。 「これは私のカバンの中に入れておくね」 「うん」 理沙がパンフレットをカバンに入れ終わった時に映画が始まった。