小学6年の5月。おにいちゃんは修学旅行に行って、今日は帰ってこない。 お母さんは買い物にでかけて、しばらく帰ってこない。家の中には私ひとり。 私が美奈になって4ヶ月。私の部屋には私の物がたくさん増えました。 だけど、私の物じゃない美奈の服は、まだ捨てていません。 だって私の物じゃないんだから。それに元々私の物だった男子用の服は まだおにいちゃんの部屋の中。なんとなく心残りがあります。 全部じゃなくていいから、少しでいいから自分の物をおにいちゃんの部屋から 取り戻してきたい、そんな気持ちになりました。 今はおにいちゃんもお母さんもいない。今取りに行こう。 他に誰もいないのに、なぜか忍び足でおにいちゃんの部屋に入りました。 ほんの数日だったけど、元々は私の部屋だったところ。ここは本当は私の部屋。 だのにどうして、誰もいない時に、こっそり忍び足で入らないといけないんだろう。 そんな事を思いながら部屋を見回しました。その部屋は確かに男の子の部屋。 だけど私の部屋じゃない。私の知らない物ばかり。本当は私の部屋なのに。 見た事がない本、見た事がないノート。見た事がない大きな絵の具セット。 おにいちゃんが時々持って出かけるカバン。どれも私の物じゃない。 ここにあったはずの私の物はどこに行ったんだろう? きっと服は残ってるはず、そう思って、おにいちゃんの部屋のタンスの引き出しを 開けてみました。まず下着がありました。でもみんな新しい下着ばかりです。 私が使っていた物は見当たりませんでした。そういえばおにいちゃんは背が伸びたから 新しいのを買って、その分古いのは捨てちゃったのかな。次の引き出しにも 見覚えのある物はありませんでした。前の中学の制服くらいはあるだろう、 そう思って探しましたが、見当たりませんでした。どうせ着る事がない制服なんだから、 どこか奥に仕舞ってあるのでしょうか。結局、私の物は見つかりませんでした。 体操服が目に入りました。といっても、前の中学の体操服ではなく、新しい中学の体操服です。 もし私が美奈にならなければ、この体操服を着てたのかな?そんな事を思いました。 そう思うと、ちょっとだけ着てみたい、そんな気持ちになりました。 おにいちゃんの部屋で急いで裸になりました。ここは元々自分の部屋のはずなのに、 まるで外で裸になったかのような、そんな恥ずかしさを感じました。 そしておにいちゃんの下着を着ました。私の下着ではなく、おにいちゃんの下着です。 久し振りに男子の下着を着るので、違和感がありました。なんとなく大きいような気がしました。 そしておにいちゃんの体操服を着ました。その恰好で私の部屋に戻り、鏡を見ました。 だけど、「小学生の女の子が中学生男子の体操服を着ている」ようにしか見えませんでした。 本当ならば私がこの体操服を着て、体育の授業を受けているはずなのに、そうは見えませんでした。 でも良く考えたら、この体操服は試験に合格しないと入れない私立中の体操服です。 本当ならば私が着るはずの体操服は、これではありません。別の体操服のはずです。 その体操服を私は見た事がない。いえ、本当に私が着るのは、小学校の女子体操服です。 私はそれしか持ってません。私が今着ているのは、おにいちゃんの体操服です。 おにいちゃんの体操服を妹が勝手に着ているだけです。そう考えると、私なにをやってるんだろう、 そんな気分になってきました。男子中学生の体操服を小学生の女の子が着るなんて。 私の服じゃないのに勝手に着るなんて。バレたら、おにいちゃんに怒られちゃうかな。 私の服は私の部屋のタンスにある、可愛い服だけ。 おにいちゃんの服を急いで脱いで、自分の服を着て、おにいちゃんの部屋に 体操服と下着を元通りに戻しました。 私も古い服を捨てちゃおうかな。