朝起きて。 美奈のパジャマを脱ぎます。パジャマはまだ美奈の物を使ってます。 早く自分のパジャマが欲しいな。 下着は、女の子用だけど、自分の物です。そして制服のブラウスに袖を通します。 制服は自分の物です。女子の制服だけど、美奈が着た事がない、自分だけの制服。 そしてスカートも自分の物。小学校の制服をきちんと着て、鏡の中を見ます。 女子小学生の制服を着た自分の姿を見ます。美奈に『似合ってる』と言ってもらった 自分の姿。美奈とは違う自分の服装。小学校の女子の友達と同じ制服。 今日もこの姿を、美奈に、お母さんに、友達に、先生に、見てもらう。 「がんばろうっ」 自分に語りかけます。 食卓に座ります。だけど、いつも僕より先に起きている美奈は、まだ来てません。 「あら、美奈が先に起きてきたの?おにいちゃんは昨晩遅かったみたいだから、 まだ寝ているのかな?おにいちゃんを起こしてきてくれる?」 おにいちゃんと呼ばれているのは、もちろん美奈。美奈と呼ばれたのは僕。 まだ変な気分。だけどおにいちゃんは美奈以外にいないし、美奈は僕しかいません。 返事をします。 「はーい」 ほんの短い間だけ僕の部屋だった部屋、僕の物がまだ残っている部屋、 だけど今では美奈の部屋。その前に立ちます。本当は僕が入っちゃいけない部屋、 だけどお母さんに『おにいちゃんを起こしてきなさい』って言われたから、入ります。 お母さんが言ったんだから問題ないもん。うん。 ゆっくりとドアを開けます。ベッドの上では、僕のパジャマを着た美奈が寝ています。 なんて言って起こそうかな。 「おにいちゃん、朝だよ。ご飯だよ。早く起きてよ」 美奈が眠たそうに言います。 「えー、もうそんな時間?昨日テスト勉強で遅かったからかなぁ…」 テスト勉強だなんて、小学校に通うようになって縁遠くなった言葉。だけど、 僕が中学校に通っていた時も、夜遅くまでテスト勉強なんてやった事ありません。 美奈がやってるのも見た事ありません。やっぱり試験を受けないと入れない中学だから、 勉強が難しくなって、美奈でも夜遅くまでやらないといけないのだろうか? そう考えると、もっと自分から縁遠い事のように思えてきました。 まだ美奈は起き上がりません。もう一度声を掛けます。 「早く起きてよ、おにいちゃん」 「分かったよ、美奈」 美奈が頭を上げました。 「美奈はもう制服を着てるんだ……かわいいよ、美奈」 突然美奈がそんな事をいいました。そんな変な事言われて、なんて答えたらいいのだろう? 「な、なにを言ってるの……お、おにいちゃんの馬鹿!」 自分でも何を言ってるのか分からなくなりそうです。 「僕も制服を着なきゃ。もう起きるから、美奈はもう出ていいよ」 「うん…分かった」 起き上がった美奈を見て、美奈に『出ていいよ』って言われて、部屋を出ます。 食卓に戻って朝ごはんを食べてると、制服姿の美奈がやってきました。 男子中学の制服を着た美奈の姿。なんと言ったらいいんだろう? りりしくて男らしくてカッコいい?そうなのかもしれない。美奈の方が男子制服が 似合ってます。美奈の女子制服姿なんて見た事がないけど、想像がつかないけど、 きっと似合わない。女子小学生の制服は、やっぱり僕の方が似合うのかな。 美奈の言う通り、僕の女子制服姿はかわいいのかな? 僕だって、こないだまで男子の中学制服を着ていたけど、引っ越してきてからは男子の制服 なんて小学校も中学校も着ていない。美奈が通うような試験を受けて入る中学がたくさん あって、どれが普通に入れる中学校の制服なのか、女子の事は同級生に教えてもらったけど、 男子の事は知らない。女子の事しか知らない。僕には関係のない事なのかな。 朝ごはんを食べ終えて、美奈と一緒に玄関に向かいます。美奈と並んで靴をはきます。 美奈の方が背が高くて、美奈から見下ろされます。男子制服姿の美奈を見上げます。 「二人とも、いってらっしゃい」 僕を見下ろす美奈がいいました。 「美奈、いってらっしゃい」 僕は美奈を見上げながら。 「おにいちゃん、いってらっしゃい」