「おにいちゃんのうそつきーっ!」 「ごめん、美奈。今日はダメなんだ。明日ならいい。明日」 制服を着て、どうみても学校に行く様子のおにいちゃん。 「今日だと思ってたのにー」 「明日でもいいんだろ?な?ね?」 「明日でもいいけど、いいけど…」 「じゃあ、行って来るね」 おにいちゃん、学校に行っちゃった。 せっかく帽子から靴下までピンクでそろえたのに。 どうしよう、このまま家の中でじっとしてるのもなんだか癪だし。 うーん。携帯電話を取り出して少しにらめっこ。 ぴぽぱぽぷぽ。ぷるぷるぷるぷる。 「はーい」 「美奈だよ」 「はーい、美奈ちゃん」 「今日、ひま?」 「ひまだよー。うちに来る?」 「うん、じゃあ今からそっちに行くね」 佳世ちゃんちに到着。 「佳世ちゃーん」 「あ、美奈ちゃん、あがってあがって」 「おじゃましまーす」 佳世ちゃんのお部屋に入る。近くにいたぬいぐるみを抱っこ。 「……にしても、随分気合入ってるね、その服」 「今日はね、本当はね、おにいちゃんにね、渋谷連れてってもらう 約束だったの。それなのに、今朝になって、なんとかがあるから 行けないって言うの。そんで学校に行っちゃったの」 「ふーん…それで、渋谷行くから気合入ってるの?おにいちゃんと でかけるから気合入ってるの?」 「うーんと……両方」 「いいなー。そんな優しくてかっこいいおにいちゃんだなんて。 うちのおにいちゃんなんて、映画見に行きたいって言っても 『一人で行け』だもん。別に一緒に行きたいとか思わないけどー。 小さな時から私の事を蹴り倒すようなやつだしー」 「じゃあ一人で行くの?」 「うん。そだよ」 「すごーい」 「美奈ちゃんはいつもおにいちゃんと一緒なの?」 「うん」 「おにいちゃんと一緒の方がいいの?」 「うん」 「ああいうおにいちゃんなら、そうかも知れないけどー。でも、 もう小学6年生だよ?」 「……変かな。でもまだ小学生だしー」 「こいつめこいつめ、去年は中学生だった癖して。私より2つも 年上の癖して」 「むー、別に私は、中学生になりたくて中学生やってた訳じゃ ないのに。歳は、佳世ちゃんと一緒。そうなんだから、もう」 「去年は自分の方が中学生のおにいちゃんだった癖して。 ちゃんとおにいちゃんしてた?」 「おにいちゃんはー、自分でおにいちゃんをやりたいって言ったの。 私は別に、おにいちゃんをやりたいなんて一言も言ってないもん。 去年の私とおにいちゃんとでは話が違うの。おにいちゃんには、 ちゃんとおにいちゃんしてもらわなくちゃ。だからいつも連れてって もらってるの。うん。」 「そういう事言っておにいちゃんに甘えてるのか、こいつめこいつめ」 「だって私、妹だもん。そのくらいしなきゃ妹らしくないでしょ?」 「じゃあ、美奈ちゃんは、妹になりたいって言って妹になったの?」 「そ、そういうわけじゃないけど……、妹にしてもらってよかったかな。 おにいちゃんに甘えられるしー、おにいちゃんを自慢出来るしー、 佳世ちゃんと同級生になれて、こうしてお話出来るし。いい事ばっかり。 だから、おにいちゃん大好き。だから私は妹らしくしなくちゃ。ふふーん」 「美奈ちゃんって、結構男子からもててるんだけどなー」 「へ?そうなの?」 「こーんなおにいちゃんっ子だって言ったら、みんなどう思うだろうねー」 「べーつーにー、かまわないけどー。おにいちゃんよりかっこいい人 だったら、ちょっとは考えなくもないけどー」 「おにいちゃんよりかっこいい人がいても、ほんとは美奈ちゃんがお…」 「それは言っちゃダメ。絶対言っちゃダメ」 「わ、わかってる、絶対に言わない。うん。美奈ちゃんのためだもん。 仲良しのためだもん、うん」 「うん。ありがとう。そういえば修学旅行の時はありがとう。みんなと 一緒のお風呂に入れて嬉しかった。あの日はお風呂入らないつもりだったもん」 「仲良しなんだもん、一緒に入って当然じゃなーい」 「ふー。やっぱり私も、女子中に行こうかなー。そっちが妹らしいよねー。 体が女子のみんなと違うから、男子と一緒だと不安になるしー。 やっぱり佳世ちゃんと一緒のところがいいなー。でも試験受けて、 合格しなきゃいけないんだよね?うーん、出来るかなー」 「中学生を1回やった事あるんでしょ?合格できるって」 「だって私が中学生やってた時から、お勉強と身長はおにいちゃんに 負けてたんだもん。だから小学生になったんだもん。どうせどうせ」 「美奈ちゃんのおにいちゃんと比べたら、そりゃ負けるってば。 別にそんなに成績悪くないじゃない。クラスの中ではいい方じゃない」 「だってだって」 「あ、そうだ、おにいちゃんに教えてもらえばいいじゃない」 「あ、それもそうだね。うん、おにちゃんにお願いしてみる」 「うん、がんばれ」 「それにしても、このぬいぐるみ、気持ちいいね。ふわふわ。可愛いし。 私の部屋にも置きたい。どこで買ったの?」 「ふふーん。それは近所じゃ買えないんだよー」