私は橋本美奈。東尾市立東尾小学校に通う小学生です。 私には二つ年上の兄がいます。隆志って名前です。 兄なんだけど、兄には見えません。だって私よりチビなんです。 私が小学校に入学した頃は、もちろんおにいちゃんの方が大きかったです。 でも、2年生になった頃には1センチも違わなくなりました。 知らない人と会った時には、よく双子と思われました。 前の年までは「いもうとちゃん」と言われて、 「おにいちゃんは偉いね」っておにいちゃんばかりほめられていて、 何かもらう時にはおにいちゃんよりも小さな物をもらって、 ちょっと悲しい思いをしていたのですが、 おにいちゃんと同じ年のように扱われて、同じようにほめられて、 もらう物もおにいちゃんと同じ大きさでもらうようになり、 「おにいちゃんと同じだ!」と嬉しく思いました。 「すごくえらい」と思っていたおにいちゃんと同じになれてたようで、 本当に嬉しかったです。 登校の時は集団登校なのですが、背の小さい順番に並んで登校していたので、 その頃はおにいちゃんが私のすぐ後ろでした。そういうわけで、 結構長い列の中、私とおにいちゃんは毎日並んで登校してました。 上級生からも「双子みたいだね」ってよく言われました。 「双子になっちゃえば?」とか「同じクラスに通えば?」とか、 「同じ服を着れるんじゃないの?」とか。 そういう事を言われて、私が4年生のクラスの中にいる、 学校でもおにいちゃんと同じ扱いしてもらえる、そういう事を想像したら、 ちょっと嬉しくなってきて、明るく「そうしようか?おにいちゃん!」 なんて返事をしました。おにいちゃんはちょっと暗そうな顔で笑っていましたが。 もしおにいちゃんより私の方が背が高くなったら、登校の時に私の方が 後ろになって、私の方がおにいちゃんより上級生に見えて、私の方が 上級生扱いしてもらえる、そして私の方がおにいちゃんより上級生らしく ふるまえる。夜にお布団の中でそんな事を考えていたら、早く大きくなりたいな、 って思うようになりました。 だから、新しい靴を買いにいった際に、お店で底がちょっと厚い靴を 見かけた時は、すごくうれしかったです。すぐにそれを選んで、次の日に はいていきました。そしたら、すぐに上級生が気付いてくれて、 「美奈ちゃんの方が大きいんじゃない?」 って言ってくれて、私とおにいちゃんと入れ替わって登校しました。 初めて本当におにいちゃんを後ろから見下ろしながら登校した時は、 私より下級生になったおにいちゃんを見ているような気分になって、 面白くて、本当に嬉しかったです。 見下ろしたと言っても、多分1ミリくらいだったんでしょうけど、 本当に見下ろしてる気分でした。 そしておにいちゃんより上級生として登校しているんだという気持ちで、 本当に気持ちよかったです。 だけど、靴の厚さで追い越しただけではちょっとかっこ悪いかな、 とも思いました。だから、ご飯をたくさん食べて、運動もいっぱいしました。 テレビのチャンネル争いは、2年生の冬くらいには負けなくなりました。 でも私が勝つようになってからは、チャンネル争いをあまりしなくなりました。 なんでだろう? 2年生の冬の土曜日、おにいちゃんが遊びにでかけて、お母さんも買い物に でかけて、私だけになった時のこと。 「同じ服を着れるんじゃないの?」という上級生からの言葉をふと思い出して、 試しにおにいちゃんの服を着てみようと思いました。 他に誰もいないのに、なぜか忍び足でおにいちゃんの部屋に入って、 おにいちゃんのタンスを開けてみました。どれを着てみようか、 でもお母さんがすぐに帰ってくるかもしれないから時間がない、などと 考えたのですが、体操服が目に入ると、すぐにそれに決めました。 胸に大きく学年と苗字が書いてあるからです。 おにいちゃんの部屋で急いで裸になって、まずおにいちゃんの下着を着ました。 男子の下着を着るのは初めてで、ちょっと分厚い感触が変な感じでしたが、 大きさはぴったりだと思いました。男子の下着が初めてだったので よく分からなかったですが、上級生が言ってくれたようにちょうどいいと 思いました。そしておにいちゃんの体操服を着ました。 急いでおにいちゃんの部屋を出て、家で一番大きな鏡の前に立ちました。 胸にしっかりと「4−2 橋本」と書いてあって、おにいちゃんの学年に なったようで嬉しかったです。 男子の体操服を私が着ているのがちょっと変な感じでしたが、でもおにいちゃんと 入れ替わりに4年生になったようで、それはそれでいいかな、って思いました。 この体操服を着て、4年生の男子と一緒に体育の授業を受ける私を想像すると、 楽しい気分になりました。1分ですぐにおにいちゃんの部屋に戻って脱いで、 すぐにタンスにしまって部屋を出ましたが、それからしばらくの間、おにいちゃんと 入れ替わりに4年生として体育の授業を受ける様子を想像したりしました。 ついでに、おにいちゃんが女子の体操服を着て、2年生として体育の授業を 受ける様子も想像したりしました。おにいちゃんが女子の体操服で2年の女子の中に いるというのも変な感じ、と最初は思ったけど、私と双子みたいなんだから、 おにいちゃんでも変じゃないはず。だったら一度着せてみたい、と思い始めました。 次の年、私が3年生になると、私とおにいちゃんと、背がほとんど同じに なって、登校の時の順番が何度も入れ替わるようになりました。 毎朝上級生が比べてくれました。毎朝、おにいちゃんと背比べをする時は 本当にドキドキしました。ほんのちょっとの違いで喜んだり悲しんだり。 毎日入れ替わるような時もありました。それだけに毎朝ドキドキ。 でも私の方が大きいと言ってもらえる日が増えてる、 そんな感じがちょっとずつしてきたのです。 私の方が後ろだったある日、 「今日は美奈ちゃんの方が大きいから、5年生の名札を付けたら?」 上級生にそんな事を言われました。私がおにいちゃんと交代して おにいちゃんの名札をつける、そう考えるとドキドキしましたが、 せっかく上級生が言ってくれたのです。元気良く「はいっ」と答えて、 おにいちゃんと名札を交換し、そのまま登校しました。 私が5年生の隆志の名前の名札、おにいちゃんが3年生の美奈の名前の名札。 私がおにいちゃんになって、美奈になったおにいちゃんを見下ろしている。 「5年生」と書いてある小さな名札を付けただけなのに、本当に私がおにいちゃんに なった、そんな不思議な、そしてすごく楽しい気分になりました。そして、 名札だけだけど、おにいちゃんが私の代わりに3年生の女子になった。 名札だけの違いなのに、本当にそう思えて、なんだか嬉しくなりました。 上級生に「そのまま5年生の教室に通ったら?」と言われて、 「私、男子になるんですか?そんなー」 なんてつい言ってしまったけど、後ですごく後悔しました。 私がおにいちゃんよりおにいちゃんになって、私が5年生の教室に入って、 おにいちゃんが3年生の教室に入る。それが実現したのに、 どうして断っちゃったんだろう。そうなるのなら、別に男子でもいいのに。 次は恥ずかしがらずに、あわてずに、勇気を出して、ちゃんとやらなきゃ、 と思いました。 その数日後、やっぱり私がおにいちゃんよりも後ろになって登校している時、 横断歩道に立っているおばさんが、 「今日もみんな元気にがんばってね、お姉ちゃんも」 と、お兄ちゃんと私に声をかけてくれました。私の事をお姉ちゃんと言って くれたんです。あの時はとても嬉しかったです。私をおにいちゃんよりも お姉さんだと思ってくれる人がいたのが嬉しかったです。 名札は3年生のをつけてたので、名札じゃなくて、見た目で私の方がお姉さんに 見えた、私の方が上級生に見えた、ということです。本当に嬉しかったです。 もちろん元気な声で「はいっ」って返事しました。そして、私の目の前にいる おにいちゃんが、なんだかちょっとかわいく思えてきました。 おにいちゃんはずっと黙ったままでしたが。 そして、知らない人から、私の方を「お姉ちゃん」と呼ばれる事が だんだん増えました。「お兄ちゃん」と呼ばれた事もありました。 ランドセルが必要ない日だったから色で区別がつかなかったんだろうけど、 それでも私って男子に見えるの?と、ちょっと変な感じもしましたが、 でも私の方がお兄ちゃんよりもお兄ちゃんに見えるっていうのは嬉しかったです。 お兄ちゃんな私と年下のおにいちゃんが、毎日並んで登校してる。 おにいちゃんと私が交代して、私がお兄ちゃんになって登校している。 一緒に登校しているみんなも、朝に会う人たちも、そう思って見てくれている。 そう考えると、おにいちゃんが弟か妹に見えてきて、私が弟か妹を持っている気分に なってきて、「私の方がお兄ちゃんなんだ」って気持ちがちょっぴり分かったような 気持ちになりました。そんな日が段々と増えていったので、 おにいちゃんと一緒に登校しているのが本当に楽しかったです。 そんな日々を過ごしているうちに、おにいちゃんがおにいちゃんだと思えなく なってきました。今まで「おにいちゃん」と呼んできたから「おにいちゃん」と 呼んでるけど、もう「おにいちゃん」には見えない、どう見ても同級生の3年生と 同じにしか見えなくなりました。とても上級生には見えませんでした。 知らない人達から「お姉ちゃん」とか「お兄ちゃん」とか呼ばれる私の方が上級生、 私の方がお兄ちゃん、そう感じるようになってきました。 だけど、私の方が3年生の名札をつけて、学校に着いたら私の方が3年生と 一緒に3年生の教室に行って、おにいちゃんは5年生に混じって5年生の 教室に行く。体操服も、おにいちゃんの方が大きく「5年生」って書かれていて、 私の方が「3年生」って書かれている。なんだかちょっと変。どうして このおにいちゃんが私よりも2つも上の学年なんだろう?私とおにいちゃんと、 本当に交代していいんじゃないの?私がおにいちゃんになって、おにいちゃんが 妹になった方がいいんじゃないの?段々と、そう思うようになりました。 夏休み前の土曜日、おにいちゃんとお母さんが出かけて、また私一人になった時に、 またお兄ちゃんの部屋に入って、おにいちゃんの服をまた着てみました。 今度はおにいちゃんが学校に着て行く服にしてみました。 前に体操服を着た時と比べて、ちょっと小さくなっているような気がしました。 やっぱり私の方が大きくなってるのかな、と思いました。 そしておにいちゃんの名札をつけて、鏡の前に立ってみました。 この恰好のまま小学校に登校して、おにいちゃんの代わりに5年生の教室に入る、 そういう想像をしてみました。別に違和感ない、と思いました。 そして本当にそうしたいと。おにいちゃんは私の代わりに私の服を着て、 3年生の教室に行けばいいと。 3年生の夏休みが始まった頃、お母さんが 「美奈の方が大きいんじゃない?隆志、美奈に負けてない?美奈に追い越され ちゃうんじゃない?」 と言いました。お母さんも私の方が大きいって気付いたみたいでした。 お母さんも認めてくれるとなると、すごくうれしい。だから思い切って 「じゃあ、おにいちゃんを追い越して、私が上級生になっちゃおうかな?」 と言ってみました。お母さんが認めてくれたら、本当に交代できちゃうかも 知れないと思って。でもお母さんは、 「でも隆志は二歳もおにいちゃんだからね、甘えん坊美奈に負けちゃダメだよ、 体は小さくても、お勉強とか、運動とか、それ以外も、おにいちゃんらしく 頑張らなきゃ」 って言いました。ちょっとがっかり。私、別に甘えん坊じゃないよ。 私の方がおにいちゃんよりずっと、おにいちゃんらしいんだから。 みんなもそう言ってくれる。私、お勉強も運動もそれ以外も頑張る。 全然お兄ちゃんに見えないちびっこのおにいちゃんなんかに負けないもん。 次の日、おにいちゃんがいない間に、おにいちゃんの部屋にこっそり入って、 おにいちゃんの机を開けて、おにいちゃんの宿題を広げてみました。 知らない漢字がたくさん、難しい算数の問題もたくさんで、全然分かりませんでした。 でもおにいちゃんに負けないようになるためには頑張らなきゃ。そう思って、 おにいちゃんの部屋の中を色々探してみたら、部屋の隅の本の山の中に 4年生の教科書がありました。これで夏休みの間に勉強すれば、 おにいちゃんの学年の勉強まで追いつけるかも、と思い立ちました。 これを持っていったらおにいちゃんに気付かれるかな、とも思ったけど、 部屋の隅にあったし、多分大丈夫だと考えて、思い切って私の部屋に 持っていきました。 それからしばらくの間、3年生と4年生の勉強を一生懸命やりました。 そして時々おにいちゃんの部屋にこっそり入って、おにいちゃんの宿題を 見たりしました。まだ5年生の勉強までやってないので分からない問題ばかり でしたが、でも読書感想文のための課題の本は結構面白かったです。 だけど、こそこそとおにいちゃんの部屋に入って読むのでは、ちゃんと読めない。 だから、ちょっと勇気を出して、おにいちゃんに 「この本面白そうだから、しばらく貸して」 と言ってみました。おにいちゃんはすぐに「いいよ」って言いました。 それが宿題のための課題図書だという事を、忘れていたのかもしれません。 漢字の勉強をしながら、その本を最後まで読みました。 とても面白かったです。 夏休みも終わりに近づいた頃、おにいちゃんがようやく読書感想文の事を 思い出して、私のところに来て「本を返して」と言ってきました。 もう読み終わったのだから、返すだけでいいのですが、ちょっと面白い事を 思いついたので、ドキドキしながら、思い切っておにいちゃんに言ってみました。 「私、全部読んだから、私が代わりに感想文を書いてあげようか?」 そう言ったら、おにいちゃんは宿題が減るのを喜んでたみたいでした。 私も嬉しかったです。5年生の宿題を、おにいちゃんの代わりにおにいちゃんとして 私がやれたからです。感想文の名前のところにはおにいちゃんの名前を書きましたが、 それでも書いたのは私です。私がおにいちゃんとして書いた感想文です。 夏休みが終わって、おにいちゃんが私の書いた感想文を先生に提出して、 何か言われないかとドキドキしてましたが、何も言われなかったみたいでした。 後でおにいちゃんの部屋に入って、返してもらった課題を探し出してみたら、 「よくできました」って書いてあったので、すごく嬉しかったです。 宿題ひとつだけだったけど、ちゃんとお兄ちゃんな事をやったんだから、 これならおにいちゃんと交代できる、私の方がおにいちゃんなんだ、 そんな気持ちが大きくなりました。 夏休みが終わってからも、4年生の勉強、そして5年生の勉強もどんどんやりました。 だけど一人でやってるだけだから、ちゃんと勉強出来ているのか、 ちょっと不安でした。時々おにいちゃんの部屋に入って、おにいちゃんの教科書や 宿題を見ても、分かるような分からないような、ちょっと自信が持てない感じでした。 そんなある日、おにいちゃんの社会科見学の日を知りました。 その日の昼には、5年の教室には誰もいないはず。5年の教室に入ってみようと 思いました。もちろん本当は、教室にみんながいる時におにいちゃんの代わりに 入りたいのですが、さすがにそこまで出来ないので、誰もいない時に入って みることにしました。おにいちゃんの服を着ていこうか、とも思いましたが、 下着だけこっそり借りる事にしました。 そしてその日の昼休みに、誰もいない5年生の教室に入って、おにいちゃんの机を 探して、そこに座りました。誰もいない教室だけど、5年生の教室で椅子に座れて 嬉しかったです。だけど、やっぱり、空っぽの教室はつまんない。みんながいる時に この教室にいたいな、そう思いました。 そして、おにいちゃんの机の中に手を入れて、その中にある物を出してみました。 そうしたら、採点された後のテストや宿題が出てきました。どれも悪い点数ばかり。 一応5年生の勉強をやっていた私にも分かる問題を、おにいちゃんが間違えてました。 本当の5年生のはずのおにいちゃんがこれなら、私と交代したって全然大丈夫。 むしろ、私の方がちゃんとおにいちゃんをやれるはず。交代した方がいいんだ。 そういう自信が湧いてきました。 そしてその日の夜、お布団の中で考えました。私はおにいちゃんと交代出来るん だから、交代するための準備を始めようと。すぐには無理かもしれないけど、 準備をしておけば、きっと交代出来る日がくる、だから準備を始めようと。 次の日、おにいちゃんが遊びに行ってる間に、おにいちゃんの部屋にこっそり入って、 国語と算数の宿題を探し出しました。そして、その問題を解いて、その答えを 書き込みました。別の紙にではなく、宿題の用紙に直接私が書き込みました。 おにいちゃんの宿題やノートに私が勝手に書き込むのはなんだか悪い事のような 気がして、ちょっぴりドキドキしましたが、でも思い切って書き込みました。 答えを書き込んでいるうちに、書き込んだ分だけ、私がおにいちゃんの代わりに お兄ちゃんになってるんだ、そんな気持ちになりました。 全部やり終わってから、おにいちゃんが帰ってくるのを待ちました。待ってる間も ドキドキしました。勝手におにいちゃんの宿題をやっちゃって、おにいちゃんに なんて言われるかな、という不安もあったし。私がおにいちゃんの代わりに おにいちゃんになろうとしている、おにいちゃんを私の代わりに3年生の女子に しようとしている、そう思っているのがばれるんじゃないかって不安もあったし。 だけど、我慢して、おにいちゃんが帰ってくるのを待って、おにいちゃんが部屋に 入ってくるのを待って、部屋に入ってきたおにいちゃんを見て、勇気を出して 言いました。 「おにいちゃん、おにいちゃんの宿題を勝手にやっちゃった。いいよね?」 おにいちゃんはちょっと戸惑った顔をして、 「勝手に?どうするんだよ、僕のノートに勝手に落書きして」 なんて答えました。落書きって言われてちょっと頭にきました。 「落書きじゃない、ちゃんと答えは合ってるんだから。調べてみれば?」 おにいちゃんは簡単な何問かを調べて、「合ってる」と答えましたが、それでも ちょっと疑っているようでした。もっと頭にきたので、 「どうせおにいちゃん、半分以上バツをもらってるんだから、いいじゃない。 それとも百点だったら困るの?」 と言い返しました。おにいちゃんはちょっと困ったような顔をしましたが、 「宿題をやらずに済むからいいか」 と言って、とりあえず納得してくれました。 その次の日は、登校する時から下校するまでずっとドキドキしてました。 おにいちゃんの代わりにやった宿題、ちゃんと合ってるかどうか、やっぱり 不安でした。普通は帰りにおにいちゃんと一緒になる事なんてないのに、 その日だけ校門の近くでおにいちゃんが出てくるのを待ちました。 もしかしたら、おにいちゃんは友達と一緒かも知れないと思ったけど、 その友達の目の前で宿題の話をしてもいいかな、とか思いました。 だけど、幸か不幸か、おにいちゃんは一人でした。私はすぐにおにいちゃんの前に 立ちはだかりました。おにいちゃんと背比べしたり、登校の列でおにいちゃんを 後ろから見た事は何度もありましたが、おにいちゃんと向かい合って立つのは あまりなかったような気がします。そしてその時に、「おにいちゃんってこんなに 小さかったんだ」と思いました。本当に下級生を見下ろしてる感じがしました。 「おにいちゃん」と声をかけるのもちょっと変に思えるくらいでした。 でも他に呼び方がないから、とりあえず話しかけました。 「おにいちゃん、私がやった宿題の出来はどうだった?早く教えて」 私を見上げるおにいちゃんがちょっと困ったような顔をしました。 「帰ってから見せるよ」 「今教えてくれてもいいじゃない」 「えっと、80点くらい、だった」 おにいちゃんの机の中にあったテストの点数よりずっと良かったので安心しました。 「その点数なら、これから私が勝手にやってもいいよね?」 「う、うん。でも、やらない時は言ってくれないと、僕が宿題を忘れる事になるから」 「私、夕方のうちに済ませるから、やらない時は机の上に置いておくよ」 「う、うん」 「でも、いつも私が勝手にやってると思っていいよ」 「そ、そうか?今日もか?」 「うん、やるよ」 力強くそういいました。おにいちゃんがちょっと考え込んで、ちょっと恥ずかしそうな 素振りをして、私を見上げて言いました。 「じゃあ、このランドセルとカバン、持って帰ってくれるか?このまま友達の家に 遊びに行きたいから」 「うん、いいよ。ほら、ちょうだい。名札したまま行くの?」 「じゃあ、机の上に置いといて」 嬉しそうな顔をしたおにいちゃんを見下ろしながらこんな会話をしていると、 もうお兄ちゃんと妹って気分ではなくて、きっと双子ってこんな気分なのかな、 そういう気持ちになりました。私がおにいちゃんのランドセルとカバンと名札を 受け取ると、おにいちゃんは家とは反対方向に走り去りました。おにいちゃんを 見送った後、私は自分のランドセルをおろして、おにいちゃんのランドセルから 自分がやった宿題を取り出して、そして5年生の教科書が入ったおにいちゃんの ランドセルを背負い、名札もおにいちゃんのに付け替えて、採点された宿題を 見ながら家まで帰りました。帰り道だけだけど、まだ双子くらいの違いだけど、 私の方がおにいちゃんになりました。手に持ってるランドセルは、美奈になった おにいちゃんのランドセル。家に着いたらそのまま、お母さんに気付かれないように おにいちゃんの部屋に入って、そのままおにいちゃんの宿題をやりました。 おにいちゃんが帰ってくるまで私がおにいちゃんでした。私の方がおにいちゃんに なってるのを見たら、お母さんはなんていうのかな?そんな事を考えました。 もうこのままおにいちゃんと私を交代させて、って言いたいくらいだったけど、 まだこのくらいじゃ、「おにいちゃんは頑張らなきゃ」とおにいちゃんが 叱られるだけのような気がしたので、もうちょっとだけ、宿題だけのおにいちゃんで 我慢することにしました。 この頃には、もうすっかり私の方が大きいのが分かるようになったみたいで、 登校の時にはおにいちゃんとの背比べもしなくなって、私がいつも後ろに立つように なりました。それが普通になりました。上級生の人たちが言う言葉も、 「双子みたい」ではなくて、「どっちがお兄ちゃんか分からないね」になりました。 私の方がちょっぴりお兄ちゃんに見えるという意味だったんでしょうか。 私が着る服も、スカートなんてはかなくなって、ちょっぴり男の子っぽい、 お兄ちゃんぽい服を着るようになったので、「お兄ちゃん」なんだと思います。 おにいちゃんは「隆志くんの方が本当に上級生なの?」なんて言われてました。 「二人で同じ服を着てるでしょ?」ともよく聞かれました。本当は私が おにいちゃんの服をこっそり借りる事があったんだけど、それは内緒にしました。 でも、おにいちゃんに向かって 「私の服を着てみる?きっと似合うよ」 なんて言ったりはしました。私としては、本当に着て欲しかったんです。 着てくれませんでしたけど。 下校の時は、小学校が終わる時間が微妙に違ったので、わざとおにいちゃんを 待った時以外、一緒になる事はほとんど無かったのですが、 時々偶然に一緒になる時もありました。以前なら、おにいちゃんを見かけても わざわざ並んで帰る事はしなかったのですが、私がおにいちゃんよりも 大きくなってからは、面白がっておにいちゃんと並んで帰る事が何度かありました。 おにいちゃんの宿題をやるようになってからは、その日の宿題が何かを早く 聞きたいという事もありました。 2学期も終わりに近くなった頃、そうやっておにいちゃんと一緒に帰っている時 のこと。 「今日は宿題が多いよ。全部出来るのか?」 私がやる、という前提でおにいちゃんは話しました。 「もちろんやるよ……けど……」 ちょっと面白い事を思いつきました。 「私の方の宿題も多いから、おにいちゃんがそれをやってくれる?3年生の問題 だから簡単でしょ?出来るでしょ?今日だけでいいから」 おにいちゃんはちょっと戸惑った顔をしましたが、 「3年生の問題だからすぐ終わるかな、終わったら遊びに行くよ?」 「別にいいよ」 宿題だけだけど、おにいちゃんを3年生にする事に成功しました。おにいちゃんの方が 下級生の宿題をやるようになったのです。「やった!」と思いました。ちょっとずつ だけど交代出来ている事が嬉しかったです。 そして、もうすぐ家に着く、というところで、近所のおばさんが声をかけてきました。 「あら、橋本さんのところのお子さんでしたわよね、二人とも」 「はい、そうです」 私が答えました。 「回覧板をお母さんに渡して欲しいんだけど。じゃあお姉ちゃん、いいかな?」 私の事をお姉ちゃんと呼んでくれました。ランドセルがあったからお兄ちゃんでは なくてお姉ちゃんでしたが、私の方を年上だと思ってくれたのです。そして、 私がお姉ちゃんだから、大切な事を私に頼んできたのです。私の方を年上扱い してくれたのです。 「はい、これを渡せばいいんですよね、分かりました」 「お姉ちゃん、お願いね。ところで二人は何年生でしたっけ?」 「5年生と3年生です」 どっちが5年生かは、言いませんでした。 「そうか、じゃあ私の娘とは、どちらも同じじゃないのね。もう1年と ちょっとしたら中学生だね、お姉ちゃんは。早いわね。じゃあよろしくね」 そう言っておばさんは家の中に戻りました。……そうか、私は1年とちょっとで 中学生なのか、おにいちゃんより先に。それっていいかも。複雑そうな顔をしている おにいちゃんを見下ろしながら、とても嬉しい気分になりました。 ----(ここまで2009/09/07)---- 年が明けてお正月、たくさんの大人の人達とたくさん会いました。 それまでは知らない大人の人と会うのはちょっと苦手だったけど、 3年生のお正月からは違いました。おにいちゃんと一緒に並んでいる所を 見て欲しくて仕方ありませんでした。もちろん、おにいちゃんが一緒にいないと 意味がないので、嫌がるおにいちゃんをなんとしてでも連れ出しました。 「お年玉もらえるよ」と言って。 大人の人達といっても、私達といつも会う人はそんなに多くありません。 ほとんどの人がお正月にしか会わない人達です。初めての人も結構いたかもしれません。 そんな人達がいる広間におにいちゃんを引っ張って行き、 「あけましておめでとうございます」 と挨拶しました。もちろんおにいちゃんよりも先にです。そして私より背の小さい おにいちゃんの方を向き、「早く挨拶しなさい」って顔をして、おにいちゃんに 挨拶をさせる。それをするだけで十分嬉しかったんですが、私達を久し振りに見る 大人の人達はほとんどみんなが、 「あけましておめでとう。お姉ちゃんは何年生だったかな?」 と言ってくれるんです。本当は「私は5年生です」って言いたかったんですけど、 それを言ってお父さんとお母さんに聞かれると面倒そうなので、 「5年生と3年生です」と二人まとめて答えました。すると 「お姉ちゃん、しっかりしてるね」 と言ってくれて、それだけでも嬉しかったんですが、 「じゃあ、お年玉は、お姉ちゃんは三千円、弟さんは二千円くらいでいいかな?」 と、ほとんどの人が、私の方に多くお年玉をくれました。金額なんてどうでもいいんです。 おにいちゃんより私の事をこのくらい年上だって思ってくれた、その事が嬉しかったです。 私達の学年を知ってる人も少しいましたが、それでもおにいちゃんと同じ額でした。 おにいちゃんは、私の方がたくさんお年玉を貰っているのを見て、ちょっと不満そうで 何か言いたそうでしたが、私が 「ほら、こんなに貰えたでしょ?来て良かったでしょ?」 と言うと、何も言えないみたいでした。そしてさらに、 「じゃあ私、まだちょっと宿題が残ってるから」 と言うともっと何も言えないみたいでした。だって、私がやると言ってる宿題は おにいちゃんの分の宿題なんですから。 その年の冬休みといえば、お父さんお母さんと4人でお買い物に出かけた時のこと。 お父さんとお母さんが家具を見に行ったので、私とおにいちゃんは外で待ってました。 その時、近くにいたおじいさんに駅までの道を尋ねられました。 「そこのお姉ちゃん、駅までの道を知っているかい?久し振りに来て、道が変わって しまって分からなくてね」 もちろん私が、おじいさんを駅まで案内してあげました。 おにいちゃんには 「そこでお父さんとお母さんを待ってなさいね」 とお姉さんらしく言いました。たったそれだけなんですけど、やっぱり嬉しかったです。 -----------------------(ここまで2010/07/25) 三学期の始業式の日、一緒に登校する私の同級生が、おにいちゃんより大きいように 見えました。そこでおにいちゃんとその人を背比べさせました。おにいちゃんは 嫌がってましたが。そうしたら、ほんのちょっとだけですが、おにいちゃんの方が 小さかったのです。登校の時は背の小さい順なので、私とおにいちゃんの間に その人が入りました。私の方がはっきりとおにいちゃんより大きくなったのです。 上級生もその事にすぐに気付いてくれて、「美奈ちゃんの方が年上に見えるね」 って言ってくれました。すごく嬉しかったです。 そんな風に、私の方が年上に見られる事が増えてきて、それだけに 「お兄ちゃんと交代したい」という気持ちがふくらんできました。宿題だって交代して いるのに、私の方が下級生だなんて我慢できなくなってきました。私がおにいちゃんと 交代しておにいちゃんになりたい。別におねえちゃんでもいいのですが、おにいちゃんと 入れ替わりならば男の子って事になります。おにいちゃんと本当に双子の兄弟のように していれば、いつ入れ替わっても大丈夫、そんな気がしました。だったら私は男の子っぽく ならないといけない。そこで髪型をショートにしました。いきなりおにいちゃんと一緒でも 変なので、お兄ちゃんよりは少し長めで、女の子の髪型でもおかしくない程度に。 新しい服を買う時も、男の子っぽい感じの服を選びました。お母さんから「なんだか 男の子みたい、どっちがおにいちゃんか分からなくなっちゃう」と嫌味っぽく言われ ましたが、おにいちゃんと交代したいんだから嫌味には聞こえませんでした。 登校中や学校でも「男の子みたい、おにいちゃんみたい」と言われるようになりました。 男の子っぽい服を買うようになってから、私のとおにいちゃんのとで洗濯物を間違う事が 増えました。間違えるのは主にお母さん。私の洗濯物の中におにいちゃんの物が入って いたり、おにいちゃんの洗濯物の中に私の物が入っていたり。おにいちゃんはそれを すごく嫌がりました。すぐに気付いて、私の服を取り出しては怒っていました。 だけど私の方は間違ってくれて全然問題なし。「男の子っぽい服」じゃなくて本当の 男の子の服を、お母さんがわざわざ入れてくれるのだから。だけど翌日にはおにいちゃんが 「あの服がない、僕の服を返して」と探しにくるので、私が横取り出来るわけでは ありませんでした。 そんなおにいちゃんの服の中にも、私が持っているのとそんなに違いがないと思える物も ありました。普通のトレーナーです。ある朝、それがタンスの中に入っているのを見て、 思い切って学校まで着ていこうと思いました。私が持っているのとそんなに違いは ないんだけど、本当はおにいちゃんの服に袖を通して、結構ドキドキしました。 そしてドキドキしながら朝食を食べるために食卓に向かいました。だけどおにいちゃんは その服の事に気付いて「僕の服を勝手に着て」と怒り出しました。結局その日はその服を 着て学校まで行くのをあきらめました。 でも三月に、幸運にも、と言ったらおにいちゃんに悪いですが、おにいちゃんが風邪を ひいて寝込んでしまいました。おにいちゃんが翌日休めば、おにいちゃんの服を 見つからないように着て、学校まで行けます。そう考えて、前日のおにいちゃんの 洗濯物を丸ごと持って行きました。そして翌日は、下着も含めておにいちゃんの服を 着ました。そこまでおにいちゃんの服ばかり着た事はなかったのでとてもドキドキして、 私も熱を出しちゃいそうでした。おにいちゃんは寝込んでいたので、そのまま登校する事が 出来ました。みんなになんて言われるだろう、そう思うと余計にドキドキ。そしたら、 一緒に登校する上級生から「どうして隆志くんが赤いランドセルを背負ってるの?」 って言われました。そんな事言われるとは思わなかったので、大慌てで「違います、 美奈です」といいました。でもおにいちゃんと間違われた訳で、すごく嬉しい事だし、 ランドセルを使わない日ならそのままおにいちゃんの振りも出来たかも、そう考えると ちょっぴり残念に思いました。上級生の人たちは「美奈ちゃんの方がお兄さんぽい」 って言ってくれました。とても嬉しかったと同時に、早くおにいちゃんと交代したい、 もっと強くそう思うようになりました。 その日の放課後、勇気を出しておにいちゃんのクラスの教室に行き、中に入りました。 もしかしたらおにいちゃんと間違われるかも、という期待でドキドキしながら行ったの ですが、私が入った時には誰もいませんでした。ひとりぼっちの教室で、おにいちゃん の席に座りました。前にこの教室に入った時と同じで誰もいなくて残念でしたが、 服装はおにいちゃんと交代出来たから、ちょっとはマシだと思う事にしました。 逆に、私の服をおにいちゃんに着せたいな、って思う事もありました。だから、 私の服の中でも特に男の子っぽいのをお兄ちゃんのタンスの中に入れておいたり したのですが、おにいちゃんは「美奈の服がタンスに入っていた」とすぐに気付いて しまうのです。お兄ちゃんは意外と自分の服の事はしっかりと覚えて、気にしている ようです。ランドセルの中の宿題は全部私に取られているのに。 私がおにいちゃんの宿題をやるようになって、おにいちゃんの成績は悪くなりました。 宿題を取り出すためにおにいちゃんのランドセルを開けると、時々採点されたテストが 出てくるのです。私ならきっと百点満点を取れるような簡単なテストでも六十点とか、 そんなのばかりでした。私が4年生、おにいちゃんが6年生になった頃には、 おにいちゃんがはっきり言って馬鹿に見えてきました。おにいちゃんなんて 小学4年生の子と同級生でちょうどいい、私と交代するのがちょうどいい。 だけどお母さんにそう言っちゃうと、またお母さんが「隆志はおにいちゃんなんだから 頑張りなさい」って怒り出すかもしれない。おにいちゃんは頑張らずに、 私と交代してくれればいいんだから。 今までこっそりとおにいちゃんの宿題だけやってたけど、おにいちゃんが私と 交代する気になるように、私の方がお兄さんらしいって見せつけなくちゃ、 そう考えるようになりました。 そこで、思い切って、おにいちゃんに意地悪をする事にしました。私が年上っぽく おにいちゃんをイジメる事にしました。おにいちゃんの宿題を取り出す時に テスト結果を見つけ出して、それを手に取って、意地悪っぽくこう言いました。 「おにいちゃん、こんな点数取るなんて、しょうがないなー。多分、私の方が もっといい点数を取れちゃうよ?ほら、ここの間違い、私なら答えがすぐ分かるな。 私がおにいちゃんの代わりにテストを受けてあげたいくらいだよ」 そうしたらおにいちゃんは顔を真っ赤にして言い返してきました。 「そ、そ、それは、美奈が、宿題を全部やってるから…」 「やってるから、なに?学校で勉強してるんでしょ?頑張ってる?」 「うん、でも学校の勉強だけでは…」 「私は宿題しかやってないのに、おにいちゃんより勉強出来るんだー」 「う…」 おにいちゃんは言い返せなくて情けない顔になりました。私の方が上級生らしい、 おにいちゃんの方が下級生みたいだと、おにいちゃんも自覚してくれたようです。 本当は「明日から交代しよう」とか「おにいちゃんは4年生になっちゃえ」とか 言いたかったけど、我慢しました。自分がやる宿題を持って立ち上がりました。 「それじゃ、宿題を済ませてくるね」 その翌日から、ランドセルの中にあるテストの結果が少し良くなりました。 あんな事を言ったから頑張ったのかな?と最初はそう思ったのですが、 何週間も経つと、以前よりもテストの枚数が少ない事に気付きました。 つまり持って帰っていないテスト結果がある、という事です。 おにいちゃんも随分と幼稚な事をするなぁ、と思いましたが、おにいちゃんが 幼稚な事をすればその分だけ私が年上な事が出来るのです。 気付いた翌日の放課後、お兄ちゃんのクラスに行ってお兄ちゃんの机の中を調べたら、 悪い点のテストがありました。それを持ち帰ってお兄ちゃんに見せ付けました。 「おにいちゃん、私こんなの見つけてきたんだけど。点数悪いからって、 隠すのはいけないよね。おにいちゃん、こんな幼稚な事してたら落第しちゃうよ? 正直に見せなくちゃ」 もちろんお母さんの前でそんな事を言ったら、また止められてしまいそうだから、 そんな意地悪はしませんでした。だけど、私の方がおにいちゃんらしいって お母さんにも認めてもらえるように努力しました。おにいちゃんは好き嫌いが 激しいので、サラダから一生懸命取り出したニンジンやピーマンを私が食べて あげるのです。「おにいちゃん、仕方がないなぁー、私が食べてあげるよ」 って言いながら。お母さんも「どっちがおにいちゃんか分からないわね」って 笑いながら言ってくれるようになりました。 家の外では、おにいちゃんと並んで歩いているだけで、私の方がおにいちゃんと 思われるようになりました。運動会の時におにいちゃんと一緒にお弁当を 食べていたら、ほぼ全員が私の方をおにいちゃんと呼びました。小学校の中での 話です。みんなが私の方をおにいちゃんらしいと思ったのです。 だから、おにいちゃんが中学生になる前におにいちゃんと交代して、私が先に 中学生になれるかな、とちょっとだけ期待していたのです。 でも、そう簡単に交代は出来ませんでした。 おにいちゃんが先に小学校を卒業して、中学生になりました。 今まで私の方がおにいちゃんらしいってアピールしてきただけに、 おにいちゃんが先に中学生になるだなんて、かなり悔しかったです。 おにいちゃんが中学校に行ったら、登校の時に比べられてどっちが おにいちゃんらしいかを言ってもらう事もなくなってしまいます。 宿題を全部横取りしても私は小学生のまま。そんなのうんざりです。 それがとても癪だったので、おにいちゃんが中学に入学する前の3月のうちに、 買ってきたばかりのおにいちゃんの制服をこっそり着たりしました。 ずしりと重くて、大人の制服って感じがして、これを着て学校に行きたい、 そう思いました。だけど、私はおにいちゃんの制服を着てるだけで私の制服じゃ ないし、中学校に通えるわけでもないし、悔しい事には変わりありませんでした。 もしこのまま交代出来なかったら、あのおにいちゃんは中学生なのに、私は 2年間も小学生のままです。おにいちゃんより2年後遅れで女子の制服を着るの です。もう明日にでも交代したいのに。お母さんに「交代したい」ってお願い しても交代させてくれるわけじゃないし、どうしたらいいんだろう?