「誘拐」11c/華徳学園小学校

突然押しかけてきた新聞やテレビの取材が一斉に引き上げた後、 華徳学園小学校の先生達は職員室のテレビに写っている自分達を見ていた。
「やー沢田先生、朝早くから出勤してもらった上に、こんな事まで対応してもらって、 いやほんとうにご苦労様でした。新任ながら、なかなか落ち着いておられましたな。」
「いえいえ、小学生の女の子でしたから、いつもと同じようなものですもの。 さすがに誘拐犯から逃げてきたと聞いた時には驚きましたけど、 恐い思いをして涙ぐんでる女の子はみんな一緒です」
「そりゃまあそうですな。…ほぉ、あんな住宅地の真ん中の公園で誘拐ですか。恐いですなぁ」
「それに警察の方がすぐに来られましたから。 少し抱いて慰めてあげて、トイレに連れていったくらいです。 どちらかというと、取材の方が大変でした」
「私だって、児童や保護者何百人相手に話す事はあっても、あの雰囲気は初めてだなぁ」
「あらまあ、やっぱりあの階段を通って…真夜中にあそこはちょっと…」
「うむ……あそこで肝試しでもやりますか?」
「え?」
「いや、どうせ私たちが横から監視してるって子供達も分かっての上ですから、 あの子の恐怖とは比べ物にはならんでしょうが、いい体験だと思いますよ」
「ええ、そうですねぇ。3、4年生くらいですね」
「私が小学生の時は森の奥の神社でやったもんですが、今は工場地帯の真ん中か。 違うようで同じかも知れませんな」
「……」
「……正門、結構汚れてるな。塗り直さなきゃ」
「いつも見ている所でも、テレビで見ると違いますね」
「昼間は学校内にいるからね」
「あの子か。うちの児童と変わらんような子だなぁ。あんな子が連れ去られたのか…」
「ま、無事に横浜まで帰れたみたいだな」
「うん、うん」
「さて、書類の決裁でもやるか……え?なんだって?」
「え?24歳の男子大学生?」
「…沢田先生、あの子、24歳の男子大学生に見えました?」
「え…フリルの服に赤いスカートにピンクのカーディガンでしたから …って、あれは犯人に着せられたんですよねぇ …色の黒い大きな、ちょっとボーイッシュな子だなとは思いましたけど、 そう言われると…泣いてたから抱いてあげ…児童用のトイレまで手を引いて ……えっと、あの子、私より年上の男の人だった、のかしら…」


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