「誘拐」11a/西山田小学校校庭

「あ、裕子ちゃんだあー。テレビ見たよ〜」
「あー恥ずかしい、もうちょっときれいに写してくれてもいいのに〜。やだなー」
「裕子ちゃん、ゆうめいじんだ〜。テレビに出れていいなー」
「えー、恐い顔の大人の人何十人にも囲まれて、やだったよ」
「へー、そうなんだー」
「児童公園に行ったら、すぐに大人の人がわーって集まってきちゃった。 ちょっと答えて、すぐにうちに帰っちゃったよ。 さっき児童公園見てきたらまだ人がいっぱいいたから、こっちに来たの」
「うん、私もさっき見た」
「夏休みもあとちょっとなのに、あそこで遊べないのってヤだ」
「ねー。でも誘拐現場って本当に見たの?」
「見たよ。びっくりしちゃった、もう。目の前にいた女の子が、こーんな風に抱きかかえられて」
「でも女の子じゃないって話だけど。大学生の男の人だって」
「違うよー、私より小さかったんだよ。大学生のはずないよ。私より絶対年下だよ」
「でもテレビではそう言ってたよ」
「そんなの変だよ、あんなちっちゃくて、女の人にさらわれたんだよ? どこの小学校か聞いたら『山田小学校』って答えたんだよ? それに、テレビに写った時にはヒラヒラのブラウス着てたじゃない。あの子だよ?」
「そうだよね、あの子が大学生で男の人だなんて、それは変だよね。 でもあの服は無理矢理着せられたって言ってたから、小学生の男の子かも知れないよ」
「んー、顔見て女の子だと思ったけど、そういえばジーパンはいてた」
「この近くの子なんでしょ?また会ったら聞いてみようよ」
「うん、絶対聞く」
「でも裕子ちゃんがさらわれなくて良かったよね。 誰もいない山の中に置き去りにされちゃうなんて」
「うん、私だってきっと恐いのに、 私よりちっちゃくて気の弱そうな子だったからすごく恐かったはず」
「かわいそうだよね」


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