久美ちゃんの部屋で、二人それぞれ宿題をした。小学生の女の子と二人だけで宿題を やってるなんて、なんだか変な感じ。宿題をしながらちらっと視線を上にあげると、 背の高い小学生の女子が椅子に座っていて、本棚には少女漫画っぽい背表紙が見えて、 目の前には女の子用の小物があって、僕は小学生女子のお下がりを着て、可愛らしい 用紙で宿題をやって。自分が本当に久美ちゃんの妹、小学生の女の子のように思えて くる。自分がやってる宿題の中身にだけ、ちょっと違和感を感じる。もしこれが 漢字の書き取りだったり分数の計算だったりしたら。僕は本当に小学生の女の子に なって、西山田小学校に通う事になるんだろうか。 そんな事を考えながら、絵の入った鉛筆と花柄の定規で線を引いて表を作っている うちに、宿題が終わってしまった。宿題が終わったら、明日の朝まで大学生らしい 事は何もしない、のかな。 「二人とも、御飯だよ」 ドアが開いて、お姉さんの声が聞こえた。ドアの方を見ると、もう制服ではなく、 セーターとスカートという姿だった。 「はーい。透くん、行こう」 「はい…」 3人で1階に降りて、テーブルについた。 「お父さんは?今日も帰れないの?」 「帰れない事はないみたいだけど、ちょっと遅くなりそう」 「ふーん。じゃあ今日も女ばかり4人だね」 今日も『女ばかり』と言われた。お姉さんももう知ってるはずなのに。でも久美ちゃん のお下がりの服を着ていたら、反論するのも恥ずかしい。 「お母さんはお父さんが帰って来てから食べるから、3人で先に食べてなさい」 「はーい」 「いただきます」 「いただきまーす」 「い、いただきます…」 3人で同じテーブルを囲んで一緒に食べていると、ますます3人姉妹という気分に なる。一番背が低くて、一番幼い服を着ている僕がもちろん末っ子。 制服姿のお姉さんは高校生という感じがして大人に見えたけど、私服だと高校生と いうよりも、もう大人の女性に見える。僕が高校生の時には、同じ歳くらいの女子の 私服姿なんてほとんど見なかったから、これが普通なのかどうか良く分からない。 でも大学にいたって不思議じゃないくらいに大人に見える。高校生でもこんなに 大人の女性なんだから、僕が小学生扱いされても仕方ないように思えてくる。 そんな大人のお姉さんを見てドキドキしながら、サラダを食べる。 「ほらー、ちゃんとサラダを食べなさい、久美」 「えー、ニンジンきらーい」 「透くんはニンジン食べてるよ」 「えー」 二人が僕の方を見た。ちょうどニンジンを食べている最中だった。 「うーん…分かったよ」 仕方なく、という顔でサラダを食べ始めた。一口目はニンジンを避けたような 食べ方だったけど、二口目はニンジンが入っていたみたいで、顔をしかめた。 何か言いたそうだったけど、我慢して口を動かしている。 「透くんがいると、久美も頑張ってお姉さんになるよね。来年はもう中学生だし」 「うー」 久美ちゃんは何か不満そうだけど、何も言わない。妹の僕がいるから、お姉さんに なるために頑張ってる。僕のためにお姉さんになろうと頑張ってる。久美ちゃんは 妹の僕がいて喜んでくれてるんだから、僕は久美ちゃんのために妹でいた方がいい のかな、そんな気持ちになってきた。お姉さんだって、お母さんだって喜んでるし。 先生よりも年上の僕が小学生扱いされるなんて恥ずかしいけど、みんながこうして 嬉しそうにしていると、僕もちょっと嬉しいし。でも、僕のせいで久美ちゃんが 無理してニンジンを食べているような気もして、ちょっと心が痛む。僕があまりに 大人ぶった事をしていると、久美ちゃんが無理をしそうで申し訳ない。もう少し、 ほどほどに、子供っぽくした方がいいかな。 晩御飯を食べ終わって。 「ごちそうさまー。さて、透くん。お風呂に入ろうか」 久美ちゃんが立ち上がった。 「え、あ、うん…」 「昨日は入ってないんだし。ほら一緒に入ろう」 そう言われて驚いた。 「え?一緒に入るんですか?」 さすがにそれはちょっと。 「そうだよ、一緒にはいろー」 上級生とはいえ女子と一緒にお風呂に入るなんて、なんだか悪い事をするような 気持ちになってしまった。あれ、違った、僕の方が年上だった。いつの間にか 久美ちゃんが本当に姉のように思ってしまっていた。でも、本当は年上とはいえ、 僕はもう妹扱いなんだから、一緒に入ってもいいのかもしれない。あれ、妹なら 女同士だから問題ないのかな。いや、それもちょっと違う。 「一緒にはいろー」 久美ちゃんは一緒に入りたそうにしている。やっぱり妹と一緒にお風呂に入りたい、 と思ってるんだろうな。一緒に入ってあげた方がいいのかな、と思わなくもない けど、さすがにちょっと。と思ってお姉さんの方に目を向ける。 「久美、私と一緒に入る?」 お姉さんがそう言いだした。 「えー、なんで今更お姉ちゃんと一緒に入らなきゃいけないの?私とお姉ちゃん じゃ、あのお風呂は狭い過ぎるよ」 「透くんももう大きいじゃない。5年生でしょ?」 5年生と言われちゃった。仕方ないと思いつつも、ちょっと胸が締めつけられる。 「久美は5年生の時に私と一緒に入ってくれた?」 「うーん。確かに狭いかなー。うーん」 お姉さんに言われて、あきらめかけているようだ。一緒に入りたいって顔をしている 久美ちゃんに悪い事をしたような気持ちになるけど、でもさすがにこれは。 「じゃあそのうち、3人で温泉に行こう」 「うん、それがいい!3人で一緒に広いお風呂に入ろうね」 久美ちゃんが僕の方を見てそう言った。余計に大変な事になった気もするけど、 でも嬉しそうな久美ちゃんを見てると、嫌と言えなくなってしまう。 「あの、はい、広いお風呂なら…」 「じゃあ先にお風呂に入って。私が下着とパジャマを持っていくから」 やっぱり下着はお下がりを着せられるんだ。 ようやくお風呂に入って体を洗う。お風呂場に一人だけ、小学生のお下がりの服も 脱いで、少し静かで落ち着く。今日は小学生の女子の服をずっと着ていたから、 どうしても自分が小学生になった気分になってしまっていたけど、裸になれば ……僕が裸になってもあまり変わらないか。お姉さんは制服から私服に着替えたら 大人っぽく見えたけど、僕は小学生っぽい服を着てなくても誘拐犯から小学生だと 思われちゃったし。それに僕一人だけのこのお風呂場も、久美ちゃんちのお風呂で。 久美ちゃんちの中では、僕はやっぱり小学生の女の子なんだ、そういう気分が 抜けない。だって。 「下着とパジャマをここに置くね」 「はい…」 この家にいると、三人姉妹の末っ子みたいに扱われているというのが分かっちゃう。 裸でいても、女の子のお下がりを着てても、あまり変わらないや。長くお風呂に 入ってても指がふやけて気持ち悪いだけし、もうあがっちゃおう。 お風呂場の戸を開けた。 「よし、あがったね」 久美ちゃんが立っていた。裸のまま久美ちゃんの前に立ってしまった。僕の体の 全部を久美ちゃんに見られて、恥ずかしくなる。 「えっと、あの、待ってたんですか?」 「そうだよー。ほら、拭いてあげるから」 抱きつくようにバスタオルで体を包まれる。久美ちゃんはちゃんと服を着てて、 その前で素っ裸の僕が立ってて、背の高い久美ちゃんにバスタオルごしに抱かれて。 本当に僕が小さな子みたい。久美ちゃんよりもずっと年下の妹みたい。 頭を拭いてもらって、顔を拭いてもらって。久美ちゃんがすごくお姉さんに思えて しまう。そして足まで拭いてもらって、もう一度、素っ裸の僕の全身を久美ちゃんに 見られて。小さな子供のように扱われて恥ずかしいと思ったけど、姉のような 久美ちゃんにそうされるのなら、それほど恥ずかしい事でもないような、そんな気も してきた。 「ほら、下着だよ」 久美ちゃんからパンツを受け取る。これも久美ちゃんが使っていた物なんだろうな。 久美ちゃんのお下がりという事は、久美ちゃんが今はいているパンツよりも子供な パンツなわけで、そんな物をはくのは恥ずかしく思える。でも、僕よりもお姉さんの 大人の久美ちゃんが使っていた物だと思うと、自分もちょっと大人になれるような 気もして、ちょっと嬉しいかも。そう思いながら久美ちゃんの目の前でパンツを はいた。 「ほら、次はこれを着て」 嬉しそうな顔の久美ちゃんが肌着を渡してくれた。小さなフリルやリボンがついた 下着だけど、下着だから普段は見えないんだし、仲良くしてくれる久美ちゃんが 使っていた物だし、いいかな。そんな事を思いながら、久美ちゃんの目の前で着た。 これって1年くらい前の久美ちゃんと同じ下着姿なんだろうな、と思うと、 ちょっと嬉しくなる。そしてネグリジェを受け取って、それを着る。昨日着た時は かなり恥ずかしかったけど、もう2回目で慣れたかも。妹扱いされる事にも、 自分が妹だって思う事にも、慣れてきたのかも。 「じゃあ私、次に入るから。ちゃんと歯磨きしなさいよ」 「はい」 そう言われて歯磨きをしようとしたら、久美ちゃんが脱ぎ始めた。 「あの、もう脱いじゃうんですか?」 「そうだよ」 そう言いながらどんどん脱いでいく。僕は恥ずかしくて、久美ちゃんに背中を 向けて、アニメの絵の入った歯ブラシを手に持って歯磨きを始めた。 久美ちゃんがさっさと脱いでお風呂に入った後に、僕の歯磨きが終わり、一人で 廊下に出て階段を登って2階に上がる。やっぱりネグリジェで廊下を歩くのは 恥ずかしいかな。 「あ、お風呂あがったんだ」 階段を登り切ったら、お姉さんがいた。 「あ、はい…」 ネグリジェ姿をお姉さんに見られた。昨日も見られたけど、久美ちゃん以外は やっぱり恥ずかしい。でもこの家では僕は妹扱いだから、仕方ないんだろうな。 「ちょっと通るから。ごめんね」 そんなに広くない廊下で、お姉さんは僕の横を通り抜けようとする。 「は、はい…」 お姉さんが通れるように、僕も壁に貼り付いたけど、それでもネグリジェを着た僕と お姉さんの体が触れ合う、というか押し付け合う。大きくて大人なお姉さんが体を 押し付けて僕の前を通るのを見て、ドキドキする。 「ありがとう」 僕の横を通り抜けたお姉さんは、そう言って階段を降りて行った。そういえば 僕が着ているネグリジェについては何も言わなかった。昨日も見てるし、僕が ネグリジェを着ている事なんて、もう普通の事になっちゃったのかな。 久美ちゃんの部屋に入って、机の前に座る。やり終わった宿題を机の上から取り、 カバンに入れる。ついでにカバンの中を見て、明日の授業で使う教科書を確認。 女の子の部屋でネグリジェを着たまま明日の準備をしている自分が、ますます 幼い小学生の女の子のように思えてくる。でも明日の準備をしない訳にもいかない。 カバンの中を確かめてフタをして、少しぼーっとしていたら、久美ちゃんが部屋に 戻って来た。 「透くん、何してた?」 「宿題をカバンにしまって、明日の教科書を確認して」 「あー、私まだ宿題が終わってない。早く済ませなきゃ」 久美ちゃんは机に向かって宿題をやり始めた。僕はもうやる事がないけど、こうして 小学生の女子の部屋に座り込んで周りを見回しているだけで、ちょっとドキドキする というか、落ち着かないってほどでもないけど、退屈はしない。 「あーん、これ難しいよー」 久美ちゃんがそう言って、頭を抱えた。 「これ難しいよ…」 久美ちゃんが僕の方をちらっと見た。 「…そうだ、透くん、この宿題をやってくれる?」 手伝ってほしい、って事だろうか?僕は大学生だし、小学生の宿題なら多分できると 思うけど。でも僕が久美ちゃんの宿題を手伝っていいのかな?人に手伝ってもらう なんて、久美ちゃんのためにならないし……なんて言ったら、なんだか大人みたい。 なんだか僕が言っちゃいけないような気もする。かと言って手伝うのもどうかと。 なんて言おう? 「あの、えっと……僕、5年生だし…」 ふと思いついて、そう言った。すごくいい言い訳のように思えた。けど。 「そうか。そうだね。無理な事言ってごめんね」 久美ちゃんは納得してくれた。そういう意味では確かにいい言い訳だった。 でも、自分で自分を小学5年生だと言ってしまった。確かにこの家の人はみんな 僕を小さな子のように扱うけど、自分で言ってしまうと自分で認めたように思える。 自分が小学5年生になってもいい、なりたい、そう言ったように思えてくる。 もしかして僕って本当はそう思ってるのかな。自分でも分からなくなってきた。 「そうだ透くん、お姉ちゃんから国語辞典を借りてきてくれないかな?」 久美ちゃんがまた僕の方を見て、そう言った。『宿題を手伝って』というのを、 自分自身としては変な言い訳で断ったような気がしていたから、辞書を借りてくる くらいはやらなきゃ、そんな気持ちになった。 「はい、それなら、僕でもできます」 辞書を借りてくるくらいの事なら小学5年生の僕でも出来ます、と言ってしまった ような気にもなったけど、とにかく辞書を借りるくらいの事はしよう。そう思い、 立ち上がって部屋から出た。 すぐ隣の部屋が確かお姉さんの部屋のはず。でもお姉さんの部屋の中を見るのは 初めてだった。そう思ったらドキドキしてきた。高校生とはいえあんな大人の 女の人の部屋を見るなんて。でも久美ちゃんに早く辞書を持っていってあげなきゃ いけないから、ゆっくりしてられない。勇気を出して、ノックをする。 「はーい」 すぐにドアが開いた。お姉さんは手にパジャマを持っていた。お風呂に入ろうと してたんだろうか。 「何かな?」 お姉さんの顔がすごく近い。さっき廊下ですれ違った時とは違って、真正面で顔を 向き合わせて話すから、さらに近く感じて、ドキドキする。 「あ、あの、久美ちゃんが、国語辞典を借りてきてほしい、って」 「久美に使いっぱしりにされたの?」 「え?えっと…」 僕は久美ちゃんのお願いを一つ断っちゃったから、他の事で久美ちゃんの役に立とう と思っただけなんだけど、でも他の人から見たらそう見えるかも。 「…そうかも…」 小学生に使いっぱしりさせられた、そう思ったらすごく恥ずかしくなってきた。 目の前にいるお姉さんにそれを指摘された事が余計に恥ずかしい。 「妹を使いっぱしりさせるなんて、そんなところまでお姉さんぶっちゃって。 しょうがない子ね。ちょっと待ってて」 お姉さんは部屋の奥の机に行き、本棚を探し始めて、すぐに厚い本を一冊取り、 こちらに戻って来た。少しの時間しか見れなかったけど、お姉さんの部屋は、 久美ちゃんの部屋みたいに赤やピンクの物がある訳じゃない、それでも大人の 女の人の部屋だという事がなんとなく思った。 「はい、これね」 「あ、ありがとうございます」 国語辞典を受け取り、急いで久美ちゃんの部屋に戻った。 「あの、お姉さんから借りてきました」 久美ちゃんに国語辞典を渡す。 「ありがとう、透くん」 久美ちゃんが嬉しそうな顔をした。こんな事で喜んでくれるなんて。やっぱり僕は 子供扱いされてるんだ。でもこの程度の事でも喜んでもらえると嬉しい。 お姉さんには使いっぱしりと言われたけど、久美ちゃんならいいかな、と思った。 優しく妹扱いしてくれる久美ちゃんなら。そんな嬉しい気持ちで床に座って、 宿題をやってる久美ちゃんを見ていた。僕が借りてきた辞典を見ながら宿題を やっているのを眺めているのも嬉しい。でも宿題が進んだようで、辞典を使わなく なった。 ちょっと退屈し始めて、ふと机の上を見たら、算数の教科書が置いてあった。 晩ご飯の前には置いてなかったけど、僕がお風呂に入っている間に置いたのかな。 なんとなく手に取って開いてみた。分数のかけ算のページだった。小学校の教科書 って感じがする。次に開いたページは、文字を使った式。あれ、これって小学校で 習ったかな?中学校で習ったような。僕が小学6年だった時と違うのかな。 次に開いたページは、全然覚えのない事が書いてあった。あれ?これって小学校の 教科書のはず。だって分数のかけ算があったし。良く分からない。 「6年生の教科書を見てたんだ」 声がしたので顔をあげると、久美ちゃんが小さな机の向かい側に座っていた。 宿題が終わってカバンにしまっているようだ。 「6年生の教科書は、難しくて分からないんじゃない?」 そう尋ねられて、ちょっとドキっとした。そして。 「えっと……はい」 そう答えてしまった。わざと子供っぽくするためにそう答えたんじゃなくて、 本当に初めて見るから分からない、だからそう答えてしまった。 「そうか。でもそのうちに習うよ」 久美ちゃんがそう言ってにっこり笑った。久美ちゃんは、僕の事をオバカな子供 だと思ったんだろうか。まだ5年生だから分からなくて当たり前、可愛いね、 くらいに思ったんだろうか。6年生の自分はもう習ってるんだよ、と自慢げに 思ったんだろうか。本当は大学生の僕がそんな事を言われて、ちょっとみじめに 思えたけど、でもこの家では小学5年生の僕には、久美ちゃんがお姉さんに見えた。 両方とも本当にそう思うんだけど、でも目の前に久美ちゃんがいるから、こんな お姉さんがいて嬉しいな、という気持ちが強いかも。 「さて、寝ようか」 「はい」 小さな机を横にやって、お布団を広げる。 「あ、あの、久美ちゃんは今日もこのお布団で寝るんですか?」 ベッドがあるのに、と思ってしまった。 「私と一緒じゃ嫌?」 「別に嫌じゃないです」 「じゃあ一緒に寝よう」 結局昨日と同じ、久美ちゃんに抱かれて寝る事になってしまった。でもお姉ちゃんに 抱かれて寝るみたいで気持ちいいかも。今日は朝から夜まで、久美ちゃんのお下がり の服を着て、何度も小学生と思われて、ずっと小学生のように扱われて、自分が 本当に小学生になったような気分になって、すごく恥ずかしい思いをしたけど、 でもこうして久美ちゃんに抱かれていると、それで良かったような気もしてきた。 僕に優しくしてくれる久美ちゃんと一緒に眠れるなんて。あ、そうだ。 「あの、久美ちゃん」 「なに?」 「僕は久美ちゃんにたくさんお礼をいなわきゃいけないって、今日言われたんです」 「たくさんって?」 「僕が誘拐された時に、警察に通報してくれて。昨日は突然西山田小学校に連れて 来られた僕と仲良くしてくれて。この家に、この部屋に泊めてくれて。今日も泊めて くれて。すごく優しくしてくれて。すごく可愛がってくれて。すごくたくさん、 ありがとうございます」 眠くて、なんだか変な事を言ってるような気もしてきた。 「別にいいよー。誘拐されるのを見て、すごくびっくりして、すごく心配したから、 こうして抱いてるだけで嬉しいんだよ。だからお礼なんていらないよー」 「心配してくれて、ありがとうございます…」 本当にお姉さんみたいに僕の事を心配してくれてたんだ。妹になれた事がすごく 嬉しくなってきた。