3人で川を渡り、山田3丁目まで来た。距離で言えばそんなに離れてはいない。 でもここは隣の小学校の校区で、道を歩いている他の小学生は全然別の方向に 向かっている。小学生が隣の小学校の校区まで朝からついて来たというか、 僕が連れて着ちゃったというか、なんだか悪い事をしているような気がしてくる。 そんな事を考えていたら下宿の建物が見えてきた。 「ここに住んでるの?」 「はい…」 「そんなに遠くないね」 「ここに一人で住んでるの?」 「はい…」 「朝は一人で起きられるの?起こしに来ようか?」 「ちゃんと起きれますから、そんな事をしなくても…」 男子大学生が、小学生の女子に一人暮らしの下宿まで起こしに来てもらうなんて。 そもそも小学生女子を下宿の中に連れ込む事がなんだか悪い事のように思えてくる。 「でも朝ごはんはちゃんと食べてるの?何を食べてるの?」 それはちょっと返事に困ってしまう。 「えっと、ご飯の時とパンの時があるけど、あとはソーセージとか、あと…」 「お野菜は?」 「えと、あまり…食べない…かも…」 「ダーメーだーよー。私が作ってあげよう」 お姉さん口調でそんな事を言われると、男子大学生の下宿に小学生女子が来ると いうよりも、お姉さん達が子供っぽい僕の様子を見に来るように思えてくる。 「久美ちゃん、作れるの?」 「うーん、朝食くらいなら」 「あ、あの、部屋はすごく狭いし、だから朝はちょっとだけ食べて、学校に着いてから もう少し食べてるから…」 お姉さんぶって僕の様子を見に来ると言っても、小学生女子である事は変わらないし、 僕を小学生女子扱いにしても、小学生女子3人だけでアパートの部屋にいるのは なんだか問題があるような気もする。やっぱり来られると困るので言い訳してみた。 狭いのは本当だけど。 「そんなに狭いの?」 「久美ちゃんの部屋の方がずっと大きい」 「へえ。それじゃあもう私んちの子になって、私の部屋で一緒に寝て、私のうちで 朝ごはん食べればいいよ。歯ブラシもあるし」 「それは…ちょっと」 「久美ちゃんが独り占めするの?ずっるーい」 そんな事を話していたら、下宿の階段まで着いた。 「えっと、それじゃあ、今日の分の教科書を取って、昨日の分の教科書を……あ」 急に思い出した。 「どうかしたの?」 「昨日着ていた服、久美ちゃんの家に置きっぱなしだった」 「そんなの、いつでも取りにくればいいじゃない。家も近いし、登下校の時に近くを 通るし。お母さんが洗濯してると思うよ」 歯ブラシも服もあっちにあるなんて、本当に僕はあの家の子になっちゃいそうだ。 「う、うん…じゃあ教科書を取ってくる…」 一人で階段を登って自分の部屋の前まで行き、カギを開けて中に入る。 恐る恐る部屋の中を見るけど、単に停電や断水があっただけだから何もない。 電灯をつけてみる。電気はもう使えるようだ。カバンの中の教科書を入れ替える。 ふと部屋の周りを見回すと、結構散らかっていた。あの二人がこれを見たら、 『掃除する!』とか言ってさらに散らかしそうな気がしてくる。 外で二人を待たせているから早く戻ろう、と思ったけど、念のために水道の蛇口を回し たら、茶色に濁った水が出てきた。少し待っても濁ったまま。ガスも試したら、 火が付かなかった。ガスは何かあったらメーターの所で自動で止まるらしいから そのせいかも知れないけど、水道が使えないのならご飯もお風呂もトイレも無理だ。 じゃあ今日も久美ちゃんちの子にならなきゃいけないのかな。そっちの方が楽かな、 と一瞬思ってしまった。 二人が待っている階段の下に向かうと、下宿の管理人のおばさんが二人と話していた。 「あらまあ、あなた達が110番したの。慌てなかった?」 「児童公園で誘拐があった、だけで110番の人は分かったみたいだから」 「それは偉いわね」 「あ、戻って来た」 階段を降りる足音を立てたら、3人がこっちを見た。 「おやまあ、今日は随分と可愛い服を着てるわね。あの事件以来おっさんみたいな服を 着なくなって可愛くなったと思ったけど、そういう服を着ているとちゃんと小学生に 見えるもんだねぇ」 大学に入学した時から毎日のようにあってるおばさんに、こんな服装を見られて、 そんな事を言われて、いたたまれなくなる。それに『ちゃんと』ってなんだ。 「そうそう、あの時にもらった服があるじゃないの。ああいうを着ればもっと女の子 らしいのに」 「あの時にもらった服?」 「ほら、あれじゃない?透くんが無理やり着替えさせられて、その時に服を捨てられた から、元々犯人に狙われていた方の子がお詫びという事でくれたっていう服」 「ああ、テレビで見た。そういうのがあった。あの時にもらったのって服だったんだ。 そういうのもらってたんだ。じゃあ着てみせてよ」 「う、うん…」 夜遅くまで小学校の中で一緒に過ごし、家に一晩泊めてもらって、妹扱いされて、 一緒のお布団で寝た子にそう言われたら、着てみせてもいいかな、とちょっとだけ 思った。けど。 「私にも見せて欲しいねえ」 このおばさんやここに住んでる大学生に見られるのかと思うと、すごく恥ずかしい。 見るのはせめて小学生だけにして。 「透くんとは一緒に集団登校するので、安心してくださいね」 「こんなしっかりしたお姉さん達と一緒なら安心だね。誘拐された時に110番して くれたお姉さん達なんだから」 おばさんにまでこの二人の下級生扱いをされてしまった。 「それじゃいってきまーす」 「いってらっしゃい」 3人で今来た道を戻る。小学生が一緒について来たのをおばさんに見られたのも 恥ずかしいけど、きっとおばさんが二人の顔を覚えただろうから、僕の仲良しと いう事で安心して、追い返すどころか僕の部屋に入れちゃうかも。どうしよう。 川を渡って西山田の方に戻ると、川沿いにあるゴミステーションの周りに 小学生が十人くらい集まっていた。小さな子から大きな子まで、いろんな学年の子が いる。こんな時間になんだろう。こんな時間なら……もしかして集団登校? なんとなく久美ちゃん裕子ちゃんと並んで歩いていたから、気付いた時には小学生の 集まりの真ん中まで来ていた。僕は小学生の集団登校の中に入ってしまっていた。 「伊藤さんと倉本さんが来たわね」 背は小さいけどなぜだか6年生だと分かる女子が、僕たちの方を見てそう言った。 「班長さーん、来ましたよー」 久美ちゃんが答えた。班長さんにしっかりと顔を見られた。いまさら逃げられない。 どうしよう。 「念のために数えようか。1、2、3、4…」 集まっている小学生を数え始めた。4人目で僕が指さされたような気がして ドキっとした。僕は西山田小の子じゃないのに、そもそも小学生じゃないのに、 小学生の集団登校の班に勝手に入り込んで、数えられて。なんだか悪い事を しちゃったような気持ちになってきた。 「…あれ?一人多い?」 僕も数に入れたら、一人多くて当たり前だ。気付かれたらどうしよう。あの6年生の 班長さんに怒られるような気がしてきた。 「あれ?転校生でもいるの?」 そういいながら、もう一回、一人一人の顔を確認しながらゆっくり数え始めた。 今度こそ気付かれる。僕は小学6年生のお姉さんに怒られるんだとビクビクした。 でも班長さんは、僕を4人目で3秒指さした後に、何も言われなかった。 「あれ?全員いるよね。あれれ?人数を間違って覚えてたのかな?」 よく分からないけど、数に数えられているのに気付かれていない。 「とりあえず全員いるからいいか。はーい、みんな並んで。登校しますよー」 「はーい」 小学生が、班長さんを除いて大体身長の順に並んだ。一番大きな久美ちゃんは 最後尾だ。 「透くんは私の前だね」 なんだか分からないまま、裕子ちゃんに肩を押されて、僕は小学生の列に並んで しまった。僕はこのまま、小学生の集団登校に混じって登校しなきゃいけないのか。 もしかしたら西山田小学校に通わないといけなくなったんだろうか。そんなはずは ないと思いつつ、なんとなくそんな気持ちになってきた。 僕は裕子ちゃんよりも大きいけど、裕子ちゃんに押されて裕子ちゃんの前にきた。 でもよく見ると、この列は身長の順ではなくて学年の順らしい。という事は、 僕はやっぱり二人よりも下級生、5年生という扱いなのか。 全員が並び終えて、班長さんの後について列が動き出した。僕は本当に小学生の 集団登校に混じって歩いてしまった。僕は本当に小学生扱いされちゃってるんだ。 いや、もしかしたら本当に小学生になっちゃったのかな。 登校の列が進む途中、サラリーマンや高校生とすれ違う。歩く方向が違うから すれ違うのは一瞬だけど、小学生の列に混じっている僕の姿をいろんな人に 見られるのが恥ずかしい。中学生や高校生は僕よりも年下なのに、そんな人たちに 小学生に混じっている僕の姿を見られるなんて。本当にみじめだ。 さらに先に進んだら、玄関先を掃除しているおばさんがいた。 「みんなおはよう。いってらっしゃい」 「おはようございまーす」 「おはようございまーす」 小学生のみんながおばさんにあいさつをし始めた。 「おはようございまーす」 僕のすぐ前にいる子も、僕のすぐ後ろにいる裕子ちゃんも、あいさつをした。 やっぱり僕もしないと変に見えるんだろうか。あいさつをしない悪い子に見える んだろうか。じゃあ僕もしないと。 「お、おはようございま…す」 他の子に比べたらずっと小さな声であいさつをした。でも他の小学生よりも小さな声 だった事がなんだか恥ずかしく思えてきた。大きな声であいさつだなん、て本当に 小学生になったみたいで嫌だけど、他の子よりも小さな声であいさつするのも 恥ずかしい。どうしよう。 そんな事を思っていたら、大きな道が見えてきた。昨日の夜ほど物々しくはないけど、 工事用の車両が見えて、道路で何やら工事をしている。横断歩道の手前には黄色の旗を 持ったおばさんが立っていた。 「おはよう」 「おはようございまーす」 みんながあいさつを始めた。今度は僕もみんなと同じくらいの声で。 「おはようございまーす」 「はい、みんなおはよう」 本当に小学生になったような気持ちになるけど、変に思われない分だけマシか。 恥ずかしいけど、ここを通り過ぎちゃえばいいんだし。 と思った時に、急にみんなが立ち止った。前を見たら赤信号だった。黄色の旗を 持ったおばさんのちょうど目の前で止まってしまった。おばさんにじろじろ見られて いるような気分になって、すごく居心地が悪い。横目でおばさんを見たら、 僕の方ではなくて他の子を見ているようで、ちょっとほっとした。でもよく見ると 前から順番に見ているようだ。という事は。 「あら、あなたは夏休みに間違われて誘拐された子だったわよね?」 このおばさん、僕の顔を知っていた。僕が小学生の集団登校の列に混じっているのを、 僕の事を知ってる人に見られている。大学生男子がこんな事をしてるのを見たら なんと言われるだろう。恐くてドキドキしてきた。 「大変だったわね。もう落ち着いた?なんともない?」 「は、はい。もう全然なんともありません」 「そう、良かったわね。今日も元気に勉強してきなさい」 色々心配してくれているようだ。それはそれでありがたいけど、おばさんの口調が 小学生相手のように思える。ショッキングな事件に巻き込まれた子供を思いやって いるような口調。僕って可哀想な子供に見えるのかな。僕って可哀想な子供なのかな。 人から言われると、自分でもそう思えてしまう。 「でもあなたって、この登校班だったのね。今まで気付かなかったわ」 このおばさん、僕の顔は覚えてたけど、僕が西山田小学校の子じゃなくて、そもそも 小学生でもない、という事までは覚えてないようだ。西山田小学校の集団登校の列に 並んでいるから西山田小学校の子だと思ったのだろう。誤解を解きたい気持ちもある けど、でも西山田小学校の集団登校の列に並んでいる今、本当の事をいうのはさすがに 無理がある。むしろ大学生だとばれてないだけマシなのかも。ここは適当に誤魔化して おこう。 「あの、そ、そうな…」 「透くんは、西山田の子じゃないんですー」 後ろの裕子ちゃんがしゃべりだした。 「でも一緒の方向だし、一人じゃ危ないから、一緒に登校した方がいいと思って」 ほとんど全部言ってしまった。 「ああ、そうだったの。そういえばそうだったわね。思い出したわ。TD大学の 男子大学生だったわね。大学生なのに小学校の集団登校と一緒に登校してるの?」 完全に思い出してしまったようだ。僕が男子大学生だと知られた上で、小学生の列に 並んでいるところを見られている。こんな恥ずかしい思いをするなんて。僕の方を じっと見ている視線が痛い。 「えっと、その…そういうことに…」 すごく恥ずかしいけど、答えない訳にはいかない。 「でも二十歳くらいの女性に誘拐されちゃうような子だから、他の小学生と 一緒に登校しないと危ないわよね」 またそれを言われてしまった。 「そもそも、この集団登校はあなたが誘拐された後に始まったんだから」 「そうだったんですか?」 僕のせいでこの集団登校が始まっただなんて。ちょっと申し訳ない気持ちになる。 「誘拐されちゃうような子が参加しないと意味がないわ。あなたみたいに誘拐される 危険がある子を守るための集団登校なんだから、あなたが一緒に登校するのが むしろ当然ね」 僕が小学生の列に混じってても問題ない、混じりなさい、みたいな言い方だ。 つまり堂々と集団登校に参加しても問題ない、という意味だけど、それでもやっぱり 恥ずかしくてドキドキする。大学生男子の僕が小学生女子に囲まれて登校するのを、 大人に知られて認めてもらった上でやっている。僕を小学生扱いする事で町中の みんなが合意している。大学生とみんなに知られているのに、小学生扱いされる。 僕が子供っぽいせいだけど、これってすごくみじめだ。 「これからは、一人じゃなくて、みんなと一緒に登校するのよ」 「はい…」 「西山田に住んでるの?」 「いえ、山田3丁目の川に近い所で…」 「ああ、TD大学に行くのに西山田を通るから、この登校班なのね」 「えと、はい…」 「そうじゃなくて、私たちと仲良しだからでーす」 久美ちゃんが口を挟んできた。 「ああ、仲良しの子がいるのね。だったらなお良いわね」 小学生の仲良しがいるなんて事が町中に知れ渡ったら、ますます小学生扱いされ ちゃう。どうしよう。 そんな事を話してたら、信号が青になった。 「じゃあ気を付けて登校しなさい」 「はい…」 旗を持ったおばさんに誘導されて、列のまま横断歩道を進む。小学生に混じって 登校している姿を、信号停車している運転手さんにも見られているように感じて、 余計にドキドキする。 横断歩道を渡り終えて住宅街の中の道に入ると、すれ違う大人や高校生の数は減った。 でも他の地区の集団登校の列がやってきて、小学生の数は何倍にもなった。 こんなたくさんの小学生に囲まれて、その列の中に並んでいるなんて、ますます 小学生扱いされているのを感じてしまう。このままじゃ、知らないうちに小学校の 入ってしまいそうだ。どこでこの列を抜けよう。 「ねえねえ、君」 声をかけられて振り向くと、僕が並んでいる登校班の班長さんが僕の横にいた。 「あなた、夏休みに誘拐された子だったんだ。顔に見覚えがあるから、うちの班の子 だと思ってた。でも名前が思い出せないからおかしいな、とは思ったけど。 だから一人多かったんだ」 班長さんに自分の班の子だと思われてたなんて。 「座敷童ってこうやって増えるんだね」 小学生扱いどころか座敷童扱い…。 「5年生だったっけ?あれ、大学生だった?つまり大学5年生?」 大学5年生って別の意味になるんだけど。 「とりあえずうちの班は一人増えた、という事でいいんだね」 「えっと、あの、大学はいつも朝早くから授業がある訳じゃなくて、だからいつも 一緒に登校する訳じゃ…」 「あぶないよー、小さな子が一人で登校だなんて。さっきのおばさんもそう言ってた でしょ?」 久美ちゃんにそう言われてしまった。 「大学が遅く始まるのなら、早く行って待ってたっていいんでしょ?」 「そうですけど…」 「じゃあ、うちの登校班は一人増えた、という事だね。名前はなんだったっけ?」 「佐藤透です…」 「うん、分かった。これからよろしくね」 「よろしくお願いします…」 これから毎朝、小学生と一緒に登校する事になってしまった。 そんな事を話していたら、小学校の建物が見えてきた。校門には昨日と同じ先生が 立っていた。 「みなさんおはようござーまーす。昨日は大変だったけど、ちゃんと眠れましたか? 今日も元気に過ごしましょう!はーい、おはようございまーす」 横断歩道のおばさんや班長さんと話していたら、もう小学校の校門前まで来て しまった。どこで抜けようか悩んでしまう。 「はーい、おはよう。あれ?あなたは昨日の佐藤くん?」 先生に見つかってしまった。 「どうして小学生の登校班に並んでるの?」 「えっと、その…」 昨日何度も会って学生証まで見せた先生に、小学生みたいな服を着て小学生に 混じっているところを見られるなんて。 「昨日は山田3丁目が停電で帰れないので、うちに泊まっていったんですー。 だから今日も一緒に登校したんですー。だって一人だと危ないから」 「ああ、確かにそうかも。よその小学校の子と言っても、この町で誘拐されたのは あなたなんだから、気をつけないといけないわよね」 「だから明日から毎日、私たちと登校するんですー」 「それがいいわよねー」 僕を小学生扱いするのに合意した人がまた一人増えた。しかも学校の先生。 「これから毎日、私たちとこの小学校に通うんだよね」 「え?この小学校に通うの?私立はやめるの?でも遠くの小学校じゃ危ないから、 確かに親御さんも心配するよね」 「うん、そうだよね。明日から一緒にお勉強するんだ。あ、でも、5年生だから、 私たちと一緒にはお勉強しないか」 あれ?いつからそんな話になったんだ? 「5年生って、私たちのクラスですか?転校生なんですか?」 僕の目の前にいる、5年生くらいの子がそう言い始めた。 なんだかみんなに押し切られて、この学校に教室に放り込まれるような気がしてきた。 しかも今度は5年生の教室に。 「違います違います。僕は大学生なんですから、大学に通います」 必死に説明した。でも、自分が大学生だとこうして説明するのもなんだか面倒に なってきた。それに散々小学生扱いされて、いまさら自分が24歳だという事を 言うのも恥ずかしく思えてきた。 「なーんだ、残念。誘拐された時の話、明日の登校の時にでも私にも聞かせてね」 5年生の子にそんな事を言われてしまった。つまりこれって「明日の朝に会う」って 前提の話で。明日も僕は小学生と一緒に登校するんだ。 「…はい」 「そうだ佐藤くん、来週の木曜日は暇?」 「来週の木曜日…大学は文化祭です…僕は何もしませんけど…」 「それなら、私が担任をしている5年1組での社会科見学に参加しない?」 「え?社会科見学?」 「色々事情があって一人分空いてるのよ。4人一組でやる事があって、人数が合って ないと不便で。佐藤くんなら5年生に加わってもいいかなって」 「えー、佐々木先生、透くんを自分のクラスに連れ込むつもりですかー?」 先生が慌てだした。 「いや、そんなんじゃくて、小学生が、じゃなくてこんな小さな子が、文化祭だから って町をうろうろしてたら危ないでしょ?それなら、同じ学年のみんなと一緒に 社会科見学に参加した方が有意義だよね、と」 小学生というのを否定しておいて、『同じ学年』と言ってしまうあたり無茶苦茶。 「あーそうですね」 それでもみんな納得している。 「あとー、今度の木曜日の午後3時頃に、社会科見学の注意と事前勉強をするから、 それにも参加してくれると嬉しいかな」 「透くん、この小学校で勉強するんだね!じゃあその日は一緒に帰れるよ!」 「木曜日には1時間だけど、私達のクラスで一緒に授業を受けるのね。嬉しいな」 みんなに散々言われて、断れなくなってしまった。実際にその日は暇だし。 「あ、あの、今週の木曜日と来週の木曜日は参加します…」 「良かった」 「楽しみにしてるね」 「あ、あの、じゃあ僕は、大学に行くので」 「じゃあ、また明日の朝、会おうねー」 ようやく小学生の集団から離れられた。