早起き(4) 中学校の3年1組の教室にいる。自分の席に座っている。周りを見ると、同級生が おしゃべりをしている。立ってる人が多いから、まだ始業前だ。 僕はなぜか久美子さんの小学校の制服を着ている。しかも女子の制服だ。僕の周りに いる同級生は、当然この中学校の制服を着ている。僕だけがなぜか小学校の制服を 着ている。僕だけ違う制服なのは恥ずかしいっていうか、居心地が悪いけど、 でも僕だけが小学校の制服を着ている事は別におかしくない、なぜかそう思った。 制服のスカートなんて初めてだけど、でも当たり前のように思った。 周りのみんなは楽しそうにおしゃべりしてるのに、僕だけ話す相手がいなくて つまんない。そう思いながら、足をぶらぶらさせて、スカートから出ている自分の足を ながめる。 そんな事をしていたら、恵理子さんと静香さんが教室に入ってきた。 恵理子さんも静香さんも、懸巣川女学院の制服ではなく、なぜか僕の中学校の制服を 着ている。二人は周りの同級生とあいさつをしている。だって恵理子さんはこのクラス の学級委員長、静香さんは生徒会長だから。 「リンちゃん、おはよう」 「リンちゃん、おまたせ」 二人が僕に話しかけてきた。 「お姉ちゃん、おはようございます」 二人にあいさつをした。お姉ちゃんというのは、恵理子さんと静香さんのどっち だろう?あ、両方か。お姉ちゃんが二人もいて嬉しい。 二人に向かって頭を下げて、そして教室を出た。もう用事は済んだから。 3年の教室を出て、ちょっとホッとする。だって僕は中学3年生じゃないし。 上級生の教室にいるのはやっぱり緊張する。お姉ちゃんが来てくれてホッとした けれど、やっぱり上級生ばかりの教室は緊張するから、出来るだけ早く出たい。 3年生の教室がある3階から階段を駆け下りて、1階の教室に入る。 1階の教室には、小学校の制服を着ている子と、中学校の制服を着ている人が 半分ずつくらいいる。1階は、小学校と中学校がつながっていて、時々こうして 一緒に勉強をする教室。 教室に入ると、館川駅前で久美子さんを待っている時に見かけた男子小学生3人が いた。あの3人も同じクラスなのか。その後に見かけた女子もいる。あの人も 同じクラスなのか。 そこから教室の奥に行くと、そこには久美子さんがいた。久美子さんは小学校の 制服じゃなくて、うちの中学校の制服を着ている。だって久美子さんは中学生だし。 僕は小学生だから違う制服を着ている。でも中学生の久美子さんとは仲良しで、 こうして一緒におしゃべりをする。 小学生の僕が中学生と仲良しって、なんだかみんなよりちょっぴり大人になった気分。 「今度の土曜日、一緒にレインボーエンジェルを見ようよ」 久美子さんがそう言ってくれた。 「うん」 でもレインボーエンジェルを久美子さんの家で一緒に見るためには、かなり早起き しないとダメだ。そんなに早く起きられるかな? という夢を見た。 どうして恵理子さんと静香さんは懸巣川女学院の制服じゃなかったんだ? うちの中学校の生徒会長と学級委員長なんて、どうも今一つ。 どうせ夢の中なんだから、懸巣川女学院の生徒会長と学級委員長でいいのに。 でも僕の同級生達と自然に会話していて、すごく上級生に見えた。二人とも 中学3年生で全然おかしくない。それに二人ともお姉ちゃん。なんだか嬉しい。 僕は小学校の女子制服で中学校の教室にいて、それを同級生に見られてるなんて、 今考えるとすごく恥ずかしいけど、でも夢の中では当たり前に思えた。 だって僕は小学生女子だから。そこが今考えると恥ずかしいところだけど。 でも中学3年の教室から出たら、ちょっとホッとしたかな。 久美子さんのいる教室に行けるんだし。 小学生に囲まれているのはちょっと恥ずかしいけど、でも久美子さんが一緒だった から、そんなに気にならない。でも久美子さんは中学校の制服だった。 やっぱり久美子さんは上級生なんだ。レインボーエンジェルのクミさんと同じ。 でも学年が違うと、ずっと同じ教室じゃないのか。それはちょっと寂しいかも。 眠りから覚めて、でも眠たい中で、そんな事を思った。 夢の中で僕が着ていた久美子さんの小学校の制服、ちょっと着たくなったかも。 久美子さんが着ている制服だし、静香さんが去年着ていた制服だし。 僕も着てみたくなった。お姉ちゃんが着ていた小学校の制服を、僕だけ着てない だなんて、ちょっとイヤだ。うん。 そうだ。久美子さんに着せてってお願いすればいいんだ。身長は同じくらいだし。 今度あそびに行った時にお願いしてみよう。 今何時だろう……7時ちょっと前か。今日は土曜日だから、起きた方がいいかな? お姉ちゃんが起こしに来るかもしれないし。もう起きよう。 部屋を出て台所に行くと、恵理子さんがいた。 「あ、リンちゃん、自分で起きたんだ。おはよう」 「お姉ちゃん、おはよう」 「あれ?家でも『お姉ちゃん』って呼んでくれるの?」 あ、寝ぼけてた。あんな夢を見た後だから。 「あの、えっと、お父さんお母さんいないから」 「うん、そうだね。じゃあ朝ご飯を作ろうか」 「はい」 朝ご飯の準備が終わって、恵理子さんと一緒に食べる。 こんなかっこいいお姉ちゃんがいて、すごく嬉しい。本当は妹なのに、僕のお姉ちゃん になってくれた、それがすごく嬉しい。夢の中でのそんな気持ちが今も残っている。 でもお父さんお母さんの前では『お姉ちゃん』って言えないんだ。 お父さんお母さんがいる時でも『お姉ちゃん』と呼べるようにお願いしてみようかな? お父さんお母さんに何を言われるか不安だけど、でもこの気持ちをもっと感じたい。 まずはお父さんお母さんの前で『リンちゃん』って呼んでもらう事からかな? 「どうしたの?リンちゃん」 お願いはまた後にしよう。それよりも先に話したい事があるから。 「今朝、面白い夢を見たんだ」 「へえ。どんな夢?」