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新書


『読書力』 齋藤 孝(岩波新書)
笑い―点 涙―点 恐怖―点 総合4.0点
 「何のために読書をするのか?」その問いに対して著者は、自己形成のため、そしてコミュニケーションの力、人間を理解する 力をつけるため、など明確にわかりやすく答えている。そして読書をスポーツとしてとらえ、読書力をつけるためのメニューも 紹介している。

 「読書好き」と「読書力がある」というのは違うという。
 娯楽小説を何冊読んでもそれは読書好きの域を出ない。著者の言う”読書力”というのは、「精神の緊張を伴う読書」を 苦にせずに日常で何気なくできる力だ。文庫百冊・新書五十冊を読んでいることが、著者の考える「読書力がある」 という基準だそうだ。読むのは娯楽小説でない文庫・新書であり、しかも四年以内にという期限までついている。
 僕は今、個人的に古典的名作をたくさん読もうと挑戦しているところだが、本書を読んでその挑戦は無駄にはならないよ、と 勇気づけられた気がする。ただし、読むにしても、ひたすら文章を目でなぞるのではなく、線を引いたり時には音読をしてみなさいと 説く。
 読書好きを自負する人はぜひ本書を読んでみてほしい。目からウロコが落ちるかも。


『深海のパイロット』
藤崎慎吾、田代省三、藤岡換太郎(光文社新書)
笑い―点 涙―点 恐怖―点 総合4.0点
 日本人宇宙飛行士といえば、すぐ毛利さんや向井さんといった名前が思い浮かぶ。しかし、深海潜水調査船パイロットの 名前は、誰一人思い浮かばない。宇宙も深海も、謎に満ちた過酷な世界である。そして宇宙飛行士は世界で280人以上いるのに対し、 深海のパイロットは40人ほどしかいない。
 深海と同じくらい今まで世間に知られることのなかった深海のパイロット。そして、彼らが操る「しんかい2000」と 「しんかい6500」について、元パイロットの田代さんや、潜行回数が日本一の地質学者の藤岡さんらの文章とともに、 詳しく書かれている。

 特殊法人改革のあおりを受け、予算が取れないため、2002年に「しんかい2000」は無期限運行休止となったという。 世界で最も深く潜れる「しんかい6500」を持つ日本は、深海探査においては世界をリードする存在なのだそうだ。 深海には、メタンハイドレートの鉱床や、海中建造物の実現とか、宇宙と同じくらいの可能性と夢に満ちている気がする。 それなのに、予算を削られてしまう。もっと削るべきところがあると思うのだが。
 著者はこの本を出版することで、深海についての知識や情報を発信し、多くの人に深海に対する興味を喚起することにより、 「しんかい2000」の復活につながれば、と思っているようだ。
 深海潜水調査船は電池で動くとか、バラストという錘の力で沈み、浮く時はバラストを捨てて浮力に頼るだけとか、 トイレがないから浮上するまで8時間トイレにいけないとか、深海にスーパーのゴミ袋が漂っていたとか、 面白い情報が満載である。また、潜水調査船だけでなく、「ニューシートピア計画」という実際に行われた、 31気圧の中で数名を生活させるという実験についても詳しく書かれている。
 こうした全く知らなかった世界を知ることができると、読書の喜びを一層強く感じる。


『「芸術力」の磨きかた』 林望(PHP新書)
笑い―点 涙―点 恐怖―点 総合4.0点
 芸術を創るのはプロの仕事で、素人の自分たちはそれを鑑賞するものだと決めてかかっている人が多い。しかし、 「芸術」は人生を豊かにする最高の「遊び」なのだ。そして実際にやったことのない芸術は鑑賞しても面白くない。
 そこで本書では、絵画、書道、音楽、声楽、写真、能楽、文筆と芸術全般を楽しんでいる著者が、 それぞれの芸術における表現力を高めるための心得を伝授している。他にも、日本の芸術教育の批判や、芸術の鑑賞法などが 紹介されている。

 林望という名前は聞いたことがあったが、こういう軽快な文章を書く多才な人だとは知らなかった。東京芸大の助教授 であり、あらゆる芸術を楽しむ著者が、一般読者と同じ「芸術素人」とはとても思えないが、僕も芸術をやってみたくなった。
 ただ、本書で林望さんは、ちょっとした趣味とか気晴らしといった自己満足レベルの芸術を勧めているのではない。 身を削るようなつらい思いをするくらい真剣に取り組み、人生を豊かにするメインディッシュとなるような芸術を勧めている。
 僕としては、「趣味は読書と絵を描くことです」なんて言ってみたいなぁという程度の軽い気持ちだったので、 ちょっとしり込みしてしまった。でも、絵はほんとうに上手くなりたい。永沢まことさんのような絵が描きたくて、 ちょっと練習したりもしたんだけど・・・。やはりもっと本気で取り組まないと上達は望めないのか。


『修復家だけが知る名画の真実』 吉村絵美留(PHP新書)
笑い―点 涙―点 恐怖―点 総合4.0点
 絵画修復家の仕事は、絵の表面についているシミやホコリなどの汚れ、作者以外の手による加筆やいたずら描きなどを落としたり、 キャンバスや紙が破れたりシワになっていたら元の状態に戻したり、キャンバスが張られている木枠を直したり、虫を駆除したり、 油絵の絵の具層に入ってしまった亀裂や剥落を留めたりすることだ。本書では、これらの仕事がどうやって進められるのか、 そして作者がこれらの修復の仕事をこなしてきたなかで体験してきた意外な発見や、芸術家たちの特徴や手法などが 書き記されている。  

 最初に驚いたのが、絵美留というのが本名であり、しかも男性であるということだ。作者が冒頭で触れているように 「絵を美しく留める」という修復家にはピッタリの名前だ。
 修復家というのがいるというのは何となく知っていたけど、実態はよくわかっていなかった。本書を読んで、 修復家は芸術家というより化学者のような存在なのだなと思った。様々な薬品を使って汚れを落としたり、 赤外線やX線を使ったり、顕微鏡で絵の具の状態を確認したり。いつも美術館で何気なく見ている絵も こうした修復家たちの苦労のおかげでキレイな状態で保っていられるのだと思うと、絵画を見る視点が ちょっと変わってくる。今度は、絵の痛み具合や、絵の具の盛り上がり具合、修復の具合などにも注意して 絵を見てみようと思う。
 岡本太郎、藤田嗣治、東郷青児などの日本画家やルノアール、ユトリロ、モネ、ピカソなどの西洋画家の エピソードがたくさんあって、これだけよんでも十分面白い。美術館を訪れる人は、手を触れられないばかりか、 時にはガラス越しでないと見られないような絵でも、修復家の人は、その絵に、触れることができるのだから、 やはり様々な発見があるようだ。
 絵を見る人だけでなく、絵を描く人にもオススメの一冊。


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