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SF


『怪しい人びと』 眉村 卓(新潮文庫)
笑い1.0点 涙0点 恐怖0.5点 総合2.5点
「仕返し」:四方にドアはあるが窓ひとつない部屋に閉じこめられた男の話。
「にこにこシール」:ひどい二日酔いで目を覚ますと、部屋の至る所に「にこにこシール」が貼ってあるのに気づいた。
「暗証番号」:自分しかしらないはずの暗証番号を、何回変えてもぴたりと当ててくる差出人不明の謎のハガキ。
「本たち」:増える一方で、捨てられない本たちに囲まれて暮らす男は、ある夜、本たちが動いている気配を感じた。
「妖気計」:妖怪研究を趣味にしていた先生からの形見は、妖気を計測できる機械だった。
「嫌がらせ」:自分の<家>に嫌われ、<家>から様々な嫌がらせを受けている男の話。
以上のほか、計32編からなるショートショート集。

 つまらなかった。どれも設定や冒頭数ページは面白かったりするのだが、ラスト・オチがあまりにも ぼんやりとしているものばかりで、台無しになっている。
 あまりおすすめできない一冊である。


『OKAGE』 梶尾真治(早川書房)
笑い0.5点 涙1.0点 恐怖2.5点 総合4.0点
 国広章子の一人息子・兆がある日、塾へ行くと出ていったまま行方不明となる。さらに、同じ県内で一晩のうちに14人もの子供が 行方不明となっていた。そんな時、市街地から20qほど離れた夜の国道で、何かに憑かれたかのように整然と並んで歩く 子供たちが目撃される。この現象の示す意味は何なのか?そして子供たちが目指す先に何があるのか?

 これはSFなのか、ホラーなのか、ミステリなのか。「SFマガジン」に連載されていたということのなで、 ここでは一応SFとしておく。
 かなり奇抜で荒唐無稽の小説である。エンターテインメント性は高く、読み出すと止まらない面白さはある。 ただ題材が、「トンデモ本」的で、ストーリーも少年漫画チックだし、気軽に読めるような厚さでもないので、 みんなにお薦め、という小説ではなかった。


『二十四時間の侵入者』 眉村 卓(角川文庫)
笑い0.5点 涙1.0点 恐怖2.0点 総合3.0点
「二十四時間の侵入者」:中学一年生の住野隆一と小沢未代子は、絵画部の写生会に出かけた。 2人が写生をはじめたとき、2人の視界に異様な少年がたっていた。憎悪に歪んだ顔立ちをしたその少年は、次の瞬間、こつ然と 姿を消した。通学途中や校内にも現れるようになったその少年は、次第に数を増し、日本各地に現れるまでになった。いったい 彼らは何者なのか。そして彼らの目的は何なのか?
「闇からきた少女」:中学生の長原克雄は、ある日、団地の近くで見知らぬ少女に声をかけられる。 同じ中学に通っているというその子だが、学校では見かけたことはなかった。そんなとき、克雄の住む団地に、お化けが出るという うわさが広まっていた。

 ちょっとホラーの要素が入った表題作と、よくあるSF素材を使った「闇からきた少女」の中編2作とも、中学生が主人公の 「中学生向けSF小説」だった。大人が読んでも面白いのだが、やはり物足りない。小中学生の皆さんにおすすめの一冊です。
 そうそう、教育テレビに出てくるお兄さんのノリで書かれている解説は、ある意味笑えました。


『夏への扉』ロバート・A・ハイライン/福島正実訳(ハヤカワ文庫)
笑い1.5点 涙2.0点 恐怖0点 総合5.0点
 最愛の恋人には裏切られ、親友には会社を乗っ取られ、世紀の大発明さえも騙し取られてしまったぼくは、自暴自棄になっていた。 現代に嫌気がさしたぼくは、愛猫のピートとともに、冷凍睡眠保険に加入し、30年後の2000年まで冷凍睡眠に入ることにしたのだが…。

 読後感がとても良い。これほど心温まるSF小説というのは読んだ事がない。
 近未来(2000年から2001年)を舞台にしたSF小説だが、書かれた当時は近未来でも今ではすでに過去になっている。そこに描かれている2000年の世界には、 家事手伝いロボットが普及し、ロサンジェルスはグレート・ロサンジェルスとなり、月への定期便が存在し、映画は映動になったり、 と現実とは異なっているのだが、SF小説の舞台が過去というのは、読んでいて不思議な感じがする。
 主人公は、猫をこよなく愛し、発明に情熱を燃やす向上心のある人物として書かれている。それに対し、彼を窮地に追い込む人物は、 徹底的に憎たらしく、腹が立つほど嫌な人物として書かれている。このようにSFの要素だけでなく、人間もしっかりと書かれているのだ。 また、ストーリーも非常に良くて来ているため、SF小説をあまり読んだことない人も、抵抗なく読めると思う。
 おすすめの一冊。


『M.G.H. 楽園の鏡像』三雲岳斗(徳間書店)
笑い1.0点 涙1.5点 恐怖0点 総合4.0点
 無重力空間を漂う死体。与圧服は広範囲に陥没し、手足はありえない方向にねじれている。その姿はまるで、数十メートルの高さから 墜落したかのようだった。しかし、そこは日本初の多目的宇宙ステーション『白鳳』の内部であり、墜落死することなどあり得ない。 果たしてこれは事故なのか、事件なのか…。
 従妹とともに『白鳳』を訪れていた鷲見崎凌が、この謎の真相を探る。

 選考会満場一致で、第1回日本SF新人賞を受賞した本格SFミステリー。
 ”特定の人物の性格を複製した固有の人格を持つ人工知能が、ミラーワールドを呼ばれるネットワーク上の”街”に住み、 それを携帯端末で呼び出して、秘書や執事の仕事をさせる”、というSFの設定が面白い。そう遠くない未来に 実現できそうな感じがする。
 ミステリーとしても、不可解な死体・巧みな伏線など良く出来ていると思う。ただ、肝心なトリックが文系の僕には、 よく理解できなかった。でもSF小説らしい新しいトリックだなあ、ということはわかった。
 次回作もぜひ読んでみたい作家である。


『リプレイ』ケン・グリムウッド/杉山高之訳(新潮文庫)
笑い0点 涙3.5点 恐怖1.0点 総合5.0点
 1988年10月18日午後1時6分、43歳のラジオ局ディレクターのジェフは、心臓発作で死亡した。 ところが次の瞬間、25年前に住んでいた学生寮で目が覚める。どうやら18歳に逆戻りしたらしい。しかも記憶と知識は 43歳のままで、身体は大学一年生。競馬も株も思いのまま、ひたすら金を儲け大金持ちになったのだが、再び同年同月同日同時刻、 彼は死亡する。そして果てしない再生<リプレイ>が始まる。

 第14回世界幻想文学大賞受賞作。
 「時間」を扱ったSF小説は多く、ありふれたテーマなように思えるが、本書は一味違う。個々のエピソードが良いとかリアリティが あるなどはもちろんのこと、ただのSFにとどまらず、「人は何のために生きるのか?」「人生とは何か?」というような 哲学を感じさせるのだ。
 自分だったらこうするのになぁ、と考えながら読めるのは楽しい。でも実際ジェフの立場になったら無間地獄だと思う。 人生やり直してどんな幸せな生活が送れたとしてもその先にあるのは「フリダシに戻る」のコマだとわかったら空しいし、 悲しいだろう。
 とても面白かったのだが、エピローグは不要だったのではないかと思う。SF小説らしいエピローグではあるが、僕はその前で 終わっていれば良かったなぁと感じた。


『黄泉がえり』梶尾真治(新潮社)
笑い0点 涙3.0点 恐怖1.0点 総合4.0点
 その日、熊本市の市民センターに奇妙な相談が寄せられた。それは、5年前に死んだ夫が戻ってきたので、死亡届を 取り消して、戸籍を元に戻して欲しい、というものだった。そしてこの後、日本全国のうち熊本市内だけで死者が甦るという 現象が続発する。そても、甦った死者は全くの健康体で、死亡した当時の年齢のままなのであった。

 「熊本日日新聞」で99年4月から1年間連載されていた長編小説。
 ホラーとしてもSFとしてもどこか中途半端な感じがする。なぜ甦ったのかという真相もちょっと面白味に欠けている。 ただ、後半はホロリとくる展開になっていて、読後感はなかなかよかった。誰が書いても泣かせられる”泣きの王道” といった感じの展開だったのがちょっと残念だったけど、まあまあよかったと思う。


『星を継ぐもの』J・P・ホーガン(創元推理文庫)
笑い0点 涙0.5点 恐怖0.5点 総合4.0点
 月面調査隊が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。すぐさま地球の研究室で綿密な調査が行なわれた結果、 驚くべき事実が明らかになった。死体はどの月面基地の所属でもなく、世界のいかなる人間でもない。ほとんど現代人と 同じ生物であるにもかかわらず、五万年以上も前に死んでいたのだ。謎は謎を呼び、一つの疑問が解決すると、 何倍もの疑問が生まれてくる。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見されたが・・・。(本書あらすじ引用)

 僕はストーリーも当然、面白そうと思ったのだが、この「星を継ぐもの」というタイトルにひかれ本書を手にした。 本書はSFであり、ミステリでもある。そしてSFとしても、ミステリとしても完成度は高く、SFファンもミステリファンも 楽しませる一冊だと思う。
 僕はミステリファン寄りの視点で読んだ。宇宙が舞台で、5万年以上前の謎を解くわけだから、今まで読んだ中では 最もスケールの大きな謎解きだろう。そして、その真相も、まさかそんな、とビックリするくらいスケールがでかい。 ただ、読むのに時間がかかったせいか、読み方が浅かったせいか、エピローグで明らかになるある事実を どう捉えていいかよくわからなかった。やはりミステリは、短期間に読まないと重要な事実を忘れてしまうからダメだなと思った。


『黄泉びと知らず』梶尾真治(新潮文庫)
笑い2.5点 涙2.0点 恐怖0.5点 総合3.5点
「黄泉びと知らず」:熊本で続発している死者の蘇えり現象。幼くして一人息子を亡くした 悦美は、息子を蘇えらせるために名古屋から熊本を目指す。しかし、蘇えり現象は終わりを迎えようとしていた。
「六番目の貴公子」:「なよ竹のかぐや姫」に一目惚れした「かじのもと」は、六番目の求婚者として名乗りを上げた。
「奇跡の乗客たち」:山間部を走るバスが落石にあい、乗客の一人が、一刻を争うほどのケガを負ってしまった。 幸いバスには医者が乗り合わせていたのだが・・・。
「魅の谷」:惑星ザムザUには、「魅の谷」と呼ばれる禁忌区があった。そこを訪れた男女は、 互いに魅せられるというが・・・。
「小壷ちゃん」:父へのプレゼントにと思い、亡き母のクローンロボットを一日だけ格安でレンタル したのだが、そのロボットは・・・。
以上の他「見知らぬ義父」「接続された女」「赤い花を飼う人」の計8作からなる短編集。

 僕は見ていないけど、映画も大ヒットした『黄泉がえり』。表題作は、その映画でも原作でも語られなかったアナザーストーリーだ。 どうやら出版社から、アナザーストーリーを書いてくれといわれたらしい。そうして書き下ろされた「黄泉びと知らず」に、 いろいろな短編がセットでついてくるといった感じの短編集で、この「黄泉びと知らず」だけが妙に浮いた存在なのだ。なぜなら、 他の短編は、コメディSFもしくは、コメディなのだ。
 大笑い大泣きするほどではないが、クスリホロリとする短編集だ。


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