J・J・R・トールキン
『ホビットの冒険(上・下)』J.R.R.トールキン/瀬田貞二訳
(岩波少年文庫) |
笑い2.5点 涙2.0点 恐怖2.0点 総合4.0点 |
ひっこみじあんで、気のいいホビット小人のビルボ・バギンズの家に、ある日、魔法使いのガンダルフが13人のドワーフ小人を
連れてやってきた。ドワーフ小人たちは、その昔、スマウグという竜に仲間を殺され、財宝を奪われてしまった。そのため
スマウグに戦いを挑み、財宝を取り戻す冒険に出るのだという。その旅の仲間にビルボは”忍びの者”として加わることになった。
トロル、ゴブリン、アクマイヌなどの敵や、やみの森、魔の川などの障害を乗り越え、一行はスマウグの住む離れ山を目指す。
大人向けファンタジー巨編『指輪物語』のプロローグともいえる小説。というのも、本書の主人公であるビルボの甥が、『指輪物語』
の主人公フロドであり、ビルボは本書の冒険であの魔法の指輪を拾うのだ。
児童書の棚で見つけた本書だが、ですます調の語りかけるような文体や、思わず微笑んでしまうようなかわいい表現、
さりげなく残酷な描写、味のある挿絵、など大人が読んでも間違いなく面白い。
「小学5、6年以上」と裏表紙にあるが、作中にはけっこう難しい言い回しも出てくる。例えば、「きんちょう」という
言葉。これは「緊張」ではなく「謹聴」なのだ。こんな難しい言葉わかるのかなと思ったのだが、考えてみれば
わからない言葉を調べて読んでいくことで、言葉を覚えていくのだろう。
ドワーフ、ホビット、ゴブリン、エルフ、トロル、人間など様々な種族が登場し、それぞれきちんと特徴や歴史があって、
ほんとに世界観がしっかりしている。ドラクエをはじめその後のファンタジーがトールキンの作品に影響を受けているというのもうなずける。
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指輪物語
三つの指輪は、空の下なるエルフの王に、
七つの指輪は、岩の館のドワーフの君に、
九つは、死すべき運命さだめの人の子に、
一つは、暗き御座みくらの冥王のため、
影横たわるモルドールの国に。
一つの指輪は、すべてを統べ。
一つの指輪は、すべてを見つけ、
一つの指輪は、すべてを捕えて、
くらやみのなかにつなぎとめる。
影横たわるモルドールの国に。
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『指輪物語〜旅の仲間、二つの塔、王の帰還〜』
J.R.R.トールキン/瀬田貞二・田中明子訳(評論社) |
笑い2.0点 涙3.5点 恐怖2.0点 総合5.0点 |
ホビット族のビルボ・バギンズが手に入れ、今はフロド・バギンズに譲られた指輪こそ、「一つの指輪」であり、
その指輪が冥王サウロンの手に渡れば、”中つ国”は暗黒に支配されてしまう。世界を救う唯一の方法は、
サウロンが君臨するモルドールの国にある”滅びの山”の火口に指輪を棄て、消滅させてしまうことだった。
指輪所持者のフロドは、サム、メリー、ピピンの3人と共に平和なホビット庄をあとにした。途中、
エルフのレゴラス、ドワーフのギムリ、魔法使いガンダルフ、人間のアラゴルンとボロミアを仲間に加え、
9人となった一行は指輪棄却の旅へ出発した。
文庫本で全9巻という大長編ファンタジー。
映画「ロード・オブ・ザ・リング〜旅の仲間」を先に見てしまったのだが、原作の第一部「旅の仲間」を読んだ限りでは、
なかなか原作に忠実にストーリーは進んでいるし、何よりこのファンタジーに出てくる様々な種族や架空世界の風景を
見事に映像化していると思った。
著者トールキンは少年の頃から「言語の発明」という知的な趣味(?)を持っていたそうだ。本書で登場するエルフ語
などの言語も、研究、努力の結晶なのだろう。だが、トールキンが発明した言語だけに翻訳は難しかっただろうと
思う。翻訳と言えば、本書はだいぶ昔に出版された小説なので、少々古臭いと言うかちょっと面白い表現が結構あった。
たとえば、ホビットのサムはフロドのことを「フロドの旦那」と呼ぶし、フロドたちはアラゴルンのことを「馳夫さん」と呼ぶ。
そしてそのアラゴルンの職業(?)は「野伏」なのだ。この他にも、セリフの端々に現代風でない表現が見られる。
けど、それが”長く語り継がれている神話・伝説なのだ”という雰囲気をかもしだし、いい味わいを感じさせている。
それにしても読破までだいぶ日数がかかってしまった。セリフは長いのが多く、全体的に活字がギッシリ詰まっているので、
普段読書をしない人には、結構キツイだろうなと思った。『ハリーポッター』と同列に考えて気軽に手に取ったものの、
読みにくくて途中で挫折したという人が結構いそうな気がする。
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