池上永一
『風車祭カジマヤー』池上永一(文春文庫) |
笑い3.0点 涙2.5点 恐怖0点 総合4.5点 |
”長寿に比べれば、金も愛も権力も、そんなものは糞である”と言うほど長生きすることに執念を燃やす仲村渠フジは、
来年、97歳の生年祝い<風車祭>を迎える。そんなフジの暇つぶしのせいで、島に住む若者の武志はマブイ(魂)を落としてしまう。
マブイを落とした武志は、6本足の妖怪豚ギーギーと246歳の盲目の娘ピシャーマに出会う。
そんな一方で、山を崩し、海を埋め立て、神事を怠っている島人たちは、神の怒りに触れ破滅の運命をたどろうとしていた。
98年度直木賞候補作。
沖縄のとある島を舞台に繰り広げられる笑いと涙と祭の一年間を描いた沖縄ファンタジーだが、とにかく長い。
文庫サイズで760ページもある大長編だ。沖縄の方言や沖縄の祭の様子、沖縄の謡、そして何より妖怪、巫女、マブイ(魂)、神様など
個性豊かな登場人物が繰り広げる大騒動は、これだけ長くても全く退屈することがない。その登場人物の中で、ずば抜けた
キャラクターがフジオバァだ。『じーさん武勇伝』のじーさんもなかなかすごかったが、フジオバァも負けてはいない。
後半フジは、次のような台詞を言う。
「グソー(あの世)のどこかに命の蝋燭というものがあったら、仲村渠フジの蝋燭は油田に直結させておいてください。
天使が迎えようとしていたら羽を毟ってください」
これほどまでとくにかく長寿に執念を燃やしているオバァなのだ。
本書の重要なポイントの一つが、マブイ(魂)だが、これがよくわからない。沖縄の人は、ビックリしたりするとよく
マブイを落とすそうだが、マブイを落としても死ぬことはないし、マブイ籠めをすればまた戻ってくるのだ。97歳のフジオバァ
はもう何十回もマブイを落としているのだ。著者自身、あとがきでマブイを落としたことがあるといっている。
全く不思議なファンタジーだ。
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『夏化粧』池上永一(文藝春秋) |
笑い3.0点 涙2.0点 恐怖0.5点 総合4.0点 |
いたずら好きな産婆のオバァのまじないによって、一人息子の姿を消されてしまった津奈美。息子を取り戻したい。その願いを成就させるには、
井戸から光と影が逆転する世界に飛び込み、人々から七つの”願い”を奪わなければならない。ただし、夏至までに七つ奪えなければ
息子は死んでしまう。
愛する息子のための母親の闘いが始まる。
沖縄を舞台にした笑って泣けるファンタジー。
『風車祭』のフジオバァに負けず劣らず強烈なオバァが出てくる。産婆の腕は達人なのだが、生まれてくる赤ん坊に勝手に
まじないをかけてしまうのだ。それも人生を左右するようなまじないばかりで、しかもそのオバァには不思議な力があるので
そのまじないはことごとく現実のものとなるのだ。
「母は強し」と言うが、本書は”母の強さ””母親の愛”をテーマにしたファンタジーだ。子供のためには鬼にもなり、
神をも脅迫する津奈美の姿が涙を誘う。ただ、息子のためとはいえ他人の願い=才能を奪ってしまうという設定は、
少々エゴが強いなぁと思う。まあ、僕にも子供がいればそれをエゴと感じなくなるのかもしれないけど。 |
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『ぼくのキャノン』池上永一(文藝春秋) |
笑い2.0点 涙1.5点 恐怖0点 総合3.5点 |
戦時中に島の丘に設置され、今も島全体を見渡すような存在感を放っている帝国陸軍の
九六式一五センチキャノン砲。それをキャノン様と崇め、村の統治に役立てている巫女のマカトオバァと、
彼女をかげながら補佐する天才的な泥棒のチヨと現役の海人で隻腕の老人・樹王。彼らには、決して
島民に知られてはいけない秘密があった。島にはその秘密をさぐるアメリカ人や、島の開発に命を燃やす
小野寺トラストの連中らが乗り込み、かつてない危機が迫ろうとしていた。
沖縄を書かせたらこの人が一番だと思っている作家である。そんな池上永一が、ついに沖縄戦を題材に
書いた小説だけに期待もしていた。ハチャメチャな設定のファンタジーを得意とする作家だけに
沖縄戦というテーマにもそのハチャメチャぶりを織り交ぜていた。僕としては、もっと沖縄戦に重点を
置いたリアルな小説が読みたかった。
マカトオバァが支配する北朝鮮チックな島の様子とか、高級品を惜しげもなく捨てまくる
小野寺トラストの社長とか、いつもながら滅茶苦茶な設定なのだが、今回は笑えるというより、
島のあまりの異常さにちょっと引いてしまった。それに、オバァたちが必死に隠している秘密も
「それを秘密にしていいの?」というものだった。秘密にすることになった経緯も語られるが、
ちょっと納得がいかなかった。
著者には一度、作風を変えてもらって、真面目に沖縄戦を書いてもらいたいという気がする。
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