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ノンフィクション


『ドキュメント 戦争広告代理店〜情報操作とボスニア紛争』
高木 徹(講談社)
笑い0点 涙1.0点 恐怖1.5点 総合4.5点
 旧ユーゴスラビア連邦から独立を宣言したボスニア・ヘルツェゴビナ。だが、ボスニアに住む モスレム人、セルビア人、クロアチア人の三民族のうちセルビア人勢力は反発した。 隣国であるセルビア共和国の支援を受け、彼らセルビア人が独立を阻もうとすれば、 内戦となり独立が困難となる。
 そこで、ボスニアのシライジッチ外務大臣は単身アメリカに渡り、ボスニア紛争を「内戦」ではなく、 世界の国々の関心を集め「国際化」し、各国に協力してもらおうと考えていた。そんな時、 シライジッチは、アメリカのPR企業「ルーダー・フィン社」のジム・ハーフに出会う。
 ジムは、シライジッチにメディア対策を叩き込む一方で、”民族浄化”などの 印象的なキャッチコピーや、「衝撃の写真」などを用い”セルビア=悪”という 国際世論をたくみに誘導していた。

 第一回新潮ドキュメント賞、第24回講談社ノンフィクション賞のダブル受賞作。
 紛争の当事者一方と契約し、敵をミサイルや銃ではなく、言葉と映像で攻撃し、 国際世論をつくりあげてしまう民間のPR企業があるというのは、驚くと同時に 恐ろしくもある。
 インターネットも普及し、今後の戦争、紛争は「情報」の力がますます重要になるだろう。 そんな時、僕らはメディアやPR企業に誘導されず、正しい判断ができるのだろうか。 ボスニア戦争の何たるかをよく知らなかった僕でも、”ミロシェビッチ大統領”と聞くと、 ”悪人”というイメージが浮かんでしまう。メディアの力は恐ろしい。
 PR企業が6000以上あるというアメリカに比べ、日本は情報やメディアに相当 無防備というか無警戒というか無知というか。小泉総理の抵抗勢力と呼ばれる議員たちが、 たとえ正しいことを言っていたとしても、あの顔を見たりメディアに対して攻撃的な口調などを 聞いたりしたら、どうしても悪代官のようなイメージになってしまう。まあ、わかりやすくて いいけど、国際的に見れば、政治家も外務省をはじめとした役人も大企業も幼稚で、 もっとメディア対策とか情報とかに気を配ったほうがいいのではないかと思う。
 国際ニュースを見る目が変わる一冊。 


『純粋失読〜書けるのに読めない』
土本亜理子/綿森淑子監修(三輪書店)
笑い0点 涙1.0点 恐怖0点 総合4.0点
 脳の損傷により言語、思考、記憶、行為、学習、注意など認知機能に障害が起こる「高次脳機能障害」。 ”純粋失読”はその障害の一つであり、「読む」機能だけに障害が起こる。目は見えるし、話もできる、 そして文字を書くこともできる。しかし、いま自分で書いた文字が読めないのだ。
 この純粋失読を発病した人たちとその家族の苦悩とリハビリの記録、そして純粋失読とは、高次脳機能障害とは何か を取材したルポ。

 図書館で冒頭数ページを読み、すぐ借りた。それほどまでのインパクトだった。読書が趣味というより生きがいのレベルにまで 身体に染み付いてしまっている僕にとって、失明というのは最も恐れている障害だ。ところが、世の中には、まだ読書を趣味 とする人を苦しめるこんな障害があったのだ。文字は見えるのに読めないとはなんて残酷なのだろう。
 それにしても人間の脳とは不思議なものだ。純粋失読以外にも高次脳機能障害はあり、親しい人の顔を見ても誰だかわからなくなる 失認症や、自宅の間取りもわからなくなる地誌的障害、歯ブラシの使い方などもわからなくなる失行症などなど様々だ。しかしこれらは 手や足など体の障害とは異なり、周囲から判断しにくく理解もされにくいようだ。また、法整備や福祉サービスなどもまだまだ 不十分だという。
 自分や家族や友人などがいつ抱えるかわからない脳の障害について知っておいて損はない。 


『しがまっこ溶けた〜詩人・桜井哲夫との歳月』
金正美〔キム チョンミ〕(NHK出版)
笑い1.0点 涙4.0点 恐怖0点 総合5.0点
 伝染する不治の病という誤った認識のもと、国策によって強制隔離されていたハンセン病(らい病)患者。 桜井哲夫こと長峰利造は、17歳で故郷の津軽を離れ、群馬の国立療養所で60年もの間隔離された生活を送っていた。 そんな哲夫とふとしたきっかけで出会った19歳の在日コリアンの金正美。
 二人が出会って、互いの故郷である津軽と韓国を訪れ、心の交流を続けた8年の歳月を記したドキュメント。

 髪はなく、左目は摘出され完全にふさがり、鼻は崩れて穴だけとなり、手に指はなく、胃も切除した。僕ははじめ、 彼の写真を見た時、正直言って怖いと思った。特殊メイクみたいだと思ってしまった。こういう気持ちが 差別や偏見につながるのかもしれない。
 ところが、らい病のためにこれほど重度の後遺症を負わされたのに、哲夫さんは「らいになってよかった」と語る。 そして「体は隔離されても、心まで隔離されることはない」と、日々勉強と詩作に励み、明るく生きている。 そんな哲夫さんが発する一言一言は、とても胸に響き、本当に涙なしには読めない。
 らい病患者に対する差別・偏見の問題とともに、著者が在日コリアンであるため、本書では在日コリアンに対する問題、 日本と韓国、朝鮮の関係などにも触れている。
 金正美が桜井哲夫と出会うことになったきっかけを作った森田教授は、
 「知らないことが罪ではない。知ろうとしないことが罪なのだ」
と言う。この一冊で、ハンセン病について、在日コリアンについて、などたくさんのことを知ることができる。 それだけではなく、本書からは、生きる力のようなパワーももらえる。オススメの一冊だ。


『僕にできないこと。僕にしかできないこと。』
春山 満(幻冬舎文庫)
笑い1.0点 涙2.5点 恐怖0点 総合4.5点
 裕福な家で育ち、スポーツも万能だった春山満。ところが、父の経営する会社は倒産し、さらに26歳のとき、 不治の難病である「進行性筋ジストロフィー」の宣告を受ける。首から下が全く動かない車椅子の生活になりながらも、 絶望することなく、常に前向きにいき、現在も福祉介護ビジネスの第一線を走る春山満の感動の物語。

 社員20名、年商8億円の総合ヘルスケア企業「ハンディネットワーク・インターナショナル」の経営者である 春山満は、首から下が全く動かない。そのため、妻や社員たちに介護されながら、日々精力的に動き回っている。 しかし、筋ジストロフィーは今も進行中で、最終的には、首から上や、心筋までも衰えてしまうという。 死は誰にでもいつかは訪れるとはいえ、それが明日にでも訪れるかも知れないと分かっている恐怖は並大抵のものでは ないはずだ。それなのに、春山氏は悲観せず、前向きに明るく強く生きている。
 介護職を目指す人、福祉ビジネスに興味のある人は必読だろう。しかし、本書はそれ以外にも、障害を抱えている方や 高齢者の方、さらに今、自分は不幸のどん底で、もう死んでしまいたいと悲観している方などにもオススメだ。
 印象に残る、心に響く言葉が多く、何度でも読み返そうと思う一冊だ。


『無人島に生きる十六人』
須川邦彦(新潮文庫)
笑い2.5点 涙1.5点 恐怖0点 総合4.0点
 明治31年、帆船・龍睡丸は太平洋上で座礁した。なんとかボートで脱出した16人の乗組員全員は、やがて珊瑚礁の小さな 無人島に漂着した。井戸を掘り、見張り櫓を作り、火をおこし、海亀の牧場を作り・・・などなど、中川船長を中心に 16人は助け合い、工夫をこらし、無人島で暮らしながら、救助を待ち続けた。

 中川船長の漂流体験談を著者が直接聞いて書き記すという形式のノンフィクション。昭和23年に刊行された本を文庫化 したものだ。どうやら当時の少年向けに書かれた本らしく、かんでふくめるようなとてもわかりやすい文章で、 乗組員たちも皆、日本男児の見本をなるような立派な人ばかりで、ちょっと教科書じみたところもあるが、大変面白い本だった。
 今まで読んだ漂流記は、つらく厳しい孤独な戦いという悲壮感も含んだ雰囲気のものばかりだった。しかし本書は、 中川船長の優れたリーダーシップのためか、16人が一丸となってとにかく明るく生き抜いている。無人島に着いた直後も、 浮かれたり絶望したりすることなく、決まりや日課を作り、規則正しい生活を送ろうと話し合ったりしている。そして、 さらに驚くのが、彼らは、無人島を塾もしくは道場であると考え、お国のためにも立派な日本人になろうと、日々勉強に 励むのだ。
 物資は乏しいが、心は豊かで、こんな漂流なら僕もしてみたいと思うほど楽しい雰囲気が感じられた。ただ、僕は、どちらかといえば もっと過酷で孤独な漂流記のほうが好きだ。


キャッチセールス潜入ルポ ついていったらこうなった』
多田文明(彩図社)
笑い3.5点 涙0点 恐怖2.0点 総合4.5点
 街頭、店頭、電話などで直接勧誘されたり、DM、新聞、雑誌の広告、折込みハガキなどで勧誘したり、 様々な手段でカモを探している怪しげな団体が、たくさんある。
 著者は、そうしたキャッチセールスに声をかけられたらついて行き、ハガキが来たら返信し、その団体に潜入し彼らの手口を調査する。

 キャッチセールス評論家という肩書きを持つ多田文明のキャッチセールス潜入ルポ。
 60以上の勧誘先に潜入したという著者が、本書で取り上げているキャッチセールスは全部で20個。
 「手相を勉強しているといって勧誘する宗教団体」「絵の即売会」「キャッチ系英会話スクール」「絶対当たる携帯電話」 「自己啓発セミナー」「無料エステ」「速聴テープ」「UFOの集い」「コーヒー豆の先物取引」「募金を求めるボランティア団体」 「あなたの原稿が本になる」「結婚相談所」「在宅ワーク」「ヘアケア・アドバイス」「マイライン営業代理店」 「出会い系クラブ」「幸運のペンダント」「ダイビングスクール」「宇宙パワーで悩み解決」「悪質芸能事務所」の20個。
 僕もたまに東京に行くと、街頭で、アンケートにご協力をとか、三宅島の人のために募金を、なんて声をかけられるが、 彼らの実態はこんな団体だったのかとビックリ。さらに速聴テープとか幸運のペンダントとか、自分では絶対に買わないけど、 一体どんなものなのかと思っていたので、非常に興味深かった。
 それにしても、他人をだましたり脅したりして稼ぐような仕事に就いている彼らは、そうした手段で得たお金で暮らすことに 何も感じないのだろうか。
 とてもためになって笑える本だが、読者は絶対にまねをしてはいけない本だと思う。個人情報を犠牲にしてルポを書いている 著者のもとには、勧誘電話は鳴りっぱなしで、様々なDMが届いているそうだから。


  
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