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ノンフィクション


『大西洋漂流76日間』スティーヴン・キャラハン/長辻象平訳(ハヤカワ文庫)
笑い0点 涙2.0点 恐怖2.0点 総合5.0点
 1982年2月4日深夜、嵐の大西洋上でキャラハンの小型ヨットは突然沈没した。このときから海洋史上に残る壮絶なサバイバルが始まった。 救命イカダに逃れた彼は、飢えと渇きに苦しみつつも、手製のモリで魚を捕り、頼りない蒸留器で飲み水を確保。だが漂流生活は いつ果てるともなく続き、死は目前に迫ってきた・・・。(本書アラスジ引用)

 2ヶ月半もの間、小さな救命イカダで漂流し、奇跡的な生還をした男の手記。遭難者の90%が、3日以内に死んでしまうというから 76日間という長さは本当に奇跡だ。しかし、その奇跡も、キャラハンだからこそ起こり得たのだと思う。なぜなら彼は、緊急時の 備えを十分にしていたし、12歳からセーリングをしていたという経験と優れた航海術があった。そしてなにより、孤独と恐怖に負けない 強靱な精神力を持っていたからだ。
 僕は海が好きではない。小学生の臨海学校で溺れた経験があるし、何より足がつかないという不安感がある。まして、 こんな地獄のような体験をする可能性があるのだから、なおさら好きにはなれない。しかし、この著者は【陸はなつかしい母親で、 海はいとしい恋人】だという。陸地にいると、海にでたいという衝動が抑えられなくなるそうだ。
 本書には、読んでいるだけで恐怖と絶望に襲われ、死を覚悟する場面が多々あった。そんな時でもキャラハンは、生きることをあきらめず、 ボロボロになりながらも飢えや渇き、サメや時化などと闘った。そのことについてキャラハンは、次のように書いている
 『わたしが生きのびるため闘ったのは、自分が英雄的であったからではなく、そうすることが一番楽だったから、  つまり死ぬより楽だったからだ』


『新聞・テレビはどこまで病んでいるか』稲垣 武(小学館文庫)
笑い0点 涙0点 恐怖0点 総合4.5点
 自社に都合のよいニュースのみ繰り返し報道する「世論操作」。善悪二元論から抜け出せぬ「ワンパターン思考」と「偽善性」。 自らを棚に上げ他者を攻撃する「特権意識」。なんでも自主規制の「事なかれ主義」と「横並び主義」等、大新聞・テレビに はびこる病理の数々を解明する。(本書あらすじより抜粋)

 真実の情報や偏った情報、怪しい情報などが玉石混交に入り交じったメディアがもたらす情報。その中から、真実を読み取る メディア・リテラシーの能力が21世紀を生き抜くには必要だ、と著者は言う。著者自身、元朝日新聞記者というメディアに 携わっていた人だけに、非常に説得力のある有益な一冊になっている。
 本書では、大手四紙のイデオロギー、信条がわかりやすく解説されていたり、具体的な問題点をいろいろ挙げたりしている。 とりわけ、著者が記者をしていた朝日新聞については、「人権屋」と結託したメディア 新聞倫理綱領に常習的に違反しているメディアサヨクのインテリもどきなどと痛烈に批判している。 これについて著者は、「朝日の病状が最も重いから」だと述べている。
 朝日新聞購読者だけでなく、多くの人が本書を読んでメディア・リテラシーの能力を高めてほしいと思う。


『ダイバー漂流 極限の230キロ』小出康太郎(新潮OH!文庫)
笑い0点 涙2.0点 恐怖2.0点 総合4.0点
 1983年7月15日新島沖でダイビングをしていた六人のダイバーのうちの一人、福地裕文さんが、強い海流に巻き込まれ 仲間とはぐれてしまった。そしてそのまま黒潮に乗り、3日間、時間にして56時間、 距離にして230キロを身一つで漂流したのだ。

 今まで漂流モノのノンフィクションはこれを含めて3冊読んだが、状況としては本書が最も生存可能性が ないように思える。水も食料もなく、救命ボートもなく、ウェットスーツとシュノーケルあとはジャケットタイプの 浮力器という装備で漂流し助かったのだ。ほんとに奇跡だ。救命ボートと食料があったとしても、多くの遭難者 は漂流3日以内に絶望し自殺してしまうというから、これだけ壮絶な状況で正気を保っていられたのは、 並大抵の精神力ではないのだろう。
 近頃ではスキューバダイビングが趣味、という人も少なからずいるようなので、そういう方々は 是非この本を読み、万が一のときの心構えをしておくべきだと思う。


『落ちこぼれてエベレスト』野口 健(集英社)
笑い0点 涙2.0点 恐怖1.0点 総合4.0点
 父親が外交官のため、健は幼いころから世界各地を転々としていた。小学生・中学生となるにつれ、次第に 素行が悪くなり、イギリスの立教英国学院高校では上級生を殴って停学処分となる。これを機に、旅に出た彼は、 旅先で植村直己の著書と出会う。植村直己に憧れを抱いた彼は、学校を見返すためにも、山を登ろうと考えた。 そして16歳でモンブラン、17歳でキリマンジャロに登頂してから、7大陸最高峰登頂が目標となった。

 ヨーロッパ大陸(モンブラン、エルブルース)、アジア大陸(エベレスト)、アフリカ大陸(キリマンジャロ)、 北米大陸(マッキンリー)、南米大陸(アコンカグア)、オーストラリア大陸(コジアスコ)、南極大陸(ビンソン・マッシーフ)。 以上の7大陸最高峰を世界最年少の25歳で登頂した野口健の自伝。
 親しい人が何人も山で命を落とし、自分もクレバスに落ちたり、高山病で意識を失ったり、肋骨を3本折ったりと、 いつ死ぬかわからない。それなのになぜ山に登るのか?本当に不思議でしかたない。
 男として「冒険家」という響きには憧れるが、これを読んで”一生憧れだけで終わるのは確実だな”、と改めて実感した。


『松本サリン事件―虚報、えん罪はいかに作られるのか』河野義行(近代文芸社)
笑い0点 涙1.0点 恐怖1.0点 総合4.0点
 1994年6月27日、河野さん宅は毒ガス・サリンに汚染された。第一通報者となった河野義行さんは、かつて薬品会社 に勤務していて、家にもいくつか薬品があったせいもあり、またたくまにマスコミから犯人扱いされ、信じていた警察も 「お前が犯人だ、正直に言え」など自白を強要した。無言電話や脅迫電話など匿名による暴力にも苦しめられた。 しかし、それらに屈することなく、身の潔白を叫びつづけ、ようやく犯人から一被害者に戻れたのだ。

 えん罪はほんとに恐ろしい。これを読むと他人事と言っていられなくなる。警察が非公式情報をリークし、 それをマスコミが「犯人はこいつだ!」と印象付けるような報道をし、それを見た視聴者が「早く捕まえろ!」という 世論を形成する。そしてそれに応えるように警察はますます無実の河野さんを犯人に仕立てようとする。 警察・マスコミ・世論の三者が一体となって「えん罪」を作っていくのだ。
 えん罪を防ぐには、警察やマスコミが改善すべきところは沢山あるだろうが、世論を形成する僕らのような 市民も改めるべきところがあるのでは、と強く思った。 マスコミが流す情報を丸々うのみにせずに、一度吟味し、あいまいなところや疑わしいところ はないかなどを自分の頭で考えるべきだと思う。それと、たとえ犯人と確定されたとしても、無言電話などの匿名による暴力で 家族を傷つけるのは間違っていると思う。
 えん罪はいつ自分の身に振りかかるかわかりません。万が一のときのためにもえん罪について知っておいたほうがいいと思います。


『なぜ、日本では誰でも総理になれるのか!?』井沢元彦(祥伝社)
笑い0点 涙0点 恐怖0点 総合3.5点
 「なぜ森さんのような人でも総理になれるのか」これはおそらく多くの国民が抱いた疑問ではないだろうか。 危機的なまでに負債をかかえ、日本は会社でたとえればまさに倒産寸前。そんな時に、毎日のように料亭に通い、 他にやるべきことはあるのにアフリカなどへ外遊三昧。さらに外交機密をさらっと漏洩したり、数え切れないほどの 失言をする。なぜこんな人でも一国のリーダーである総理大臣になれるのか。
 世界に類を見ない日本のこの非常識な事態を独特な歴史観を駆使して検証する。

 聖徳太子の十七条憲法。「和を以って貴しと為し〜」ではじまるこの憲法で聖徳太子は「何事も話し合いで 決めるべきだ。話し合いで決めたことは必ず正しいし、うまくいく」という”話し合い絶対主義”を主張している そうだ。これは「」を重んじる日本人には常識的だが、世界から見れば異常なことだという。たしかに今回の アメリカのテロ事件でも、反戦を唱える人には「話し合い」で解決すべし、ということを主張している日本人も 少なくなかったのではないだろうか。
 つまり、和を乱さないためには、最高権力者の独断を許さず、本来ならトップが持つべき権力を分割して、 下(官僚など)におろす。そして下が話し合いで決めたことに対して、トップは黙ってうなずいていればよい。 だから森さんでも総理がつとまる、というわけ。
 歴史上の事件から豊富な例をあげてわかりやすく説明されている。中学生、高校生にもおすすめである。


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