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ミステリー(海外)


『わたしにもできる銀行強盗』ジーン・リューリック/近藤麻里子訳
(ハヤカワ文庫)
笑い2.0点 涙1.5点 恐怖0.5点 総合3.5点
 アンティーク家具の修理業を営む60歳の女性キャットは、ある日突然娘夫婦を事故で亡くす。しかし、不幸はそれで終わらなかった。 遺産をめぐって悪辣な男の術中にはまり、60日以内に4万ドルを用意しないと家を明け渡さなければならなくなったのだ。 追い詰められたキャットは、おもちゃのナイフを武器に銀行を襲う決心をした。

 タイトルと装丁を見て、老婦人が銀行強盗をするコメディタッチのストーリーだと思っていた。しかし読んでみると、銀行強盗は 単なる前フリ。その後の展開を導くためのキッカケにすぎなかった。ここからまるでジェットコースターのように様々な 事件に巻き込まれ、ラストまで加速し続ける。しかし、あまりにも多くのことを盛り込み過ぎている気がした。僕としては、もう少し 銀行強盗のエピソードを読ませてほしかった。ただ、読後感は悪くないし、キャラクターも個性的な人が揃っていてなかなか良かった。


『古い骨』アーロン・エルキンズ/青木久恵訳(ハヤカワ文庫)
笑い1.5点 涙1.0点 恐怖0点 総合3.5点
 レジスタンスの英雄だった老富豪が、北フランスの館に親族を呼び寄せた矢先、彼は海辺で流砂と上潮に飲まれ死亡した。 数日後、館の地下室で第二次大戦中のものと思われる切断された人骨が見つかる。それから間もなく、親族の一人が 毒殺される。この事件にスケルトン探偵ことギデオン・オリバーが挑む。

 アメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞受賞作。
 主人公のギデオン・オリバーは、骨を見て性別・人種・身体的特徴・職業などを推理する人類学教授である。 著者のアーロンも骨格人類学者だったらしい。だから、専門用語がよく出てくる。そしてそれがストーリーの 現実感を際立たせている。アーロンは実際にこんな事件に遭遇したのではないか、と思わせるくらい詳細に書き込まれている。
 ギデオンのシリーズはまだあるようなので、他のも読んでみようと思う。


『飛行士たちの話』ロアルド・ダール/永井淳訳(ハヤカワミステリ文庫)
笑い1.0点 涙2.0点 恐怖1.5点 総合3.0点
 「アフリカの物語」:1939年9月、イギリスは開戦した。そして一人の白人の若者もパイロットに志願した。 だが、単独飛行の訓練中、不運にみまわれある高原に不時着した。そこで彼は一人の老人に会う。そして長く不思議な身の上話を聞いた。
 「簡単な任務」:わたしは簡単な任務を受けフォウカを飛び立った。だが途中、深刻なトラブルにみまわれた。 機外に脱出しようとしたが、脳からの信号が体まで思うように届かないのだ。
 「カティーナ」:ギリシア作戦に参加したイギリス空軍に属す我々は、ある日カティーナというギリシアの 少女を助けた。それからカティーナはイギリス空軍の一員になったのだが。
 「番犬に注意」:彼は空中戦で砲弾を受け右足を失った。うすれゆく意識の中何とかパラシュートで 脱出した。次に目覚めたとき彼は、病院のベッドにいた。ホッと安心したのだが、看護婦のある一言により一つの疑念が浮かんできた。
 以上の他「ある老人の死」「マダム・ロゼット」「昨日は美しかった」「彼らは年をとらない」「この子だけは」「あなたに似た人」の 計10作からなる短編集。

 ダールのデビュー作を含んだ短編集。
 すべてパイロット、それも空軍パイロットが題材の短編である。ダール自身も戦闘機中隊で空中戦を体験しているそうだ。 だからとてもリアリティがある。全体的に「これはすごい!」という印象は薄いのだが、この空中戦の様子、空軍の日常の様子 など、戦記モノとしてはとてもよかったと思う。
 僕としては「カティーナ」「番犬に注意」がオススメ。


『わが名はレッド』シェイマス・スミス/鈴木恵訳
(ハヤカワ文庫)
笑い0点 涙1.5点 恐怖2.0点 総合4.0点
 犯罪組織を裏で操る男レッド・ドッグ。幼い頃親に捨てられた彼と弟は、荒れた修道院で凄惨な少年期を送る。やがて弟は 非業の死を遂げ、彼は誓った。俺の人生を破壊した奴らを皆あの世に送ってやる、と。20年後、レッドは誘拐した警官夫婦の赤子を 利用し、親族への復讐を開始。誰も予想だにしなかった究極の犯罪計画がついに幕を開ける・・・。(本書あらすじ引用)

 「このミステリーがすごい!2003年版」の海外編第三位。
 極悪非道という言葉がぴったりの暗黒小説だ。『模倣犯』のピースも極悪非道だったが、本書のレッド・ドッグは ピースに負けず劣らず「悪人」だ。何せ復讐のためだけに生きているような男で、復讐のためには他人の人生をねじ曲げ、 もてあそび、利用し、ためらいなく殺す。そして無関係に思えるような行動もすべて、まるで頭の中に復讐プログラムが 組み込まれているようにしっかり計算され、配置されている。さらに本書には、レッドの他にピカソと呼ばれている 最悪の殺人鬼も登場する。
 まあレッドがここまで非道になったのには理由があるのだが、それでも同情はできない。本書はその「理由」「動機」の部分が 徐々に明らかになっていき、すべてが明かされるのがラスト一行なのだ。


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