ミステリー(海外)
『黒猫・モルグ街の殺人事件』 エドガー・アラン・ポオ(岩波文庫) |
笑い☆☆☆☆☆ 涙☆☆☆☆☆ 恐怖★★★☆☆ 総合★★★★☆ |
「黒猫」「ウィリアム・ウィルソン」「裏切る心臓」「天邪鬼」「モルグ街の殺人事件」「マリ・ロジェエの迷宮事件」「盗まれた手紙」の計7作からなる短編集。
「黒猫」:動物好きの心優しい男がいた。彼は、若くして妻をもち、同時に多くの動物を飼った。その動物の中でとりわけ1匹の黒猫が、彼によくなついた。その黒猫は、非常に大きく、驚くほど美しい猫であった。
ところが数年後、彼は、酒におぼれ暴力的な性格になった。そんなある日、彼は、その黒猫を殺してしまう。−−ホラー的な要素の多い小説。
「モルグ街の殺人事件」:午前3時頃、モルグ街のある1軒の家から、女性の悲鳴が聞こえた。警官が踏み込むとそこには、戦慄にみちた光景が広がっていた。家具類はメチャメチャに壊され、椅子の上には、血塗れのカミソリ。
暖炉棚には、根こそぎ引き抜かれたらしい白髪混じりの頭髪が二握り。そして、煙突の中には、女性の死体が押し込められていた。さらに裏庭には、体中を切り裂かれ、喉が掻き切られた女性の死体があった。この異常な事件を、名推理家のオーギュスト・デュパン
が解決する。
「盗まれた手紙」:ある高官が所有する極秘の重要書類が盗まれた。盗んだ犯人も、その犯人がまだ
その書類を持っていることもわかっている。だが、犯人の家を警察が総力を挙げて捜してみてもどこにも見当たらない。いったい
犯人はその書類をどこに隠したのか。
かなり昔に読んだ本だが、『必読書150』のリストに入っていたので、再読してみた。といってもリストに入っていた
「盗まれた手紙」だけしか再読してないのだが。
最初読んだ時は、下記の感想にあるように、非常に読みにくく感じた。だが、再読してみて驚くほど読みやすいのでビックリした。
やはり読書を続けていたおかげかもしれない。
探偵推理小説の祖ともいわれるだけあって、やはり再読しても面白い。結末を知っているのに、オーギュスト・デュパンの推理は
再読でも鮮やかさを損なっていなかった。
推理小説はバラバラ殺人とか死体とか平気で出てくるから好きじゃない、という人もいる。
でも、この「盗まれた手紙」のように、殺人や血なまぐさい事件が起こらなくても、推理小説は面白いのだということを
そういう人にはぜひ知ってほしい。僕自身、最近”本格ミステリー”といわれるものに段々、嫌気がさしてきたというか
飽きてきたというか、とにかく読む気が失せはじめていたところだったので、あらためて推理小説の面白さを知ることができて
よかったと思っている。
以下初読時の感想文。 あるHPを見ていて、「僕は読書を趣味としていながら、今まで、古典的な名作をあまり読んでいなかった。」ということに気が付いた。そこで、今更ながら古典的名作を読んでいこうという気になったのだ。それで今回は、『黒猫・モルグ街の殺人事件』だ。
まあ、読んだことはないとはいえ、あまりにも有名なこの話の結末は知っていた。それでも読む価値は十分にあった。ただ、翻訳物というのは、実に読みにくい。当然のことながら、著者とは異文化圏に住んでいるので、表現や比喩、冗談などがピンとこない部分がある。それと、
字が細かい上に、空白が少ないので、とても読みにくい。こういう名作を、スラスラ読めるようになりたいものだ。 |
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『皇帝のかぎ煙草入れ』 ディクスン・カー(創元推理文庫) |
笑い☆☆☆☆☆ 涙★★☆☆☆ 恐怖★★☆☆☆ 総合★★★★☆ |
向かいの婚約者の家で、婚約者の父親が殺害されるのを目撃したイヴ・ニール。しかし、その時彼女の部屋には、別れた前夫が押しかけていた。その後、完全な状況証拠により彼女は、容疑者になってしまう。身の潔白を証明するには、
婚約者に、自分が前夫と一緒にいたことを言わなければならない。そしてその鍵を握る前夫は、その頃病院で意識不明の重体になっていた。果たして彼女は無実を証明できるのか?
密室の巨匠カーの作品だが、これは密室は出てこない。もう一つの得意分野である不可能犯罪の範疇に入るようだ。アガサ・クリスティをも驚愕させたトリックなのだそうだが、僕は、あまりにも都合がよすぎるトリックだと思った。
しかし、一方では、その都合の良さがまた良いとも感じる。実は一瞬★5つを付けようかと思ったが、思いとどまったのだ。だから人によって好き嫌いが別れる作品ではないだろうか。それにしても、この主人公の女性はちょっと不運すぎるなぁ。 |
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『ジーキル博士とハイド氏』 スチーブンスン(明治図書中学生文庫) |
笑い☆☆☆☆☆ 涙★★☆☆☆ 恐怖★★★☆☆ 総合★★★★☆ |
ある日の夜、人通りのない十字路で、小さな醜い男が、幼い少女を踏みつけ、怪我を負わせるという事件が起きる。
その男は、見た者を不快な気持ちにさせる不気味な雰囲気を持っていた。そして、この事件をきっかけに、この男と、
街の名士・ジーキル博士との交友が明らかになる。
この本は、僕が中学2年の時に買ったものだ。部屋の掃除をしていて、偶然見つけ、懐かしくて読んでしまった。
当時、使われている言葉が難しくて、ほとんど理解できず、投げ出してしまったが、今では当然、100%理解できる。
ずーっと昔に読んだ本を、読み返すというのは、なかなか良い。皆さんも、やってみては? |
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『オランダ靴の謎』 エラリー・クイーン(創元推理文庫) |
笑い0点 涙0点 恐怖2.5点 総合4.0点 |
エラリー・クイーンは、友人のミンチェン博士の知恵を借りに、「オランダ記念病院」を訪れた。
その頃、病院では、糖尿病を患っている大富豪エービゲール・ドールンの手術が行われようとしていた。
エラリーは、病院を訪れたついでに、ドールトン夫人の手術を見学することにした。しかし、手術室の手術台に乗せられた
ドールン夫人は、すでに針金で絞殺され、死体となっていた。いったい彼女は、いつ・誰に殺されたのか。
いわずと知れたエラリー・クイーンの国名シリーズの第三作目。著者と同名の探偵が登場するタイプの推理小説である。
日本でも、有栖川有栖や法月綸太郎などが、この手法を用いているが、必ずしも成功しているとは言いがたい。
しかし、クイーンの場合は、違和感なく受け入れられた。
本作は、残り5分の1ほどになって、<読者への挑戦>がなされる。そのタイミングがちょうどよい。そして、
エラリーの展開する論理立てた完璧な解決。動機の説明が手薄なような気はしたが、それ以外は、すばらしく、
推理小説のお手本とも言うべき作品だと思った。 |
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『不可能犯罪捜査課』 ディクスン・カー(創元推理文庫) |
笑い0点 涙0.5点 恐怖2.0点 総合3.5点 |
「新透明人間」「空中の足跡」「ホット・マネー」「楽屋の死」「銀色のカーテン」「暁の出来事」
「もう一人の絞刑吏」「二つの死」「目に見えぬ凶器」「めくら頭巾」の計10作からなる短編集。
「新透明人間」:覗き見趣味のある紳士が、向かいのアパートの一室を覗いていた。
その部屋には老人が一人おり、部屋の中央には、円テーブルがあり、その上には老人が脱いだ手袋と彼が持っていた
ピストルが置かれていた。次の瞬間、誰もはめていない空の手袋がそのピストルの引き金を引き、老人を殺害したのだ。
この謎に、奇妙な事件を専門に処理するロンドン警視庁D3課のマーチ大佐が挑む。
1作1トリックのシンプルな短編ばかりだが、そのトリックはどれも面白い。
事件は、どれも不可思議で怪奇性に満ちているのだが、最後にはきちんとトリックは明かされ、納得のいく説明も
なされているのだ。また、事件の舞台も雪の一軒家・楽屋・豪雨の街なか・朝方の海岸・刑務所など様々で、それぞれその特徴を
いかしたトリックが展開されている。まさにトリックの教科書のような一冊だ。
ただ翻訳物特有の読みにくさや、時代と文化の違いによって、今ひとつ理解出来ない箇所もあった。 |
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『九マイルは遠すぎる』 ハリイ・ケメルマン(ハヤカワ・ミステリ文庫) |
笑い1.0点 涙0点 恐怖0点 総合4.0点 |
「九マイルは遠すぎる」「わらの男」「10時の学者」「エンド・プレイ」「時計を二つ持つ男」
「おしゃべり湯沸かし」「ありふれた事件」「梯子の上の男」の計8作からなる連作短編集。
「九マイルは遠すぎる」:「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや
雨の中となるとなおさらだ」。”わたし”が言ったこの短い文章から、大学教授のニッキイは、論理的な推論を
展開していく。そして、偶然からか、ニッキイはある殺人事件の真相にたどりついたのだ。
「おしゃべり湯沸かし」:大学教授のニッキイと”わたし”が会話している途中、隣人の部屋から
湯沸かしの鋭い蒸気音が聞こえた。驚くことにニッキイはその湯沸かしの音から推論を展開し、隣人の犯罪を明らかにした。
ホームズ役=ニッキイ、ワトソン役=”わたし”という正統派の推理小説である。ただニッキイは、職業探偵ではないし、
自分で捜査もしない。一枚の写真、湯沸かしの音、短い文章、一枚の脅迫状、そういったものから論理的推理をはたらかせて
犯人を指摘するアームチェア・デテクティブなのだ。少々強引で都合のよい推理に拒否反応を示す人もいるかもしれないが、
僕はとても面白い短編集だと思った。
どれも20〜50ページくらいの短いものなので、気軽に読めます。 |
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『あなたに似た人』 ロアルド・ダール(ハヤカワ文庫) |
笑い2.5点 涙0点 恐怖1.5点 総合4.0点 |
「味」:利きワイン勝負に、自分の娘と邸宅2軒を賭けた男たちの話。
「南から来た男」:「ライターの火を10回連続でつけられたらキャデラックをあげよう、そのかわり
失敗したら君の小指をもらう」ともちかけてきた老人とアメリカ水兵の話。
「皮膚」:昔、絵のうまい知人に刺青を背中に彫ってもらった男が、数年後、その知人が有名な画家になっていることを知り、
ついにその刺青を見せびらかしてしまい・・・。
「お願い」:ジュウタンの赤いところは燃えた石炭、黒いところは毒蛇、黄色いところは安全と想像して、
歩いていた少年だったが、いつしかその想像は現実に・・・。
「音響捕獲機」:人間には聞こえない高音域を聞こえるようにした機械を作った男は、ある日、ハサミで
切られているバラの悲鳴を聞く。
以上のほか10篇を含む計15篇からなる短編集。
恩田陸の小説で、短編の名手ダールを知った。
皆まで言わず、あとはご想像にお任せしますといった感じの短編が多い。また、読んだあと思わずニヤリとするんだけど、よく考えると
実は不気味というブラックユーモアに富んでいる。
賭博に熱くなりすぎている人、日頃の鬱憤がたまりキレる人、想像と現実の間にいる人など、「あなたがたに似た人たちの話」を集めた
というタイトルにいつわりなし。
どれも短めで、読みやすいのでおすすめです。
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