島田荘司
『占星術殺人事件』(島田荘司)講談社文庫 |
やられた!うすうすは気づいていたが、まさか・・・。この本は、「金田一少年の事件簿」(あえて
どの事件とは言いません)を見たことない人は、衝撃を受ける結末が待っています。しかし、僕のよう
にマガジン愛読者で「金田一〜」をすでに読んでしまった人は、違った意味で衝撃を受けます。
あまりにもトリックが同じだから。トリックの登場は「金田一〜」の方があとだから、明らかに
「金田一〜」はこの本のトリックをぱくった(?)のかもしれない。それにしても、ショック。 |
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『御手洗潔のダンス』(島田荘司)講談社文庫 |
この本は、4つの物語が入った短編集です。
「山高帽のイカロス」
人間は、空を飛べるはずだとホントに信じていた画家が、ある日地上20メートルの空中で、死体となって発見
された。しかも、両手を大きく広げ今にも飛びたたんとするような格好で。この奇妙な事件を御手洗潔が、いつも
どおり見事に解き明かす。というような内容です。僕は、あまり面白くないなと思いました。ちょっと、トリック
が、わかりやすかったからでしょうか。
「ある騎士の物語」
これはおすすめ。何か、読んだあとに、ジーンとくるものがあります。トリックとか、そういったことではなくて
犯人の心理というか、犯行の動機というか、そんなところがよかったです。それと、ドン・キホーテの歌う「見果てぬ夢」
というのは、一度聴いてみたいなと思いましたね。
「舞踏病」
このお話では、御手洗の壊れぶりが見られます。浮浪者から情報を仕入れるため、一緒になって、段ボールで寝たり、
トリックがわかったと狂喜して池に飛び込み騒いでみたり。それと、わがままぶりも遺憾無く発揮されていますね。
この本のあとがきにもありますが、島田荘司の作品のプロローグは詩的で謎めいていますよね。この「舞踏病」でも、
詩的で謎めいたプロローグが登場します。ぜひ読んでみて下さい。
「近況報告」
まさに近況報告です。何の事件でもありません。ただ、御手洗潔とはどんな人物か?何が好きで。何が嫌いで。普段は
どんなことを考えていて。どんな部屋に住んでいるのか?などを知りたい人は読んで下さい。最初と最後の方は、御手洗
の口を借りた著者・島田荘司の意見だろうと思うのですが、僕には、ちょっと難しくて、1回読んだだけじゃ理解できま
せんでした。(たぶん、2,3回読んでも僕には、理解できないと思うけど。) |
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『漱石と倫敦(ロンドン)ミイラ殺人事件』(島田荘司)集英社文庫 |
イギリス留学中の夏目漱石(この話の頃は夏目金之助)が、ベイカー街で名探偵ホームズと知り合い、ある怪事件の
解決に一役買う、という何とも面白い設定の話です。漱石が関わったその怪事件というのは、
金持ちな未亡人が、長年生き別れになっていた弟に再会したのだが、彼は、中国で恐ろしい呪いをかけられてしまい、
たった一夜にしてミイラになってしまった。しかも、彼がミイラになった部屋は、完全な密室でありさらに放火のあとまで
あった。そして、ミイラの喉から「つね61」と読める暗号が紙切れが発見され、部屋には鎧甲が転がっているという何とも
奇妙な事件であった。
この小説は、事件のトリック自体はそう難しくはない。紙切れの謎もすぐわかったし、トリックもだいたいわかった。
そういった意味では物足りなさを感じたが、事件そのものより、その事件の読ませ方がいい。漱石側から見た記述とワトソン
側からの記述が交互に置かれていて、最初は食い違いが激しく読みづらかったが、後半になるとそれがとても効果的になっ
てくる。それと、エピローグというか事件のその後の記述がいい。特に、ホームズと漱石の別れのシーンで、解決のお礼に
と、ホームズがバイオリンを奏でるシーンはとても印象深かった。
御手洗潔シリーズの長編と違って、この本は270ページ程度と薄いので結構気軽に読めると思います。 |
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『御手洗潔の挨拶』(島田荘司)講談社文庫 |
これは、御手洗潔の短編集です。『数字錠』『疾走する死者』『紫電改研究保存会』『ギリシャの犬』
の4編が収録されています。
『数字錠』は、犯人推理は簡単で、ちょっともの足りないかもしれませんが、御手洗が犯人を捕まえる
に当たっての気遣いがなかなかじ〜んときます。それと、御手洗のコーヒー嫌いがこの話で明らかに
なります。
『疾走する死者』では、ギタリスト御手洗が見られます。
『紫電改研究保存会』は、ちょっと異色の短編です。何か、御手洗が出なくても別によかったのではない
かと思いました。
『ギリシャの犬』では、御手洗の徹底した犬好きが判明します。犬の仇をとるためにちょっとした事件を
引き受けたのですが、その引き受けた事件がその後大事件と発展していきます。
全体的にちょっともの足りない感じがした短編集でした。 |
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『斜め屋敷の犯罪』島田 荘司(講談社) |
興奮★★★★☆ 笑い★★☆☆☆ 涙★☆☆☆☆ 総合★★★★☆ |
ひさびさに「御手洗 潔」シリーズです。前々から思っていましたが、「御手洗 潔」と、京極夏彦の小説に出てくる「榎木津礼二郎」は
似てますよね。周りを混乱に陥れる言動、それでいてしっかり事件は解決する。しかも、人の名前を覚えず勝手に思いつきで呼んでしまう。
そして石岡君と関口君というこれまた似た者同士の助手(?)を従えている。う〜ん、似ている。
今回の話は、流水館という、とても奇妙な館で起こる、奇妙な連続殺人事件の話です。とにかく、この流水館というのは、奇妙奇天烈で
結構詳しい見取り図が載っているのに、その実物を想像するのが難しいです。しかし、この奇妙さが事件の重大な要素になっているんですけどね。
建物の見取り図や、犯行現場の見取り図などが載せられていたり、解決編の前には例によって『私は読者に挑戦する』という言葉も書かれている
という僕が考える正統派推理小説でした。だから、今回は非常に満足のいく本で、読み応えもありました。ただ一つ不満があるとすれば、
御手洗探偵の登場がちょっと遅かったということでしょうか。でも、それくらいの不満を打ち消すほどの驚きのトリック(ホントに驚きます)が
待っているから、いいとしましょう。 |
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『暗闇坂の人喰いの木』島田荘司(講談社文庫) |
興奮★★★★★ 笑い★★☆☆☆ 涙★★☆☆☆ 総合★★★★☆ |
その昔、刑場があり、さらし首が並べられた不吉な坂「くらやみ坂」。そして、そこにそそり立つ、樹齢2千年ともいわれる大楠。
その大楠は文字どおり、「人を喰う」と噂されている。そんな不気味な地帯に建つ1件の洋館。そこが今回の忌まわしき事件の舞台となる。
今回はいきなりスコットランドの不気味な伝説とも事件ともつかない文章から始まる。まあ、読んでみてもらえば分かるが、とても不気味な内容なのに
「です・ます」調で書かれていて、それがいっそう恐怖を駆り立てている。そして、舞台は日本に戻り、大楠にまつわる怪奇事件が次々に発生し、
御手洗探偵の出番となる。しかし、待ち受ける結末はその御手洗すらも恐怖するものであり、あまりにも気色の悪いものであった。この話は
心臓が悪い人・ホラーが嫌いな人は読まない方がいいと思う。しかし、今までの御手洗シリーズとはひと味違う超長編作品であり、大変おすすめである。
しかし、ちょっと全体的に、特にトリックに関して、無理矢理過ぎるかなという感じもする。
今回は、石岡くんがお見合い(?)をしたことにより事件に深くかかわることになったのだが、女性嫌いの御手洗探偵にもラヴコールを送る女性が登場する。
その女性は、以後御手洗作品にちょくちょく登場することになるという。ちょっと面白い展開ですね。
また今回は、前回読んだ『斜め屋敷の犯罪』のように、奇妙な建築物、通称「巨人の家」が登場するが、
その正体にはびっくりした。 |
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『異邦の騎士』島田荘司(講談社文庫) |
興奮★★★★☆ 笑い★☆☆☆☆ 涙★★★★★ 総合★★★★★ |
男はある日、公園のベンチの上で目を覚ます。そして、自分の名前すら思い出せない記憶喪失になっていることに気づきパニックに陥る。そんな状態で街なかを徘徊しているとき一人の女性と出会う。
その後彼は、彼女の家に居候し、幸せな毎日を送る。しかし、男の失われた過去の記憶が蘇るにつれ、男は衝撃の事実を知ることになる。
泣けます。主人公になり切れればもう、恐ろしいことになります。泣きながら人を殺したくなるかもしれません。
これは、御手洗潔の最初の事件です。しかし、これは事件の解決を目指す推理小説というより、恋愛小説といった方がいいかもしれません。それにしても、これほど悲しいお話があって良いものか。
滅多に泣かない僕でさえ目頭を熱くしてしまいました。とにかく、一度読んで欲しいです。
ん〜、今回は感想文にもなってないなぁ。 |
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『奇想、天を動かす』 島田荘司(光文社) |
笑い☆☆☆☆☆ 涙★★★★☆ 恐怖★★★★☆ 総合★★★★★ |
消費税が導入されて間もない平成元年4月3日、東京浅草の商店街の人混みの中、殺人事件が発生した。浮浪者風の老人が400円の買い物をしたのだが、
その店の女性店員に、消費税12円が足りないと請求されたのに腹を立て、刺し殺してしまったのだ。あまりにも些細な動機による犯行に、疑問を抱いた
警視庁捜査一課の吉敷竹史は、独自に調査を始める。そして、事件の背後にあるとてつもない真相に辿り着くのだった。
やっぱり島田荘司は凄い、そう素直に感じた。あらすじだけ読んで、「つまらなそう」と早合点し、この大作を読んでいない、そこのあなた、
絶対損してます。 冒頭のホラー小説顔負けの怪奇な文章が、とても意味ありげで、一気に引き込まれてしまった。ネタバレになるのであまり書けないが
ラストシーンは、なんだかスッとした、そしてジーンときた。何はともあれまだ未読の人、ぜひ読んでみてください。そして、御手洗潔が出ていない
島田荘司の作品なんて読めないという人、だまされたと思って読んでみてください。ぜひ! |
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『北の夕鶴2/3の殺人』 島田荘司(光文社文庫) |
笑い☆☆☆☆☆ 涙★★★★☆ 恐怖★★☆☆☆ 総合★★★★★ |
警視庁捜査一課の吉敷竹史のもとに、5年前に別れた妻・通子から電話がかかってくる。電話の向こうの通子の様子にただならぬ雰囲気を感じた彼は、
急いで駅に向かう。そして、発車直後の「ゆうづる九号」に、通子の姿を見た。すれ違いとなってしまった彼は、翌日、「ゆうづる九号」で通子に似た
女性の死体が発見されたという情報をつかむ。
島田荘司という人は、常人ではないという事を改めて思い知らされた。御手洗潔という破天荒キャラを生み出す一方で、この吉敷竹史というハードボイルド系の
渋いキャラを生み出すとは。
本作は、一見よくあるトラベルミステリーのようだが、2時間のサスペンスドラマ受けするような物足りない小説ではない。幻想的で、大胆で、壮大なトリックを駆使した
「不可能犯罪」と吉敷に強いられた「タイムリミット付きの事件解決」さらには、彼と通子の
「感動的なストーリー」、という島田風味が存分に味わえる傑作だ。読むベシ。 |
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