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恩田 陸



『象と耳鳴り』 恩田陸(祥伝社)
笑い0点 涙1.0点 恐怖0.5点 総合4.0点
「曜変天目の夜」:「今日は、曜変天目の夜だ。」そうつぶやいた老学者は、まもなく息を引き取った。 彼と親しかった元判事の関根多佳雄は、彼の死を推理する。
「象と耳鳴り」:「あたくし、象を見ると耳鳴りがするんです。」そう言って、一人の老女が、多佳雄に 過去を語りはじめた。だが、多佳雄はその昔話の嘘を看破した。
「ニューメキシコの月」:ある高名な医師が、9件の無差別殺人を犯し逮捕された。だが、多佳雄は、被害者に 共通点を見つけ、無差別に思えた犯行の背後に動機があることを推理する。
「机上の論理」:ある部屋を撮った数枚の写真から、部屋の持ち主の人物像と職業を、関根春と夏の兄妹が推理する。
「魔術師」:合併がすすむある都市で広まっている奇妙な都市伝説。多佳雄はそれらの伝説が生まれた意味を推理する。
以上のほか「新・D坂の殺人事件」「給水塔」「廃園」など計12編からなる短編集。

 一枚の写真、ちょっとした一言、一通の手紙、過去の記憶など、小さなことから推理を繰り広げる安楽椅子探偵小説のような短編集。
 どの短編も設定やストーリーは面白い。だが、どれも短すぎる。そのため、主人公の推理が飛躍しすぎではないか、あまりに勘がよすぎではないか、 という印象を受けた。まあ主人公は元判事だし、周辺の登場人物も弁護士・検事なので、勘が鋭くて当然なのかもしれないが。


『不安な童話』 恩田 陸(祥伝社ノンノベルス)
笑い0点 涙1.5点 恐怖2.5点 総合4.0点
 大学教授秘書を務める24歳の古橋万由子は、教授らとともに、高槻倫子という画家の遺作展に行く。25年前に変死した倫子の絵を 見ているうちに、万由子は強烈なデジャ・ヴに襲われ失神してしまった。翌日、万由子は倫子の息子に「あなたは母の生まれ変わり」だと 告げられ、母が死んだ時の状況を思い出してほしいと頼まれる。彼女の死の真相を追い始めた矢先、万由子の周りで事件が続発するのだった。

 前世の記憶を持つ女性というオカルトチックなサスペンス・ミステリー。これは傑作だ!という衝撃はないが、恩田さんらしい設定の 面白いミステリだと思った。
 登場する教授といい、万由子の幼なじみといい、もう少し魅力的なキャラにできそうなのに、中途半端な役で終わっているという 印象がした。もう少し個性的なら、シリーズものにもできそうな感じだった。


『上と外 1〜6』恩田 陸(幻冬社文庫)
笑い2.0点 涙2.5点 恐怖2.0点 総合4.0点
 両親が離婚し別々に暮らしている元家族が、年に一度集う夏休み。中学生の楢崎練は久しぶりに妹の千華子、母の千鶴子と合流し、 考古学者の父・賢がいる中央アメリカG国までやってきた。1年ぶりに揃った4人で、古代遺跡を見に行こうと、軍のヘリコプターを チャーターして遺跡に向かった。ところが途中、ヘリコプターが急に方向を変えた。クーデターが勃発したのだ。そして次の瞬間 、バランスを崩したヘリコプターから、練と千華子が放り出され、密林の中へと落ちて行ってしまったのだ!(←1巻のネタばれアリ)

 平成12年8月からほぼ隔月刊行された小説。1巻から6巻までそれぞれ次のような副題がついている。 「1.素晴らしき休日」「2.緑の底」「3.神々と死者の迷宮(上)」「4.神々と死者の迷宮(下)」 「5.楔が抜ける時」「6.みんなの国」。
 複雑な経歴を持つ練の一家は、皆個性的なキャラクターだったが、僕が一番気に入ったのは練の祖父・久だった。 学校では習わないような実践的な知識を教えてくれる、職人気質のこんなおじいさんが身内にいたらなぁ、と練がうらやましく なってしまった。
 1,2巻くらいまで読んだときは、オカルトチックな話になっていくのかなと思っていた。ところが読み進めるうちに、 インディージョーンズのような冒険アクションっぽい小説になっていき、ちょっとガッカリというか拍子抜けした。
 文庫6冊約2500円で完結だから、値段的には大作のハードカバー1冊分もしくは、普通のハードカバー2冊分と同じくらいだ。 そう考えると、この内容にしてはちょっと割高だったカナと思う。
 しかし、最後まで退屈せず一気に読まされてしまったので、面白いのは確かである。


『ドミノ』恩田 陸(角川書店)
笑い4.0点 涙0.5点 恐怖0.5点 総合5.0点
 一億円の契約書を一刻も早く会社に届けなければならない保険会社社員。
 親の期待を一身に浴び子役オーディションを受け続ける少女。
 俳句仲間とのオフ会のため初めて東京に来た老人。
 ホラー映画『ナイトメア4』のプロモーションのために来日した映画監督。
 「試作品」を持ち歩いていた過激派のメンバー。
 その他、多くの人々が入り乱れ東京駅に集中したとき、事件は起こった。

 まさに”これぞエンタテインメント!”という小説。きれいに並べられたドミノが次々に倒れていくスピード感、 うまく倒れるか、この先どうなるかというスリル、そしてすべて倒れきったときの心地よさ。『ドミノ』という タイトルがぴったりだ。
 それにしてもよく出来ている。30人近い登場人物をほんとうにうまく動かしている。 かなり偶然に頼ったストーリーだが、それは全く批判の対象とならない。その偶然こそが本書の醍醐味だと思う。 とてもコミカルでハチャメチャで今までの恩田陸のイメージとは違う新しい一面が見られた。 それとブックデザインもよかった、非常に味のある絵で描かれた巻頭の登場人物リストがまたよかった。
 読書の楽しさが存分に味わえるから、あまり本を読まない人にもお薦めできる一冊です。


『Q&A』恩田 陸(幻冬舎)
笑い0点 涙0.5点 恐怖1.5点 総合2.5点
 2002年2月11日午後2時過ぎ、都内郊外の大型商業施設において重大死傷事故発生。死者69名、 負傷者116名。未だ事故原因を特定できず―。  

 事故を調査しているらしき人が質問をし、その場に居合わせた人が答えていくというQ&A方式で、 徐々に真相が明らかになっていく。つまり全編、会話のみで話が進む。  いつものことながら非常に興味をひかれる謎めいた設定だったし、今回は、Q&Aだけで小説を 創るという実験色の濃い作品だったので、とても期待をして読んだ。しかし、期待が大きかった分、 失望も大きかった。途中からストーリーがおかしな方向に行ってしまい、釈然としないまま読み終わってしまった。 もっとあっと驚くような真相が待っているのかと思ったのに。なんだか、恩田陸の小説は、いつも最後で 裏切られるという印象が強いな。


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