「曜変天目の夜」:「今日は、曜変天目の夜だ。」そうつぶやいた老学者は、まもなく息を引き取った。
彼と親しかった元判事の関根多佳雄は、彼の死を推理する。
「象と耳鳴り」:「あたくし、象を見ると耳鳴りがするんです。」そう言って、一人の老女が、多佳雄に
過去を語りはじめた。だが、多佳雄はその昔話の嘘を看破した。
「ニューメキシコの月」:ある高名な医師が、9件の無差別殺人を犯し逮捕された。だが、多佳雄は、被害者に
共通点を見つけ、無差別に思えた犯行の背後に動機があることを推理する。
「机上の論理」:ある部屋を撮った数枚の写真から、部屋の持ち主の人物像と職業を、関根春と夏の兄妹が推理する。
「魔術師」:合併がすすむある都市で広まっている奇妙な都市伝説。多佳雄はそれらの伝説が生まれた意味を推理する。
以上のほか「新・D坂の殺人事件」「給水塔」「廃園」など計12編からなる短編集。
一枚の写真、ちょっとした一言、一通の手紙、過去の記憶など、小さなことから推理を繰り広げる安楽椅子探偵小説のような短編集。
どの短編も設定やストーリーは面白い。だが、どれも短すぎる。そのため、主人公の推理が飛躍しすぎではないか、あまりに勘がよすぎではないか、
という印象を受けた。まあ主人公は元判事だし、周辺の登場人物も弁護士・検事なので、勘が鋭くて当然なのかもしれないが。
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