岡嶋二人
『そして扉は閉ざされた』 岡嶋二人(講談社文庫) |
笑い0点 涙3点 恐怖3点 総合5点 |
咲子が事故死してから数ヶ月後のある日、彼女の友達だった男女4人組は、核シェルターの中で目が覚めた。「咲子は彼らのうちの誰かに殺された」と思っている母親に閉じこめられたのだ。閉じこめられた彼らは、なんとか脱出を試みる
と同時に、咲子の死の真相について議論し始める。
外に声も届かない核シェルターという閉ざされた空間、限られた食糧、そして閉じこめられた4人の中に、殺人犯人がいるかもしれないという状況。もし自分が彼らの立場だったら、と考えるとゾッとするような設定だ。彼らはお互いに疑いあい、庇いあい
協力しあって、徐々に真相に近づいていく。その課程が緊張感たっぷりでたまらなく良い。最近のミステリーにありがちな派手さはないけれど、その分、新鮮でリアリティがあって面白かった。 |
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『チョコレートゲーム』 岡嶋二人(講談社文庫) |
笑い0点 涙4点 恐怖1点 総合4点 |
中学生の息子・省吾に、非行の兆候が見え始め、家族の絆が揺らぎだした頃、省吾のクラスメイトが次々と惨殺される。
息子の非行化と、殺人事件の関係を調べるうちに、省吾の父親は、「チョコレートゲーム」というものの存在を知る。そして、
ついに、省吾の身にも魔の手が・・・。
日本推理作家協会賞受賞作。
中学生の息子とその息子を疑ってしまう父親がメインの登場人物であり、舞台は、家庭と学校、というとても身近な題材である。
しかも、実際にあってもおかしくないような事件である。子供を持つ親がこれを読んだら、「うちの子は大丈夫かしら?」なんて
思ってしまうのではないだろうか。やはり親と子の会話というのは大切である、というあまりミステリーとは関係ないことまで
考えさせられた作品である。 |
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『クラインの壺』 岡嶋二人(新潮文庫) |
笑い0点 涙2点 恐怖4点 総合5点 |
とあるゲームブックの公募に、自分の作品を出した上杉彰彦。残念ながら公募には落選したが、イプシロン・プロジェクト
という企業が、その原作を使ってゲームを作らせてくれと申し出てきた。そのゲームは、ヴァーチャルリアリティシステム「クライン2」を
使ったもので、ゲームの歴史を変えるとてつもないものだった。モニターとして、試作品を体験していた上杉だが、途中「戻れ・・・。」という
プログラムにはない声を聞き気を失った。
何ともいえない複雑な読後感だった。この作品が、岡嶋二人としての最後の作品となっただけに感慨深い。この作品は、ミステリーなのだろうか。
僕は、かなりホラー要素が濃いと感じた。ホラーといっても、ゾンビやジェイソンのような怖さではなく、心理的な怖さもしくは、強い
不安感による恐怖といったものだ。「クライン2」のようなものは、将来現れるのだろうし、もうそれに近いものは存在している。
多くは語れないが、是非とも読むべき一冊だ。 |
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『コンピュータの熱い罠』 岡嶋二人(光文社文庫) |
笑い0点 涙2.0点 恐怖3.5点 総合4.0点 |
大手企業グループの系列下にある結婚相談所にオペレーターとして勤めている夏村絵里子。その相談所に、ある日、失踪した兄嫁の
データを見たいという女性がやってくる。たとえ本人であっても、データは見せられないと絵里子が断った翌日、その女性が殺された。
疑問を抱いた絵里子は、独自データを調査し、思いもかけない事件に巻き込まれていく。
コンピュータが重要な位置を占めるミステリなので、一見文系諸子には、取っつきにくい小説かと思える。しかし、全くそんなことはなく、
登場するコンピュータ用語には、きちんと説明がなされていて、その気配りは、「フロッピーディスク」ですら説明するくらい行き届いている。
また、10年以上前にコンピュータを題材に書かれたものなのに、古さというか時代遅れだとは感じない。一つには、取り上げる内容が、今でも問題となっている、
情報化社会におけるプライバシーの保護に関係しているからだろうと思う。 |
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『ツァラトゥストラの翼』 岡嶋二人(講談社文庫) |
笑い0.5点 涙0点 恐怖2.0点 総合3.0点 |
完全な密室の半地下の部屋で鹿島英三郎は何者かに殺害されていた。その上、その部屋の隠し金庫にしまってあった「ツァラトゥストラの翼」
という、何億という値が付く高価な宝石が盗まれていた。この宝石を盗んだ犯人を、読者自らが「探偵」となって捜すという、ゲームブック形式の物語。
推理小説界の巨匠・岡嶋二人が手がけたゲームブックである。ゲームブックというのは、1980年第二イギリスで出版され、その後、
日本でも大ブームとなった形式の小説である。普通の小説とは違って、1ページの次が必ずしも2ページとは限らない。
つまり、1ページ目を読み、そこに「92ページに進め」と書かれていたら、92ページにすすみ、そこに書いてある指示に従うというものだ。
また、時には「Aだと思ったら30ページへ、Bだと思ったら102ページへ進め」というように、読者自身が、ストーリーを選択できるのだ。そのため、ストーリー
は1つではなく、読者の選択次第で、ハッピーエンドで終わることもあれば、バッドエンドになってしまうこともあるのだ。
このゲームブックの特徴を生かした本格的な推理小説なわけだが、かなり面倒臭いものになっている。ページを行ったり来たりする
労力をいとわない人にはお薦めの一冊だが、それがイヤな人にはちょっと薦められない。 |
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『99%の誘拐』 岡嶋二人(徳間文庫) |
笑い0.5点 涙1.5点 恐怖0.5点 総合4.5点 |
昭和51年、カメラ・OA機器メーカー・リカードに勤めていた生駒洋一郎は、昭和43年に息子の慎吾を誘拐された
事件の詳細な手記を残し、病死した。昭和63年、今度は、リカードの社長の息子が誘拐された。要求された身代金は、10億円分の
ダイヤモンド。電子的な合成音で、要求を伝える犯人は、自分は社長の息子を誘拐するために作られた、パソコンのプログラムである
と言った。こうして、前代未聞のハイテク誘拐事件が始まった。
岡嶋二人氏の後期の著作で、吉川英治文学新人賞受賞の傑作である。コンピュータを駆使し、驚くべき方法で展開していく誘拐事件には脱帽である。
本書は、あらかじめ犯人が示されているため、普通のミステリとは違い、はっきりとした解決編もないので普通の倒叙ミステリとも違う。
全編にわたって計算し尽くされた犯人の華麗な誘拐テクニックを書き綴っている小説なのだ。しかし、背後には、関係者の心理や犯人の意外な動機も隠されていたりと、
きちんとしたドラマも盛り込まれているのだ。
殺人事件だけがミステリではないということを、改めて実感させられた小説である。 |
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