HOME 著者名 タイトル ジャンル

西澤保彦


『七回死んだ男』 西澤保彦(講談社ノベルス)
笑い★★☆☆☆ 涙☆☆☆☆☆ 恐怖★☆☆☆☆ 総合★★★★☆
 特異な体質の持ち主・大庭久太郎。その体質とは、「1ヶ月に3〜4回ほど”時間の反復落とし穴”に落ちる、つまり彼だけが同じ日を何度も繰り返す」というものなのだ。そしてお正月早々、彼はその落とし穴には落ちてしまった。しかも、祖父の零治郎が殺されるというオマケ付で・・・。 この殺人を防ぐべく、一人で9回同じ日を過ごせる久太郎が、孤軍奮闘する。

 設定が凄すぎる。果たしてこれは、なんというジャンルなのか?SFミステリとでもいうのか。宮部みゆきがよく使う超能力者の話は、「こういう人もいるかも」という気になるが、これは、現実離れしすぎている気がする。でも、破綻することなく、うまく最後までいくから凄い。でも、その同じことが繰り返されるという設定のために、 途中で、次の予測がついたり、飽きてしまうところが多少ある。読む人によって、評価が異なる作品だろう。それと、読んでいて一つ気が付いたことがある。 それは、「読点【、】がほとんど使われてない」ということだ。普通なら読点【、】を使うところも、句点【。】を使っている。気にしなければなんともないが、気にし出すと止まらない。なぜ作者は、読点を使わないのか。ただの拘りかなぁ。誰か知っていたら教えて欲しい。


『幻惑密室』 西澤保彦(講談社ノベルス)
笑い2.0点 涙0点 恐怖0.5点 総合4.0点
 超ワンマン社長の自宅での新年会に招かれた4人の社員。そんな4人を次々と奇妙な現象が襲う。それは彼ら全員が、邸内から出られなくなり、 しかも邸内だけ外界とは時間の流れが変わってしまうというものだった。そうした状況下で社長が何者かに殺害されてしまうのだった。
 この奇妙な時間の真相解明に<超能力者問題秘密対策委員会(略してチョーモンイン)>の見習い相談員・神麻嗣子が挑戦する。

 超能力と本格ミステリという破天荒の組み合わせを見事に成功させている西澤氏。彼が手掛ける<神麻嗣子シリーズ>の1作目。
 <チョーモンイン(作中でこのように略されている)>という謎の組織や、かなり強烈なキャラクターの神麻嗣子とおよそ 本格ミステリらしくない何かアニメチックな設定のため、好き嫌いがわかれる作品だと思う。しかし、真相に至る過程やラストなどは、 しっかり本格ミステリになっている。
 著者が大ファンだという水玉螢之丞さんのイラストを表紙と挿絵に使っていることで、かなり独特な雰囲気のノベルスになっている。 そのため、なかには読まず嫌いで読んでいない人もいるかもしれない。だけど、この1作目を読んでから、自分の好みに合うかどうか 判断してもらいたいと思う。


『実況中死』 西澤保彦(講談社ノベルス)
笑い1.5点 >涙0.5点 恐怖0.5点 総合4.0点
 雷の直撃を受けてから、岡安素子には他人の見た風景がそのまま見え、”体験”できる超能力が身に付いてしまった。 そのせいで、彼女はストーカー行為や殺人までも”体験”するはめになってしまう。切羽詰まった彼女の訴えに、推理小説家の保科、 能解警部、<チョーモンイン>の見習い相談員・神麻嗣子の3人が調査を始める。

 <神麻嗣子シリーズ>の第2作目。2番目に出版された作品というべきか。というのも、あとがきによると、時系列で見ると今回の事件は、 5番目にくる事件なのだという。その点がちょっとややこしい。
 今回も、いつものように超能力と本格ミステリを絶妙な設定で融合させている。ただ今回の能力は、ちょっとややこしい。テレパシーの 一種のようだが、少々複雑なため説明に結構ページを割いている。それと本書のシリーズキャラクターの1人である保科匡緒という推理小説家の主張に、 著者の主張が露骨にあらわれている気がした。やっぱり、著者自身をモデルにしたのだろうか。ただ、今回はその主張も推理するうえでポイントになっている気もするので、もしかしたら 僕の浅読みかもしれない。


 
『念力密室!』 西澤保彦(講談社ノベルス)
笑い1.0点 涙0点 恐怖0点 総合3.5点
 「念力密室」「死体はベランダに遭難する 念力密室2」「鍵の抜ける道 念力密室3」「乳児の告発 念力密室4」 「鍵の戻る道 念力密室5」「念力密室F」の計6作からなる連作短編集。
「念力密室」:ミステリ作家・保科匡緒が、ある日アパートに帰ると、そこに 見知らぬ男の死体があった。しかも、玄関は鍵だけでなく、内側からチェーンまでかかっていた。必然的に、部屋の主である 保科が疑われることになるのだった。 神麻嗣子が初登場する作品。

 <神麻嗣子シリーズ>の3作目。といっても、「念力密室3」までは、前作の『実況中死』よりも前の事件の話である。 特に、1話目の「念力密室」は、神麻・保科・能解が出会うエピソードを描く、神麻嗣子のデビュー作なのだ。ただ、 どういう順序で読んでもそれほど不都合はないと思う。キャラクターをより深く味わい人は、著者の指定した順に読めばよいと思う。
 今回は、全編サイコキネシスを使った密室物だ。普通に考えれば、サイコキネシスで密室を作るなんて反則だと思うが、 「なぜ密室にする必要があったのか?」ということにミステリの重点が置かれているので問題はない。
 本書のあとがきで、三人の関係の行方はいずれ完結させると宣言している。そして、それは多くの読者が予想しているとおりの 結末になるといっている。まあ、僕でもここまでシリーズを通して読めば、「ああ、最後はこうなるな」というのがわかった。 意外な結末というのもよいが、予想した結末をどれほど面白くしてくれるだろうか、と待ち望んでいるのもよいものだ。


『複製症候群』 西澤保彦(講談社ノベルス)
笑い1.0点 涙2.0点 恐怖3.0点 総合4.5点
 突然、空から落ちてきた異様な壁に閉じこめられてしまった高校生たち。彼らは、その壁から逃げ出すことは許されない。 なぜなら、その壁に触れると、触れた者とすべてが完璧に同じコピー人間が出来てしまうからだ。そんな閉じられた空間で、 殺人事件が発生する。犯人は誰か?そして、それはオリジナルの人間か、それともコピー人間か?

 SF的かつ大胆な設定で読者を楽しませてくれる西澤氏だが、今回の設定は、あまりにも強引で現実離れしている。 空から壁が落ちてきて、それに触れるとコピー人間ができてしまうなんて、あまりにSF色が強くて、すんなり受け入れられない。 だが、そこをこらえて読み進めるだけの価値は充分にある小説だ。
 大げさにいえば本書一冊で、SF・ミステリ・ホラー・コメディ・恋愛・涙と6つの要素を一度に味わえるのだ。 殺人事件と謎解きがあるから、ミステリがメインなのだろうが、僕はホラーの要素を強く感じた。読後は、「怖かった」と 真っ先に思ってしまった。そして次ぎに、「これほどの設定を破綻なくまとめるとは、すごい人だな」と感じた。
 クローン人間の是非について、などといった難しいことは考えず、ただ純粋に楽しんで読むといいと思います。


『人格転移の殺人』 西澤保彦(講談社ノベルス)
笑い0.5点 涙0.5点 恐怖1.0点 総合3.0点
 大地震のため、近くにあったシェルターに逃げ込んだ数人の見知らぬ男女たち。彼らが逃げ込んだシェルターは、入った人間の 人格がその場にいる別人の身体に入れ替わってしまう人格転移装置だった。誰がどの身体に転移しているかわからない状況のなか、 密室のシェルターで殺人事件が発生する。

 今回の設定は、単純なようで複雑だ。だいたい身体と人格が違うため、文章が非常にややこしい。そして、そこで起こる殺人事件も、 結局誰が犯人でも別にいいと思う。読んでもらえばわかるが、その推理は結局、推理の域を出ていないのだ。また、その推理自体、 少々都合がよすぎて、いまいち釈然としない。そんなわけで今回は、総合3.0点と低評価にした。ただ、解説をしている作家の 大森望氏は、絶賛しているので僕の評価はあまりあてにはできません。


『麦酒家の冒険』 西澤保彦(講談社ノベルス)
>笑い1.0点 涙0点 恐怖0.5点 総合3.5点
 匠千暁ら4人が迷い込んだ無人の山荘。その中には、目立った家具もカーテンもなく、1台のベッドと、まるで隠してあるかのように 置かれていた冷蔵庫、そしてそのなかには、96本ものビールのロング缶と13個のジョッキがあるだけだった。いったい誰が 何のためにこんなことをしたのか?彼ら4人は、ビールを飲みながら推理をしていく。
 著者は、ハリイ・ケメルマンの『九マイルは遠すぎる』に感動し、同じ趣向で長編を書いてみようということで、本書を執筆したそうだ。 つまり、長編のアームチェア・ディテクティブに挑戦したというわけだ。
 読後の率直な感想はというと、ちょっと冗長だったかな、と思った。4人がそれぞれ推理を重ねていくので、真相ではない推理も当然でてくる。 本書は、それが4人分もあるからよけいに冗長に感じてしまう。『九マイルは遠すぎる』のように、一人で推理を重ね、真相にたどりつくという 短編形式の方が僕は好きだし、この種の小説には合っていると思う。また、この種のミステリにありがちな、強引な推理も少々気になった。 とはいえ、96本のビールとベッドが一つだけしかない山荘という状況から、よくぞここまで推理をしたものだ。


『完全無欠の名探偵』 西澤保彦(講談社ノベルス)
笑い3.0点 涙1.0点 恐怖0.5点 総合4.0点
 個人の心の底にわだかまる不審事をしゃべらせ、推理させてしまうという”超能力”を持つ山吹みはるは、ある人物の思惑により、 大学で事務員として働くことになった。彼に近づく者は皆、無抵抗に自らの心うちをしゃべってしまう。そのことにより、彼の周辺では、 脅迫・殺人・浮気など様々な事件の真相が次第に明らかになっていく。

 自発的に何の行動も起こさず、ただその場にいるだけで効果のある珍しい超能力で、しかも当人は自分にそんな能力があることを知らない 超能力者、という何とも面白い設定なのだ。推理小説としては、推理の飛躍や都合が良すぎる場面も多く、事件のからまり具合が複雑であまりいいとは思えなかった。 しかし、そこに変な超能力者を加えて、うまく納得させられた、という感じがする。また、意図的とはいえ、あまりに非現実的な名前の 登場人物ばかり出てくるわりには、事件が現実的で、ふざけた小説なのかちゃんとした小説なのかよくわからない。一応僕は、 笑える小説として読んだのでそれなりに評価はできた。


HOME 著者名 タイトル ジャンル