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宮部みゆき


『夢にも思わない』 宮部みゆき(中央文庫)
笑い2.5点 涙2.0点 恐怖1.0点 総合3.5点
 中学生の緒方雅男は、ひそかに恋いこがれているクドウさんが、近くの公園で開かれる「虫聞きの会」に行くというのを知り、 彼も一人でその公園に行った。ところが、その夜、その公園で殺人事件が起こる。殺されたのは、クドウさんの従姉だった。 その後の調べで、彼女は生前、少女売春組織と関わっていたなど、イヤな事実が明るみになった。そのせいで、クドウさんは、元気がない。 そんなクドウさんのために雅男は、親友の島崎と一緒に真相究明に乗り出した。

 『今夜は眠れない』の続編的作品。今回もコメディタッチで、少年たちが事件の真相を暴く。しかし、今回は前回とは違って、 何とも寂しい読後感だった。それと、内容の割には、少々長すぎるのではないかと思った。宮部さんの作品は、他の推理小説とは 異なり、謎解きやトリック等よりも、登場人物の背景や他愛もない会話などに重点をい低書いている湯お出、そのため、ミステリとしては、 無駄に長い感じがすると思う。でも、その無駄に長い部分があるから宮部みゆき独特の、心暖まる世界が体験できるのだろう。


『長い長い殺人』 宮部みゆき(光文社文庫)
笑い0.5点 涙3.5点 恐怖3.0点 総合4.5点
 「刑事の財布」「強請屋の財布」「死者の財布」「目撃者の財布」「犯人の財布」などの他計10個の財布が、 それぞれの持ち主の行動を語る。全く無関係に思える持ち主たちだったが、次第に彼らの背後に重大な事件が浮かび上がってくる。

 『パーフェクト・ブルー』では、犬のマサが語り手となっていた。しかし、今回は、「財布」が語り手になっている。犬ならまだ、しゃべりそうな気もするし、 なにを考えているのかわかりそうな気にもなる。しかし、財布はしゃべるはずのない「物」である。その財布に語らせるという大胆な手法。 様々な持ち主の財布が、ある重大な事件を持ち主の行動を通して語るため、間接的断片的にストーリーが展開し、霧が晴れていくように事件の全貌が見えてくる。 そうやって情報を小出しにされることで、続きが気になり、読み出したら止まらなくなっていた。これは文句なしにお薦めできる一冊である。


『スナーク狩り』 宮部みゆき(光文社文庫)
笑い0点 涙4.0点 恐怖3.5点 総合5.0点
 その晩、関沼慶子は、散弾銃を持って、元恋人である国分慎介の結婚式に向かった。そして、その銃口は、新郎新婦に向けられる。 同じ頃、慶子の住むアパートには、自分が抱く計画のために、慶子の銃を手に入れようとしている織口邦男がいた。同じ頃、織口の同僚の 修治は、織口の様子がおかしかったことをいぶかしみつつ、酒を飲んでおり、神谷という男性は、急病の妻を見舞うため、一路、金沢へ車を走らせていた。

 社会派現代ミステリ(サスペンス?)の最高傑作と言っても過言ではない作品だ。宮部みゆきの作品ジャンルは多岐にわたるため、一概にどの作品が一番かというのは、 比べられないが、本作は間違いなく、宮部作品の(僕の中での)TOP3に入る。
 わずか一晩のうちに、様々なドラマが交錯し、スピーディーに事件が展開していく。そのスピード感を感じさせる要因は、 読者の五感を刺激する圧倒的な描写力にあるのではないだろうか。本書の解説では「映像的な表現」といっているが、 まさにその通りで、まるで映像が見えるかのように、一つ一つの場面が書かれているのだ。
 これは、本当に、読んでおいた方がいい。これを読まずして宮部みゆきは語れない、と思う。


『地下街の雨』 宮部みゆき(集英社文庫)
笑い2.0点 涙3.0点 恐怖3.0点 総合3.5点
 「地下街の雨」「決して見えない」「不文律」「混線」「勝ち逃げ」「ムクロバラ」「さよなら、キリハラさん」の計7作からなる 短編集。
 「混線」:ここ半月ほど深夜2:30になると、必ず妹のもとに、いたずら電話がかかってくる。 耐えかねた兄は、その電話の男を脅すために、ある話をした。それは、同じくいたずら電話をしていた男が迎えた恐ろしい最期の話だった。
 「さよなら、キリハラさん」:洗濯機のブザー、電話の音、TVの音など音にあるれたごく平凡な 大杉一家。そんな大杉家の長女・道子は、ある夜、全く耳が聞こえなくなってしまった。翌日には、正常に戻っていたものの、数日後、今度は 家族全員の耳が聞こえなくなってしまった。それは、宇宙から来たという自称「音波Gメン」のキリハラという奴の仕業だった。

 ホラーあり、コメディあり、ハートウォーミングありと、何でもそろっている短編集である。平凡な作家なら、それほど多くのジャンルに手を出したら、 どれも中途半端な出来になってしまいそうだが、非凡な才能を持った宮部みゆきは、どれもがすばらしい出来なのだ。文章力・表現力・プロットの他 どこをとっても非の打ち所がない。かなり褒めちぎっているが、宮部作品を読めば誰もがそう感じるに違いない。


『とり残されて』 宮部みゆき(文春文庫)
笑い2.0点 涙3.5点 恐怖2.5点 総合4.0点
 「とり残されて」「おたすけぶち」「私の死んだ後に」「居合わせた男」「囁く」「いつも二人で」「たった一人」の計7作からなる短編集。
 「とり残されて」:ある憎悪を心に秘めたまま、小学校の保健の先生をしている主人公。ある日彼女は、 姿の見えない子供の足音を聞いた。それ以来、足音は、保健室に近づいてきて、しきりに「あそぼ」「プールにおいで」と話しかけてくるのだった。 そんな折、校内のプールで女性の死体が発見される。
 「たった一人」:永井梨恵子は、とあるマンションの一角にある調査事務所に赴き、そこにいた探偵に、 ある突拍子もない依頼をした。それは、毎晩彼女が見る夢に出てくる場所が、実際に存在するのかどうか調査して欲しいというものだった。

 全体的にホラーであり、超常現象も扱い、SFの要素もあり、恋愛小説もある、バラエティ豊かな名作短編集である。特に、最後の 『たった一人』は、多くの人が絶賛し、宮部みゆきの短編のベストだと明言する評論家もいるほどだ。確かに名作だが、なかなか深い小説で、 注意しないと読み間違えてしまいそうだ。『たった一人』以外のものも、傑作揃いだ。この短編で、宮部みゆきの懐の深さと多才さを改めて 思い知った。やはり宮部みゆきはスゴイ。


『心とろかすような−マサの事件簿−』 宮部みゆき(東京創元文庫)
笑い3.5点 涙4.0点 恐怖1.0点 総合4.5点
 「心とろかすような」「手のひらの森の下で」「白い騎士は歌う」「マサ、留守番する」「マサの弁明」の計5作からなる短編集。
 「マサ、留守番する」:蓮見探偵事務所で飼われている元警察犬のマサ。彼は、事務所の所長と その一家(つまりは飼い主)が旅行に行くため、一匹で留守番する事になった。一匹で留守番を始めたその日、事務所の前を通る 小さな足音で目を覚ました。外にでるとそこには、ウサギの赤ちゃんが捨てられていた。何とか捨てた子を捜そうと、マサは近所の 野良犬やカラスや飼い猫などに、聞き込みを始めた。

 この短編の語り手は老犬マサである。彼は宮部みゆきの長編デビュー作『パーフェクト・ブルー』で初登場した。 本作はその続編的作品である。悲しくも心暖まる短編ばかりで、読むと優しい気持ちになれるような気がしてくる。 どれも本当に傑作なのだが、中でも最後の「マサの弁明」は異色作である。なんと作中に宮部みゆき本人が登場するのである。 それも端役ではなく、蓮見探偵事務所に依頼を持ち込んだ推理小説家、というしっかりとした役でご登場なのだ。 作中では、まさにかなりボロクソ言われているが、宮部みゆきの遊び心が感じられた短編だった。
 赤川次郎の「三毛猫ホームズ」シリーズのようにドラマ化してほしくはないが、もし、上手く映像化できたら 面白くなりそうな作品だなと思う。


『人質カノン』 宮部みゆき(文藝春秋)
笑い0点 涙2.5点 恐怖1.5点 総合3.5点
 「人質カノン」「十年計画」「過去のない手帳」「八月の雪」「過ぎたこと」「生者の特権」「漏れる心」の計7篇からなる短編集。
 「人質カノン」:客の少ない深夜のコンビニに入った強盗は、拳銃で武装し、奇妙な物を落としていった。それは、 赤ん坊のおもちゃ・ガラガラだった。
 「八月の雪」:いじめと、事故によって負った障害のため、部屋に閉じこもるようになった充。生きていくことの意味を考えている彼は、 ある日、病死した祖父が若い頃に書いたと思われる遺書を発見する。祖父が遺書を書いたのには、意外な背景があったのだった。

 全体的に、明るくて元気が出るような短編集ではない。主人公を始め、登場人物は、いじめられている子・失恋した女性・閉じこもる少年など、心に傷を持つ人が多く、 読後はやり切れない、しんみりとした気持ちになる。とはいえ、決して悪い出来というワケではなく、むしろ、すべて「よくできたいい話」で読む人の状況により、読後感は違って くる作品だと思う。


『平成お徒歩日記』 宮部みゆき(新潮社)
笑い3.5点 涙0点 恐怖0点 総合4.0点
 ミステリ・SF・時代小説と幅広くなんでも書ける宮部みゆきさんの初エッセイ集。エッセイといっても、ただのエッセイではない。 宮部さん自身が、担当者やカメラマンなどのお供を連れて古地図や資料を頼りに、江戸を中心に歩き回って書いたエッセイなのだ。 吉良邸跡地から泉岳寺まで歩いたり、「市中引廻しの上、獄門」の市中引廻しコースを歩いたり、 流人の地・八丈島まで出かけたり、なかなか面白い企画ものエッセイ集だった。
 旅行ガイド、グルメガイド(?)にも使えそうな一冊だ。それと、作家・宮部みゆきという人のいろいろな面が見える一冊でもある。 作家というのは、その作品から人となりを想像するしかないのが普通で、本当のところ、どういう人か分からないことが多い。 まあ、知る必要もないかもしれないが、気にならなくもない。だから、小説以外のこういう本というのは、そういう点でも面白い。 で、本書を読んで感じたのは、「宮部みゆきという人は、お茶目で、よい意味で作家らしくなく、かなりのゲーマーで、洋服センスは ちょっと・・・・。」ということだった。


『チチンプイプイ』 宮部みゆき/室井滋(文藝春秋)
笑い3.5点 涙0点 恐怖0点 総合4.0点
 1996年から2000年の間に「オール讀物」などに掲載されていたミヤベ・ムロイの対談集。
 両者初対面の対談から、互いの故郷を訪れグルメ対決をする間柄になるまでの計8編の対談が収録されている。電波少年で 海外を連れ回されてもたくましく乗り切っている室井さんと、飛行機嫌い・外人嫌い・旅行は二泊が限界という宮部さん という全く正反対に思える2人だけど、初対談の時から結構息があっているようだった。
 どれも豪華な料理を囲んでの対談で、笑いに満ちたとりとめのない話題が多い。そんな中で「だるまさんがころんだ」と 題された対談は興味深く読んだ。そこでは、室井さんが書いた短編ミステリーを題材にした、宮部みゆきの小説創作講座のような 対談になっているのだ。それによると、宮部さんは「誰の視点で書くのか」ということにこだわっているそうで、自らを ”視点教”の信者とまでいっている。だから犬のマサとか、財布の視点などといった小説がかけるのだと納得した。 他にもいろいろなテクニックを話していて「なるほど」と思うことが多かった。


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