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宮部みゆき


『火車』 宮部みゆき(新潮文庫)
笑い★☆☆☆☆ 涙★★★★☆ 恐怖★★☆☆☆ 総合★★★★☆
 職務中の事故によりやむを得ず休職している刑事・本間俊介。本間の遠縁の男・栗坂和也に頼まれ、本間は栗坂の婚約者である関根彰子の行方を探すことになった。 関根彰子は、徹底的に自分の足取りを消し、自らの意志で失踪した。そのきっかけとなったのが、一枚の自己破産の書類だった。関根彰子の行方を探すうちに、 本間は恐るべき真相に行き着く。

 文庫サイズで580ページと、かなりの厚さだけど、厚さは全然感じない。特に表立って殺人が起きるわけでもないし、名探偵が出てきて事件を解決したりするという類の小説ではない。それどころか事の始まりは「ただの人捜し」なのに、 それが飽きもせず読めるのである。次から次へと浮かび上がる新事実と、その事実に基づいて行動する本間刑事の行動がスピーディーで、まるで自分も本間刑事と一緒に行動しているかのような錯覚を覚えるから、飽きないのだろうと思う。 それに、取り上げている題材が「自己破産」とか「カード破産」といった、気を抜けばすぐにでも陥ってしまいそうな悲劇であるため妙にリアルで、ちょっと怖い。「殺人事件がなきゃミステリーじゃない」という方もぜひ読んでみて下さい。


『東京下町殺人暮色』 宮部みゆき(光文社文庫)
笑い★☆☆☆☆ 涙★☆☆☆☆ 恐怖★☆☆☆☆ 総合★★★★☆
 東京の荒川で、ビニール袋に入ったバラバラ死体の一部が発見される。時を同じくして下町では、「ある家で人殺しがあった」という噂が流れ出す。バラバラ死体の事件を担当することになった捜査一課の八木沢道雄。そして、好奇心から噂の調査をすることになった彼の息子・八木沢順。この親子を中心に、 話は展開していく。

 やっぱり宮部作品には、ハズレはないなぁ。特に今回は、宮部さんがお得意の「少年が主人公の話」だから、なおさらハズレるわけがない。発生する事件は、凶悪なバラバラ殺人事件なのだけど、少年探偵団よろしく動き回る少年達が、どこかコミカルで、ほのぼのした雰囲気を出している。そして、いつものことながら、 宮部さんの作品は、アッという間に引き込まれ、一気に読ませる力がある。文庫本で手軽な厚さなので、これから宮部さんの本を読んでみたい、という人にはお薦めの一冊だ。


『我らが隣人の犯罪』 宮部みゆき(文春文庫)
笑い★★☆☆☆ 涙★★★★☆ 恐怖★☆☆☆☆ 総合★★★★★
 「我らが隣人の犯罪」「この子誰の子」「サボテンの花」「祝・殺人」「気分は自殺志願(スーサイド)」の計5作からなる短編集。
 「我らが隣人の犯罪」:三田村誠とその家族は、ついに念願のタウンハウスに引っ越すことになった。ところが喜びもつかの間。引っ越した家のお隣さんが、昼夜を問わず吠えまくるスピッツを飼っていたのだ。 管理人さんに掛け合っても、飼い主に直接訴えても改善の余地はない。そこで、誠はついにその犬を誘拐することに決めたのだった。
 「サボテンの花」:その小学校は、卒業生に卒業研究をさせ、それを発表することを義務づけていた。ほとんどのクラスが「漢字伝来の歴史」とか「日本の方言地図」といったいかにも優等生といった研究をしている中、 稲川信一をリーダーとする6年1組の生徒達は「サボテンの超能力について」という研究を選んだ。

 さすがは宮部みゆき。もう無条件に面白く感動的だ。長編も短編もどちらもこれだけの傑作が書けるのだから驚きだ。文庫で380円だし、もう僕がここであれこれ言う必要はない。とりあえず読んでみてください。損はしませんって。


『蒲生邸事件』 宮部みゆき(毎日新聞社)
笑い★☆☆☆☆ 涙★★★★☆ 恐怖★★☆☆☆ 総合★★★★★
 平成6年2月25日、予備校を受験するため上京していた尾崎孝史が宿泊していたホテルで、火災が発生。彼が死を覚悟した瞬間、一人の男に救われる。その男は、孝史と同じホテルに 宿泊しており、人に不快感を与える「負のオーラ」を放っていた男だった。そして、その男は、時間旅行者<タイムトラベラー>だった。その男に連れられ、孝史が行き着いたのは、昭和11年2月26日未明、 2・26事件直前の、雪降る蒲生邸だった。

 「宮部みゆき」「少年もの」「超能力者もの」と、3つの条件が揃っているSF大作だ。一応、ミステリー要素もあるが、これをミステリーとして読んでしまうと、評価が下がるだろう。逆に純粋なSF小説として読んでも、 ちょっとありふれた設定なので、評価が下がりそうだ。しかし、このミステリーとSFの要素に、心温まる宮部ワールドを加えることで、ジャンルを越えた何とも言えない傑作ができあがっている。ちょっと厚めだが、皆さんもぜひ読んでほしい。
 僕も、孝史ほどではないが、現代史はあまり詳しくない。ちょうど「君が代・日の丸問題」という時事ネタもあるし、これを機会に、日本の過去についてちょっと詳しく知ろうか、なんて思ってしまった。まあ、この本読んで、すぐ感化されるというのも 単純な話だが、知っておいて損はないだろう。それにしても、宮部みゆきが書く「超能力者」は、不幸な人が多いなぁ。


『パーフェクト・ブルー』 宮部みゆき(創元推理文庫)
笑い2.0点 涙3.5点 恐怖0.5点 総合4.0点
 元警察犬のマサは、現在の飼い主である蓮見探偵事務所の調査員、蓮見加代子と共に、家出少年を捜していた。その少年、諸岡進也 を無事捜し当て、自宅に連れて帰る途中、ショッキングな事件に遭遇する。

 終始、犬のマサの一人称でストーリーが展開する。犬の視点、犬の思考、犬の喜怒哀楽など、宮部さんは、もしかしたら犬なのかと思うくらいの記述 がされている。
 本作は、宮部さんの長編デビュー作だそうだ。宮部さんの作品には、10代の少年が登場し、中心的役割を担うことが多いが、デビュー作ですでにその傾向 が表れている。
 ショッキングであるはずの事件や結末も、宮部さんの手にかかると、変に血生臭くなくて、むしろ爽やかな読後感を味わえるから不思議だ。


『今夜は眠れない』 宮部みゆき(中央公論社)
笑い3.0点 涙3.5点 恐怖0.5点 総合4.0点
 普通の家庭の中学一年生である緒方雅男。そんな彼の母親に、昔助けられたという放浪の相場師が5億円という遺産を残して亡くなった。 平凡な一家に突然転がり込んできた5億円という大金により、彼らの家庭は崩壊寸前。平和な家庭を取り戻すべく、雅男は親友の島崎と一緒に、 母親とその相場師の間になにがあったのかを調べることにした。

 全編、雅男の一人語り風に書かれている。前半は、平凡な家庭に突然5億円が転がり込んできたらどうなるか、ということや、 雅男と島崎の冒険談のようなものが続き、宮部みゆきにしては平凡な小説だなと思って読んでいた。 しかし、後半に入ると、話は急展開を見せ、そこからは、一気に引き込まれてしまった。そして、心暖まる読後感。まさに、宮部ワールドといった感じだ。 宮部さんの得意の少年が主人公の話だが、今回は結構コメディータッチだ。


『ステップファザー・ステップ』 宮部みゆき(講談社文庫)
笑い4.0点 涙2.0点 恐怖0.5点 総合4.0点
 中学生になる双子の兄弟・宗野直と哲が住む家に、ある夜、プロの泥棒が、文字通り空から落ちてきた。怪我をしたその泥棒を家に入れた彼らは、 ほとんど一方的な取引を持ちかけた。それは、警察には黙っておくから、その代わりに自分たちの面倒を見てくれ、というものだった。 その双子の両親は、二人とも別々の愛人を作り、駆け落ちしてしまった。おかげで、日々の生活費や家のローン返済などで、財政が苦しい のだという。捕まりたくないその泥棒は、仕方なく双子の継父(ステップファザー)として、泥棒の収入で養っていく。そんな3人 の周りで起こる7つの事件を収めた連作短編小説。

 著者も言っているようにこれは、「コメディ・クライム」という分類になるらしい。とにかく、全編通して、双子と泥棒のシャレていて、 ユーモアたっぷりの会話が続く。大きく見ればミステリーであり、そこには謎も、謎解きもあるのだが、どれもがライトなもので、血生臭い殺人事件などはでてこない。 そういった意味では、トリックや衝撃の結末、非現実感などをミステリに求めている人には、物足りないかもしれない。 しかし、そんな物足りなさを補ってあまりあるほどのユーモアと暖かさに満ちている。
 また、この文庫版は、「メイキングオブ宮部みゆき」と題した解説が付いていて、彼女がいろいろなメディアで発言したことを抜粋していてとても参考になった。


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