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麻耶雄嵩


『翼ある闇〜メルカトル鮎最後の事件〜』 麻耶雄嵩(講談社ノベルス)
笑い★☆☆☆☆ 涙☆☆☆☆☆ 恐怖★★☆☆☆ 総合★★★★☆
 ヨーロッパの古城を彷彿とさせる館・蒼鴉城(ソウアジョウ)。そこに暮らす今鏡伊都から依頼を受けた、探偵の木更津悠也と香月実朝は、蒼鴉城を訪れた。 しかし、その時すでに、今鏡伊都は、密室で首ナシ死体となっていた。同時に、伊都の息子である今鏡有馬も、首ナシ死体となって発見された。この時から、蒼鴉城に暮らす今鏡家の 連続殺人が始まった。

 「死体とドンデン返しが多すぎる!」。ネタバレになるおそれがあるのであまり詳しくは書けないが、この本は今まで僕が読んだことがない類の本だ。 そして、人によって好き嫌いがはっきりする本だと思う。僕は、どちらかといえば「好き」だ。ただし、出てくる人みんなが繰り広げる高度な会話を、ほとんど解説なしで続けられるのは、とても苦しい。京極作品でいえば関口君。 島田荘司作品でいえば、石岡君のような、僕らと同レベルのワトソン役が欲しい。一応、香月実朝というワトソン(ヘイスティングズ?)役はいるのだが、ちょっとレベルが高すぎる。まあ、話の流れから行くと、 当然かもしれないけど・・・。この一点を除けば、僕は、十分楽しめたし満足できた。あ、それとあと一つ、嫌な点を上げるとするならば「最後に野崎六助氏が書いている解説が難しすぎて意味不明」ということくらいか。 自分の無知を棚に上げて、言いたいこと言っているが、一読者の意見として寛大な心で読んで欲しい。
 また、この本は、麻耶雄嵩氏のデビュー作でありながら、探偵役である「メルカトル鮎」の「最後の事件」と銘打っているのが非常に面白い。いったいこの後どうなるのか、一刻も早く、著者の第2弾『夏と冬の奏鳴曲』を読んでみようと思う。


『夏と冬の奏鳴曲』 麻耶雄嵩(講談社ノベルス)
笑い★☆☆☆☆ 涙★★★☆☆ 恐怖★★★☆☆ 総合★★★★☆
 20年前、和音(カズネ)という女性を慕い、数人の男女がある島で共同生活をしていた。その島は、「和音島」と呼ばれ、そこには、歪んだ館が建っていた。しかし、和音の死をきっかけに、彼らは、島から出てそれぞれの人生を歩んでいた。 しかし、20年経った今、彼らは、再び和音島に集まった。その島に滞在してから数日後、歪んだ館の主が、離れのテラスで首ナシ死体となって発見された。そして、なんとその日は、真夏にも関わらず、島一面に雪が降り積もっていた。

 ノベルスながら500ページくらいある、かなりの長編だ。今回は、事件の鍵とも言えるある1本の映画を境にして、展開がガラッと変わってしまう。その映画が出るまでは、殺人が起こるものの、比較的ゆったりと流れている。しかし、その映画の後は、怒濤の急展開が待っている。 あまりの急展開ぶりに、久々に手に汗握ってしまった。しかし、その映画にたどり着くまでが少々長すぎる。人によっては、その前までで飽きてしまうかもしれない。さらに、結末があまりにも、「そんことありえるかい!」っていうような都合がよすぎるものだったので、とりあえず 総合★4つにした。そう簡単には、5つはあげられない。でも、名作だ。


『痾』 麻耶雄嵩(講談社ノベルス)
笑い★★★☆☆ 涙★★★☆☆ 恐怖★★☆☆☆ 総合★★★★☆
 和音島で恐怖の体験をし、精神的にダメージを受けていた如月烏有。彼は、ある日、バナナの皮で滑って転んで、事件のことだけ忘れた部分的記憶喪失になってしまう。その記憶を取り戻そうと、彼は毎週、神社や寺に放火していった。だが、焼け跡には、必ず自分には殺した覚えのない 他殺体が転がっているのだった。それでも放火を続ける彼のもとにある日、「次は何処に火をつけるつもりかい?」との脅迫状が届く。

 『夏と冬の奏鳴曲』の続編的な作品。島田荘司の『異邦の騎士』のような、泣ける作品だ。この主人公、如月烏有が、まるで関口君みたいに、心に傷のあるダメ人間なのだ。そして、どういう訳か、彼に絡んでくる”銘”探偵・メルカトル鮎。面白い要素が満載なのだ。しかし、 今回は、途中で結末(犯人・トリック)が読めてしまった。それ故、★4つとなっている。
 それにしてもこの「麻耶雄嵩」という人は変わった人だ。特に固有名詞の付け方が変わっている。作品の顔ともいうべき探偵に「メルカトル鮎」と名付けたり、今回は、「わぴ子」なんていう 名前の人物まで登場する。さらに、メルカトルの服装まで変わっている。京極堂の黒の着流しじゃないけれど、メルカトルはタキシードに身を包み、シルクハット、さらにステッキや赤いバラ、パイプといった小物を携帯しているというまさに場違い男。当然のことながら性格まで変わっている。 死体を前にして、探偵講座(?)を開いたりするのだ。


『メルカトルと美袋(ミナギ)のための殺人』 麻耶雄嵩(講談社ノベルス)
笑い★★☆☆☆ 涙★☆☆☆☆ 恐怖☆☆☆☆☆ 総合★★★☆☆
 「遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる」「化粧した男の冒険」「小人間居為不善」「水難」「ノスタルジア」「彷徨える美袋」「シベリア急行西へ」の計7作からなる短編集。
 「水難」:推理小説の〆切が迫った美袋(ミナギ)は、プロットと涼を求めに鄙びた旅館にやってきた。そこで、美袋は、セーラー服を着た少女の幽霊を見てしまう。女中にそのことを話すと、10年前、女子中学の修学旅行でこの旅館が使われたときに 裏山が土砂崩れを起こし、多くの生徒が生き埋めになったのだという。そして、そのことを聞いた翌日、古びた土蔵で、2人の女性の死体が発見される。
 「ノスタルジア」:暇を持て余したメルカトル鮎が犯人当て小説を書いた。そして、半強制的にその小説の犯人を当てなければならなくなった美袋。2重の密室の中で後頭部を撃ち抜かれている死体という、ありがちな設定だった。しかし、そこはメルカトルが 作った小説だけあって、一筋縄ではいかないのだった。

 ん〜、いまいち。良くも悪くもフツーの推理小説という感じがした。まあ、短編だから既読の長編3作と比べてはいけないかもしれないけれど、その3作と区別を付けるためにも★3つにした。今回は、メルカトルの悪魔的な性格と、そのメルカトルに翻弄され、彼に殺意まで抱いてしまう ワトソン役の美袋、という図式がよく出ていた。メルカトルは、解決のためなら犯罪まがいのことまでやってしまうみたいだ。例えば、番をしている警察官にクロロホルムを嗅がしたり、解決のために暴行・誘拐まがいのことをしたり。かなり型破りなキャラだ。
 これでしばらくは、麻耶雄嵩は、読まないだろう。


『木製の王子』 麻耶雄嵩(講談社ノベルス)
笑い0点 涙2.0点 恐怖1.5点 総合3.5点
 比叡山の山奥に隠棲する白樫家は、一点に収斂する家系図を持つ”閉じられた一族”。その奇矯な屋敷が雪で封印された夜、 再び烏有は惨劇を見た。世界的な芸術家・宗尚の義理の娘、晃佳の首がピアノの鍵盤の上に置かれていたのだ。 関係者全員に当てはまる精緻なアリバイ。冷酷で壮絶な論理だけが真相を照らす!(本書アラスジ引用)

 『翼ある闇』『夏と冬の奏鳴曲』『痾』の流れを汲んだ作品。この3作を読んでいないと、登場人物の背景などが さっぱりわからないかもしれない。
 まるでトラベルミステリの時刻表トリックのように、細かいアリバイ崩しが展開される。時刻表のアリバイ崩しものが 苦手な僕にとっては、かなり読みにくかった。そのうえ似たような名前の人ばかり出てくるので、ますます混乱してしまう。
 ミステリに現実的な設定やトリックや動機などを求めている人には向かない本である。


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