モーリス・ルブラン
『ふたつの微笑を持つ女』 モーリス・ルブラン/井上勇訳(創元推理文庫) |
笑い1.0点 涙1.5点 恐怖0点 総合4.0点 |
とある城館で、衆人環視の中、エリザベート・オルネンは凶弾に倒れた。さらに、彼女の死体からは、首飾りが消えていた。
犯人も首飾りも見つからず、事件は未解決のままになった。
それから15年後、ジャン・デルルモン侯爵邸に忍び込んだラウールは、侯爵が15年前の事件にかかわりがあることを知る。
そして、事件を追ううちに、瓜二つの金髪の美女や、ギャングの親分、さらにその親分とルパンの逮捕に燃えるゴルジュレ警部など
多くの人間がその事件に関わることになるのだった。
何とも人間関係がややこしい小説である。一人二役やら二人一役やらを演じている登場人物が多く、それを頭の中で整理するのが
大変だった。相変わらず美女に弱く、美女のためにはたとえ火の中、水の中といった感じのルパンだが、今回は、その美女を
救うために、警部の奥さんを誘惑し味方にして、取引のネタに使ったりという無茶なことをやったりしている。
推理小説としては、「そんなのありか?」というような真相なのだが、今回の場合は、推理小説というより恋愛小説としての
重点が大きいので、あまり気にはならなかった。
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『八点鐘』 モーリス・ルブラン/堀口大學訳(新潮文庫) |
笑い1.0点 涙0.5点 恐怖0.5点 総合3.5点 |
「塔のてっぺん」「水瓶」「テレーズとジェルメーヌ」「映画の啓示」「ジャン=ルイの場合」「斧を持つ貴婦人」
「雪の上の足跡」「マーキュリー骨董店」の計8編からなる連作短編集。
「塔のてっぺん」:不幸な環境から逃れたいがために、愛してもいない男と駆け落ちしようとしていた
オルタンス・ダニエルは、途中、レニーヌ公爵という謎の紳士と出会う。この日から、3ヶ月の間、スリルと冒険の日々を送ることになる。
「テレーズとジェルメーヌ」:避暑地エトルタで過ごすオルタンスとレニーヌ公爵はある日、密室殺人事件に
遭遇する。
「映画の啓示」:オルタンスと映画を見に行ったレニーヌ公爵は、その映画をヒントにある誘拐事件を
解決に導く。
「斧を持つ貴婦人」:パリを中心にした地域で相次いで女性が誘拐され、数日後、斧で頭を割られた姿で
見つかるという事件が発生していた。そして、次の標的としてオルタンスが誘拐される。レニーヌ公爵は、被害者の共通点や事件の特徴、
犯人像を推理し、オルタンス救出に向かう。
セルジ・レニーヌ公爵(実はルパン)が、一人の女性の気を引くため、出会った日の3ヶ月後に大時計が八点鐘を打つまで、8つの冒険を
ともにするというという変わった短編集。この短編集では、怪盗ルパンは何も盗まない。逆に、人命救助・無実の人の救済・犯罪の処罰など多くの善行をしているのだ。
密室殺人や雪の足跡、遠隔殺人など、当時としては画期的だろうと思われるトリックをいくつか見せている。ただ今読むと、強引で
古くさいという印象を受けてしまう。
盗まないルパンという珍しい短編だが、すぐれた直感と推理と行動力、ずる賢さなどルパンらしさは随所にあらわれている。
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『バール・イ・ヴァ荘』 モーリス・ルブラン/石川湧訳(創元推理文庫) |
笑い1.0点 涙0点 恐怖0点 総合3.5点 |
ラウール・ダヴナックが深夜、自宅に帰り着いたとき、玄関には消しておいたはずの明かりが灯っていた。そして中にはいると、
あでやかな一人の女性が待っていた。そこへ電話のベルが鳴り、相手はラウールの正体をリュパンだと言い当てた。その電話の主は、
刑事・ベシューであった。彼は、滞在先で難事件に出くわし、リュパンに助けを求めてきたのだった。リュパンを待っていた女性は
いったい何者なのか、そしてベシューを手こずらせる難事件とは。
『バーネット探偵社』でおなじみのルパンとベシューの仲良し(?)コンビが登場する。しかし今回は、ルパンは
探偵に徹し、ベシューは刑事の仕事を忘れ、恋いにおぼれる道化役のような扱いになっている。
今回は、いまいち盛り上がりに欠けていたように思う。ルパンが罠にかけられ生命の危機に陥るが、見所はそのくらいで
あとは割と淡々とストーリーが進んでいく、という印象だった。
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『オルヌカン城の謎』 モーリス・ルブラン/井上勇訳(創元推理文庫) |
笑い1.0点 涙2.5点 恐怖1.0点 総合4.5点 |
新婚のポールとエリザベートは、むかし、エリザベートの父が買い取ったオルヌカン城に住むことにした。ところが、
その城に飾ってあるエリザベートの母親の肖像画を見て、ポールはがく然とした。その女こそ、16年前、ポールの目の前で父を
刺し殺した犯人だったのだ。困惑する彼は間もなく、徴兵され戦地へ赴く。だがそこで彼は、ドイツ軍の中に、肖像画と瓜二つの
人物を発見する。
第一次世界大戦のさなか、妻が書き残していった日記を手がかりに、義弟とともに、父の死の謎を解明すべく戦地を駆ける。
本書の原題は『砲弾の破片』というそうだ。僕としては、原題のままの方がよかった。『オルヌカン城の謎』というのは
ちょっと平凡かなと思う。しかし、内容は決して平凡ではない。ルパンシリーズの中でかなり異色の存在なのではないだろうか。
ルパンはほとんど出ないし、第一次世界大戦という史実を織り込み、敵国ドイツに対する憎悪むき出しの小説になっている。
ルパンはほとんど出ないが、本書の主人公・ポールは、ルパンに負けず劣らず魅力的なキャラクターである。
聡明で行動力があって、勇気もある。ただ盗んだり、変装したり、女性に弱かったり、ということはない。
本書はルパンシリーズを読んでいない人にも、一冊の冒険小説・戦争小説としておすすめできる。
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