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京極夏彦


『妖怪馬鹿』 京極夏彦・多田克己・村上健司(新潮OH!文庫)
笑い4.0点 涙0点 恐怖0点 総合4.0点
 「若手妖怪好き三人が夜明かしで妖怪を大いに語る」という主旨で行われた座談会の記録。参加者は、妖怪小説家で、 意匠家で妖怪絵師の京極夏彦氏。妖怪研究家の多田克己氏。妖怪・伝説探訪家で、隠れ里会長の村上健司氏。プラス 企画立案者で編集者の青木大輔氏(仮名)の計4人である。
 3人の過去や妖怪馬鹿になった経緯、水木しげる論、妖怪の定義などなど、雑談や馬鹿話を交えて、非常にディープで マニアックなお話が展開される。
 また座談会のほかに、京極夏彦氏書下ろしの漫画も満載されている。これを目当てに本書を買う人もいるのではないだろうか。 「天才バカボン」「巨人の星」「ゴルゴ13」などのほか数多くの漫画を見事にパロッている。特に、石燕をパロッて描いた 「愚霊 ぐれい」は笑えた。それにしても、文才があって、絵心があって、顔はビジュアル系でって、神様はずいぶん 不公平なことをしてくれたもんだ・・・。
 とにかく笑える。二流の漫才や下らないバラエティ番組よりずっと笑える。おすすめ。

『ルー=ガルー 忌避すべき狼』 京極夏彦(徳間書店)
笑い1.5点 涙2.5点 恐怖2.0点 総合4.0点
21世紀半ば、ネットワークが隅々まで行き届き、社会は無機的でリアリティのないヴァーチャルなものになっていた。その影響で子供たちは、 週一回のコミュニケーション研修くらいしか他人と接触する機会を持たなくなった。そんな社会で、14、5歳の少女だけを狙った 連続殺人事件が発生する。自らの身に迫るリアルな「死」に、少女たちはヴァーチャルな世界を飛び出した。

 「近未来少女武侠小説」と帯に書いてある。2030年頃の近未来社会で、14,5歳の少女たちが悪に立ち向かう、そんな内容の小説である。
 読者から近未来の設定を公募して、それを京極氏が物語に取り入れるという形の珍しい試みで誕生した双方向性小説。最初、そうして生まれた 近未来の世界観を理解するまで少し戸惑いつつ読んでいた。さらに個性が強いキャラクターが結構多く、慣れるまで戸惑った。

 ”ルー=ガルー”とはフランス語で”狼憑き、狼の怪物”というような意味らしい。だから本書は、妖怪シリーズ西洋版といった感じだ。 しかし京極堂がいる妖怪シリーズとちがって最後に憑きを落とす人がいない。さらに作中、「人を殺すのは悪いことなのか?」という命題が何度か出てくるが、 途中で明確に答えを出しているものの、その後の展開で結局どう考えるべきなのかわからなくなった。さらにさらに発生する事件がかなり猟奇的。 こうしたいくつかの原因で、「これで一件落着なの?」というスッキリせずあまり良くない読後感になってしまった。
 決してつまらないというわけではないのだが、5点満点の傑作!とは評価できない問題作だと思う。

『覘き小平次』 京極夏彦(中央公論新社)
笑い0点 涙1.0点 恐怖2.5点 総合4.5点
薄暗がりを好む小平次は、一日中押入れに引き籠り、戸襖を一寸五分ほど開け、妻のお塚の姿を覘いている。お塚に罵られ、 蔑まれ、気味悪がられ、嫌がられているが、小平次は幽霊芝居だけは絶品と評判の役者だった。
 そんな小平次にある日、玉川座から幽霊役のお呼びが掛かる。しかし、その興行先で事件は起こった。

 ”幽霊小平次”こと小幡小平次という人は実在の人物なのかもしれない。巻末の関連文献リストを見ると、 式亭三馬や河竹黙阿弥にも小平次についての著書があるし、葛飾北斎は「こはだ小平次」という絵を描いているのだ。
 かなり久しぶりに京極さんの本を読んだのだが、やはり文体が良い。ストーリーももちろん面白いのだが、 僕はストーリーを追うというより、この文章を、文体を追っていた。
 今年('02)は日本語ブームだったが、ことさら「美しい日本語」や「正しい日本語」についての本など読むことはない と思う。本書のような小説を読めば、日本語の美しさや力強さは堪能できるからだ。
 それにしても、「普通の人」と「良い人」がなかなか出てこない小説だったなぁ。

『陰魔羅鬼の瑕』 京極夏彦(講談社ノベルス)
笑い2.0点 涙2.0点 恐怖1.0点 総合4.0点
 「鳥の城」と呼ばれている洋館に住む由良伯爵は、過去四度にわたり、何者かによって、新婚初夜に花嫁の命を 奪われていた。そして五度目の婚礼となる今回は、花嫁を守るべく、探偵・榎津礼次郎が招かれた。しかし、榎津は 目を患い、一時的に盲目となっていたため、付き添いとして病み上がりの小説家・関口巽も同行した。

 久しぶりに京極堂シリーズを読んだためか、読破するのにけっこうな時間がかかってしまった。舞台は洋館だけで、 事件もシンプルといえばシンプルなのだけど、相変わらずうんちくが長い。今回は、京極堂と同様に小難しい言葉、論理を操る 伯爵が出てくるので、余計に読むのに手間どった。
 今回は、犯人探しより、「何故殺すのか」という動機がポイントになっているようだ。そんなことってあるの?と 思わず言ってしまうような真相が待っているが、これだけ長い前フリを読み進めていると、納得するしかなくなってしまう。
 京極堂シリーズは本当に久しぶりだったため、関口はどんな事件に巻き込まれたんだっけ?とか、 京極堂は今までどうやって憑き物を落としたんだっけ?など、基本と思えるようなこともかなり忘れている。そうはいっても、再読するにはどの作品も 分厚すぎるんだよなぁ。
 

本朝妖怪盛衰録豆腐小僧双六道中 ふりだし』 京極夏彦(講談社)
笑い3.5点 涙0.5点 恐怖1.0点 総合4.5点
 自分はどうして豆腐を持っているのか。自分は何で存在しているのか。豆腐小僧が 自分の存在理由を探す旅に出る。その道中、鳴家や達磨、死に神、袖引き小僧など 様々な妖怪と出会い、「妖怪とは何か」ということについて学んでいく。

 落語のような語り口調で、「妖怪とは何か?」ということを素人にわかりやすく説明するために 書かれた妖怪学入門書のようだった。なるほど妖怪ってそういうことなのかと目からウロコが落ちる感じがした。  妖怪一色の小説だが、妖怪にあまり興味はなくても楽しめると思う。というのも、主人公の 豆腐小僧がとてもコミカルでいい味出しているのだ。その豆腐小僧の珍道中を読んでいると、 なぜか「はじめてのおつかい」というテレビ番組を思い浮かべてしまった。豆腐小僧は まさにあの番組の子供と同じくらいの幼い印象だった。
 人間が感得することで妖怪は現われることができるというから、皆から忘れられかけていた 妖怪たちにとっては、水木先生や京極さんなどは命の恩人みたいなものだろう。
 「ふりだし」とタイトルが付けられているからどうやら今後シリーズものとして続くようだ。 「一回休み」とか「三コマ進む」とか「ふりだしに戻る」なんていうのも出てくるのだろうか。 今後、豆腐小僧がどんな出会いをし、どんな活躍を見せてくれるのか、とても楽しみなシリーズだ。
 2000円というのがちょっと高いと思うかもしれないが、僕はぜひとも手元に置いておきたい本だと 思ったので買った。というのも、本書はとても製本が凝っているのだ。表紙を一枚外すとそこには、 豆腐小僧が持っている豆腐そのものが現われ、色も形もまさに豆腐なのだ。 このために、わざわざこんな奇妙な形の本を作ったのだろうと思う。京極さんは、 字体や段組など本の中身だけでなく、本の形そのものにまでこだわるなんて、小説家というより 小説職人という感じがする。
 
 

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