HOME 著者名 タイトル ジャンル

京極夏彦


『鉄鼠の檻』(京極夏彦)講談社
 漸く読み終えることができました。『鉄鼠の檻』は、今までの3作品よりもずっと分厚くなっていて、 一筋縄ではいかなそうだったので、読み始める決心がなかなかつかず、結局今ごろ読むことに なってしまいました。しかし、京極さんの著書は、あまり間 をあけて読むものじゃないなと、つくづく思いましたね、この『鉄鼠の檻』を読んで。 なぜなら、この本には、『姑獲鳥の夏』の、 主要人物である久遠寺さんなど、が登場しているのです。だから、これから『鉄鼠〜』を読もうとしている人は、 『姑獲鳥〜』を先に読むことをすすめます。

 舞台は、あの京極堂も知らないという、箱根の山奥の謎の禅寺。中心となる人々は禅僧。という、かなり奇異な設定です。 しかも、途中には、禅の歴史とか、公案とか、とにかくムズカシイ漢字がたくさんでてきます。はっきり言って、 何度か途中で投げ出そうかと思いました。こんなのが、殺人事件と関係あるのか?とも思いました。 しかし、そういうところにこそ、事件の重要な鍵 が隠されてあったりするんですね。だから、これから読む人は、読み流さずしっかり読みましょう。 でも、今回は、京極堂の出番が かなり遅い感じがしました。あと、榎木津探偵の出番も少なかった気がします。 しかし、たとえ出番が少なかったり遅かったりしても ちゃんと仕事はこなしています。

 禅僧の苦悩、嫉妬、檻、振り袖の少女の悲しい過去、そして意外な結末。やはり、 京極夏彦はすばらしいなぁと実感させられる作品でした。


『絡新婦の理』京極夏彦(講談社)
興奮★★★★★ 笑い★★★☆☆ 涙★★★★☆ 総合★★★★★
 久々に読み応えのある小説に出会いました。『絡新婦の理』は、830ページもあり、見た目はちょっとした辞書のように分厚いのですが、全くその厚さを感じませんでした。 それほどまでに中身が濃くて、時を忘れるほど熱中できます。
 今回の事件は、とにかく登場人物が多い。それだけ亡くなる人も多い。しかし、そんな登場人物が多いにもかかわらず、今回は、関口先生の出番はほとんどないです。 事件が解決(?)してからようやく出てきます。今回、関口先生の役割りをするのは、いさま屋かなぁ。それにしても今回の事件は複雑ですね。「こいつが真犯人か!」 と思ったら、この人も蜘蛛に操られているだけだということになる。それの繰り返し。もう、最後の最後まで気が抜けません

 内容は、だいたい次のようなもの。木場修、伊佐間・今川、益田・榎木津がそれぞれの事件に巻き込まれていく。木場修は、目潰し魔による事件。伊佐間・今川は絞殺魔による事件。 益田・榎木津は単なる人捜し。そしてこれらバラバラの事件が、密接に関わり合い、蜘蛛の糸を構成していく。

 今回の話は複雑なので、このくらいのスペースであらすじを書くのは無理です。だからぜひ読んでもらいたい。その前に、どうせ読むなら、京極堂シリーズの最初『姑獲鳥の夏』から 『鉄鼠の檻』までを読んでから、今回の『絡新婦の理』を読むのをおすすめします。そうした方が、キャラクターに対する思い入れも深くなるし、より楽しめるはずです。


『塗仏の宴−宴の支度−』京極夏彦(講談社)
興奮★★★☆☆笑い ★☆☆☆☆ 涙★☆☆☆☆ 総合★★★★☆
 奇妙な肉人「ぬっぺっぽう」。驚かし系の妖怪「うわん」。九州地方での河童の別称「ひょうすべ」。 詳細不明の山の妖怪「わいら」。監視する妖怪「しょうけら」。髪の毛妖怪「おとろし」。 今回は、この6つの妖怪が登場します。これらの妖怪は、どれも詳しいことが分からなかったり、絶滅したり 一般には知られていない妖怪です。また、今回は、妖怪以上に怪しい団体や怪しい人物が登場します。まるで ちょっと前に世間を騒がせた某宗教団体のような怪しさで、僕も気をつけようと思いましたね。

 今回は、今までの京極作品とは違い、オムニバス形式となっているため比較的読みやすかったです。ただ、オムニバスのため 一つの話が、どれも100ページ前後しかなく、ちょっともの足りない気がします。さらに、100ページしかないのに、 いつも通り要所要所で、京極堂の蘊蓄が展開されるので、たまりません。しかし、オムニバスとはいえ、 各話に登場する地域や人物は、少なからず関係しています。さらにさらに今回は、前回出番がほとんどなかった 関口先生が、各話の間に毎回登場します。ただし、あまりいい登場の仕方ではないんですが・・・

 「宴の支度」というだけあって、多くの謎を残し、解決は「宴の支度」編まで全くないのでかなりイヤな気分です。この解決編となる 『塗仏の宴−宴の始末−』は、7月に発売予定なので、それまでの数ヶ月、出そうで出ないクシャミのような気分で 待たなければなりません。だから、これから読もうとしている人は、解決編は7月以降だという事を踏まえて読み始めてください。 今すぐに読みたい!とまでは、思っていない人は、2冊とも発売されてから読み始めた方がいいかもしれませんね。 それと、前作『絡新婦の理』を読んでいない人は、6話目「おとろし」は、読まない方がいいかもしれません。 犯人分かっちゃうし、『絡新婦の理』の結末もだいたい分かっちゃいます。


『嗤う伊右衛門』京極夏彦(中央公論社)
興奮★★★☆☆ 笑い☆☆☆☆☆ 涙★★★★★ 総合★★★★☆
 この本は、鶴屋南北・原作の『四谷怪談』を、京極風に仕立てたものです。僕は、原作の『四谷怪談』のことは余りよく知りませんが、 おそらく、原作とは大きく異なっていることと思います。何しろ、怪談的ではないのです。怪談というよりは、むしろ恋愛小説・歴史小説・純文学 と言った方がいいと僕は思いました。京極氏は、どのようなジャンルのものとして書かれたのかわかりませんが、僕は、そのように感じましたね。

 京極氏は、ホントにキャラクターを書くのがうまい。登場する人物一人一人が人格を持ち、特徴的で、リアリティーがある。愛くるしい人は、ホントに愛くるしく、 憎たらしい人は、ホントに憎たらしい、と読者に感じさせる。作中の色狂いの性悪人・伊東喜兵衛など、ホントに憎たらしく、僕がその場にいたらたたき 斬ってしまいたいくらいに感じましたね。そして、京極氏は、タイトルを付けるのもうまい。『嗤う伊右衛門』とは、いかにも興味がそそられるではないか。 特に、「嗤う」と、わざわざムズカシイ漢字を使ったりするところがよいですね。

 内容は、一言で言えば、境野伊右衛門と民谷岩の悲しい恋愛物語です。伊右衛門は、大変真面目な浪人であり、今は大工をしている。岩は、ご存じの通り 疱瘡の後遺症か何かで、顔半分がただれ膿み、腰は曲がり、まるで老婆の如き姿になってしまった。そのような岩のところに、ある日、伊右衛門が婿入りする ことになる。
まあ、あとは読んでいただければわかると思います。他の京極氏の作品と異なり、厚さも字の大きさもちょうどよくで、結構読みやすいと思います。


『塗仏の宴−宴の始末−』 京極夏彦(講談社)
笑い★★☆☆☆ 涙★☆☆☆☆ 恐怖★★☆☆☆ 総合★★★★★
 伊豆のとある村で、女性を裸にして殺害し、さらにその死体を木に吊すという殺人事件が発生した。この事件の被疑者はなんと、作家・関口巽であった。目撃証言も数多くあり、 逮捕されてからは自白も始めているという。果たして関口君は、ほんとに犯人なのだろうか。そして、その事件と前後して、街に奇怪な宗教集団が現れ始めたのだった。

 ようやく『〜−宴の支度−』の後編である本作品を読むことができた。京極さんの著書は、とにかく分厚くて、難解であるため読み始めるのには覚悟と時間が必要なのだ。
 今回は、京極堂こと中禅寺秋彦と、言い争える人物がたくさん出てくる。はっきり言って彼らの会話は1度読んだだけでは理解しがたい。いつもならそんなときは、関口君が 愚かな質問をして、理解の手助けをしてくれるのだが、今回、彼は牢獄に入っているのだ。また、今回は、『絡新婦の理』と同等もしくはそれ以上に事態が複雑で、 登場人物も半端じゃなく多い。しかも出てくる人物が、占い師・霊感少年・気功道場・漢方薬局・新興宗教など、どれもこれも怪しい一癖も二癖もある者ばかりだから一層混乱する。 だから、これから読む人は、登場人物の名前やプロフィールなどをメモしていきながら読んだ方がいいと思う。僕は、そうやって読んだため、いくらか 混乱は避けられた。それにしても黒衣の京極堂が出てきてからの、スピーディーな展開は何度読んでも、鳥肌が立つくらいすばらしい。


『百鬼夜行−陰−』 京極夏彦(講談社)
笑い0.5点 涙2.5点 恐怖4点 総合4点
 「小袖の手」「文車妖妃」「目目連」「鬼一口」「煙々羅」「倩兮女」「火間虫入道」「襟立衣」「毛倡妓」「川赤子」の計10作からなる短編集。
 「目目連」:平野祐吉の妻が自殺した。それ以来、彼は常に誰かに視られているという感じがしていた。 そして、ある日、背筋に冷たい視線を感じ、振り向いてみた。すると、そこにある障子の破れ目から、 目玉が一つ彼を覗いていた。
 「川赤子」:うつ病気味の小説家・関口は、気晴らしにと、河原に足を運んだ。 別になにがあるわけでもないのだが、急に「水に触れたい」という衝動に駆られ、水辺まで近づいて行った。 そして、指先を川につけてみた。すると、何とも気味の悪いモノが、指に触れた感触が指に残った。その不快感と、 彼の記憶が交錯しはじめる。

 95年から「小説現代」に連載されていた9つの話に、「川赤子」という書き下ろしを加えた1冊だ。 僕は、「目目連」以外は、初めて読む作品なので、僕にとっては、久しぶりの京極氏の新刊なのだ。
 今回は、「姑獲鳥」から「塗仏」までに事件の被害者・加害者等を主人公とし、彼らの背景を描いたモノだ。 ただし、京極堂や榎さんは登場しないので、憑き物落としはなされない。さらに、京極堂がいないので、難しいうんちくがない。 しかし、所々「恐怖とは?」「鬼とは?」「煙とは?」などについて細かな言及がなされている。
 それにしても、相変わらず京極氏は、うまい。まあ、僕にはそんな偉そうなこと言う資格はないが・・・。 脇役といってもいい人たちの背後にストーリーを持たせ、さらに、それがうまい具合に、妖怪に絡んでいる。


『どすこい(仮)』 京極夏彦(集英社)
笑い4.5点 涙0点 恐怖2.0点 総合4.5点
 「四十七人の力士」「パラサイト・デブ」「すべてがデブになる」「土俵(リング)・でぶせん」 「脂鬼」「理油」「ウロボロスの基礎代謝」の計7作からなる短編集。
 「すべてがデブになる」:簾禿げの中年作家・南極夏彦のもとに一通のファンレターが 届いた。その手紙によると差出人の持ち山で古墳が発見され、それに興味を持った科学者二人がその中に研究所を建て、 立て籠もったきり半年も音沙汰がないのだという。これを読んだ南極一行が、その研究所に行ってみると、 そこには、奇妙なコンピュータが置いてあった。そのディスプレイに並んでいる横綱力士型のアイコンをクリックすると、 「―すべてがデブになる」という文字が映し出された……。

 京極夏彦という人がますますわからなくなる短編集だ。
 本書は「小説すばる」に連載されていた6本に書き下ろし1本を加えた短編集だ。あいにく僕は、「小説すばる」を 読んでいなかったため、今回初めてその衝撃(笑撃)を受けた。今まで京極堂やら四谷怪談やらで築き上げてきた京極夏彦 というイメージを踏み台にしているからこそ、これほど笑えるのだろう。さらに数々の名著をデブ(お相撲さん)を題材にして ここまで破壊できるのも、京極夏彦だからこそだと思う。
 しりあがり寿さんの挿絵をはじめ、作家の年齢を感じさせるギャグの数々、そしてパロッた作家に対するコメントと、 帯にかかれたその作家諸氏のコメントなど、至る所に笑いが満ちている。
 読破したあと、脱力感と疲労が残るが、未読の方は、是非読んでもらいたい。あとは、京極先生の今後の作風に影響が出ない ことを祈るばかりである。


HOME 著者名 タイトル ジャンル