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東野圭吾



『探偵ガリレオ』東野圭吾(文藝春秋)
笑い0.5点 涙0点 恐怖0点 総合3.0点
 「燃える」:深夜、自動販売機の前にたむろしていた5人の若者たち。その中の一人の頭が 突然燃えあがった。同時刻、ある少女が赤い糸を見たと言う。
 「壊死る(くさる):高崎邦夫は自宅の浴槽で死体となって発見された。 奇妙なことに彼の心臓だけが完全に壊死していた。
以上のほか、「転写る(うつる)」「爆ぜる(はぜる)」「離脱る(ぬける)」の計5編からなる短編集。

 理系出身の東野圭吾氏らしい推理小説だ。
 警視庁捜査1課の草薙と、帝都大理工学部物理学科助教授の湯川のコンビが一応、この連作の主人公だが、いまひとつ キャラクターがハッキリしていなかった。ストーリーも特別面白いという印象はなかったし、よくあるキャラ重視のミステリではなく、 これは科学的トリックが重視されているようだ。
 科学的とはいえ文系の僕でも十分楽しめるし、長さも手ごろなので、気軽に読めると思います。


『超・殺人事件−推理作家の苦悩−』東野圭吾(新潮社)
笑い4.5点 涙0点 恐怖0点 総合4.5点
  「超税金対策殺人事件」:ハワイ旅行、妻のコート、カラオケ機械はてはすき焼きの具に至るまで、 何とか必要経費としておとすため、俺は急遽すべてを詰め込んだ小説を書くことにした。
 「超犯人当て小説殺人事件(問題篇・解決篇)」:「この小説の犯人を当てた者に新作長編を 進呈する。」作家の鵜戸川にそう言われた4人の編集者は、自らの出版社のため必死に推理した。だが、翌日、鵜戸川は 何者かに殺される。果たして犯人は。
 「超高齢化社会殺人事件」:編集者の小谷は、藪島に渡された原稿を読んであきれてしまった。 ダブった記述、矛盾した記述など不可解なところだらけなのだ。「最近、藪島はボケてきている」という噂は本当だったのか…。
 「超長編小説殺人事件」:葛原は800枚の長編をようやく書き終えた。しかし編集者の 小木は、この小説を話題作にしたいので何とか2000枚に増やしてくれという。しかたなく葛原は、内容はそのままで 描写やセリフを多くし強引に2000枚に水増ししたのだが。
以上のほか、「超理系小説殺人事件」「超予告小説殺人事件」「魔風館殺人事件(超最終回・ラスト五枚)」「超読書機械殺人事件」の 計8編からなる短編集。

 とにかく笑える。
 推理作家が苦悩しつつ小説を書いている様子を東野氏が書いているという構造。その苦悩の原因は、税金だったり、枚数だったり、 犯人を誰にすべきかだったり、様々で全てフィクションとは言えないのではないかと思えるのがまた面白い。それと、推理作家の苦悩も 書きつつ、編集者の苦悩も描いているようだ。
 どれも面白かったが、僕は「超長編小説〜」と「超読書機械〜」が特に良かったと思う。この2作は東野氏が、読者への 皮肉をたっぷりきかせて書いた気がする。
 オススメの一冊。


『嘘をもうひとつだけ』東野圭吾(講談社)
笑い0点 涙2.0点 恐怖0点 総合4.0点
 「嘘をもうひとつだけ」:早川弘子は、寺西美千代の住むマンションに引っ越してから1週間後に 転落死した。練馬署の加賀はこれは自殺ではなく殺人事件だと見抜く。
 「冷たい灼熱」:田沼洋次が帰宅すると、家は荒らされ妻は殺され一歳の息子は連れ去られていた。 だが、加賀刑事はある不自然な点を見つける。
 「友の助言」:加賀刑事の友人の萩原がいねむり運転事故を起こした。見舞いに行った加賀は、 友として刑事としてある助言をした。
以上のほか、「第二の希望」「狂った計算」の計5編からなる短編集。

 練馬警察署捜査一係の加賀恭一郎が、犯人のちょっとした行動や発言の中にひそむ不自然さや嘘を見ぬき、追い詰めていく という短編集。
 加賀刑事については、長身で彫りの深い顔で鋭い目つきをした30代前半の男性というくらいの記述しかないが、 僕はドラマの古畑任三郎をイメージして読んでいた。というのも、冷静に推理し、しつこく容疑者につきまとい、言葉で 自白に追い込んでいく様子が古畑によく似ていたからだ。事件が解決したラストシーン、僕の中ではあの古畑のテーマ曲が 流れていた。
 どれも面白いのだが、深く味わうまもなくあっという間に終わってしまうのが残念だった。でも、刑事コロンボや古畑任三郎が 好きな人にはオススメの一冊。


『トキオ』東野圭吾(講談社)
笑い1.0点 涙4.0点 恐怖0点 総合4.5点
 難病に侵され植物状態になっている息子・時生を前にして、宮本拓美は、20年以上前に時生に会っていたことを 妻に打ち明ける。時間を超え、若き父親に会いに来た息子との出会いによって、拓美は男として 父親として成長していく。

 泣ける一冊だ。若き父親と息子の出会いの話というだけではない。本書には泣ける要素がまだまだある。 特に終盤は、たたみかけるように泣けるシーンが連続する。
 複雑な家庭環境のためか、若い拓美は職を転々として、ヒモのような生活を送っている。そんな父親 に出会ったら息子としても辛いだろう。だが、そんな拓美だからこそ、ここまで感動的な小説になったわけで、 やはり東野氏はうまいなぁと思う。


『手紙』
東野圭吾(毎日新聞社)
笑い0点 涙4.0点 恐怖0点 総合5.0点
 弟・直貴の大学進学費用が欲しかったため、強盗殺人を犯してしまった兄・剛志。兄が服役し、両親にも先立たれている直貴は、 たった一人で世間の厳しい風にさらされ、生きていくことになる。そんな直貴に、服役中の兄から手紙が送られてくるようになった。

  強盗殺人犯の兄がいるという事実が、まるでガン細胞のように直貴の人生をむしばんでいく。順調で幸せな生活を送り始めた と思った矢先に、ガンが再発するかのごとく、その事実は発覚する。読んでいて、あまりに理不尽で、怒りがこみ上げ、悲しくなる。
 でも、加害者の家族というだけで、ここまで辛い人生を歩まねばならないのだろうか。毎日のように、殺人事件のニュースが流れているが、 そうすると毎日のように直貴のような人たちが生まれているということなのか。僕は、普通に生活していれば、差別とか偏見とかそれほど ないように思えてならない。ただこれは、実際に自分の周りにそういう人がいないから言えるのかもしれない。
 直貴は後半、ある決断をするが、僕にはそれが是か非かよくわからない。自分が直貴だったらどうするか。やはり直貴と 同じ決断をするのだろうか。
 時に不快にもなるし、ちょっと共感できないなというところもあるが、泣けるし、「自分だったら?」といろいろ考えさせられるので5点をつけた。今度は是非、被害者家族の 話も書いて欲しい。


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