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東野圭吾



『私が彼を殺した』 東野圭吾(講談社ノベルス)
笑い0点 涙2.0点 恐怖0点 総合4.0点
 作家・穂高誠が、新進の女流詩人・神林美和子との結婚式当日に、毒殺された。容疑者は3人。 一人目は、美和子の実兄である神林貴弘、二人目は、穂高のマネージャーである駿河直之、そして三人目は、 穂高の担当編集者である雪笹香織。彼らは、各々穂高に殺意を抱くのに十分な動機を内に秘めていた。 そして彼らは、独り”私が彼を殺した”と呟いた。

 完全自己推理型の推理小説である。”読者への挑戦状”の後、解答編があるような小説ではなく、 自らメモし推理し、解答を導かねばならない。そういう意味では、気軽に読める本ではない。 僕は結局犯人を特定できず、インターネット上で解答を見たのだが、思わぬ伏線が決めてとなっていて 驚いた。注意深くメモを取りながら読んだにもかかわらず、分からなかった。だから、気軽には読めない。
 それにしても、この殺された被害者には、全く同情できない。実際彼のような奴が身近にいたら、 10人中8人は実行には移さずとも、殺意を抱くのではないだろうか。そういう意味では、誰が犯人であっても、 犯人の方に同情し、褒めてやりたくなってしまう。だから、真剣に犯人を捜してやろう、という気になりにくい。 これがもし逆だったら、つまり容疑者全員が憎たらしい奴で、被害者に同情してしまうような設定だったら、 なんとしても犯人を当ててやる、と思ったに違いない。


『名探偵の掟』 東野圭吾(講談社ノベルス)
笑い3.0点 涙0点 恐怖0点 総合4.0点
 「密室宣言」「屋敷を孤立させる理由」「『花のOL湯けむり温泉殺人事件』論」「アンフェアの見本」などの他、計12+α篇からなる短編集。
 本書は、あらすじを書いてもあまり意味はなさそうだ。というのも、各短編は、推理小説というより、シリーズキャラクターである天下一大五郎(探偵)と 大河原警部とによる推理小説コントもしくは、彼らの口を借りて著者が語る推理小説論、といった趣向なのだ。
 至る所にユーモアと昨今の推理小説に対する皮肉が散りばめられている。推理小説をよく読む人には、口元がゆるみっぱなしの小説だと思う。特に 「『花のOL湯けむり温泉殺人事件』論」は、テレビの二時間ドラマを思い切り皮肉っていて、面白い。 ”視聴者は、役者で犯人を当てている”とか”名作のはずの原作も、ドラマになるとタイトルは長々しい大衆的なモノになり、内容も格段につまらなくなる”とか、 推理小説好きが常日頃思っているようなことを代弁してくれている。
 推理小説ファン必読の一冊だと思う。


『十字屋敷のピエロ』 東野圭吾(講談社ノベルス)
笑い0.5点 涙0.5点 恐怖1.0点 総合3.5点
 十字屋敷に住む竹宮頼子は、骨董品店でピエロの人形を購入した。実はその人形は悲劇のピエロといわれる人形だった。 それから数日後、頼子はそのピエロの目の前で、自殺した。その後も、次々と十字屋敷の住人に悲劇が襲いかかる。

 特徴のある屋敷・連続殺人・華麗なトリック・どんでん返しと、典型的な推理小説だ。そんな中、物言うピエロの存在が異質で 際だっている。”物言う”といっても、もちろん実際にしゃべるわけではなくて、そのピエロが見たものが、ピエロの独白のような形で 語られているのだ。このピエロの独白が、うまい具合に使われている。だが、全体的に見ると、傑作でも駄作でもない、普通の平均点のミステリだ という印象だった。


『ある閉ざされた雪の山荘で』 東野圭吾(講談社ノベルス)
笑い0点 涙1.0点 恐怖1.5点 総合4.0点
 乗鞍高原にあるペンションに集められた7人の男女。劇団のオーディションに合格した彼らは、 舞台稽古のために集められたのだった。雪に閉ざされた山荘で起こる殺人劇という設定で芝居をし、さらに外部と連絡を取ったら 合格を取り消す、ということだけ知らされた。そうしているうち、彼らの一人が消えてしまう。はたしてこれは、 芝居なのか、それとも現実なのか・・・・。

 著者自身も言っているが、外界とは隔離された雪の山荘で、次々と殺人事件が起こるという設定は、安直でありふれている。 しかし、本書は、その設定がメインではない。演技力のある登場人物たちが遭遇する事件は、現実か芝居か。そこが重要なのであり、 特異な点でもある。
 しだいに、疑心暗鬼になり、現実か否か分からなくなっていく描写がとてもリアルで、最後まで一気に読んでしまった。


『名探偵の呪縛』 東野圭吾(講談社文庫)
笑い2.5点 涙1.0点 恐怖0.5点 総合4.0点
 次回作のための資料を探しに図書館に行った”私”は、いつの間にか、別世界に迷い込んでいた。そこでは彼は、 探偵・天下一という人物になっていた。そしてなにより、彼が迷い込んだのは、「密室」や「トリック」などといった ”本格推理”という概念が全く存在しない街だった。そんな世界で天下一を襲う様々な難事件。

 天下一というのは、『名探偵の掟』のメインキャラクターだった探偵の名前だ。前作同様、今回もユーモアに満ちている。 だが今回は長編なので、笑いばかりじゃなく、しっかりとした(?)殺人事件や謎解きもある。が、なにせ”本格推理” という概念が存在しない世界での事件なので、普通の小説とはひと味違う。
 意外なことに、今回のラストは少し切ない終わり方になっている。果たして本書は、著者自身が常日頃思っていることを 小説にしたものなのか、それとも全くのフィクションなのか。気になるところだ。


『白夜行』東野圭吾(集英社)
笑い0点 涙1.0点 恐怖1.5点 総合4.0点
 建設中のままずっと放置されていたビルの一室で他殺体が発見された。この殺人事件の真相と犯人を追い続ける老刑事。 そして密かに悪の芽を成長させ続ける2人の人物。そんな彼らの19年の歴史。

 非常にあらすじと感想が書きにくい小説だ。
 「白夜行」というタイトルと装丁はとても印象的でよかった。だが、読後感がよくない。こういう幕の引き方に 近いものは以前読んだことあるが、本書はそれとは異なりかなり不満が残った。嫌悪感・不快感を抱きつつも、 この長い話を我慢して読んだのは、”ラストは感動の涙で浄化されるはずだ”と期待していたからなのだが・・・。 でもたしかに、読者にずっと想像・暗示させておきながら、なかなか核心に触れずにひっぱっていく筆力はすごいと思う。 登場人物がやたらと多かったが、わりとすぐに名前とキャラクターが一致したのは、その筆力のおかげなのだろう。
 大傑作!というわけではないが、読んで損のない一冊。


『天空の蜂』東野圭吾(講談社文庫)
笑い0点 涙1.0点 恐怖0点 総合4.0点
 超大型特殊ヘリコプター通称”ビッグB”が何者かに奪われた。爆薬が満載されている無人操縦のビッグBが向かった先は、 高速増殖原型炉『新陽』だった。そして稼動中の原子炉の真上でホバリングを始めた頃、「天空の蜂」と名乗る人物から原発関連施設や 政府に脅迫状が送られた。天空の蜂の要求をのまなければビッグBを原子炉に墜落させるという。

 文庫版で620ページほどというかなりの長編だが、読み終わってみると事件が始まってから約10時間あまりの出来事 だったことに驚かされる。
 原子力発電所を推進・建設し稼動していく人間と原発反対を訴える人間、そして原発に対して特に深い関心も知識もない 多くの人間という三種の人間がいる。本書はこの三番目の人たちへのメッセージが込められている小説のようだ。 「もんじゅ」や東海村臨界事故などで、少しは関心が高まったとはいえ、時がたてばまた他人事へと戻ってしまう。 そういう人たちにこそ読んで欲しいのだろうが、それにしては少々長すぎるし、専門用語が多すぎる気がする。
 真保裕一さんが解説を書いているのだが、真保さんの『ホワイトアウト』と比べると本書は派手さやエンタテイメント性に 欠ける気がするが、心にズシリとくる重量感と濃密さ、メッセージ性はこちらのほうが上のようだ。


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