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一般小説


『重力ピエロ』伊坂幸太郎(新潮社)
笑い3.0点 涙2.5点 恐怖0.5点 総合5.0点
 近頃、街で連続している放火事件に、私の弟はあるルールがあることを発見した。それは、 放火現場の近くには、必ず英語で書かれたグラフィティアート―いわゆる壁に描かれた落書きがある、 ということだ。無意味な単語の羅列は、何かのメッセージなのか。犯人の目的は、動機は、そして その正体は?

 癌で入院中の父親と、遺伝子関係の仕事をしている兄と、複雑な生い立ちを持つ弟。そんな 三人がおりなす傑作青春小説。
 全体的にテンポよくストーリーはすすみ、セリフも印象的で面白い。3人の親子の設定は複雑で、 幸せとは程遠い感じがしてしまうが、悲壮感はなく、前向きに強く生きようという雰囲気が 漂っている。
 本書の帯には、担当編集者の賛辞が書き連ねてある。これを見て、『ハードボイルド・エッグ』も 同じく担当者の賛辞が載せてあったことを思い出した。よく著名な作家の紹介文、絶賛の言葉が帯に 書かれていることがあるが、読んでみると意外と大したこと無いことがある。だが、担当者の 賛辞を参考にすると、今のところ百発百中、面白い本に出会えている。まあ、二冊しかデータが ないんだけど、結構信頼できるのかもしれない、担当者の言葉というのは。


『オーデュボンの祈り』伊坂幸太郎(新潮文庫)
笑い2.0点 涙1.0点 恐怖1.5点 総合4.0点
 コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気づくと見知らぬ島にいた。江戸以来外界から遮断されている ”萩島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、島で唯一殺人を許されている男、「未来が見える」 というしゃべるカカシ・・・。
 そして伊藤が来た翌日、カカシが殺される。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止できなかったのか?

 第5回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞したデビュー作。
 驚くほどリアリティがない。しゃべるカカシなんて、まるでオズの魔法使いのようだが、本書にはファンタジーっぽさは ない。リアリティが欠落している現代ミステリーだ。しかし、作中にもタイトルにも出てくる「オーデュボン」は、 実在する動物学者だし、作中で言及されている支倉常長も実在するし、妙なところで現実とリンクしているのでややこしい。
 個性的な登場人物が多いが、そのなかで「城山」という警官は、僕の読書体験の中でベスト10に入るくらい最低最悪な キャラだ。彼より凶悪で残忍な殺人鬼や犯人のキャラもいるだろうが、この城山のゆがみ方はかなり不快だ。こういうキャラを 思いつくというのは、著者にも少しは城山に通じる部分があったりするのだろうか。ほかにも、言動や性格がすこしずつゆがんでいる キャラが多い気がした。
 でも読後感はよかった。



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