ミステリー(国内)
『成吉思汗(ジンギスカン)の秘密』高木彬光(角川文庫) |
笑い0.5点 涙1.0点 恐怖0点 総合4.5点 |
探偵作家の松下は、入院中の名探偵・神津恭介を見舞いに行った。すると神津はこの退屈をまぎらわす方法を考えてくれ、
と言い出した。そこで松下は「源義経は衣川の戦いで死んだのではなく、そこからモンゴルに渡りジンギスカンになった」という
伝説を調べて彼らの一人二役が成立するか考えてみては、と提案する。
調べていくうちに、次々に源義経=成吉思汗を思わせる証拠が出てきたのだった。
「義経は蝦夷を経由しモンゴルへ渡り、成吉思汗になった」という真面目な歴史家が一笑に付すような仮説を
大胆な推理と豊富な文献などを交えて検討している。読みすすめるうちに、「本当に二人は同一人物なのかも」と
思うようになった。しかし、結論はちょっと証拠としては弱いなという感じがした。でも、たとえ義経が衣川で死んだのが
事実だったしても、こういう歴史上の謎を解いていくのはロマンがあって、とてもよい。
これは歴史ミステリであり、著者も作中で「歴史家なら眼に角を立てて怒り出すようなことでも、これは創作の世界における
作家の創造だといってお逃げになれましょう。」と登場人物に語らせている。だから歴史好きの方々は、馬鹿らしいと言わず、
小説として楽しんでみてはどうでしょう。
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『長く短い呪文』石崎幸ニ(講談社ノベルス) |
笑い0.5点 涙0点 恐怖0点 総合2.5点 |
岐城島へようこそ。自分にかけられた「呪い」を解くため少女が帰った先は、その一族だけが住む孤島。かつて
姉を交通事故死に追いやり、今度は妹の双子にまで伸びる魔手の正体とは?木に刺さったネジ、腕を切断された人形が
示す想像を絶する真相。(本書あらすじ引用)
サラリーマン石崎と女子高生ミリアとユリのトリオが活躍するシリーズ第三作目。
毎回毎回、ほんとうに余計な雑談シーンが多い。確かに、そういう雑談の中に伏線が張られていることもあるが、
それがいかされているとは思えなかった。なんだか著者はシリーズキャラクター3人の笑えない漫才みたいな会話を書きたいだけ
なのではないかと疑いたくなる。
内容的にも短編で充分なものだった。一応、最後にどんでん返しがあるが、それも”著者にまんまとだまだれちゃったよ”と
笑ってすまされないような「そんなのアリ!?」という感じのものだった。
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『錯覚都市』香住 泰(双葉社) |
笑い1.5点 涙0点 恐怖1.5点 総合3.5点 |
「退屈解消アイテム」:「退屈なあなたの生活が一変します。」そんな宣伝にひかれて
鹿沼はその携帯電話を購入した。その帰り道、突然見知らぬ女性から奇妙な電話がか買ってくる。
「右手の反乱」:小田切はどういうわけか他人と握手できなくなってしまった。何かのトラウマが
あるのではないかと、医者に言われ、小田切は会社を休み原因をつきとめることにした。
「隠蔽屋」:極秘に存在する政府関係の特殊法人「不祥事発覚防止事業団」の話。
「転機」:うだつのあがらないリストラ寸前の浮沼は、ある日偶然上司の不倫現場を目撃する。
この日から浮沼は、同僚の弱味を見つけることに専念し始める。
以上のほか、「始末屋」「凶器の沙汰」「溶ける女」の計7編からなる短編集。
「退屈解消アイテム」は第19回小説推理新人賞受賞作。
どの短編も後味が悪い。しかもその後味の悪さがパターン化しているように感じた。だから「このあと後味悪いドンデン返しが
あるな」という心構えができてしまい、素直に驚けなかった。
この中では一番最初の「退屈解消アイテム」と「右手の反乱」が面白かった。でも全体的に
どこかで読んだことがある気がするような設定、ストーリーが多く、あまり目新しさは感じなかった。
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『MOMENT』本多孝好(集英社) |
笑い1.0点 涙2.5点 恐怖0.5点 総合4.0点 |
その病院にはある噂があった。それは、長期のしかも末期の入院患者の耳にしか入らない噂で、「死を間近にした患者の
願い事をひとつだけかなえてくれる人がいる」というものだった。その病院で清掃のバイトをしている僕は、
ある老女の願いを叶えたのがきっかけで、願いを叶えるその役を担うことになった。
「FACE」「WISH」「FIREFLY」「MOMENT」の4編からなる連作短編集。
本多孝好の待望の新作。
「死別」というのは泣かせる方法としては、かなり有効だろう。「末期患者の願いを一つだけ叶える」というのは
泣かせる設定としては、反則スレスレという感じもするくらいだ。だが、本書は、素直には泣かせてくれない。
「戦地で殺めてしまった戦友の家族が今どうしているのかを知りたい」「修学旅行で一度だけ会った人に再会したい」
そんな願いの裏に思わぬ真相が隠れていたりするのだ。そんな回り道をした上で、最後には泣かせられる。
内容とは関係ないが、装画として作者と作品名が書いてあるのには驚いた。まさか青一色の中に黒い線が数本引いてある
この表紙が絵画だとは。でも、この青は好きな青だなぁ。
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『模造人格』北川歩実(幻冬舎) |
笑い0点 涙1.5点 恐怖1.5点 総合3.5点 |
わたしは木野杏菜。3年前の交通事故で記憶を失ってから、母・茜は、何とか昔のわたしを
思い出させようとしていた。ところがある日、母は、わたしと3人の見知らぬ男を、とあるレストランに
呼び出したまま失踪した。彼ら三人に、わたしは木野杏菜だと名乗ると驚くべき反応が返ってきた。
――「杏菜は4年前に死んでいる。君はいったい誰だ?」
4年前に、自分の娘たちとともに猟奇殺人犯に惨殺された杏菜。その杏菜を名乗る女性が
目の前に現れる。「果たしてこの女性の正体は?」この疑問について、娘の親や兄弟などの登場人物たちが
推理し、口論する。
展開がやや遅い。徐々に新事実が浮かび上がって、ラストの驚くべき真相にたどりつくのだが、
もう少しスピード感がほしかった。また、意図的にそうしたのだろうが、語り手(視点)がコロコロ変わるため
頭が混乱し、結構読みにくかった。
自分は自分だ、というのは普通疑うことなく生きている。それがある日突然、否定されたとしたら、
これほど怖いことはない気がする。
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『11枚のとらんぷ』泡坂妻夫(角川文庫) |
笑い2.5点 涙0.5点 恐怖0点 総合4.0点 |
真敷市公民館の創立20周年を祝うマジック・ショウはいま華やかなフィナーレにさしかかっていた。出演者全員が舞台中央に
並び、一発の銃声を合図に中央の<人形の家>から美人マジシャンの水田志摩子が飛び出す…筈だった。
だが、その志摩子は同じ頃、自分のマンションで殺害されていたのだ。しかも死体の周囲には「奇術小説集・11枚のとらんぷ」
のトリックに使われている小道具が、こわされて並べられていた。(本書あらすじ引用)
泡坂氏の初長編となった奇術ミステリ。
本書は3部構成になっている。T部はアマチュアマジシャンのサークル「マジキクラブ」によるマジック・ショウ。
そしてそのラストで、水田志摩子が殺される。U部は奇術短編集『11枚のとらんぷ』が作中作として登場する。
V部は国際奇術大会を舞台にして、その中で先の事件の真相が明かされる。
と、このように全編通して奇術漬けなのだ。奇術家の泡坂氏ならではの小説と言えよう。僕も奇術は大好きで、
至るところに奇術が登場する本書は奇術書としても読めるので面白い。もちろんミステリとしても面白い。U部の『11枚のとらんぷ』
には巧みに伏線がはられているし、ラストにはちょっとしたドンデン返しが待っている。
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